小隊戦 -7-
午後の実科授業は、各々の機械鎧を選定することから始まった。
「合わないと思ったらすぐに違う機体に変えて良いからねーっ、技師志望の生徒に微調整をしてもらうことも忘れないように!」
アンジェ教官の声が格納庫の中で反響する。
ニールやノルン、ビセットなどの部隊志望の新入生達は、それぞれ好みの機械鎧を選ぶため、思い思いに歩き回っていた。
「ノルンは何にする?」
「私はWaspにするって決めてるよ。 家でもそれに乗って訓練してたから」
「へえ」
Waspはロング型の中量機械鎧であり、兵装には有効射程三千メルトル、貫通力の高いAPDS弾を放つ大口径スナイパーライフルと、近接戦闘用のスラッグライフルを備えている。 小隊戦では中核をなす狙撃機体だ。
「ニールこそどうするの?」
「俺は摸擬戦で乗ったRapidかな。 出来れば、整備も自分でしようと思う」
「時間足りるの? 今の時点でニールって結構忙しそうだけど」
「まあダイジョーブだよ。 というか、そのくらいはやらなくちゃヴァルフィッシュの中枢には行けないって」
「ふうん……ニールの夢だもんね」
「あ、ああ」
自信満々に言いつつ、ニールは内心でさすがに無茶だろうかと冷や汗を掻いていた。
「っし、やってやる」
けれど、そんな心配はトムロインの元での厳しい仕事に比べれば、と折れかけた意志を立て直す。
「二人とも、選定は終えたかーっ?」
「あ、ビセットさ、じゃなくてビセット」
「や、ノルン」
既に選定を終えたらしいビセットは、運搬用のフライトビークルに乗りながらやってきた。
『私もいますよ』
「サナリス小隊長も」
「こ、こんにちは」
機械鎧の拡声器からの声。
サナリスは、ビークルの荷台に積まれたゴツい機械鎧のコックピットの中から声を発していた。
「それがサナリス小隊長の?」
『そうよ。 重量機械鎧のOstrich、新入生の頃から使ってるの』
機械鎧の中でも最大級の重量と大きさを誇る機体。
鈍重そうな見かけによらず、フライトビークルに積まれているものと同じ半重力装置を内蔵しており、低高度ではあるものの『飛行』を可能とした機体だ。
故に、名前には最長最重の鳥類であるダチョウの名を冠している。
主兵装は回転式機関砲と、有線誘導式のTOWミサイル。
Ostrichは、それらの大型兵装を用いての拠点破壊、火力支援を得意とするロング型の重量機械鎧である。
「サナリス小隊長がこの後、早速小隊訓練を始めたいらしくてね、二人の選んだ機械鎧も一緒に運ぼうと思って来たんだ」
「助かるよ、じゃあこっちのRapidを頼む」
「私のもお願いします」
「了解した。 二人とも機械鎧を操縦して荷台へと移動を頼む」
「オーケー」
「うん」
機械鎧をビークルに積み込み、三人は格納庫から出る。
『第七小隊の訓練場についてはビークルのナビの方に位置情報を転送しておいたから』
「分かりましたっ」
ビセットは荷台まで聞こえるような大声で返事をする。
そうしてビセットの運転に揺られること十分ほど。
『この辺りが第七小隊に割り当てられた訓練場です』
サナリスは摸擬戦で使われた訓練場の一角で、フライトビークルを停車させた。
「そこまで広くはないんですね」
ニールは機械鎧の調子を軽く確かめながら呟く。
湿度の低い乾燥した空気。
ひび割れた地面を見てから、ニールは空を仰ぐ。
船の景観設定は真っ青な快晴。
下層区の生産施設の都合に合わせた気象状態とは言え、この絶好の訓練日和に、ニールは密かに自分の気持ちが浮ついているのに気が付いていた。
「機械鎧……か」
手の平でRapidの表面を撫でる。
転科を勧められた一件以降、ニール自身、認められた機械鎧の操縦で自分がどこまでやれるのか興味を湧かせていた。 しかし一方では、本来の目標とは別のことに現を抜かしていても良いのかという疑問も頭の片隅でくすぶっている。
そうしたモヤモヤを振り払うようにして、ニールは調整を終えた機械鎧へと乗り込む。
『それでは、今日は走行、射撃、回避の順で馴らしていきましょう。 訓練開始!』
サナリスの号令が飛ぶ。
第七小隊としての活動が、本格的に始まった。




