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「ちょっと二人だけで、話を進めないでください!」
「ありえない、ありえない」
魔力が感知でき、かつ魔法職であるファルとミカエラは二人の行動に慌てふためく。他の物理職はそもそも何が起こっているのかわからないし、二人が何をしたのかもわかっていないので怪訝な顔をするだけだ。
「落ち着きなさいな、ふたりとも」
「落ち着けますか!なぜあんな危ないことするんですか!」
「危なくなるようにはやらなかったわよ、さすがに。少しずつ石の様子を見ながら取り込む量を増やしていったから、大丈夫だったでしょうが」
「そもそも、リエさん、なんで取り込めるなんて思いつくんですか!」
ミカエラが泣きそうな顔で言う。
「いや、さっきの魔力溜まりの魔物の話と魔力を取り出して空になった魔石が壊れないってところから、生き物の何かが石の器になってそこに魔力が取り込まれてるなら、空になった石にまた入れられるのかなーって。だったら、同量の魔力まで無駄にして、そこにある魔力を吹き飛ばすのってもったいないなと。試してダメなら、ふっ飛ばせばいいんじゃないかと」
「まあ、私達は今まで石自体が魔力を生んでるって考えてたからね。リエに魔力溜まりの魔物のことを指摘されてなきゃ、私だって魔石に取り込むなんて考えもしなかったわよ」
「すまん、何がなんだかさっぱりだ。説明してくれ」
「魔力溜まりの魔力を空の魔石に取り込んだんです」
リエが端的に答える。
「なるほど、でその魔力は使えるのか?」
疑問もなく納得する物理職連中に、今までの魔法職の常識を覆された二人は少しばかり理不尽を感じる。
「ええ、使えるわね」
「取り込むのは魔石じゃないと出来ないのか?」
「無理だと思うわ。どういった理由でかはわからないけどこの石が魔力を貯められる力を持ってると考えられるわね」
「あ、はいはい質問。私の魔力とかマリエッタさんの魔力とかでも石にいれられます?」
「純粋に魔力として取り出して入れ込もうと思えば出来ないことはないと思うわ。ただ、私達は自分の魔力を何らかの形に変換して使ってるから、自分の魔力を純粋な魔力として取り出す感覚を身につけないと無理だわね」
「あー、普段は火や水に変えちゃってますものね」
「そういうこと」
「それじゃあ、これからは魔力溜りができるところに、空の魔石に魔力を充填しにいけばいいんだね」
グレゴールが、魔力溜まり消滅が簡単になったと喜ぶ。
「ンー、取り込む術式を施した建物に空の魔石を置いて、いっぱいになったら交換するみたいな形でいいんじゃないかしら?」
マリエッタはより効率のよい方法を考えて言う。
「あーそれは私反対です」
「なんで、リエ?」
「もし、魔力溜まりの下でもっと大きな魔力の生まれる何かがあったとして、それがずっと生まれ続ける保証ってないですよね?」
前世の化石系燃料の事象を思い出して同じ可能性を思いつくアマーリエ。
「ああ、何れ枯渇するって?」
「意図的に、吸収し続けていけば枯渇の可能性が早くなっちゃうと思うんです。そうすると自然にある魔力がなくなって、大きな影響が出るような気がします」
「でも、枯渇しない可能性があるわよね?今の段階で、魔力溜まりがどうして生まれているのかは誰にもわからないんだもの。むしろ実験として、どこか一箇所なり二箇所なりをあえて意図的に吸収させて枯渇するかどうか試すのもありじゃないかしら?」
「魔力溜まりの層が下でつながってたら?」
「あぁ、つまり、下がどうなってるのかまじめに掘れってこと?」
「もしくは、魔力感知の精度を上げてどこまで魔力が広がっているのか調べるですね」
「…あんたが容赦無いってよくわかったわ」
