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 かつてその大陸は魔力に満ち溢れ、魔物が跋扈し、人々は肩を寄せ合い細々と生きていくしかなかった。いつしか、人々はスキルと称される技術を身につけ、互いに協力しあって魔物を倒しはじめ、国を興亡させていく。

 そんな大陸の国々の中で、大陸の西の端まで版図を広げるのがファウランド王国であった。

 その王国の開拓の要でもあり、西に位置するのがバルシュテイン辺境伯領で、さらに西、大陸の端っことも言える場所に冒険者達から【世界の端っこの村】と呼ばれるアルバン村があった。未だ攻略されず、拡大を続ける上級冒険者向けのダンジョンの側に出来たいわゆるダンジョン村だった。

 そして、物語はアルバン村から幕をあげる。

 星がまたたく夜明け前、アルバン村に一軒しかないパン屋の厨房でストロベリーブロンド(赤毛)の年若い娘が元気にパンを作るところから村の一日が始まる。

「えーっと、今日は騎士団の駐屯地の分が納品だっけ?あとギルドの宿屋に卸す分と店売り分のバゲットとカンパーニュ」

 身体強化のスキルを使い、パン生地を捏ねながら今日のノルマを口に出して確認するパン職人の娘は、ちらりとオーブンの窓からパンの焼き加減を確認する。

 魔道具職人が作った最新のオーブンから、パンの焼ける小麦やバターの香ばしい匂いが漂ってくる。

「焼き上がりはもうちょっとかな?えーっと、あとは、店売り用とサンドイッチ用の日本風ホワイトローフ(食パン)にクロワッサン。ん~二種類ほど惣菜パンか?ひぃ、数が多い〜」

 このパン職人の娘、周りの誰にも言っていない事がある。

「はぁ〜、前世の知識や経験を覚えてるからって、なんで知識チートぶちかましちゃったかな私。……自分の食い気が問題なんだよね。自重が大事なのはわかってるんだ」

 見た目は赤毛青眼のバルシュテイン産ではあるが中身は某青い星の島国育ちが混じっているようである。反省の様子を見せながらパン生地を調理台に叩きつけ、さらにパンを捏ねている。

「でも!わかぁちゃいるけどやめられない♪」

 反省してるようで欠片も反省していないパン職人だった。

「誰か助っ人なり弟子なり送ってもらわないとだめかも。ん?でも人に教えてる余裕なんかあるのか?」

 パン生地を作業台に叩きつける音がどんどん激しくなる。

「くっそー、パン屋を辞める気なかったから、アルバン村の中なら絶対安全って言うご領主様の策に素直にのって、ここのパン屋を引き受けたけど!」

 ビッタンバッタンと恨みを叩きつけるかの如く、作業台からパン生地を叩きつける音が響く。魔法があるこの世界、呪いのパンが生まれそうな勢いである。

「どう考えても一人で三年も村の人と駐屯地の騎士の分のパンなんて無理だよっ。しかも駐屯地の騎士の分とか聞いてないし!なぜこうなったぁ!?」

 それでもパン職人、愚痴がヒートアップしながらもどんどんパン生地を捏ねて、寝かして、成形していく。前世からの経験もあってか、口以上に手がしっかり動いている。

「パン生地をねかせる時間が勿体無い!錬金スキル使っちゃお!発酵促進!よし、コレで時間短縮できる」

 パン職人は自分が持つギフト(天恵)スキル錬金を使ってパン作りをさらにスピードアップさせる。

「あぁ、まだ村に着いてちょっとしか経ってないけど、お父さんとお母さん元気かなぁ。お店二人で切り盛りできてるのかな。あっちも弟子を取るって言ってたけど、上手くいったのかな?はぁ、何が『三年だけ頑張ってくれ、アマーリエ』だよ、あの甘いもの好きの顔だけ領主!早く職人が育つように環境整えやがれってんだ!でないといつまでたっても家に帰れない気がするぅ」

 半分泣きが入りながらも、次のパンの焼成に入ったパン職人。愚痴り疲れたか、黙々とパン作りに専念しつつも村に隔離されることになった出来事へと記憶を遡りはじめたのだった。

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