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大変長らくおまたせいたしました<(_ _)>
「うぇっ、大隠居様!?」
「…どうして東の魔女様が?」
村に戻ったアマーリエ達が村長の家から出てくる品の良い年寄り二人を見て小さく悲鳴を上げる。そんな三人に気がついた年寄り二人はニコニコ笑いながら手招きをする。ゲオルグ付きの護衛二人は苦笑いしながら諦めろと口パクでアマーリエに伝える。品の良い老女のそばにいるマリエッタは気息奄々といった状態だ。
「おお!リエ!こっちじゃこっち!」
「ダリウス!ファムも久しぶりですね」
名前を呼ばれた三人はそれぞれの経験からのっぴきならない状態に陥ったと回れ右しそうな足をなだめつつ、声をかけてきた年寄りの方へおとなしく歩を進める。
「大隠居様、お久しゅうございます」
「東の魔女様、ご壮健で何よりです」
「ウム。久しぶりじゃの、相変わらずリエはおもしろいことを見つけておるようじゃの」
リエの隣で待てをするシルヴァンに視線を向けながらゲオルグがいたずらっぽく笑う。
「うっ、はい」
(なんで居るんですか!?昨日、ダールさんに報告書送ったばっかりなんですけどっ!?)
「ダリウス、あなたも元気そうでよかったわ。あら?ファム、あなた魔力量多くなってない?」
「おかげさまで」
(誰だー。普段、滅多なことで動かない隠居状態の東の魔女様の好奇心に火をつけたバカは!)
「え、はい。色々ありまして」
(あう、魔力量を上げる方法を神殿に報告し忘れていましたか?優先順位の高い順に報告してましたけど、魔力量のことはすっかり後回しになっていたような…。このところの騒ぎでうっかりでしょうか。マリエッタさんは魔法ギルドに?あ、あれは忘れてた顔です。あ、色々終了の鐘がー)
「マリエッタも既に成長が止まっちゃってるのに魔力量が上がっていてね、詳しく聞こうと思っているのだけれど。まずは、おもしろいものがあるとゲオルグ殿に伺っていることだしそれを確かめてからね」
「温泉じゃったか?詳しく聞きたいのぅ」
ニコニコ笑う年寄りの圧力に負けた三人は、せめて周りも巻き込むべく納屋で仕事をしていたベルン達と運悪く戻ってきたグゥエン達を護衛にして川原の岩屋に向かった。
道すがら、疑問でいっぱいの皆を慮ってグゥエンがゲオルグに声をかける。
「ゲオルグ様、昨日報告書をウィルヘルム様にあげたばかりだと思うのですが?」
なぜこんなに早く来ることが出来たのかと暗に含めながらグゥエンはゲオルグに尋ねる。
「ムフフ。転移陣が完成したからじゃ」
「え?たしかに魔導ギルドの方に発着地点を固定すれば可能になると報告書にあげましたが、でもそれも昨日のことですよ!?」
マリエッタが目を白黒させ訴える。
「うふふ、魔力溜まりのこともあって動きやすいように名前持ちの魔女たちがギルドのバルシュ支部に詰めていたのですよ。報告を受けて、すぐ皆で転移陣を試してみたのです。その時にゲオルグ様もいらっしゃいましてね」
報告書自体は各ギルド本部(グリニアス帝国帝都グリニュース)にあげられていたが、魔力溜まりの処理を報告元(ファウランド王国バルシュテイン)から始めたため、その支援に当たるため各ギルドはバルシュ内の各ギルドの支部を前線基地としたのだ。
そして魔法関連の新事実の発覚に好奇心の抑えられなかった名前持ちの魔女たちが現場に詰めかけたのだ。
「え!?お三方で実験されたということですか!?…結果は早く出るでしょうが、間違いなく暇つぶしでしょうに、三魔女様達ときたら」
ボソリとマリエッタがこぼす。
「マリエッタ何か?」
「いいえ!なんでもございません。それで、なぜ東の魔女様がこちらに?もっと下の者でよろしかったのでは?」
「バルシュからこちらまで一度での転移は相応の魔力が必要なのですよ。それで私が志願したのです。それにねぇ、マリエッタ。今は亡き北の方にくれぐれもあなたを頼むと申し渡されたのはこの私ですからねぇ」
「それは、お心配りいただき、大変ありがたく存じます」
全然ありがたく思ってないマリエッタであった。
「ククク、よう言うのぅ、東の。散々三人で誰が行くのと大騒ぎしておったではないか」
