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遅くなってすみません。

大方の報告と現場検証が終わった後、銀の鷹と騎士たちは手分けをして砦跡周辺を探索し、魔力溜まりを探す。

二箇所ほど見つかり、すぐさま消滅させ、魔力溜まり位置を標す魔道具を設置し、結界を作動させた。この魔道具は魔力溜まりに一定量魔力が溜まり始めると、魔法ギルドに知らせるようになっている。

そして、魔法ギルドから冒険者ギルドに連絡が行き、その近くにいる魔力溜まりを消滅させることができる冒険者に依頼が出される仕組みになった。魔道具の結界は依頼された冒険者が対応する鍵の魔道具を受け取って解除する方式に落ち着いた。いちいち魔力溜まりに人手を割いて監視するわけにもいかず、様々な機能をもたせた魔道具開発に魔道具ギルドを始め各ギルドが死ぬほど頑張ったのである。

「さて、リエ。あの沢の岩屋について聞こうか?」

最後に残った問題に向き合うべく、グゥエンがリエに問いかける。

「その前に、お昼にしませんか?」

中天にかかる太陽と耳のヘタっているダフネに視線を向けてアマーリエが言う。

「う、まあそうだな。よし、各自昼食の支度を」

グゥエンの一言で昼休憩に入る。それぞれ持っているものを食べて昼食を終える。シルヴァンはアマーリエから魔力をもらう。足りないのか単純に食べたいのか、シルヴァンからアマーリエに塩揚げ鶏の画像念話がとんでくる。

「え!?」

「リエ、どうしたの?」

「いや、シルヴァンから塩揚げ鶏の念話がとんできたんです」

「は?」

「こっちから念話を送れたのはわかってるんですけどシルヴァンも出来るのか。よしよし、ご褒美に塩揚げ鶏あげようじゃないの」

アマーリエはリュックから塩揚げ鶏を取り出してシルヴァンに与える。

「え!?魔物が念話!?いいのかそれ!?」

「もう、何が起きようとも私、動揺しないって決めました」

「いや、ミカエラそれは違うだろう!」

「…何かの役にはたつだろう。それなりに利口そうだしな」

「リエにテイムされた時点で色々問題ありすぎなんじゃないの?」

「なんとかなるだろう」

騎士と銀の鷹のメンバーは深々とため息を吐いて、諦めたようにシルヴァンとアマーリエを見た。

「リエ、そろそろあの沢の近くの岩屋の説明をして欲しいんだが」

「口頭で説明するより、実際に見て使っていただいた方が早いと思うのです」

アマーリエは、皆を温泉に放り込んで面倒な説明を銀の鷹に任せて回避する方針で行くことにした。

岩屋に向かった一行は、アマーリエに浄化してから風呂に浸かれと指示される。

「な!?他の人と裸でですか!?」

「裸の付き合いは大事なんです」

「いや、しかし、何かあったら…」

「結界張っときます。ここは心も体も緩めるための場所です。頭空っぽにして入ってください」

銀の鷹の方はすでに湯船に浸かってとろけきっている。

「入ってくれないと説明できません」

なんとか騎士たちを温泉に放り込み、銀の鷹に「後は任せた」と一言言うとアマーリエは蒸しパンを作り始めた。

風呂に浸かった騎士たちは、心地よさに身を委ねきってしまっている。

「うーん、温泉の炭酸水具合がいまいちよくわからない。どれだけ使えば膨らむのかな…。試さないと材料の比率が出せないっていうのが…。とりあえず、やるしかないか」

錬金術で石の作業台を錬成し、アマーリエは必要な道具をリュックから取り出していく。温泉もとの浄化装置の蓋を外してその上にせいろを置く。

「む、隙間が気になるな。錬成!よし、ぴったり」

人目が無いため、機嫌よく錬金術を大盤振る舞いしながらやりたい放題始めるアマーリエ。

「小麦粉はこれかな。うん、これが一番柔らかい粉だな。」

アマーリエはいくつか取り出した小麦の袋に手を入れて握りしめ、握って崩れにくい粉を選ぶ。小麦は小麦に含まれるタンパク質の違いとミネラル分(育つ土地の土壌成分が影響する)によって、加熱調理した時の食感が変わってくるのだ。アマーリエは蒸しパンをふんわり軽く仕上げるためにタンパク質の少ない前世で薄力粉と呼ばれていたものに近い小麦粉を選んだのだ。

