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「今日の予定だが。一旦、リエも含めて皆で村役場に行って、ギルド窓口で受けた依頼やこなせる依頼を確認する。依頼状況によって行動を決めることにする。んじゃここを片付けて、出かける支度するぞ」
「はーい」
「あ、皆さん、保温ボトルにお茶淹れますからここを出る前に出してください」
皆で使った道具や器を浄化魔法できれいにし元の棚に戻す。確認した後、各部屋に戻って出かける準備をする。アマーリエはファルから甘藷をもらってリュックに入れておく。炊事場集合したメンバーたちは、保温ボトルにそれぞれお茶を入れてアイテムポーチにしまう。
村の中心地はこじんまりしており、宿からすぐ村役場に着いた。
「すみません、クラン『銀の鷹』ですが、こちらで出ている海産物の買い付け運送依頼の件なんですが」
ベルンはそう言って、アイテムポーチから取り出した依頼受領証を窓口に提出する。
「あ、ベルンさん久しぶりだねぇ。いつもありがとうございます。ええと、昆布が5束、乾燥わかめが1kg、寒天20本ですね」
ファルが部屋で用意していた海産物を窓口に出す。
「はい確かに。こちらにギルドカードをかざしてください。ハイ大丈夫です。あと今コチラに来ている依頼はこれらになります。よろしくお願いします」
そういって依頼書数枚を渡される。待合スペースにそれを持って行き、内容を見る。
「リエも見るか?」
「はい」
見終わった依頼書を回してもらって、どんな依頼があるのかアマーリエも見る。
「あ、これ」
「どうしたの?」
「今朝たまご屋の小母さんが美味しいって言ってたチーズを作ってる酪農家さんじゃないかな」
そう言って依頼主の名前の欄を指さして隣のグレゴールに見せる。
「どれ、ああホントだね。依頼内容は、えーっと害獣退治で、出るのははぐれのグレーウルフか。場所は村から北に3ルグ結構近いね。初級クラスに残しといた方がいい依頼なんだけど…」
「今日ここに来てなかったってことは、牧場でなんかあった可能性はありますよね?」
「そうだね。緊急度が上がってたら不味いねぇ。グレーウルフの数的に、俺一人でもこなせるだろうけど、農場でなにか起こってた時にはもう一人いたほうがいいかな。ダフネが相方なら適任だと思う。どうだろうベルン?」
「応、いいぞ。3ルグ程度なら、もし応援が必要になってもダフネがひとっぱしり出来る距離だしな。今なら騎士もいっぱいいる。ダフネはどうだ?」
「ああ、いいぞ」
「けが人が出ている可能性もありますから回復薬を多めに持っていかれてはどうでしょう」
そう言って、ファルが回復薬をポーチから出してグレゴールに渡す。
「ありがとう。じゃあダフネ行こうか」
「あ、待ってください。これ一応お昼に」
アマーリエがリュックからサンドイッチの包を取り出して二人に渡す。
「ありがとう」
「リエのサンドイッチは美味しいからな」
いそいそと二人はサンドイッチをポーチにしまう。グレゴールはリストを持って受付に依頼受領書を貰いに行く。
「私はこの薬師の調合依頼を受けようかと。昼には終わりそうですし。受領書をもらってきます」
「応。うーん後は?」
「この牧場の柵直しはどうだ?かなり緊急みたいだぞ?ちっとばっかし遠いが、馬車で行けばすぐ着く。夕方には戻れるだろ」
「そうだな、俺とダリウスで行くか。そしたらマリエッタは、今回は宿で出来る仕事な」
「そうね、この護符づくりでも引き受けましょうかね」
「じゃあ、これベルンさんとダリウスさんのお昼。ファルさんはお昼に戻って宿屋で一緒に食べますか?」
「そうします」
「では、用意しときます。お芋のお菓子と夕飯作って待ってますから気をつけて帰ってきてくださいね、皆さん」
「はい。うふふふふ」
「楽しみにしてる」
「じゃあ、リエ。受領書もらってくるからちょっと待ってて」
「はい、入口で待ってます」
役場の入り口で、アマーリエは外に依頼に出かけるメンバーを見送り、マリエッタを待つ。
「お待たせ」
「いえ。マリエッタさん、食料品店に寄ってから帰りたいんですが」
「いいわよ、行きましょ。役場の三軒隣にあるわ」
食料品店に寄って油を買い宿屋に戻る。
その頃一足先に依頼先に向かったグレゴールとダフネは野原に残る轍の後を早足で歩いていた。
「あ、シグ草。結構生えてるね。明日はファル連れて、薬草摘みでもする?リエにお弁当作ってもらって」
「いいな。うさぎも結構いるが春先だから皮も肉もダメだな」
「冬場なら毛皮が少しは高く売れるんだけどねぇ」
銀の鷹はクラン創設から20年になるベテランでほぼ活動サイクルは決まっている。中級の頃は他所の国に出てもいたが、最近は一年のうち、夏から早春にかけてはファウランド王国内を冒険している。春の間だけ、アルバンのダンジョンに篭もるのだ。そして、そのアルバンまでの旅の道中がクランにとってはある意味休暇のようなものなのだ。
