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エピローグ


 砲音の鳴り響いていた騒がしい船内も、一週間もするとそんな出来事があったことが嘘のように立ち上る煙は消え、船内には平時の通りとまではいかないまでも、一定の平穏が帰って来ていた。


「……対抗戦では災難だったわね」

「それを言うならミレナこそ、だろ?」


 午前、学科授業開始前の時間。

 以前よりも人数の少ない教室で、ニールはミレナと話をしていた。


「あのあと、私のほうは軍に連れていかれて本当に散々だったわ……。 根掘り葉掘り事情を聞かれて、あげくなんの報酬もないだなんて」

「まあ、この場合は仕方ないんじゃ? まさか、お金をあげるわけにはいかないし、かといってなにも聞かないわけにもいかなかったんだろうし」

「そういう事情は分かってはいるんだけどね。 ノルンのほうも、ずっと家に軟禁状態みたいで、それに比べればまだ私はまだマシなのだろうし」

「ノルンか……」


 騒動の後、ノルンは未だ一度も二人の前に姿を現していない。

 ミレナは、マスケイン家当主――ノルンの父親であるレナード・マスケインが、今回の件で標的にされたノルンの身の安全へと配慮し、彼女を屋敷に閉じ込めているのだろうと推察した。

 たぶん、その予想は当たっている。

 そうニールも考えていた。

ノルンだけでなく、クラスの生徒でも何人かが船が落ち着くまでは学校へ来ないという話だったからだ。

さらに、理由は安全面だけではない。

中には自分の家が砲弾によって破壊された者もいて、船内の復興を手伝う者も多かった。


「……強いて良かったことを挙げるなら、いつもなら混んでて絶対入れないような人気料理店に入れるってことくらい?」

学校へ来る者が少ないということで、昼休み中は、昼食を摂るための生徒でごった返していた通りも人通りがまばらになっているのだ。

「食べ物絡みっていうのが、なんともミレナらしいよ」

「……何よその言いようは」

「ははは……」


 拗ねたように顔を逸らしたミレナに、ニールは暢気そうに顔を歪ませる。

 けれど、その目にはどこか物寂しさが宿っていた。

 その視線の先には、ビセットが普段座っていた席があった。

 ――あれから、ビセットがどうなったのかは分かっていない。

 アンジェ教官はニールに対して、悪いようにはしない、とだけ意味深な言葉を残すだけで、詳しい話は一切してくれなかった。

 ミレナも、言葉には出さないがビセットのことは気になっているらしく、独自に調べてみる、とニールに言っていた。

 移民が起こした今回の事件は、ヴァルフィッシュ船内では広くは報じられていない。

 ミレナ曰く、こうした情報はヴァルフィッシュという船全体の立場で言えば、広まらないに越したことはないから、とのことだった。 内紛のことが船外に広まれば、そのことで弱っているところにつけこもうと賊がやってくることもあり得る。

 さらに、移民の中で不満が溜まっているという事実も、船を牛耳るマスケイン家としてはあまり都合の良い話ではない。

 そうなると、自然と事の真相は隠され、いつの間にか事件は単なる賊による攻撃として扱われるようになってしまっていた。


「「……」」


 頭の中で浮かんだそうした事柄について考え、二人は黙り込んだ。

 ガララッ

 と、教室の扉が開く。

 そして入ってくる三人。

 彼女らの姿を見て、ニールは息を呑んだ。


「え、ビセット……? それに、ノルンに、アンジェ教官まで」


 三人はどこか賑やかな風に、当たり前のようにやってくると、ニールとミレナの前で足を止めた。


「ど、どういうことですか、教官」

「ビセットは今日から私が預かることになった。 ま、保護観察ってところだな。 父親からの強要、命令、洗脳、そういった被害にあったビセットの更正、再教育を私が引き受けた。 そんなところだ」

「……けれど、教官。 そんな無茶な話」


 ミレナは納得がいかないと、じとりとした視線を向ける。


「それは、私がお願いしたの」


 ノルンはそう、苦笑いしながら口にした。


「え?」

「ほら、今回の件ってやっぱり、マスケイン家に責任があると思うし、私も、少し考えたんだ。 現状を変えるには、やっぱり、まずは出来ることからしていかないといけないって思うから」