「温泉を瓶に詰めて〜温度を下げる〜っと」

ちょっと節が入りつつあるアマーリエにそばでみているシルヴァンがワウワウと合わせ始める。岩屋の方からもノールのごきげんな鼻歌が聞こえ始めている。

そして、子供の頃、城下の紙屋に無茶ぶりして作ってもらったグラシン紙に似た薄い紙を底の浅いマフィン型に紙を切って合わせていく。

「さて。取り出しましたるはカップでゴザーイ。まずカップ一杯の小麦粉。篩にかけて粉に空気を含ませます。今回は炭酸の泡のみで膨らせるためしっかり篩をかけます。お砂糖は黒砂糖にするか。あらよっと。粉にしたのをカップに一杯。粉と同量放り込みます。空気が抜けないようにふんわり、ざっくり混ぜまして、ミルクを半カップ。こちらも練りすぎないように混ぜます。練ると小麦粉のグルテンがくっついちゃって生地が硬くなるからね」

シルヴァンに向かって説明しながら材料を混ぜていくアマーリエ。理解してるのかしていないのかウンウンと首を振って頷くシルヴァン。

「そして!冷ました温泉を入れます!こっちもとりあえず半カップっと。このシュワシュワの泡を生地に上手く混ぜ込む」

ふむふむとシルヴァンが頷く。

「混ざりきったら、素早く型に流し込んでせいろに投入。しばし待ちます」

「ウォン!」

「上手くいったら、この分量で量産するぞ〜」

ノール独演会も佳境に入ってきている。

「…ノールさんかなりストレス溜まってたみたいだねぇ」

「ウォフ」

「あ、蒸しパン失敗したときようにお芋蒸かしとこ。分けてもらった甘藷、甘藷。後は風呂あがりに冷えた牛乳?うーん、一応温泉も冷やしとくか」

あれこれしながら、10分ほどたったところでアマーリエはせいろのフタを開ける。

「おお!ちゃんと膨らんで上がぱっくり割れてるよ。耐熱スキル。どれどれ…うん、もっちりふわふわ。黒砂糖の風味が生きてるねぇ。シルヴァンも食べる?」

頷くシルヴァンに熱いから気をつけるように言ってアマーリエは紙を外した蒸しパンを冷めやすいように半分に割ってシルヴァンの前に置く。シルヴァンは鼻先を蒸しパンにあてては待ち、あてては待ちして、食べごろになったのか半分にかぶりついて咀嚼し始めた。

「お芋刻んで、トッピングにしよ」

アマーリエは、温泉の炭酸が抜けると膨らまなくなるので、少しずつ蒸しパン生地を作って仕上げてを繰り返していく。

「あ、そろそろ、風呂からあがるように言わないと湯あたりするか?」

アマーリエは女風呂の方を覗く。

「そろそろあがりませんか?湯あたりしちゃいますよ」

「はあ、いいお湯だったわ〜」

「お昼からこんなにゆったりするのは久しぶりです」

「いい骨休めになりました」

「喉が渇いた」

「冷えた牛乳か炭酸水がありますよ。おやつに蒸しパンもあります」

「おお!」

いそいそとダフネが身支度して岩屋から出てくる。アマーリエから渡された牛乳をダフネは腰に手を当てて飲む。

「プハッ!」

「ダフネったら。オヤジ化してるわよ〜。気をつけなさい」

「む、そうか?」

「そうなの」

「おう、俺にも冷たいの一杯」

「はい、好きなの飲んでください」

アマーリエは、冷えた牛乳と炭酸水を配る。

「はい、蒸しパンです。おやつにどうぞ」

紙に巻かれた見慣れない茶色い塊をこわごわと受け取っていく騎士と銀の鷹のメンバーたち。

「紙を剥がして食べてください。色が茶色いのは黒砂糖のせいです。上にのってるのは甘いお芋です」

「なんか、フワフワしてるな」

「パンなのか?」

「パンというよりは菓子に近いですけど」

「わ!ふわふわです。甘くて美味しい」

「黒砂糖の風味がいいわね」

「…リエ、説明」

騙されないぞという顔でグゥエンが再度説明を要求する。

「説明も何も温泉があったから入りたくなって作ったんです。入ってみられていかがでした?気持ちよかったでしょう?口で説明できるならしてますけど、出来ないから現物見て頂く以外に方法がなかったんですよ」

