表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/47

翌日、アマーリエはゲオルグと村長とともに騎士を護衛につけて村周辺を見て回る。

「スケルヴァン、右筆を頼む」

「はっ」

ゲオルグのお供の片割れであるスケルヴァンが筆記具を用意する。

土おこしが始まったばかりの狭い畑のあぜ道を通っていく。点々とある畑で村の男衆が鍬を振るっている。

青々と茂っているのは冬を越した秋撒きの小麦だろう。

「まずソバです。この村は痩せた土地でソバが栽培されています。ソバは痩せた土地でも短期間で育つ作物なので救荒食物として望ましい植物です。ただ、ソバは同じところでずっと育てると育たなくなります。このあたりは農業スキル持ちの方にお願いして輪作をお願いするのが良いと思われます」

「ふむ、連作障害の」

ゲオルグの先代の頃、農地改革がバルシュ周辺の農村で行われ、連作障害をなくし輪作することで全体の生産量が上がるようになっているが、まだまだ領地全土には行き渡っていない。人に個性があり土地にも個性があるよう、その土地に根ざした農作を行う人間を育てるのにも時間がかかるからだ。

魔法があるからと言っても、成長を促せばそれでいいというわけではなく、実際それを行ったよその領地はあっという間に土地が枯れ、どうしようもないことになっている。

「あと、ソバの実の結実のためには蜂が必要です。蜂を増やすなら養蜂をするのがよろしいかと。雑木林が多く、栗の花、アカシアなど蜜の取れる樹木も多いのです。輪作にレンゲやクローバーを入れるならなおさらありかと」

雑木林の中に足を踏み入れ、それぞれの木を指差して示す。

「ふむ。そうなるとすぐに軌道に乗りそうなのは養蜂か。ならば、養蜂家を呼ぶのが早かろうな。その上で村の者の中から養蜂に向く者を育てるか。蜂蜜は薬効もある。キビ糖の輸入量が増えたとはいえ、未だ甘味は高価貴重であるゆえ、蜂蜜が売れるほど確保できるならば現金収入に直結するからの」

「はい。ある一定量蜂蜜が確保できるようになれば、安定した収入源になるかと思われます。そして白樺。この木の皮は細工に適しています。樹液も薬や甘味としての効用があります」

「ああ、この木を扱う細工師が確か居ったの。ふむ、こちらに呼ぶかこの村から人を出して修行させるかするかの。一度村の白樺の状況を観てもらう必要もあるし、まずは呼ぶが良いかの」

心当たりの人の名を、共についてきているスケルヴァンに書きつけさせる。

「後は楓です。樹液から蜜がとれます。時期は雪解けの頃なので、春の作付け前の仕事にすれば村の人全員の仕事にもなりますし、皆で利益を分け合えるかと。楓の本数も増やせば生産量も上がると思います」

「なるほどのう」

「そしてこの、うっ、よいしょっと。甜菜です。トウが立ってるので多分これは2年目のものだと思います」

わさわさと生えた葉っぱの間から花芽が出ている植物を身体強化も使って引っこ抜いて、ゲオルグと村長に見せる。

「なんとも立派な根じゃの」

「一年目のこの根を潰して搾汁し、煮詰めて精製すると甜菜糖が作れます」

「ほうこれからも糖が取れるとな?」

「はい、領地ではキビ糖を作ることは難しいですが、これでしたら野にあるままでなくある程度人の手をいれることで作付けを増やし、砂糖になるものを量産することは可能です」

「うむ。確かにキビ糖に代わる甘味が増えれば、それで収入も見込めるし、キビ糖自体の価格も抑えられるのぅ。そして、育てる物の種類を増やし偏った植生にして生態系を潰すことなく、共生できるようにするか」

「はい。蜂を飼うことで、自然の変化もわかりやすくなります。楓蜜と甜菜糖については作り方や採集方法、作付けなどやるべきことをつめていかないといけないことが多いので、人が増えてから順次始めるほうがいいかと思われます。後、休耕地を作るか他のものと合わせて作付けして、土地を休めながら他の作物も取れるような方法を取るほうがいいかと。休耕地にレンゲやクローバー、牧草を撒けば飼料になりますゆえ、毛や乳の採れる動物の飼育も可能になり産業も増えるかと」

「そのためのスキル持ちということだの。あい分かった。輪作関連に関してはスキルを持った者をこちらに派遣しよう。村長、村を出ていった者をどれほど呼び戻せそうかの?」

次々と出る新たな仕事の数に期待で目もうるみ始めた村長が食い気味にゲオルグに答える。

「はい、先々代様。もう少しすれば春の作付けのために戻ってくる者も増えます。そこからさらに連絡して戻りたい者を受け入れられるよう準備していきたいと思います」

「うんうん。住むところがなければ戻りようがないし、増えても食べるものがなければ意味がない。開墾も必要だ。そのあたり、しばらく税を別な形で収められるよう調節しよう。リエ、温泉の方はどうかの?」

「源泉は川のところに一箇所、村の崖に近いところに一箇所、今のところ二箇所あります。崖近くの土地は狭いですが開墾し、宿泊施設をつくれば木賃宿として営業できそうです。こちらは村の人や一般の旅人が利用できると思います。川辺の方は砦跡地により大きな宿泊施設を作れば人を雇う事もできると思います。魔力溜まりを動力源とすれば魔道具も色々使えると思いますのでかなり立派な宿が運営できるかと。崖側を村営に、川辺の方は領主経営で管理は宿を専門に経営してるものに任せるのはいかがでしょうか?」

