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午後はアマーリエの使う生活魔法が気になったマリエッタがそもそもどう使っているのかと確認し始め、結局そのまま魔法談義になった。

そうこうしていると、鐘6つ(16時)前にグレゴールとダフネが宿屋に帰ってきた。依頼の話を聞いておみやげのチーズを渡されたアマーリエは大はしゃぎだった。

「そういうこともあるんですね」

「たまにあるよ。他のやつが討伐しちゃって、すでに終わってたりとか、別の要因で依頼がなくなったりとか」

「なるほど」

アマーリエは、お茶を入れてスイートポテトを出す。まだ戻ってこないベルンたちには食後に出せばいいと考え、とりあえず部屋にこもったファルも呼んでお茶にした。

「はぁ、甘くて美味しい。疲れが取れます」

「甘すぎなくていいかも。しかし、色が綺麗だねぇ」

「んー、美味しい。でも、なんかアルバンにつくまでに体重が増えてそうだわ」

「マリエッタ、朝一緒に鍛錬するか?」

「ダフネに付き合ったら、逆にやつれるわよ」

「まあ、でも動いたほうがいいですよね」

「明日みんなで薬草取りに行こうよ。お弁当持って」

「いいですね。薬草の補充もしたいですし」

「そうねぇ、特に緊急の依頼もここはないし。ベルン達が帰ってきたら聞いてみましょうか」

「薬草摘みですか。小さい頃に行ったきりかも」

「御城下だとあんまりやらないかい?村の子供は農作業が手伝える年になるまでは薬草摘みに出るのが普通だからなぁ」

「そうなんですね」

「少し大きな街だと、家業に入る前のこどもが小遣い稼ぎに薬草摘みにでたりするわね」

「ほうほう」

「どれだけあっても困らないからな」

「それはそうですよね」

「治癒士がいないところでは回復薬が命綱だからねぇ」

「このご領地は安全だから子供が少し外まで出て行くことが出来る」

「未だ、魔物はびこる土地では子供が村の外に出るなど論外ですからねぇ」

「すいません、ずっと疑問だったんですが魔物ってどこから発生するんです?」

「ダンジョンや魔力溜まりと言われる魔力の強いところから生まれるって言われてるわねぇ」

「ここのご領地もご領主の一族がここに土地を賜るまでは人が住めない場所だったと言われています」

「それは、ご隠居様に聞いたことがあります。ご先祖様達が頑張ったからこそ今がある。それにあぐらをかくなって」

「人は良くも悪くも慣れる生き物ですから」

「うん、私ももっと精進しよう」

「「「「いや、自重していいぞ」」」」」

「え!?」

「もう少しゆっくりでいいと思うんです、リエは」

「そうね、今のままじゃ、太く短い人生になりそうよね」

「え、そうかな?玄孫までいて100までパン作ってそうじゃない?」

「孫より元気なおばあちゃんになってそうだな」

「なんですか、それ」

歳をとったアマーリエを想像し爆笑する銀の鷹のメンバーに憮然とするアマーリエだった。


柵を直しに行ったはずのベルンとダリウスは、何故か魔物と交戦中だった。柵を大破させたのがただのイノシシではなくマジックボアと呼ばれるイノシシ型の魔物だったのだ。

ダリウスが大音声で威嚇し、挑発で相手の攻撃を集中させ、ベルンが攻撃を当てて見事に倒した。

倒されたマジックボアは牙と魔核を残して消滅する。解体スキルを持たない者に倒された魔物は倒されると何らかの部位と魔力をまとった魔核と呼ばれる石しか残さず、消えてしまうのだ。

「はぁ、まさかこんなところで魔物に会うとは」

「ああ、ただの大イノシシかと思ってたんだがなぁ」

柵の周りの足型からかなり大きなイノシシだろうと二人は推測していたのだ。柵を直して昼を食べたあと、また出没して柵を破壊されても問題だと足跡を追ったら、戦闘に突入したのだ。