「げ、ゲオルグ殿!」
年寄りのじゃれ合いに、マリエッタは三魔女たちが暇つぶしの種にいつもは重い腰を上げたのだと知った。そして、3人まとめてこなかったことだけが救いかもしれないと無理やり物事の明るい面を見ようとしたマリエッタだった。
「ゲオルグ様はなぜ魔法ギルドに?」
「ウィル坊から転移の魔法陣のことを聞いてな、あるならばいざという時に便利じゃと思うてギルドに確認に行ったのよ。その時に、高名な魔女殿たちに逢うての」
「ああ、ちょうどいい移動方法が見つかったと思ってこれ幸いと温泉をネタに釣り上げられたんですね」
「こ、これ!ノールそんな身もふたもないことを言うでない」
「あらそうでしたの?」
「ち、ちがいますぞ!裁量権のある者が現場に居るほうが何かと齟齬がおきぬし、一番上はどしっと構えて、我々のように経験を積んだものがおるほうが若い者も安心して動けるではありませんか」
(((((((いやいや、年寄りに顎でこき使われる未来しか思い浮かばねーよ)))))))
「まあ、そういうことにしておきましょうか?それで、その話題の元があの岩屋ですの?」
「ええ、温泉が湧いておりまして、湯に浸かりたいと思ったリエがスキルを大盤振る舞いして作ったのです」
恬淡とグゥエンが東の魔女に事実だけを答える。
「リエや、ダールのご機嫌取りをしっかりの」
おもったよりも大きな岩屋に、目を見開いてゲオルグがアマーリエに釘を刺す。
「グハッ。わかりましたぁ」
岩屋についた一行は、まずは百見は一行にしかずということで年寄り二人にお守りを付けて湯に浸かってもらった。ゲオルグにはお供の一人とグゥエン、東の魔女にはマリエッタとファルである。
「カークスウェル殿、詳細を伺ってもよろしいか?」
老人二人と上司がいなくなった時点でノールがゲオルグのお供の一人に詳細を求める。
「うむ、まあいつものことだ」
カークスウェルは苦笑しながら、既に泣きが入りかかっているノールにやんわりと答える。
「いつものことっちゃいつものことでしょうが、来るのが早すぎやしませんか?しかもリエのこともあります」
「リエの件は、今問題に上がってる件は収束したと判断がくだされた。が、他にもまだ怪しい動きはある。アルバン行きは続行だ」
収束の言葉に帰れるのかと思って期待したアマーリエに、即行釘を刺したカークスウェルだった。
「早いに関しては、あれはなんだ?大陸全土が騒動になっているぞ。いつもは滅多なことでは動かない三魔女殿が最前線だ」
「最前線?どこが?ってバルシュテインがですか!?」
ミカエラが目を丸くして素っ頓狂な声を上げる。
「ああ、魔力溜まりに関して実際に実行できているバルシュから始まることになったのだ。最前線であろう、魔力溜まり消滅の。聞いていないのか?」
「いえ、魔力溜まりを順に始末をつけるという話は聞いておりますがバルシュからなのですか?」
「バルシュの冒険者ギルドがこれまでの魔物討伐依頼を元に真っ先に魔力溜まりの位置の特定をし、地図におこしている。他の地の冒険者ギルドの詳細は不明だ。時間がかかっておるのかもしれん。そしてこれがもっとも重要な点なのだが、魔石に魔力を移すというのが思ったよりも繊細な作業らしく、今のところ成功例はバルシュのみと聞く。まあ、まだ始まって1週ほどしか経っておらんからな。バルシュで観察を経て、大陸全土で実行だ。そのために監督として高位の魔法師が来ることになっていたのだが、滅多にない魔法関連の新事実ばかりで、魔女方も気になられたようで誰が行くのか揉めに揉めたのだ。結局は最初に東の魔女様が行くことで話が落ち着いたのだ」
「あのー」
「何だリエ」
「魔法士ならマリエッタさんが居るので十分なのでは?後、最初って?」
「彼女は高位ではあるがまだ弟子を取ったことのない魔法士だ。弟子を取って魔法師となった高位者がその経験を買われて監督官となりうるのだ。後のお二人も順番に持ち回りで現場を見て魔石を扱える者を育てるということだな、建前上は。本音は別のところにある。魔女殿方にはくれぐれも気をつけろよ、リエ」
「うへぇ、わかりました。すみません、お話を遮って」
(温泉、やめときゃよかったかなぁ?)
