表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/29

小隊戦 -3-

 ◆ ◆ ◆


「えーっ、転科するの!?」


 翌日の朝、ニールの話を聞いたノルンは、驚きのあまり思わず叫びそうになって

しまった。


「しっ、あんまり大声で言わないでくれよ」

「あ、ああ、そうだよね」

「……リアクションが大袈裟すぎ」


 ミレナは読んでいた本をパタンと閉じる。

 話を聞かれていないか周囲に目を走らせていたニールは、誰も三人の会話に反応していないのを確かめると、小声で続けた。


「トール教官から課外授業を受けれるってアンジェ教官が言ってたんだ。 だから、一度転科してみて試しにその授業を受けてみるのもアリかなって。 それに……」

「それに?」

「転科に応じれば奨学金の返却を免除するって言われた」

「奨学金の免除っ!?」

「だから、声が大きいって!」

「う、ごめん……」


 申し訳無さそうに体を小さくしてノルンは謝る。


「でもビックリだよ。 昨日、ニールが摸擬戦で勝ったって話を聞いた時も驚いたのに、まさかアンジェ教官からそんなオファーがあっただなんて」

「俺自身、急な話で混乱してるよ」

「……けど、それってかなり破格の条件ね。 裏があるんじゃないの?」


 ミレナは、やや思案深げに呟く。


「裏?」

「……ええ。 奨学金の免除ともなると、士官学校のほうで何らかの手続きをしっかり通すってことじゃない? なら、何かしらの見返りだとかの要求は覚悟しておいたほうが良いんじゃないかと思って」

「そんな話は聞かなかったけどな……」

「……まあ、これはニール自身の問題なわけだから、私がこうして横から変なこと言うのもなんだけど」

「……いや、助かるよ。 たしかにタダほど怖いものはないって言うしさ」

「そ、なら良かったわ」


 そっけなく言って、ミレナはまた開き直した本へと視線を落とす。


「……」


 そんなミレナを見て、ニールはミレナが見た目よりも親切な人物なのだと思った。

 それは、第一印象では変わり者というか、他者との関わりを避けているように見えた彼女が、こうして会ってからまだ日が浅い相手であるニールの、それもある種自慢に近い話に対して、的確な助言を授けてくれたからだ。


「ミレナのアドバイスはよーく聞いておいたほうが良いよ。 私が保証する」


 ノルンはいかにもな風にうんうんと頷いてみせる。


「……しなくていい」

「えー」

「しなくていい」

「う」

「はは、二度言わないでも」


 二人のやりとりにニールは苦笑する。


「でもさ、それならニールは今日の実科から早速、部隊志望の授業に参加するんだよね?」

「ん、まあそうなるな」

「じゃあ、小隊編成も考えておいたほうが良いよ」

「小隊編成?」


 聞きなれない言葉に、ニールは首を傾げる。


「うん。 今日の実科の時間に、部隊志望の人達同士で小隊を組むんだよ」

「んー……それって、結構重要なことなのか?」

「もちろんだよっ。 部隊志望は四~七人の小隊を組んで、毎月小隊対抗戦をやるらしいの。 対抗戦の成績次第で小隊のランクを決めたりなんだりで、結構大変なんだってさ」

「へえ……ノルンは誰と組む予定?」

「んー……小隊編成には上級生も参加するみたいだからなぁ。 新入生が自分の意志でメンバーを決められるかは分からないけど、できることなら知ってる人同士で組みたいなって……だから……」

