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小隊戦 -4-

「いやー、今年の新入生は粒揃いみたいだなー」

「そうかぁ? 寧ろ全体のレベルとしては下がってるんじゃねえか?」

「なに言ってんだお前の目は節穴だな」

「んだと?」

「節穴だって言ったんだよ」

「下位の隊長は黙ってろ」

「うるせーよ一個下の分際でっ!」

「年齢は関係ないでしょうが」


 ――――罵詈雑言が飛び交っていた。

 外からの干渉を拒む、一触即発の緊迫した空気。

 ここは、小隊長達が集まり、指名する新入生達について調整、相談など微妙な事情を含め話し合うための場である。

 しかし、調整、相談というのは形だけ。

 その実、彼らはお互いに欲しい新入生を余所の小隊に奪われないように牽制をしに来ているだけであった。

 よって、会話の内容は自然と各新入生の摸擬戦映像への批評が主となる。

 ある新入生が優れていると言われれば、一方では貶され、逆にある新入生が貶されれば、その新入生を上位の小隊に掴ませるべく下位の小隊が褒め持ち上げるといった具合。

 結局、信じられるのは各小隊長の洞察力のみ。

 摸擬戦映像の精査のために徹夜明けな彼らの論争は熱さを増していく。


「……」


 そんな険悪な雰囲気を漂わせている集まりの隅のほうで、一人、緊張した面持ちで新入生を眺めている人物が居た。

 背まで届くほどの長い黒髪、女性的な機能を強く主張する胸の膨らみ。

 第五小隊隊長である彼女、サナリス・シュトーベルもまた、徹夜明けの重たい目蓋を必死に抉じ開けながら、小隊編成へと参加していた。


「っつーかよ、あの新任教官が無茶苦茶すぎんだって、昨日の夜いきなし摸擬戦映像を持ってきて、翌日すぐに小隊編成だなんてよ」

「だな。 去年なら摸擬戦も部隊志望同士で、小隊編成も暫く先だったのに」


 小隊長達は新任の戦技教官への文句を溢す。

 これには内心でサナリスも同じ意見だった。

 過去には例を見ない短期での小隊編成。

 今年から小隊長になった彼女にとっては、これはあまりに辛い試練だった。

 おまけに、現在の第五小隊の人員は彼女を含めたったの二名、しかももう一人のメンバーは同盟の船へと留学中である。

 そうした状況の中、たった一人で補充メンバーを選別することは、かなりのプレッシャーを彼女に背負わせていた。


「うーし、おまたせー。 新入生への説明は済ませた」

「おせーぞカール」

「いや、すまんね」


 生徒会副会長、カール・トリスタン。

 やや長めの金髪に、そばかすの目立つ高い鼻。

 彼もまた小隊長を務める男だ。

けれど、同じ小隊長同士にも序列は存在する。

彼の所属する隊は最も長い歴史を持つ第一小隊。

 創立から今まで上位に君臨し続ける強豪で、昨年の対抗戦成績では二位という好成績を残していた。サナリスの小隊が上位を目指す上では、避けては通れない相手だ。

 ゆったりと壁に寄りかかったカールに対して、昨年三位、第十四小隊の小隊長も声を掛ける。


「よろしい、新入生への説明は必要なことだ。 急ぐべきは上位の小隊の指名だろう」


 学者のような物言い、直情的な人間の多い部隊志望の中でも珍しいタイプだ。

 年不相応の白髪に、縁の細い眼鏡。

 名はヨハン・ペルシウス。

 ヨハンは、小隊長同士の牽制合戦には興味がない様子で、寝不足の頭を早く休めたさそうに腕を組んで目を瞑る。


「ああ、分かってるさ。 けど……もう少し情報交換をしたいところかな。 オレだけ皆の新入生への評価を聞いていない。 これはちょっと不公平ってもんだ」

「他の小隊長達の虚言混じりの評価を聞く意義は些か疑問だが……ふむ、まあ、君が不公平だと言うのなら止めはしない。 だが、出来るだけ早く済ませてくれよ」

「分かってるさ。 で、皆、どうなんだい?」


 カールの問いに、小隊長の一人が答える。


「どうって、真正面から訊かれてもな。 カール、お前のとこだって指名する相手は大体絞り込んでいるんだろう?」

「そりゃね。 けど、摸擬戦映像の中でオレがしっかりと見たのは、以前から補充したかったロング型の機械鎧を扱う新入生だけでね。 他のタイプの情報については、仲間の小隊員にほとんど任せきりで、自分ではあまり仕入れられていないのさ。 こういうお祭りで、目玉の新入生についての話題で盛り上がれないのは損じゃない?」


