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激突 -3-



『ビセット、荷は慎重に扱えよ?』

『分かっています』


 戦域を離脱したサージとビセットは、真っ直ぐヴァルフィッシュ外縁を目指して移動を続けていた。

 広大な面積を誇るヴァルフィッシュ船内だが、機械鎧による高速移動を用いれば端から端まで到達するのには一時間も掛からない。

 ヴァルフィッシュ船内の戦力が上層区へと集められている現状では、二人を止める障害物はほとんど存在しなかった。

 ドゴォン――――

 遠方では、未だに戦闘によるものと思わしき砲撃音が鳴り続けている。

 それが徐々に遠ざかっていることを確認して、サージは口元を歪ませる。


『意外と今回の仕事は楽勝だったな……ま、周到に準備をした結果と言えば、それまでなんだが』


 言いつつ、サージの脳裏に浮かぶのはニールの乗る機体の姿だった。

 彼は、過去にニールの乗っていた機体と同じように改造を施したRapidを見たことがあった。

 それゆえに、まだ何かが引っ掛かる、そうした予感を拭いきれていなかった。

 そんな考えを振り切るように、言葉を並べ立てる。


『にしてもビセット、あの改造Rapid、あれがニールの機体なんだろ?』

『……はい』


 ビセットの声音は暗い。

 が、これまで仲間として接した相手を裏切った直後であるビセットにとって、それは無理からぬことでもあった。


『少ししか見ていねぇが、あの機体を随分と乗りこなしてやがったな。 結構な訓練を積んでたんじゃねぇの?』

『……っ? そう、ですね』


 ビセットはサージがあの機体を知っていることに幾らか驚いていた。

 ニールの機体は彼の母親の乗っていた機体の再現と聞いていたからだ。

 サージとニールを結びつけるもの、それが何かを考えたとき、ビセットはニールの母親とサージが何らかの形で関わりあっていたのだろうと察した。


『……っ、……て……』

『あ、なんだ?』


 不意にノイズ混じりの通信が入る。

 サージとビセットはそれを訝しむも、移動の速度は落さない。

 まだ船内から脱出しきったわけでもないからそれは当然のことなのだが、その通信が何なのかを二人は考え、すぐにその正体に思い至った。


『ニールかっ!』


 ビセットの声に力が篭る。

 ひたすら前方へと向けていた推力を弱め、ビセットは機体を反転させる。


『……やっと、追いついたな』


 ニールは二機の機械鎧を視界に収めた。


『ちっ、しつこいガキだな……』


 三機はちょうど船の外縁、高く聳え立つ隔壁へと到着していた。

 サージはしかし、速度を落とさないまま、手元の装置を起動させる。

 ダァァンッ、と指向性のある爆発が外壁で巻き起こった。

 土煙が舞い、視界が破片で埋め尽くされる。


『な、なんだ……っ?』


 ニールは突然の爆発に声を荒げる。

 急になにが起きたのか、頭の理解が追いつかない。

 けれど、外壁で舞った土煙が船内部へと吸い込まれるように気流に流され始めて、そこで状況を把握する。


『壁に穴を開けたのかっ!』


 つまり、二機は外へと脱出を図ったということだ。

 思考が追いつくと、ニールは迷うことなく穴の中へと機体を向かわせる。

 すぅ――と広がる視界。

 世界を見渡せるような感覚。

 遮るもののない青い空。

 浮遊するのも数秒、すぐにRapidは重力によって落下していく。

 だが、その速度はさほど早くはない。

 ヴァルフィッシュ周辺の重力はヴァルフィッシュが形成する特殊な重力場によって、引力が不安定になっている。

 そのため、ゆったりとした速度で機体は下降していく。

 ドン!

 耳を突くような砲撃音。

 直後、ニールは機体のスラスターを吹かせて、機体を空中で旋回させる。

 スラスターによって生じた白煙を弾丸が打ち抜く。


『くそ、外したか、さすがに狙いを定めてもこんな状態じゃ当てるのは難しいな?』

『不安定な引力によって砲弾の軌道も安定しないということらしい』

『ビセット、冷静に分析しているんじゃねえ、どんどん撃ちまくれ、下手な鉄砲なんとやらだ』


「くっそ……」


 中遠距離で戦える装備を持たないRapidにとって、この空中を浮遊し続ける時間はひたすら逃げに回るしかない時間だ。

 それまで距離を詰めようとしていた二機から離れるようにスラスターを吹かし、射線から逃れるために神経を張り詰めさせる。

 ヴァルフィッシュから離れるほどに、機体の落下速度は加速度的に上昇していく。

 その速度に乗るようにして、Rapidは急降下で砲撃を避ける。

 ガタガタと風圧によって機体が揺れる。

 ともすれば、この圧力によって機体が瓦解するのにも気をつけなければならない。

 そして、機械鎧のショックアブソーバーは高い性能を誇っているが、それにも限度というものがある。 機体が分解せずに着地できたとして、落下の衝撃にも耐えなければならないのだ。


