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一番有名になってやる

作者: たちばな

それは正に刹那。

私の眼前を駆け抜けぬけた子猫は、ガードレールを飛び越え、道路に飛び出ると数秒後に時速60キロの4トントラックの前に出た。

けたたましいクラクションと、とても止まれない猛スピード。

そこに男性が庇うように前に出て追突された。五十メートルほど飛ばされサンドバッグのように無惨に転がり彼の懐からひょっこりと先ほどの子猫が顔をだした。


辺りは時が止まったように騒然となり、散らばったおびただしい量の血痕が懺悔の惨さを物語っている。その空気を察したのか本能なのか、ピクリとも動かない男性の元に駆け寄る子猫は傷を癒すかのようになめだしたではないか。

まるでドラマの撮影がリアルタイムで放送されているような、私は、いや、周りの人間全てがそう捉えたに違いない。

横にいた女子高生が口に手をやり声も出ず泣き出し、スマホを片手に写真を取りまくる沢山の現代人。

今、男性が身を徹して子猫を救った感動の瞬間に、私は立ち会っているのだと何も知らないのなら、私はそう感じていたに違いない。


しかし、それは違うのだ。

私は彼の友人で、私から見た彼の情報を話そう。


自力で立ち上げた事業がコケて多額の借金を抱え込んだ。

ヤミ金にも追われながら逃げる日々なんて今の世知辛い世の中珍しくもないのだろう。

彼もその一人だ。

今まではのらりくらりとどうにかやってきた。

住まいを転々とし、深く寂しい日常に人肌が恋しくなるもの、だが私に関わればその人は不幸になる。

だがら、猫を飼うことにした。

子猫がいい。

私は真っ白なその子を最大限愛でた。


しかし、とうとう決断を迫られる時が来た。

ヤミ金業者は私の親や友達まで調べあげ私の名前で脅迫まがいなことをされていると知った。

自分だけが虐げられようが蔑まれようが泥水を啜ろうが一向に構わないが、それが私の範疇を飛び出てしまっては、もう取り返しがつかなくなっていた。

方法は一つしかない。

まず、沢山の生命保険に加入する。


彼には昨日も会ったのだ。

ここ何日かはずっと会っている。

その度に彼はこの世に絶望した。無理心中をするといい私の説得も聞いているようで聞いてないようだった。

今日が生命保険の有効開始日らしく、前の日では保険が適応しないとか言ってたから彼の住まいにバカな真似はやめろと言いに行く途中の出来事だった。


彼の口癖が三日天下でもいいから一番誰よりも有名になってやるだった。

この日彼は一番有名になった。

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