「いや、やらかすにしても致命的になるのは避けたいじゃないですか」
「まったく。大胆なのか慎重なのかほんと分かんない子ね」
「何となくここまでならいけるけどこっからはヤバイってのが分かるんです」
「えっと、二人の話をまとめると、魔力溜まりの初期段階に、空の魔石に魔力を取り込むのはいいけど、魔力溜まりの下がどうなってるのかわからないうちは、意図的に魔力を吸い上げるのはダメってこと?」
「いえ、魔石に魔力取り込めることと魔力溜まりの利用について、国家間や各ギルド団体との調整がつかないうちは、従来の魔法一発消滅方式にして、悪意のある人が魔力を独占しないような状況にした方がいいと思います」
ファルが考え考え意見をいう。
「たしかにね。魔力が一人に集中したら大変なことになるわね」
「ということで、今日のことは各ギルドのトップにのみ通達。ギルドと国のトップの話し合いが出るまでは他言無用。そういうことでいいか?」
ベルンが頭痛を堪えるように話をまとめる。
「んー、そもそも上が信用できるのかって話だから、いっその事すべての人に知らせて、お馬鹿あぶり出し兼国家間の牽制を誘ったほうがいいと思います。変に秘密にしてもどうせどっかから漏れます。だったらはじめからみんな知ってれば、悪いことしようとする奴を抑止しやすいと思うんです」
アマーリエが隠すことのほうが後手に回りやすくなることを指摘する。最初に餌をまいて、引っかかるのを釣り上げるほうが労力はかかるが、確実な釣果を得られるのだ。
「互いに監視するってことか」
「はい、独占されて悪用される可能性も知らせとくんですよ、あえて。そうすれば不自然な動きがあればわかりやすくなります」
「んー、そもそも魔力を石にいれられる技術を持つ人間てどれぐらいいるんだ?」
ダリウスが、マリエッタに肝心なことを聞く。
「魔法職で魔石から魔力を取り出せる技術がある人間なら出来るわね。逆のことをするだけだから」
「それはどれぐらい?」
「正確な数字はわからないわね。強いて言えば中級以上の魔法職はほぼ該当するわね。ただリエのようなド素人に見える人間でも、魔力を感知して流れをつかめる人間なら出来ると思う。でも、リエのようなのはごくごくまれね。ああ、でも魔道具製作者の中には居るかもしれないわね」
「うーん、とりあえず魔法職系の動向に注意するようにして、すべての人間に知らせる方向で行くのか。一気に広範囲に知らせるってのもなかなか難しいな」
「その辺りの判断は、ご領主に任せませんか?後は皆さん各自で信用できるトップに一言入れとく」
「それが無難かねぇ」
「もしくは、ここであったことを忘れる。魔力でどかーんと一発で終わったことにする」
「さすがにその事なかれ過ぎる方向はダメだと思いますよ、リエさん」
「でもさ、気づいた人間ここにいるってことは、他にも気がついた人間がいるかもしれないってことだろ?なかったことにしたところで、別の悪意ある人間がやらかしたら手遅れな気がするな。だったらやっぱりみんな知ってるほうが良くない?」
グレゴールが発見は必ずしも一人だけがすることではないと指摘する。
「すでに、やらかしてる可能性もあるわけだ」
ダフネの一言に全員が思わず呟く。
「それだけは勘弁して」
「とにかく、今分かる範囲の魔力溜まりをすべて探し出し、緊急警戒と同時に各トップに判断を委ねよう」
グゥエンが自分たちがやらねばならないことをまとめる。
「それが最善ね」
「柵の修繕が世界滅亡の序章になるだなんてすごいですね」
「「「「「いや、世界滅亡とか冗談やめて」」」」」
「もうなんでこんなに色々…全部俺が死んでからにしてくれよ」
「今死ぬか?」
グゥエンが容赦の無い一言を言う。
「グゥエン、あなたお父上そっくりですよ」
「それは褒め言葉だな」