『そろそろ撃ち止めだ。 ビセット、着地に意識を向けろ』

『了解』


 砲撃がようやく収まり、ニールは安堵から深い溜息を吐く。


「ふぅぅぅ……」


 油断はならないが、嵐のような攻撃が終わった。

 次は、ニールの攻撃の番となる。

 速度を出していたニールの方が先に着地する。

 限度いっぱいまで吹かした下方向へのスラスターでなんとか落下速度を殺し、未だ落下を続ける二機へと目を向ける。


『やれ、ビセットっ!』


 サージが叫ぶ。


『了解』


 ポン、と空気が抜けるような音と共に一発の砲弾が放たれた。

 放物線を描きながら落ちてくる砲弾。

 それがどのような結果をもたらすのか。

 砲弾は二人の着地地点の砂丘を狙ったものだ。


『目くらましか』


 機体の機動の中で最も隙が生まれる瞬間である着地。

 それを安全にするための砲弾だった。


『させるかっ――――』


 Rapidは、ダン、と地面を踏んだ。

 驚異的な加速でもって砲弾へと一直線に向かい、サブマシンキャノンを構える。


『な、まさか――』


 その動きにサージは息を呑んだ。

 過去にも似た光景を見たことがあったからだ。

 そして、ニールは弾丸を放つ。

 砲弾へと降り注ぐ弾丸。

 もちろん、砲弾がそれ一発だけという保証はない。

 追加の砲弾が放たれれば、さすがにニールでも厳しい。

 両者の命運はしかし、ニールへと傾いた。

 サブマシンキャノンの弾丸が砲弾へと掠り、直後に空中で爆音が鳴る。

 ビセットの機体には、もうグレネードは搭載されていなかった。

 そもそも、そのグレネードは緊急用の虎の子の一発。

 二機は垂直落下をしながら、落下の衝撃を抑えるためにスラスターを吹かさざるを得ない。

 そんな二機へとニールのRapidがブレードを構えて突撃を行う。


『おらあああああああっっっ』


 サージの唸り声が割れるように響く。


「うおおおおおおッッ!!」


 ニールも応えるように叫ぶ。

 精度もなにもないサージの掃射。

 バラバラに放たれた弾丸は地面を穿ち、煙を舞わせる。

 その内の一発がRapidのサブマシンキャノンに命中し、僅かに機体のバランスを崩す。


『まだだっっ!!!』


 スラスターをいっぱいに吹かせる。

 その残量はもう数秒で尽きる。

 しかし、この一撃を決めるためにニールは速度をさらに上昇させた。

 着地の瞬間。

 ニールは世界が停止して、何もかもがスローモーションになるような錯覚を覚えた。

 ブレードは、サージの機体を斜めに、深く斬りつけていた。

 ズン、ブレードが機体を引き裂いた音と一緒にすべてが元の速さへと帰る。

 サージの機体は機能を停止させ、場にはニールとビセットの両機だけが残った。


『は、ははは……』


 サージの笑い声。

 その声音には何かを諦めたような渇きが含まれていた。

 ニールもビセットも、機体を動かさず睨みあうような形となる。


「どうする……燃料もない、サブマシンキャノンも破壊されてしまった」


 Rapidは燃料切れにより機動力を失い、唯一の射撃武器であるサブマシンキャノンも使えなくなった。 あるのは単純な歩行・走行能力とブレード一本のみだ。

 これだけの装備では、勝てる勝てない以前の問題で戦うことすらできない。


『くく、どうした……?』


 追撃をしないニールを見て、サージはニールの状況を看破したようだった。

 機体は上下共に分断されてしまったものの、腕部のヒートキャノンを撃つことぐらいはできるようだった。


『ビセット、その抱えているコックピット、俺の機体の近くに置け』

『……え、わ、分かりました』


 それにどういった意味があるのか、ビセットは計りかねたといった感じだが、言われるままにノルンとミレナが閉じ込められたままのコックピットをサージの傍に置く。


『くく、残念だったな、本当に残念だ……』

『くそ……』


 ニールの中に後悔が生まれる。

 もう少しなんとかやり方があったのではないか、という後悔。

 ダァァンッ――――

 けれど、そんな考えを巡らす間もなく、無情の銃声は鳴ったのだった。


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