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小隊戦 -6-

「し、失礼します……」


 小隊編成が終わり、部隊志望の生徒が解放された後。

 ニールは、トール教官の研究室へとやって来ていた。


「やあ、来たね。 すまないが今はちょっと手が離せなくてね、そこらへんの椅子

に座って待っていてくれないか」

「分かりました」


 あまり広くない部屋の中央には実験台が一つ、その上には機械鎧の推進ユニットがバラされている。 ニールは部屋の入り口に片付けられていた椅子を持ち出すと、実験台に寄せて座った。


「……」


 どうやら肝心のトール教官は、奥の机でひたすらモニターと睨めっこをしている最中らしく、ニールのほうには見向きもしない。

 することも無いので、ニールはあちらこちらへと視線を彷徨わせた。

 閉め切られた遮光カーテン、天井にはコード類の配線が無駄なくしっかりと張り巡らされ、本棚には各方面の技術書がジャンルごとにまとめられている。 また、棚の上には何かの表彰状が飾られており、床の上にはゴミの一つも落ちていない。

 整理整頓の行き届いたこの綺麗な空間から、ニールはトール教官が見た目通りの真面目で几帳面な人物なのだと理解することができた。


「ふう、一段落ついた。 待たせて悪かったね」

「いえ……」

「この講義はアンジェ教官からの急な頼みでね。 テキストなどは用意していないんだが……一応、今日の実科授業の映像を記録してあるから、それを見て自習のような形で勉強してもらってもいいかな。 勿論、ただ映像を見せるだけってわけじゃなく、補足でいくつか解説しよう。 質問もしてくれていい」

「はい」


 トール教官はモニターをニールの前へと持ってくると、今日の授業の映像を流し始めた。

 教室の最後尾から撮影された授業風景に、ニールは物珍しさを感じつつ、このトール教官との補講授業のような形式は中々おいしいと思った。

 授業を生で受けれるわけではないが、分からないことがあればその都度トール教官に訊くことができるし、間近でトール教官の研究? を覗き見ることもできる。

 おそらく、普通に実科授業を受けるよりも幾らか身になるだろうことは間違いない。

 トール教官は再度自分の机に座ると、思い出したように言う。


「あ、そうだ。 今日は来ていないけれど、時々、技師見習いの人とかが来るから、僕が常に見てあげられるわけではないんだ。 あと、その時にたぶん君は弄られるだろうが、そこは容赦してやってくれ」