「私の手腕もあるが、やはり、ノルンがレナード・マスケイン氏に直接頼み込んだのが効いたな」


 思いつめたような表情のノルンの隣で、アンジェ教官は得意気に言う。


「……そう、なるほどね。 レナード・マスケインからノルンが権力を引き出し、アンジェ教官がそれを利用したと」

「人聞きの悪い事をいうな。 別に、誰も困らんだろう、このぐらい」

「……本当に、申し訳ありません」


 ビセットは振り絞るように言葉を出した。

 それに対し、ノルンは首を振る。


「いいんだって、私こそ、近くにいたのに、今までビセットのことを全然気付いてあげられなかったから」

「気付く、気付かないの問題ではない。 やった、やらないの問題なんだ。 私は超えてはならない一線を越えたのだから」

「もう、それは散々言って聞かせたじゃない。 もういいって」


 一週間。

 ニールは、ノルンが学校へと来なかった理由が分かった気がした。

 父親への説得、ビセットへの説得。

 どちらをも成すために、言葉を尽くしていたのだろう。


「……他の移民の人たちは、どうなったのかしら?」


 ミレナは刺すような眼で問う。


「作戦を実行した者たちについては、こればっかりはどうにもならない。 船からの永久追放だよ」


 アンジェ教官は一転して厳しい表情で、さらに、これでもまだ甘い処置だとは思うけれどね、と続ける。


「……そうですね。 仮にも船全体に危機を及ばせたのだから、本来なら全員処刑されてもおかしくはない。 それが、これだけで済んだのは……」

「まあ、そうだな。 相手が移民で、彼らの不満をコントロールできなかったマスケイン家に明確な落ち度があったからだろう。 移民を甘やかすのは決して良いことではないが、かといってどこまで絞っても大丈夫かはしっかり見極めないと、こういう事態が起こる。 今回の措置はこれへの反省でもあるのだろうな」


 絞る、という露骨な言葉にノルンは眉を顰めるが、反論の言葉は口にはしない。

 船を取り仕切る上で、移民にはそれ相応の接し方をするのは必要なことであると、理解しているからだった。


「でも、良かったよ。 まさか、ビセットが士官学校に戻ってこれるとは思っていなかったから」

「そうだな、ニール。 それだけは私も嬉しい。 そして、今まですまなかった」


 ビセットは深く頭を下げた。

 その行動に面食らったニールは、顔を上げてくれと慌てる。


「これだけは言っておかないといけないと思っていたんだ。 私は、皆を騙していたのだから」

「……そうだな、それだけは許せないことだ」

「ああ、だから……」

「でも、それ以上にビセットが戻ってきてくれたことのほうが嬉しいよ」

「えっ……」


 真っ直ぐにビセットの瞳に向けられた言葉。


「そ、そうか……」


 ビセットは照れるように視線を逸らすと、小さく笑った。


「ありがとう」

「ふふ、これで次の対抗戦も第七小隊は四人揃って戦えそうだね」

「だな」


 第七小隊の三人組は笑いあう。


「まあ、次の対抗戦は置いといて、だ。 まずは、サナリスのほうにも伝えに言ってやれ。 ビセットは小隊から抜けてしまうと考えているだろうからな、欠けた四人目を埋めるためにトレード交渉に奔走しているかもしれん」

「はは、たしかに」

「じゃ、いこっか」

「ああ、ありがとう。 ニール、ノルン」


 問題やしこりは完全に消え去ったわけではない。

 だが、それでも、三人は一部でも互いを理解できたように思えたのだった。

 ヴァルフィッシュは飛翔し、目的地もなく進み続ける。

 同じように、三人も終着点を定めずに日々を過ごしていく。

 教室を出る三人は、どこか軽くなった気持ちを抱えながら、ひとまずは向かうべき場所へと歩を進めていくのだった。










終わり




完結です。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

ひとまずお話は終わりとなりますが、もしかしたら続きを書く場合もあるので、そのときはまたよろしくお願いします。

作品について思うことがあれば感想をどうぞ。

点数評価もお待ちしております。


最後に、私の拙い作品を最後までお読みいただきありがとうございました。

次回作、もしくは続編については未定ですが、また投稿はすると思うので、そのときはよろしくお願いします。


では、またその日まで。

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