 生徒会副会長のカールにとっては、小隊編成も他の学校行事と同じく、楽しむべきイベントの一つに含まれる。 故に、こうした無駄とも言える小隊長同士の虚言の応酬にも、積極的に参加する意志を見せるのだ。


「それなら話題性に事欠かない新入生がいなかったっけ?」

「そうそう、こいつはカールも聞いてるんじゃないか。たしか、技師志望からの転科で来たっていうやつ」


 カールの性格を知っている小隊長達は、頃合いのネタを提供する。


「技師志望からの転科……ああっ、それなら聞いたな。 部隊志望の相手に勝ったっていう彼だろうっ?」

「そうそれ」

「彼の映像は見たよ、たしかに凄い動きだった。 けど、ウチにはクロース型を新しく迎える枠がない……それに、どちらにせよオレの小隊は二位だ。 彼を指名するのは、君のトコだろう?」


 カールは、それまで無言で場を静観していたサナリスへと声を掛けた。


「――――そうですね」


 昨年一位、第七小隊の小隊長であるサナリスは否定しない。

 彼女から見ても、ニールへの指名は堅いと思っていた。

 それは、サナリス自身がロング型であるため、まず新入生から補充すべきはクロース型であると明白だったのも一因にある。

 しかし、そんな事情を抜きにしても、ニールの機械鎧の操縦、動きは他の新入生の中で群を抜いていたと思わざるを得なかった。


「サナリスの第七小隊は、去年で上級生が一気に四人も抜けたから大変だろう? 最低でも三人は補充しないといけない」


 カールはやや棘のある口調でサナリスに言う。

 その瞳には、昨年の雪辱を果たそうという強い意志が見て取れた。


「……そんなことはないわよ」


 口ではそう言いうものの、サナリス自身、現状が厳しいものであるという自覚はしていた。

 昨年一位の小隊の小隊長とは言っても、昨年の時点ではサナリスは基本的に控えメンバーだったのだ。

 対抗戦成績一位という輝かしい結果を残したのは、既に卒業してしまった四人であって、サナリスではない。 だと言うのに、外野からは昨年の成績ばかりを注目される。

 カールは、そんなサナリスの境遇に同情をしつつ、一方で、こうしたプレッシャーを度々掛けてきた。 彼にとって、昨年の結果はそれだけ悔しさの残るものだったのだ。


「ふ、まあいいさ。 それよりも他には? どんな新入生がいる?」


 重くなった空気を払うように、カールは話題を変える。


「どんな新入生、ねぇ」

「目立つやつは結構いたけどな。 移民出身でちょっと変わった名前の、器用な動きするやつ」

「ほう、移民か」


 ――――移民。

 常に移動を続けるヴァルフィッシュにも、時には他の船と接触することで人の出入りが発生する。 その時に、住む船を変えた者達のことを移民と呼ぶのだ。

 彼らは移民一世代目、二世代目までは移民として扱われ、三世代目からはヴァルフィッシュで生まれ育った者として移民という括りから外される。


「他にも、話題性抜群な新入生としては、マスケイン家のご令嬢とかかな」

「ノルン・マスケインか。 彼女はロング型だから、オレの小隊でも指名候補には入っているよ。 けど、今回の摸擬戦では実力が計りきれなかったな。 相手の技師志望がまるで動けないところに、ロング型が狙撃を決めるだけの大味な展開から何を汲み取ればいいのやら」


 やれやれ、とカールは肩を竦めてみせた。

 対して、ヨハンは冷静な分析を返す。


「ふむ、それは私も思ったことだな。 今年は新入生のデータがあまりに少なすぎる。 が、これはおそらく意図的なものであろう。 これまでの対抗戦は、上位の小隊が毎年優秀な新入生を加えて強くなりすぎた。 データを絞っているのは、こうした状況を覆すための措置と見るね」

「それって、上位にハズレを掴ませて弱体化させようってことだろ? まったく、性格悪いよ」

「それには同意せざるを得んな」


 両者は互いに自嘲的に笑う。

 そうして場が一段落したところで、カールは新入生らの方へと目を向けた。


「……さて、オレの都合で新入生を待たせるのも忍びなくなってきた。 そろそろ小隊編成を始めるとするか。 サナリス、君から指名を始めてくれ」

「そうさせてもらうわ、マイクを貸して」

「ほい」


 カールからマイクを受け取り、サナリスは手元のメモを読み上げる。


『えー、第七小隊から、部隊志望者ニール・フォルマンへと指名します。 演習場内に居るなら、第七小隊小隊長サナリス・シュトーベルのところまで来てください』


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