小隊戦 -5-
「あ、呼ばれてる……えっと、第七小隊?」
ニールは早速名前を呼ばれ、どうすれば良いのか戸惑い、視線を泳がせていた。
自分よりも先に指名された人間と同じように動けば良いと、気軽に構えていたのだ。
「一位指名だよ、ニール!」
「一位指名? いや、一番最初に指名されたのは分かるけど……」
ざわざわと、周囲の喧騒が大きくなる。
昨年一位の小隊からの最初の指名というのは、それだけ注目の集まることらしい。
「そ、それより早く行かなくちゃいけないんじゃないか? えっと、どうすれば?」
「あっちの小隊編成本部ってところかな」
「ああ、あれか、分かった」
ノルンが指差した先は、長机で囲われ仕切られたスペース。
見れば、小隊長らしき人達が各々の机に座って、指名した新入生がやってくるのを待っているようだった。
「……まるでバイトの面接みたいだな」
ニールは、昔、余所の修理屋で働こうと思って面接を受けたのを思い出した。
その時は、事の次第を知ったトムロインに先方の修理屋へと連絡を入れられて、バイトの話自体は潰されてしまったのだが。
「ニール・フォルマンさんですね、こちらです」
「は、はい……」
受付までやってきたニールは、上級生に第七小隊の机まで連れて行かれる。
言われるがままに席に着くと、目前には長い黒髪の綺麗な上級生。
ニールは緊張しつつも、はにかんで挨拶することにした。
「は、初めまして……ニール・フォルマンです」
ぎこちない作り笑い。
格好のつかない自分に、内心でニールは焦った。
「こちらこそ、初めまして。 私はサナリス・シュトーベルです。 そんな風に、あまり緊張しなくてもいいのよ?」
「は、はは……すみません」
サナリスの柔らかい言葉に、小隊長というと厳しい人達なんだろうと身構えていたニールは、少しだけ心を落ち着かせた。
「では、後もつっかえていることですし、早速お話を進めても、いいかな?」
「あ、どうぞ」
ニールは後ろに控える大勢の新入生へと意識を向け、あれだけの人数を捌くのにはどれだけ時間が掛かるのだろうかと思った。
「まず、ニール君はどこかここに入りたい小隊とかってありますか?」
「えっ、はい?」
「入りたい小隊は、ありますか?」
「ないですっ。 というか、転科したばかりで小隊がどういうものかもあやふやで……」
「それもそうだったわね……。 じゃあ、簡単に第七小隊について説明しちゃいますね。 それで、もしこの小隊は合わないなって思ったら、指名は蹴ってもらってもいいから」
「分かりました」
ニールの了承を確認すると、サナリスは一枚の紙を取り出してニールの前へと置いた。
「第七小隊の概要……?」
「うん。 これを読んでいてもらっていいかな。 その間に次の指名を続けるので」
「ああ……はい」
てっきり一人ずつ入隊を確定させていくのかと思っていたニールは、意外そうに目を丸くしつつも渡された紙に目を通す。
《第七小隊概要》
――――昨年一位の小隊ではありますが、現在は小隊員が二名しかおらず、早急な戦力補充を必要としている状況です。 隊としての歴史はそこそこで、昨年以前は中堅のチームという印象の強い小隊でした。
「なるほど……」
紙にはその後にも小隊の練習時間、目指す小隊像など、第七小隊がどういった小隊なのか分かりやすい説明が続く。
ニールは、それらを読み込んで、とりあえずは入隊しても問題ないなと確信した。
というよりも、そもそも他の小隊と比べられるだけの情報の手持ちがないため、入隊の可否など考えようもないのだが。
「ビセット・ベルフォルンです。 どうぞよろしくお願いします」
「んっ?」
「や、ニール」
いつの間にか、ニールの隣にはビセットが座っていた。
「ビセットさんも、ニール君には負けてしまったけど、Houndの操縦技術は高いと思ったので指名させてもらいました。 もしかして、二人は入学以前からの知り合い?」