「はは……分かりました」


 どういう弄りを受けるのだろうかと想像しながら、ニールは苦笑いで応える。

 どうやら、おいしいだけの話というのもそうそうあるわけではないらしい。



 ◆ ◆ ◆



「それでは、化学の講義はここまでです」


 翌日。

 午前の学科授業が終わり、ニールは大きな伸びをしていた。


「全然頭に入ってこなかった……」


 これではいけないと、自分を戒めるためにニールは頬を叩く。

 こと技師の知識に対しては貪欲なニールだが、それらとは関係のない分野の授業となると、急に眠気に襲われてしまうのだ。


「最初の講義だったからか先生の自己紹介で終わっちゃったねー」


 隣の席に座っていたノルンは、ほぼ白紙のままのノートを鞄に仕舞い、立ち上がる。


「……お腹が空いた。 お昼はどうするの?」


 ノルンの隣にいたミレナも鞄を背負うと、どうしようかと口元に人差し指を添える。


「んー……昨日は学校の食堂だったよね。 ニールは何か希望ある?」

「いや、任せるよ」

「えー? じゃあ、私が勝手に決めちゃうよ?」

「……私はそれでいいわよ」

「俺も」

「じゃあ、ちょっと学校の外に出てみない?」

「外?」

「うん。 学校の周りに良いお店がないか見てみるのも面白そうかなって」

「お、たしかに」


 妹のサーシャからの話で、マスケイン士官学校の周囲は教官や士官学校生のための飲食店が立ち並んでいると知っていたニールは、ノルンの提案に迷わず乗った。


「よし、そうと決めれば早く行こうっ。 お昼休みはあまり長くないからね」


 意気揚々と先陣を切るノルンの後にニールとミレナが続く。

 と、教室の出入り口からちょうどビセットがやって来た。


「や、三人は外に食べにいくのか?」

「うん。 良かったらビセットさんも来ますか?」

「嬉しい誘いだが、私はお弁当派なんだ。 すまない」

「へえ、お弁当かぁ」

「自分で作ったのか?」


 ニールは興味本位で訊いてみる。


「ああ。 昔から料理は習っていたし、お弁当だと安く済むからね」

「……ノルンも少しは見習って料理してみたら?」


 ミレナはノルンの腰を小突く。


「き、気が向いたらね……」

「はは、ノルンさんは料理が苦手なのか」

「ま、まあ……」

「なら、今度簡単なもので良いなら教えるよ。 同じ小隊になったんだ、機会は幾らでもある」

「そ、そうだよね。 じゃあ、お願いします!」

「任せてくれ。 ……ところで、隣の彼女は?」


 ビセットはミレナの方を向いて言う。


「……情報機関志望のミレナ・ヴィナリングよ」

「そうか。 私はノルンさんと同じ小隊員になったビセット・ベルフォルンだ、よろしく」

「こちらこそ」


 ビセットは、それが当然という風にミレナと握手を交わす。


「ビセットーっ、もう食べちゃうよー?」


 教室からのビセットを呼ぶ声。


「待ってくれっ、今行く。 そうだな、外に食べに行くなら校門から西に出たほうに良い店が多いと聞いたから、オススメしておく」

「そうなんだ、ありがとう」

「大したことじゃない。 それじゃ、また午後に」


 そう言って、ビセットは何人かのニールの見知らぬ生徒の集まりへと消えていった。


「……同じ小隊の人なんだ?」

「うん。 ニールの次に指名を受けた人だよ」

「……ふうん、じゃあノルンよりも強いのね」

「あー、そういう言い方するー?」

「冗談よ」

「もうー」

「中々堂々とした感じで頼れそうな人だったわね」

「そうだよねー」

「ははは……とりあえず時間無いし歩こう?」

「あっ、ニールの言う通りだ、もう時間ないや」


 時計を見ると、ノルンは慌てたように足を動かし出す。

 そうして校外へと出てみると、案の定、三人と同じように外で昼食を摂ろうと考えた士官学校生達で通りには人だかりが出来上がっていた。

しかし、校門からすぐの辺りは、学用品店や郵便局、あとは自警組織などの詰所があるだけで店はない。 ニールは、ビセットから助言を聞いておいて正解だったなと思った。


「昨日の学食も人が多かったけど、外も凄いねぇ」

「……とりあえず、ビセットさんの助言に従ってみるのがいいんじゃない?」

「そうしよっか」

「異議なし」


 一行は腹を満たすために西を目指して進む。


「さーてっ、なーに食べようかなぁー」


 ――――そうして校門から西に進んだ先には、海鮮、肉料理、外来船から伝わった調理法をメインに据えた店など、バラエティに富んだ飲食店が並んでいた。

 さらに人通りの増えた道を、三人は一軒一軒見回りながら歩いていく。


「……ねぇ、ニール」

「ん」


 ミレナは、一歩先を歩くノルンに聞こえない程度の声で囁いた。


「ノルンがやけに元気だけど、何か良いことでもあった?」

「良いこと? いや、心当たりはないよ」

「そう? なら良いけど……」

「?」


 どういうことだ? とニールは首を傾げるが、ミレナはそれ以上追及せず、ノルンへと視線を向けるのみ。 同じようにノルンを眺めてみるニールだが、出会ってまだ日が浅いニールには、普段と何が違うのかなど、判断できるわけも無かった。 そうこう悩んでいるうちに、ノルンは一軒の店の前で足を止めた。


「よし、ここにしよう!」


 ノルンが示したのは、水槽に見たこともないような不気味な魚を飼っている奇妙な店だった。


「ここ、外来船の料理を扱ってるとこだよね……?」

「みたいだねっ」

「……ノルンって意外とゲテモノ好きなのよ」


 ミレナは表情を引き攣らせながら言うのだった。

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