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村の北西側で落ち合った騎士たちと銀の鷹のメンバーは軽く挨拶をして、里道を件の牧場へと進む。

御者台にはベルン、横にアマーリエが座っている。

幌馬車を囲むように騎馬の騎士たちが並ぶ。リエの側にはノール、ベルンの側にはグゥエンだ。

「ベルンさん、わからないことがいっぱいあるので聞きたいんですけどいいですか?」

「ああ。どうせ牧場に着くまでは時間があるからな」

「魔力溜まりって自然発生するんですか?」

「ありゃ場所によるんだよな。何年かすると発生するのもあれば、一度消しちまうと出ない場所もある」

「何年かすると発生する場所って、人里から離れてたりとか、決まった場所ですか?」

「あー、そう言われりゃそうだな。そうでないところもあるが…」

「あの、そうじゃないとこってもしかして、その魔力溜まりになるサイクルがうーんと長いからってことはありません?」

「それは、俺にはわからんな」

「魔力溜まりができてるのがわかったら、冒険者ギルドに連絡するんです?」

「領地にもよるが、大概は魔物がでたと冒険者ギルドに依頼が入って冒険者に魔力溜まりの消滅依頼が出されるな」

「んじゃ、昔からの魔力溜まりの消滅依頼が残ってたら、今までどこでどういうふうに発生してたか調べることは可能ですか?」

「ああ、ギルドは昔の依頼書もとってるはずだからわかるんじゃないか」

「グゥエン様、ギルドに依頼して、魔力溜まりの発生場所と発生サイクルのリスト作ってもらえば、魔物が生まれる前に、魔力溜まりの消滅って行えませんか?」

「可能だな。よし、ご領主にもお伝えして、各ギルドにまとめてもらうよう依頼しよう」

「ねぇ、リエ。なんで魔力溜まりが人里離れた場所だとか決まった場所じゃないかって思ったの」

マリエッタが後ろから話しかける。

「いや、昨日マリエッタさんが魔力は世界中に満ちてるけど、濃淡があるって言ってたでしょ。今は魔道具に自動で空気中から魔力補給させる術を施すから、魔道具がいっぱいある人里は魔力が薄いのかなーと。だからどっかから湧き出てても溜まらないでそのまま問題なくきてるんじゃないかと。で、逆に人里離れたところで湧き出てる自然の魔力は使われないから溜まっちゃうのかなぁと思ったわけです」

「なるほどねぇ」

「お年寄りに聞けばもっとはっきりわかるような気はしますが。魔道具が今ほど普及してなかった頃はもっと魔力溜まりがあちこち出てた可能性もありますし」

「それは、ギルドの依頼書を調べればはっきりするな」

「グゥエン様もそう思われます?」

「ああ、いいところに目をつけたな、リエ」

「どうも。ベルンさんまだ質問あるんですが」

「おういいぞ」

「ダンジョンから湧き出る魔物と魔力溜まりから出る魔物ってなんか違いがあります?」

「ダンジョンから出てくるのは、基本そこのダンジョンの一番出入口に近い層にいる奴が出てくるだけだな。つまりダンジョンの1階層目にいる魔物が出てくる。魔力溜まりはそうだな。獣形が多いか?」

「ああ、熊、狼、イノシシ、うさぎ、昆虫もいるかな。ただ一度に発生する数はそんなに多くはないな。よほど大きな魔力溜まりでなければ魔物の群れというような状況にはならない」

後ろからダリウスがこたえる。

「コボルトやオークとかは?スライムとか」

「みないな。そういうのはダンジョンの近くだけだ」

「あーやっぱり」

「?」

「魔力溜まりの魔力を何らかの形で蓄積した野生動物や虫なんかが魔物になってるのではないのかと。魔力溜まりに関してですが。これも、魔力溜まりの発生がわかれば解決するかなって思うんです」

「ああ、そうか。魔力溜まりが初期段階でなくなれば、それに侵される野生動物がいなくなって、魔力溜まりから発生すると言われる魔物がいなくなるというわけか」

「あくまで仮説ですよ。魔力溜まりから生まれてるかもしれませんし。ただそれにしては、出てくる魔物が偏ってるような気がしただけです」

「やることいっぱい増やしてくれたな、リエ」

「頑張れ、ノール様」

「そうなると冒険者の仕事がなくなるのか?」

「どうでしょう。突発的に出来る魔力溜まりや人がなかなか入り込めない場所に魔力溜まりができちゃうとどうしても魔物が出ちゃうんじゃないですか?それに魔力溜まりの定期的な消滅依頼は確実に出ると思いますし」

「ああ、そうか」

「まぁ、気持ち安全に皆が暮らせるようになるかもしれないってことですね」

「でも、それすごく大きな進歩よ。いつ来るかわからない魔物より、確実に魔物がでないようにするって」

「そうだな」

「グゥエン様またなんか落ち込んでません?」

「いや、なぜ気が付かなかったんだろうかと」

「もう何十年もそういう物だと騎士の皆様も冒険者の皆さんも教えられて対処してきたわけですよね?わたしは、まるっきりそういう情報を知りませんでしたので変だなと思っただけです。気が付かないのはしょうがないと思います。むしろこれから上がってくる情報の精査頑張ってください。逆に私は立場上そういった仕事はできませんから」