「この近くに魔力溜まりが新たに出来た可能性があるのか?」

「可能性は否定できんな」

「依頼主とこの近隣の住民を一時避難させよう」

「ああ。役場と騎士団にも知らせて、明日すぐに魔力溜まりの探索をするようにしよう」

「それがいいな」

二人は保温マグのお茶で喉を潤した後、依頼主たちに状況を知らせ、一時的に村の中心に避難させる。近隣の牧場にも手分けして知らせ、移動を開始する。

そうしてベルン達が宿に帰ってきたのは鐘8つ(18時)をとっくに過ぎ、星が出る頃だった。

帰ってきたベルンは騎士の宿泊所にダリウスは村長のところへとそれぞれ状況を伝えに行き、グレゴールは馬の世話にでた。

また戻ってきた3人はマリエッタとダフネを連れて騎士の宿舎に行く。

避難してきた村民たちに宿に残ったアマーリエとファル、村の婦人達が炊き出しを始める。

「嬢ちゃんは怖くないのかい?」

不安そうな住民がアマーリエに尋ねる。

「皆さんは私なんかよりも銀の鷹の方たちをよく御存知でしょ?」

アマーリエの言葉にいくらか住民に安堵がよぎる。毎年この時期に来る冒険者たちの働きを皆ちゃんと覚えているのだ。

「あの方たちがあれだけ落ち着いて動いているということはそれほどきわどい状況じゃないと思うんです。皆さんに避難していただいたのは、安全な場所にみなさんがいてくださったほうが、騎士の皆様も冒険者の方も戦いやすいからですよ。守りながら戦うより、戦うことだけに集中できる方がいいでしょうから」

その言葉に住民が納得したように頷く。

「大丈夫ですよ。ここは御城下から騎馬で1日あれば着きます。騎士の皆さんがちゃんと守りに来ますよ」

「ああ、嬢ちゃんの言うとおりだな。いつだって、ご領主様は私達の安全を考えてくださってる」

「んだんだ」

「さ、お腹が減ってると考えも暗くなっちゃいますよ。しっかり食べて明日に備えてください」

アマーリエの言葉に避難してきた住民たちが食事を始めた。


騎士の宿泊施設に集まった村長とベルン達は、今後の行動について検討をする。

「まず、状況からですね、まず村長。今までと変わったような話は村の中ででていますか?」

グゥエンが中心に話を始める。

「…変わったことはでていませんでしたのう」

「そうですか。思い出したら何でもよろしいので話してください」

「わかりました」

「今日村の外に出た者達はなにか異常を感じたか?」

「いえ、特に変わった様子はありませんでした」

「銀の鷹の方は?」

「北西にでたのは退治したマジックボアだけだ。そもそも、この付近は俺達が知っているだけでも魔物がこの15年はでていないはずだ」

「ええ、ええ、その通りですのう。この辺りに魔物がでていたのはもう50年ぐらい前になりますからのう」

ベルンの言葉を受けて村長が応える。

「村の北にでたが、小動物は普通にいた。何かあって逃げ出しているなら数が減るか、もしくは異常に増えているはずだ。グレーウルフを退治に行ったが、それは群れではなくはぐれだったから、やはり何かの異常が起こったとしていてもまだ初期の段階だと思う」

