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小隊戦 -9-

「隊長っ、練習試合って一体どうすれば……!?」


 ノルンは機械鎧の戦闘教本を捲りながら声を震わせる。

 既に訓練場には各小隊員達が集まっており、ニール達第七小隊も、格納庫の側に設置されたベンチに座りながら作戦を練っていた。


「そう焦る事はないですよノルンさん、今日やるのは所詮は練習試合です。 まだ小隊単位での訓練もあまりやっていないんですし、感触を確かめるつもりでいきましょう」


 サナリスは穏やかなな口調でノルンを落ち着かせる。

 サナリス自身、小隊長としての小隊戦はこれが始めてなのだが、共に戦う仲間が皆新入生であるせいか、それとも持ち前の責任感と使命感によってか、ほど良い集中を維持できていた。


「こ、こういうのって緊張するもんなんですね……」


 一方で、機械鎧による初めての集団戦を前に、ニールはがちがちに緊張してしまっていた。

 それも当然で、ニールは元々勝負事には疎く、いつも目の前の機械を修理をすることだけに意識を向けてきたのだ。

 ビセットとの対戦の時は負けて当たり前だと開き直れていたが、小隊戦ともなると自分だけでなく、小隊全体の勝敗に対してのプレッシャーが掛かる。


「ニール、深呼吸をするといい。 普段通りに動けば勝てるさ」


 ビセットは緊張感を欠片も感じていないのか飄々としている。

 その眼が見据えているのは、相手方の小隊、第十四小隊。

 ニールは、ビセットの瞳に宿るその自信がどこから来るのだろうかと心底羨ましく思った。

 サナリスは、改めて作戦の確認を行う。


「相手はヨハン率いる第十四小隊です。 昨年の小隊対抗戦成績は三位で、堅実な動き、相手の弱点を突く作戦で勝ち続けていた小隊です」

「なかなかやり辛そうな相手ですね、小隊長」

「ええ、けど、まだこの時期ではあちらの隊も統率は完璧には取れていないでしょうし、おそらくは個々の動きで圧倒すれば十分勝てる相手ですよ」

「統率、か……」


 ニールは先ほどの二人組みを思い出す。

 同じ肌の色に、好戦的な瞳。

 あれはあれで、乱れのない統率、もとい連携を発揮するんじゃないかとニールは想像した。


「それよりも問題は試合の形式です。 今回は対抗戦を見据えてのチームデスマッチ形式での試合になりますが、これは小隊の機械鎧が全て行動不能になるか、もしくは降参を申し出た方が敗北となり、三十分の制限時間内に試合が終わらなければ、行動可能な機械鎧の数が多い方が勝利となるんです」

「え、えっと、つまりはたくさん倒せばいい、ってことですよね?」

「そうですね、ルールはとても単純です。 なので、連携を意識しつつ、なるべく行動不能にされないように、なるべく敵を倒せるように……と、かなり大雑把ですが初戦ですし、そういう感じでいきましょう」

「なるほど……」


 単純明快。

 小隊戦というともっとややこしいものを想像していたニールは、サナリスの言葉を意外に思いつつ、少しだけ試合前の緊張を緩めることができた。



 ◆ ◆ ◆



「隊長さん、前衛は俺とスルヤがやる。 バックアップは適当に任せるからよろしく」

「言い方は悪いですけど、あたしもシャルハの提案に賛成で」

「ふ、ふむ……」


 困ったように頷いたのは、ヨハン・ベルシウス。

 白髪に縁の薄い眼鏡を掛けた学者風の小隊長である。

 ヨハンは第七小隊との対戦を前にして、加入したばかりの新入生二人を未だに御しきれずにいた。


「いいんですか、あんな好きにさせて」


 副小隊長の男がヨハンに小声で耳打ちする。

 ヨハンはそれに咳払いをしてから答える。


「仕方が無いね。 対抗戦本番ならともかく、これは練習試合だ。 新入生の実力を計るにもちょうどいい。 他の隊も同じ事を考えているだろう」

「そうは言っても限度があるじゃないですか」

「二度言わせないでくれ」

「……小隊長がそう言うなら、これ以上は言いませんけど」


 すごすごと引き下がる副隊長を一瞥してから、ヨハンはふう、と小さな溜息を吐く。


「前途は多難、か……」


 誰にも聞こえないような呟き。

 シャルハとスルヤの二人が作戦に従順になってくれなければ、ヨハンの思い描いた対抗戦首位という夢は、実現するにはあまりにも遠い。

 元々、昨年の対抗戦三位という結果も、ヨハンにしてみれば出来すぎなくらいだった。

 それは一昨年の第十四小隊の成績が十位だったことからも明らかで、そもそも第十四小隊は地力のある小隊ではないのだ。

 昨年の好成績は相手の小隊らが弱点を修正しきる前に対抗戦を戦い抜けたという幸運によるものが大きく、各小隊が弱点を補ってくるだろう今年は、去年と同様の作戦では勝ち抜くのは厳しい。

 故に、堅実な作戦を敷いた上で相手の弱点を突くという去年のスタイルに加えて、第十四小隊が勝つための他の小隊にはない『武器』が必要だった。


 ――――シャルハ、スルヤ

 土色の肌を持つ移民出身の二人。

 ヨハンの眼から見て、彼らの実力は新入生の中で頭一つ抜けた高いレベルに位置しているのは間違いない。

 中量の機械鎧で力戦的な戦いをするシャルハに、軽量の機械鎧でトリッキーに場を掻き乱すスルヤ。

 さらに、出身が同じだという二人のコンビネーション。

 ヨハンは、これこそが第十四小隊に必要なものなのだと確信を持った。

 だからこそ、小隊編成において第一小隊と第七小隊の指名が終わり、第十四小隊の指名の順番が回ってきた時、ヨハンは彼ら二人が指名を受けずに残っていたことに内心でガッツポーズさえしていたのだ。


『それでは、両小隊とも位置へ』


 アンジェ教官からの指示が耳に入る。

 ヨハンは、二人をいかに導くかを考えながら、機械鎧へと向かう。

 練習試合はあくまで前準備にすぎない。

 しかし、この試合の過程で起こるだろう事態は、必ず後の対抗戦に活きてくる。

 ヨハンにとって長い三十分が幕を開けた。

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