これから色々振り回されることになるであろう現実にちょっとばかり逃避をはじめたアマーリエだった。
「いや、かまわん。とどのつまり魔力溜まり騒動で、バルシュに戻られたゲオルグ様が若様から話を伺い、すぐに動いたほうが良いとご決断されたのだ。まあ最も、色々面白そうだというのがゲオルグ様の本音なのはお前たちもいつものことだからわかっているだろうが、くれぐれも乗せられて動き回るなよ?止めるのは難しかろうが、我ら二人を呼ぶぐらいはするのだぞ。後はダールにすれば若様が動くよりもゲオルグ様が動かれる方が問題が少なくて済むといったところか。王都の方の動きは逐一、フリードリヒ様から連絡が来る。そちらとの兼ね合いもあるゆえ、暴走はこれ以上は控えるようにな、リエ」
「はい、カークスウェル様。自重します」
「はぁ、毎度のこってすな。それで、お二方はいつまでこちらに?後、我々の方はアルバンにはいつ?」
「お二人次第としか今は言えんな。一度、アルバンに向かうほうがいいだろう。流石にこの村に駐留するわけにもいかん」
「ええ、村の方の人間も長居し過ぎりゃ、流石に参っちまいますからね」
「ああ、そういうことだ」
「あのゲオルグ様にこの村付近の開発計画書は読んで頂けたのでしょうか?」
「しっかり読まれているぞ。既に人についてはあたりをつけておられる。明日に村周辺を見て、そなたから話を実際に聞いて、ふさわしい人物をこちらに送り届ける」
「は、早いですね」
「当たり前であろう。やってみなければわからぬこともある。魔物の大暴走のこともある。できるだけ、動ける内に動いておかねば天災というものはあっという間に人災となって大きくなる。安寧にあぐらをかくわけにはいかんのだ。それ故足りぬということはあっても過ぎるなどということはない」
長年領内の巡回をし先々代とともに領地の安寧を守ってきた騎士はまじめに答える。
「ノール。そなたもこの2年は更なる奮起を期待するぞ。安寧はその後だ。よいな」
しっかり太い二本目の釘を刺されたノールは二年だけ頑張るんだと決意して諦めの境地に突入した。
アマーリエはおおよその話が終わると年寄り二人が湯から上がってくるまでに冷たい飲み物を用意し、更にこまごました話をノールとカークスウェルがやり取りする。
「はぁ、湯に浸かるというのはこれほどまでに心地よいものか。寿命が伸びる思いがするのう」
「大隠居様、こちらに冷たい飲み物をご用意しました。どうぞ」
「おお、たすかる。他の者もせっかくだから交代で入ってきなさい」
「はっ」
ゲオルグの言葉で順番に温泉を堪能した一行であった。
かなり不定期になるかと思いますがよろしくお願いします