ダフネが今日の様子を話す。

「ありがとうございます。でしたら、明日何人かに村の北西方面に探索に出ましょう。村長は村の他の位置の住人にも状況を伝えるようにしてください」

「はい、わかりました」

「探索の結果を見て、増援依頼を出すかどうか決めましょう。一応は、ご領主に状況を挙げておきます。では村長はお戻りください。我々は明日の組分けの話をしましょう」

「それでは、先に失礼致します。どうか皆様よろしくお願い致します」

村長は深く頭を下げて宿舎を出て行った。

「さて、ベルンさん。どう思われますか?」

「リエのことだな。魔力溜まりが見つからなければ、敵が何かを意図して放った魔物だとも考えられるが、ただ位置的になぁ、無理がある」

「そうですね。では、明日の組分けですが、うちに今いる騎士たちは何分経験が浅い。ベルンさんたちにご協力いただきたいのですが」

「もちろん協力するぞ?」

ベルンの訝しげな顔に、ノールが申し訳無さそうにこたえる。

「いえ、ベルンさんたちの下にうちの若い連中を付けたいのですよ」

「うーん、うち二人に下を付ける形ならなんとか。ただリエの護衛には二人残したい」

「ふむ、そうしますと探索は3組ですか。数を増やしたいのですが」

「いや、あなた方のことも考慮してうちは二人にする方がいい」

「騎士も村に残りますから、あなた方は探索に出ていただいたほうが不自然さがないのでは?」

「いいかしら?」

「どうぞ」

「まだ、他に魔物がでていない状況に思うの。北西のある程度までは皆で一緒に行くとして、ダフネと私なら魔力溜まりの異常はわかるから、あるならある程度位置は把握できると思う。リエも一緒に連れて行けば、探索の手の数は増えると思うのよ」

「は?何を言ってんだマリエッタ。あの子は普通…とはちょっと違うかもしれんが、それでも町育ちの女の子だぞ」

「いや、いいかもしれません」

「ノール?」

「ああみえて、状況判断は的確ですし、何かあれば身を守ることに集中します。あの子は自分ができることを無理のない範囲でしかやりません。突拍子もない事をしてるように見えますがね。うちの若い連中より肝も据わってます。むしろ側にいなくて我らが不安な状況になるよりは、そばにいるほうがいいでしょう」

「いや、しかし」

「大丈夫だと私も思うわ。あの子、魔力そのものは低いけれど、魔力の使い方は東の魔女並みよ」

「は?レジェンド級だと?」

「ええ、もしあの子に膨大な魔力があったら、今は空席の北の魔女の冠が付いてもおかしくないわよ。むしろ今の状態でも、東西の魔女たちが興味をもつぐらいよね」

「勘弁してくれ」

「…それは本当でしょうか?」

「ええ、だから人目のあるところであんまり生活魔法も連発しちゃダメとは言っておいたわよ。解る人には判るから。ご領主様はあの子を手放したくないんでしょ?」

「ええ。はぁ、しかしそこまで魔法を使いこなせるなんて聞いていませんよ」

「本人も、今日はじめて知ったみたいね。そもそも生活魔法なんて旅にでもでなきゃ外で披露する機会なんてないんだし。とりあえず、あの子には私が護符をつけるし、連れて行く方向でいいんじゃないかしら」

「わかりました。ではその方向性で。そちらの組分けはどうされますか?」

「俺とグレゴール、ダリウスとマリエッタ、ダフネとファルだな」

「ええ、それがいいわね」

「下につく騎士はどうしましょうか?」

「俺とグレゴールの下にはタンカー型がついてもらえると助かる。ダリウスとマリエッタにはスピード型の騎士を。ダフネとファルにはタンカー型かもしくは中距離か長距離攻撃型がうれしい」

「わかりました。それでは、アーノルドはベルン殿の下に、コンスタンスはダリウス殿の下に、イーニアスはダフネ殿の下についてくれ。私とノール、ミカエラで組む。准騎士と従者を村の警戒に当たらせよう。これでいいだろうか?」

「リエはベルンのところに入れるのがいいわ。保険の魔法使いとしてね」

「わかりました。そうしましょう」

「移動は、途中の牧場までそちらは騎馬でこっちは馬車に乗って移動しましょう。その後徒歩で足あとが辿れるところまで行きましょう」

「ええ。では出発は鐘一つに。村の北西側に集合でよろしいでしょうか?」

「ああ、かまわない。騎士様方には申し訳ないがウチのメンバーの指示に従ってくれると助かる」

「皆、経験で優る銀の鷹の方たちから色々学ぶようにな」

「はい、よろしくお願いします」

「では、解散しましょう。明日はよろしくお願いします」

こうして、ユグの村の魔力だまり騒動は幕を開けたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] テンポよく物語が展開され、設定にもオリジナリティがある。 [気になる点] 複数人がわいわいと話してる場面では誰のセリフかわかりにくい。結果的にキャラクターがどういう嗜好や信念を持っているか…
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