入学 -5-
「お、彼は例の……」
「ベンのガキか」
「そうだね」
教官――――トールは、訓練場内の戦闘を観戦するためのモニタールームへと移動していた。 隣には、コーヒーを飲みながらゆったりとしているアンジェが壁に寄りかかっている。
「まさか、彼の息子を僕が指導することになるとはね」
「意図してのことだろ。 校長も意地が悪い」
「まあね。 けれど、これは贖罪の機会でもある」
トールの声音はいつになく落ち着いている。
モニターに映る二機の機械鎧を眺める瞳は、自分の子供を見るように穏やかだ。
ニールの姿は、彼に昔の仕事仲間の面影を思い出させる。
「お前が責任を感じることでもないだろう、あれは事故だった。 結論は出ている」
「第三者がそう言ってもね、僕自身はそうは思えないんだ」
「はぁ……細かいことを引きずるやつだなホント」
アンジェは、まどろっこしそうに同僚の横顔を見て溜息を吐く。
「逆に、君は引きずらなさすぎる」
「そいつは褒め言葉として受け取っておこう」
「あと、君は何でもかんでも褒め言葉として受け取りすぎだよ」
「む、うるさいな、ヒョロ眼鏡に言われたくない。って、そろそろ始まるみたいよ」
モニターに映る二機は片腕を上げて、教官の二人に準備完了の合図を送る。
トールはマイクを持つと、ルールの確認と摸擬戦の開始時間を告げて、モニターへと視線を固定した。
「アンジェ、これ、どちらが勝つだろうね」
「そりゃ、部隊志望の子じゃないか? 幾らなんでも、技師志望に負けることはないだろう」
「そうかもしれないけどさ、機体同士の相性とかもあるだろう」
「まあね。 けど、そういった要素を込みでも、やっぱり部隊志望ちゃんに一万賭けてもいいくらいよ。 技師志望君が選んだ機体は、別名、兎とも呼ばれる高機動型 rapid。 跳躍力、瞬発力共に最高クラスの機体だけど、反面、薄い装甲に軽武装だなんてピーキーな代物だもの。 入学直後の生徒は、部隊志望の子でも大抵は機体を走らせるだけでも四苦八苦だってレベルなのに、あんな機体をまともに動かせるかしらね。 せいぜい岩に突っ込んで自爆ってとこじゃない?」
「……ふむ、やはりそうなるか。 けどね……」
「ん?」
「あの機体、昔、ベンがよく作業に使っていた機械鎧にそっくりなんだ」