「開き直った人間てここまで強くなるんですね…」
ボソリと呟くノールに、にこやかに笑うグゥエン。
「ま、まあ、とりあえずだ。俺達が今できることをしよう」
無理やり話題を戻すベルン。
「すぐに戻って、みんな報告書書いてすぐに上層部と連絡取るのよ。報告書はみんな、揃えましょう」
「ああ、それがいいな」
銀の鷹のメンバーは上級だけあって、それぞれの職業の柵がある。ここで報告書に変な差や齟齬が出るよりも、同じ報告書を送ることで上層部に混乱がでない方向に持って行くことにした。
「済まない、その報告書を私もご領主あてに送る際に参考にしたいのだが」
「ええ、足踏み揃えましょうか。そのほうが安全でしょう」
「あんまり一緒過ぎると、上層部が互いに問い合わせた時に、疑念がでません?その場にいた人間がみんなしてなんか隠してないかって?」
上層部が互いに情報の確認をした際に報告書が同じでは、試験で同じ答案が上がるのと大差のない状況だとアマーリエは考えたのだ。
「あーそれはあるわね。ところどころにそれぞれの見解を混ぜつつ、方向性だけ揃うようにするのがいいわね」
「そうだな」
「この場合の一番平和的解決って、各国が協調して魔力溜まりの解析を急いで、できれば枯渇しない方向の結果が出て、悪意のある利用者が現れないことだよな」
ダリウスが唸りながら、最良の道筋を描く。
「そういう方向になるように、報告書を書くしかありませんよね」
「どうしようもないのは、魔力溜まりの枯渇だな」
「悪意のある利用者については、リスト作成と監視、あとは発見した魔力溜まりの監視でしょうか?」
「魔力溜まりは進入禁止結界を張って、魔力溜まりが感知できたら素早く消滅するしかないわね」
「後は、空の魔石を不自然に買い求めるものが居ないかも調べる」
「ああ、それもそうだな。空の魔石の流通をあえてコントロールする方向で行くのがいいのか?」
「急には難しいですね」
「各国の協調か…」
「共通の敵が居ればまとまりますよね」
「…すでに悪用するものがいるようだと報告して、さっさと共同で魔力溜まりの解析させて、魔力溜まりを各国でどう管理するか話し合わせるのか」
「それはちょっと無理がないかしら?実際に被害が起こっても共通の敵認識するようになるのってなかなかないわよ?」
「うーん確かに、どっかで被害が起きても他人事だと思うほうが大半ですよね。同時に似た程度の被害が出るとか?」
「…魔王か?魔王がいないとダメなのか?」
「いや、さすがにそれはいき過ぎだろう。魔王って、お前」
グレゴールの発言にダリウスが呆れたように言う。
「で、誰が魔王になるんですか?」
真面目な顔をして言うアマーリエに皆で突っ込む。
「誰もならないから!」
何だ世界平和のためにあえて悪役になる世紀末覇者はいないのかとつぶやいてアマーリエは言う。
「誰もならないなら、アルバンのダンジョンで魔王探してみてはどうです?最深部でダンジョン作ってる魔王、居そうじゃないですか?」
「やめて、本気でやめて。これ以上問題増やさないで」
「雨降って地固まると言いまして…」
「血の雨が降って焦土と化すわ!」
「ノール、リエ漫才はいいから」
「はーい」
「…もうお家に帰りたい」
「ノール…。兎に角一旦村に戻り、村人には解決したと伝えよう。ここの魔力溜まりは一応目印を残そう。その後は、落ち着いてそれぞれ知恵を出し合うしかあるまい」
「ああ、そうしよう。報告書に関してだが騎士宿舎の方に行ってもいいだろうか?」
「それがいいだろう」
「来た道を戻るか?それともまっすぐに農場に向かう方向に進むか?」
「真っ直ぐ農場に向かう方向に進もう。来た道はかなり無駄が多い」
今度は、騎士を先頭に下草を刈りながらまっすぐ農場の方向に向かって歩き出した。