「グレゴール、狼の匂いがしだしているがやはり一頭だけだ。はぐれのようだな。この辺りは2日ぐらい前に居たみたいだ」
「わかった。群れがいるとしたら、あっちに見える森の奥の山のほうかな。今風下だよね。なんか臭う?」
「牛の匂いがするだけだな、今のところ」
「そっか。後1ルグぐらいか。あのぽつんと見えてる赤いのが農場みたいだね」
「そうだな。気持ち急ごう」
「ああ」
そう頷いて、グレゴールは歩みを早めた。
一方、ベルンとダリウスの二人は村の大工の所に寄って、柵の材料を買取って幌馬車の荷台においているアイテムボックスにしまって、依頼人の牧場へと向かう。
御者台に中年親父二人でむさ苦しいことこの上ないが、冒険者になる前から幼馴染として一緒にいた二人にしてみれば、むしろ一緒にいない時のほうがおかしな状態だといっていいぐらいである。
馬車は村を出て轍のしっかりついた里道を北西に向かう。
「リエを狙ってるっていう輩はどうなってるんだ?」
「ご領主さんからの連絡だと囮の方を追いかけてるらしい。引きつけられるだけ引きつけるそうだ」
ベルンは領主から双方向型の連絡用魔道具を受け取っている。かなり貴重な道具だから、それほど重要な人物を預かるのかと領主に聞けば、道具は改良、量産化し始めていて貴重性は領内では落ち始めているのだとあっさり言われた。
そして、アマーリエがというよりもアマーリエが作る菓子の方が重要だと言わんばかりの領主の話とダールのアマーリエの作る菓子が、領主を働かせるためのにんじんだと考えているような態度になんとはなしにアマーリエに同情したベルンだった。
「そうか。こっちも今のところ怪しい影は見ないし、それだけかな」
「ああ。そもそも狙ってる奴もご領主いわく小物らしいから、次の手が来るのは囮がバレてからだろう」
「しかし、狙われてるのにリエはのんきそうだな」
港町でのアマーリエの舞い上がり具合を思い出してダリウスは苦笑を浮かべる。
「まぁ、ちっとやらかすことが、敏いもんには引っ掛かりを覚えさせるかもしれないが、普通にみてれば初めて旅に出たお上りさんそのものにしか見えんからなぁ。変にオドオドビクビクされて余計なのまで目をつけられるよりはいいさ」
「たしかに。うちとしては、旅の食事情が良くなって嬉しいぐらいだ」
「米だったか?リジェネ効果があるってのがすごいな。長期戦闘前に食べれば心強い。ダンジョンに潜ったら、うちも少し採集していこう」
「そうだな。ああ、そうだ。向こうについたら、リエにダンジョンの中に海があるって教えてやらなんとな」
「?」
「いや、ローレンの魚屋で大喜びしながら海産物買い込んでたからな。ここでしか買えないって」
「ぶくくくく。だがダンジョンの海で取れるもんは普通のものとは違うだろ?」
「リエなら大丈夫じゃないか?他にも効果のつきそうな料理を作っちまいそうだぞ」
「言えてるな。ご領主が手放したくないわけだ」
「よっし。さっさと依頼をこなして夕飯時までに戻ろう」
ダリウスの言葉に、ベルンは馬たちを速歩にさせて道行きを急いだ。
様々な薬草の香りが立ち込める部屋でファルは薬研を使って固い種を粉にしている。薬研台を足で固定し薬研車に体重をかけ、薬研のV字になった壁に薬研車を刃を研ぐようにすり合わせて中腰で作業を進める。
「すまないねぇ。弟子が居ればいいのだけど」
「いえ、お気になさらず。去年いらっしゃった方は?」
「王都に修行に出したんだよ。あたし一人でもなんとかなるかと思ってたんだけど、あいにく腰をやっちまって、薬研を使う作業が難儀でねぇ」
「一時的な派遣は?」
「薬師のギルドに依頼を出したよ。あてがあるという返事だったから、こちらに派遣が来るまでは冒険者ギルドの方に小忠実に依頼を出して凌ぐことにしたのさ」
「そうですか。それは良かったです」
「こんなババァでも薬師がいなけりゃ村が大変だからねぇ」
「早くお弟子さんが戻れるといいですねぇ」
「なかなか、優秀な子だからもしかしたらそのまま王都に留まっちまうかもしれないねぇ。まぁそうなったら早いとこ新しい弟子を取るか、他のモンにここを譲るかしないとダメだがねぇ」
「優秀な方だったら、あちらで引き止める人も出るでしょうしね」
ファルの言葉に薬師は頷く。
「神官さんは海藻の上手い取り方を知らんかね?」
「薬ではダメですか?」
「小さな子供がねぇ」
「ああ、確かに薬の状態でしたら嫌がりますね。こちらの御城下ではワカメのスープや海藻のサラダなど食品摂取されてますがそれだけの量をここに運ぶとなるとかなり値段が上がってしまいますしねぇ」
「そうなんだよ。まだここは街道沿いにある村だからいいが、もっと山の中の村や街道から離れてる村じゃなかなかねぇ」
「なにかいい方法がないか考えてみます。神殿でもこの件で動いていますから」
「うんうん。元気な子が育つほうがいいからねぇ」
「ええ」
ファルは腰をいためた薬師の代わりに、せっせと薬を調合していった。