「なるほどな、さすれば川辺の方を貴族階級のものが利用でき村の方に負担もかからぬの。魔力溜まりも無理せず処理できるか。雇用も生まれるのぅ。準備にも人手がいるためそちらでも雇用が生まれるな」

「はい、ただ建築関連の雇用は一時的なものになるため、継続しての雇用はありませんのでそのことを弁えられる人夫を雇う必要が出ます」

「ふむ、簡単な肉体労働に関しては税の代わりの労働徴収に替えるのもありか。専門的な部分は領地巡回型の土木建築業集団を作るか?もちろん土地の者に専門のものが居れば良いがそこまで回らぬ土地もあるからのぉ。ならば人がめぐるのもありだの。街道は今は騎士たちとその土地の者に頑張ってもらっておるが、さらなる建築は専門集団が居るに越したことはあるまいて」

「はい。補修も簡単なものならば土地の方に任せればいいでしょうが規模が大きくなるならばそういった専門集団がいても良いかもしれませんね」

「他にも温泉が湧く地があるかもしれん。領地全土に調査通達を出すかの。規模に準じて宿を作るというのも良いかもしれん」

「そうですね、一箇所に人が集中するようですと破綻しそうですから、何箇所か温泉の湧く地が見つかれば人も分散して動くでしょうし、一度試せば他の地にもいってみたくなるでしょう」

「ふむ人の流れができるの。人が巡れば物も周る。そして金も廻るか」

目を細めてゲオルグは領地のさらなる発展に心躍らせる。

「アルバンでのスタンピード対策に今から人を集めて訓練するのはどうでしょうか?後、討伐で数を減らせるなら今のうちから減らすとか?そのあたりはまるっきり素人なので騎士団や冒険者の方の判断が必要かと思われますが」

アマーリエが気になっていた魔物の大暴走に一つ注文をつける。

「ふ、その集まった人員を開墾に使うか?」

「はい。自分で作ったものを守りたいと思うのは人の性です。金銭の報酬のみよりアテになるのでは?」

「くくく、そして守りきった土地に根を下ろすか」

「はい。優秀な人材を確保するのは大変ですから、集められる時に集めるのがいいかと」

「さて、領地からどれほど金を回せるか、じゃの」

あごひげをしごきながら、ゲオルグは自身の領地の金庫番(ダール)の顔を思い浮かべる。なかなかに攻略が難しい。

「何も領地だけで金策する必要はないのでは?あるところから巻き上げればよろしいのです」

「わっはっは。さすがは商人よの」

「いいえ、大隠居様。私はしがないパン職人にございますよ。売るものは人が日々食すものぐらいです」

「その、日々欠かすわけにいかぬ物を作って売るということは食いっぱぐれる事がないということだがの。して、あるところから巻き上げると言うがどう巻き上げる?」

「お金があるということは日々欠かすことが出来ないもの以外にもお金を回せるということです。ご領地には売れるものがたくさんございますよね」

「あるのぅ。そなたが考えたものなど垂涎の的じゃぞ?王都に居るフリッツの嫁御が茶会でそなたのところが作る菓子をよう用いるのじゃが、呼ばれたくてしょうがない者が行列になるほど居ると嫁御が笑って居ったぞ。そなたに無理難題付けられて出来上がった魔道具類も領地では順番待ちになっておる。ふむ、どう他所で売るかじゃの。フリッツとダールのところの倅共に頑張ってもらおうかの。はぁ、そなたはほんに生まれるところを間違えたのではないか?」

「いえいえ、パン屋でよかったのです。バルシュ(・・・・)のパン屋で」

ニヤリと笑って暗に領主方のおかげで生きていられるのだと言うアマーリエにゲオルグは頷く。

「ふむ、それもそうだのう。うち以外ではそなたの自由は保証されぬ可能性が高く、貴族にでも生まれて居れば自由どころでなく命もあやういのぅ、敏すぎるがゆえに(どこぞの貴族に養女に出しウィル坊の嫁にでもと思うが、出した先で手放されなくなっても困るし、さてあやつでこのじゃじゃ馬の手綱はさばけるものかのう?むしろ甘味につられて共に暴走するのがオチかの?)」

急に難しい顔をして黙り込んだゲオルグに、よろしくない気配を感じたアマーリエが声をかける。

「大隠居様?」

「ん、なんでもない、なんでもない。村長よ、まず頼みたいことがある」

「はい、何なりと」

「夕刻前にまずは、女衆を村の炊事場に集めてくれ。まずはこの冬を越えられたことを労うてやりたい」

「は、ありがとう存じます」

「夕食時に村の者を集めてくれんかの。男衆も女衆も老いた者も幼き者も分け隔てなくじゃ。わしから今後の村の展望について簡単にじゃが説明しよう。村の者全員がしっかり知ってほしい。その後、そなたは今現在の村に戻ってくる者、残る者、出て行く者の数を報告して欲しい。そして必要な家や作付け面積、増える仕事に従事する者など決めてゆこうと思う」

「はい、かしこまりました」

「村長よ、大儀ではあるが頼んだぞ」

「いえ、とんでもございません。これからの村の発展一所懸命頑張りたいと存じます」

「いやいや、そう気張るな。少しずつで良い。無理をすればどうしても歪が生まれる。その方らが無理をしては後も続かん。腰をじっくり据えて、村の者とよう話をしながら進めていこうのう」

「はい、はい。」

噛みしめるように返事をする村長にアマーリエはこれなら大丈夫かなとホッと一息つく。

「では、もどるかの」

ゲオルグの言葉で皆で村に戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