「…わかった。リエは相変わらず厳しい」

「なんかおっしゃいました?」

「いや、頑張るよ」

「じゃあ、海の魔物ももしかして海に魔力溜まりがあって生まれてるのと海の何処かにダンジョンがあって生まれてるのとがいるんですかね?」

「そればっかりは俺もわからんな。潜ったことがないからな」

「港に潜るの専門のスキル持った人っていないんですか?」

「居るには居るが、漁師だぞ?」

「やっぱり無茶ぶりですよね」

アマーリエの言いたいことを察したグゥエンがまじめに答える。

「もうそれは、海軍の方で訓練積ませるしかなかろう」

「ですよね」

「…あいつらもかわいそうに」

訓練を増やされる海軍を思ってノールがポツリと呟く。

「そういえば、ノール様。海軍の人は泳げない人もいると伺ったんですが本当ですか?」

「知ってたか…」

「沈むのが得意なら、潜るの大丈夫ですよきっと」

「お前、ほんとに魔物より恐ろしいな」

「ホホホホホ」

アマーリエの容赦の無さは、時々アマーリエの暴走に巻き込まれる城下の職人たちをみてよく知っているノールだった。そのおかげで城下の魔道具や普通の道具類の発展があるので誰もアマーリエの暴走を止めないのではあるが。ダールに至っては推奨しているフシもあるのだ。

「マリエッタさん。もし、魔力溜まりの魔力で野生の動物が魔物化してるってわかったら、お馬鹿が魔力集めて生き物を魔物化するようなことってあると思います?」

アマーリエの物騒な物言いに、緊張が走る。

「残念だけどリエ、やろうとした愚か者は大昔にいたわ」

「いたのか!」

全員の心を代表してグゥエンが叫ぶ。

「魔力を持てば魔物になるならってね、実験をしようとしたのがいたの。でもね、考えてみて?魔力持ってる人間は魔法使いになっても、魔物になりゃしないでしょ?それに膨大な魔力を集積圧縮して生き物に封じるのって無理だったのよ。今の魔道具のように空気中の魔力を少しずつ吸収して使用するっていう循環ぐらいしか出来ないの。ただ、リエの話で懸念があるとすれば、誰も知らない魔力溜まりに、実験体を置いて魔物を作る奴が出る可能性は否定出来ないわね」

「やっぱり」

「だから可能な限り魔力溜まりを初期の段階で消滅させるっていうのは急務かもしれないわ」

「ああ、もう俺の穏やかな生活が遠ざかるー」

今後起こりうる展開を想像してノールが愚痴り始める。

「そういうお馬鹿に心当たりって?」

「大丈夫よ、魔法ギルドでそういう危なっかしいのはリストアップされてるから」

「大丈夫って何!?少しは状況がマシなのかそれとも限りなく面倒に近づいているのかどっちなんだ!?」

「ノール様、おちついて」

「なんか起きるなら、俺が死んでからにしてくれ、俺が死んでからに」

「相変わらず、面倒なの嫌いですよね」

「リエ、世の中平和で何事もないのが一番だ」

「はいはい。あ、あの建物が依頼のあった牧場の家ですか?」

ノールの真剣な意見をスルーして遠くにぼんやり見える建物をリエが指差してベルンに聞く。

「ああ、あれがそうだ。その奥に見える黒い影が森だ。あの森の方から足跡が出てた」

「足あとは新しかったんでしょうか?」

「ああ、ダフネならかなり追跡できると思う」

「なら、探索範囲はかなり狭くなりそうですな」

「ああ、そうだリエ。森のなかに入ったら、きのこにもベリーにも山菜にも目を向けたらダメよ。ひたすら魔力溜まりね。安全になったら、キノコ狩りぐらい付き合ってもいいから」

「マリエッタさん、私そこまで空気読まない行動しませんって」

「「「「読んだ上で空気壊すって言ったのはリエだろ?」」」」

「まぁそうですが、いくらなんでも村の皆さんの明日がかかってるのに目先の美味しいものにとらわれて明日の美味しいものを捨てたりしませんから」

「「「「「…(村の人より間違いなく村の人が作る美味しいものに比重があるように聞こえるのはなぜだろう)」」」」」

「さ、ちゃっちゃと原因究明して、キノコ狩りです!」

「今、重要度が明らかに変わったよね?ね?」

「言うな、グレゴール」

「私、判断間違ったのかしら?」

「マリエッタぁ…」

何やら悲壮感の出てきた銀の鷹のメンバーだったが、ノールとグゥエンはアマーリエに関わると問題が瑣末なことにされる(より大きな問題が引き起こされるかもしくは食べることに比重が置かれる)のに慣れているので特に気にせず目的の場所へ無言で進む。むしろアマーリエに慣れていない若手の騎士たちが、先ほどの会話も含めてかなりの動揺をおぼえているのだった。

「慣れろ。ただし鈍感になるな」

若手の騎士の動揺を見て、無情に言い切ったグゥエンだった。

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