「だから?」

「……ニールも、一緒の小隊に入れればどうかなって?」

「俺を?」

「うん」


 ノルンは少し照れくさそうに言う。

 対して、ニールはその誘いに嬉しそうに応えた。


「良いよ! というか、ノルンが言わなければ俺のほうから聞いてるところだったよ」

「なら良かった。 でも、あくまで小隊を仕切るのは上級生の小隊長だから、あまり期待しすぎると後でがっかりしちゃうかもね」

「上級生か……。 まあ、とりあえず変な人じゃなければ良いな」

「……既に戦技教官で変わり者を引いてるものね」


 ミレラは言いながらくすりと笑った。


「もう、ミレラ」

「……ふふ、ごめん」

「けどさ、アンジェ教官だけでも相当濃い人だったけど、まだ変な教官がいるのか?」

「……でしょうね。 アンジェ教官からして今年からの新任教官らしいし。 去年までの教官も残っているでしょうから」

「そりゃそうか」

 ニールは、昨日のアンジェ教官とのやりとりを思い出して、小さな溜息を吐くのだった。


 ◆ ◆ ◆


 小隊編成。

 そのために部隊志望の新入生達は、入学式の行われた場所である室内演習場へと集められていた。

 上級生も合わせて百名を超える人数に、ニールはどうやって小隊編成を進めていくのだろうかと、ノルンと共に静かに様子を窺っていた。


「上級生は昨日の摸擬戦の映像を見て、新入生の大体の実力を把握してるらしいねー」

「昨日の今日でか。 そりゃ、上級生も大変だろうに」

「だよね。 ま、上級生も小隊の今後を左右する大事なイベントだから、徹夜してでも映像には全部目を通すんだってさ」

「夜通しでは辛いな……」


 睡眠時間を削っての修理作業を何度も経験しているニールとっては、そんな上級生に対して同情的にならざるを得ない。


「えー、各小隊長と新入生の皆さん集まってますかねー?」


 マイク越しの軽い調子の声。

 どこか聞き覚えのあるその声の主は、入学式で司会を務めていた、金髪、そばかすの鼻の男だった。

 そばかす男は、隣に控えていた眼鏡を掛けた女子生徒から耳打ちされると、ゴホンとわざとらしい咳払いをしてから、再度マイクに向かう。


「んー、はい、確認取れました。 それでは、予定通り小隊編成をやっていきたいと思いますー。 毎年恒例のことなので、上級生の人達は分かっていると思うんすけど、新入生の人達は分からないと思うんで軽く説明しますー」


 男は、入学式の時と同様に、手元のメモを見ながら話す。


「小隊は大体四人から七人くらいの構成の小規模なチームなんですね。 で、このチームで毎月行われる小隊対抗戦を戦っていくと。 まー、対抗戦は四人一組の構成で固定されてるんで、五人目からは補欠、みたいな感じなんすけど。 人員に余裕があったほうがトラブルも少なくて良いってことです。 この辺の内容はカリキュラムにも書かれているんで大体分かってると思います」

「そ、そうなのか……」


 まだ転科したばかりで、部隊志望者向けのカリキュラムを一行も読んでいないニールは、必死にメモを取りながら話に耳を集中させる。


「んで、肝心な小隊編成の方法なんですけども、これは去年の小隊対抗戦で成績の良かった小隊から一方的に新入生に指名をしていくって形にしようと思います。 人数も人数なんでねー……成績下位の小隊にとっては不満かもしれないっすけど、そこはどうか納得してもらいたい。 ちなみに、指名を受ける側の新入生の人達も指名を蹴ることはできるんで、指名をくれた先輩を見て、生理的に無理だとか思ったならじゃんじゃん指名拒否してもらってオーケーです。 あ、でも僕の指名は拒否んないでね」


 そばかす男の冗談に、会場の上級生達はドッと笑い声を上げる。

 一方で、新入生達はどういう反応を返せば良いのか分からず作り笑いを浮かべる。


「あの人も小隊長なんだ?」


 ニールは小声でノルンに訊いてみる。


「みたいだね。 まあ、私も小隊ごとの特徴だとかよく分からないけど……」

「そっか」


 と、ニールとノルンがどこの小隊からの指名が来るのかと考えていた頃。

 ――――上級生達の間では、早速、指名する新入生達を賭けて水面下での情報戦が繰り広げられていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