極めて自己本位なアマーリエの言葉にグゥエンは絶句する。

「…」

「それで、リエ、これどうするつもりだ?」

いろいろな疲れ(憑かれ?)から開放されて温泉がすごく気に入ったノールが潰されたくない一心でリエに話を向ける。

「作っちゃったんで、ここの近くの村興しに利用しようと思うんですが」

「近くに素泊まりでもいいから宿があったら嬉しいわねぇ」

ウンウンと頷きながらマリエッタが足りないと思う物を言う。

「うーん。素泊まりするにしても、連泊すれば食材が足りなくなりますよねぇ。この付近に多少他所に融通出来るだけの作付けのある村ってあるんですか?グゥエン様」

「ああ、いくつかある。実際ここの村は平地が少なく土地が痩せているため近くの森からの恵みと旅人を泊めることで現金収入を得て、近隣の村から足りない食料を購入してる」

「なるほど。んじゃ、さらに現金収入が上がるようにすればなんとかなるか。あーでももうちょい作付けは何とかなったほうがいいですよね」

「それはな。近隣も毎年毎年豊作なわけじゃないからな」

「そばは連作障害があるから、安易に増やせないし…。うーん先々代様にお願いして、ここと似た土地で農作やって上手くいった場所から、人手を借り受けるとか出来ないかなぁ?」

「ゲオルグ様か?」

「はい。今、領内視察で一番人材を把握してらっしゃると思うんです」

「まぁ、それはそうだな。必要な人材があればいつでも連絡するようには申し付けられている」

「一度、先々代様にも来て頂いて、実際に見ていただくのがいいかもしれませんね。先々代様の人使いの上手さは比類なきものですから」

「うむ、リエが計画のあらましをたて、こちらで補完し、ゲオルグ様にお任せすれば間違いなく必要な人手は見繕ってくださるだろうが、先にご領主様に話を通さねばならんぞ」

「…そこが一番問題なんですけどね」

はぁとため息を吐いてアマーリエは蒸しパンにかぶりつく。報告したら領主が来たがるのは目に見えている。

「一応、報連相にも順番がある。ウィルヘルム様をすっ飛ばして隠居されているゲオルグ様に領内のことを通すのは筋が通らんからな」

「ダールさんに連絡して、ご領主様の足止めをしてもらうしかないか。あーあ、また、後先考えなかったのがっつりしかられそう」

「諦めて叱られるんだな」

「ううう」

「まあ、村興しは先の話だな。とりあえずここの岩屋のことは村長に話を通しておいて、村人や旅人がとりあえず利用できるようにしておけばいい」

「そうですね。ざっと村の状況を見て、温泉村計画をざっくり立ててダールさんに送ればいいか。何かあってもアルバンからそんなに離れてないし、なんとかなるか」

「俺も休みの日にはここで骨休めするんだー。そして引退したらここでのんびりしようかな」

「ノールさん、変な旗たてないほうがいいですよ」

「?」

「いえ、こっちの話です」

「リエ、温泉村計画を始めるのは次の魔物の大発生を終わらせて、大本を断ってからになるぞ」

「そうですよねぇ。それまでにじっくり腰据えて計画を練る時間が出来たってことにします。笊すぎる計画じゃ、村が潰れちゃいますもん」

「ああ。そうしてくれ」

そんなこんなで、村に戻った一行は、その日はそれぞれ報告先に報告し、次の日、アマーリエはファルとダリウスと共に村の確認に周り、残りはそれぞれの仕事に従事した。

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