「いえ、私とニールは入学式で知り合ったばかりですね」
「そうなんだ。 ビセットさんは、第七小隊とは別に希望する小隊はあったりしますか?」
「……希望する小隊、ですか」
ビセットはわざとらしく悩むこむと、ニールのほうを見て薄く笑った。
「無いですね。 是非、こちらの小隊に入隊させてください」
「ありがとうっ。 よし、これで一人確保……と。 ニール君も決心は着きましたか?」
「ん、はい。 俺も第七小隊に入隊します」
ニールは、ビセットの意味ありげな笑みはなんだったのだろうと思いながらも、サナリスに頷いてみせる。
「ニール君もありがとうございますっ! よし、あとは一人指名すれば良いかな……」
サナリスは手元のメモを見て、次の指名相手を誰にするか逡巡する。
「サナリス小隊長、その残りの一枠、まだ確定していないのなら、私から推薦しても良いでしょうか?」
「しょ、小隊長っ? 推薦?」
慣れていない呼ばれ方に、サナリスは肩をビクっと震わせた。
「はい。 個人的な意見ですが、ノルン・マスケインさんを指名してはどうかなと」
「ノルン・マスケインさん……か。 マスケイン家のご令嬢さんね。 お友達なのかな?」
「いえ、彼女とは摸擬戦のときにニールを通じて数回言葉を交わしただけです。 単に、彼女の実力を見込んでの推薦とお考えください」
「なるほど……正直、彼女の操縦は摸擬戦の映像からだけではイマイチ計りかねていたんです。 でも、ビセットさんがわざわざ推薦するのなら……」
サナリスは、手元のメモを見ながらウーンと唸る。
元々の編成計画では、指名の優先順位としてノルンはそれほど高い位置に居なかった。
それは実力的な意味ではなく、マスケイン家という家柄に対して、サナリスが少なからず抵抗、もしくは恐れのような感情を抱いていたのが理由だった。
けれど、指名を受け入れたビセットがノルンを推薦し、また、ニールとビセットの二人がノルンと知り合いであることを知り、サナリスの心は揺れた。
機械鎧の戦型もジグソーピースを嵌め込むようにしっくりと来る。
推薦を却下する理由は無い、とサナリスは判断することにした。
「分かりました。 では、ノルンさんに指名をしてみましょう」
「ありがとうございます」
「おおっ」
ニールは思いもがけず、ノルン、ビセットという顔見知り二人と同じ小隊になれると分かり声を上げた。
『第七小隊から、部隊志望者ノルン・マスケインへと指名します』
アナウンスが響き、ほどなく表情を固くしたノルンがやってきた。
「ノ、ノルン・マスケインです。 よろしくお願いします!」
「サナリス・シュトーベルです、こちらこそよろしくお願いします。 まずは、この紙を読んでもらってもいいですか?」
「はいっ」
それから、ノルンはニールらと同じく第七小隊についての概要を記された紙を受け取り、目を通すと、入隊を快諾した。
「まさか、ニールと同じ小隊に入隊できるとは思ってもみなかったよ」
「俺もだよ」
嬉しそうにノルンはニールの耳元で囁く。
「二人とも、これからが大変だぞ。 小隊対抗戦が始まるまで三週間ほどしかない。 どうやら第七小隊は人員が不足していたようだし、私達も試合に出ることになるだろう」
「そ、そうですよね……練習しないと」
「ビセットの言う通りだな。 けど、試合に出るノルンとビセットとサナリス先輩……あとは、ここに居ないもう一人の先輩なんだろ? 俺は来月以降の試合に出れるように頑張るよ、うん」
ニールは他人事のように軽い調子で頷く。
それに対し、サナリスは言い辛そうに、
「ごめんなさい。 そのもう一人の上級生だけど、今、同盟船に留学中で、しばらくは対抗戦の頭数には入らないのよ」
「えっ?」
「だから、今ここに居る四人で対抗戦に向けて訓練していきましょう!」
「えええええっ!?」




