緒方健一 其の六
『なあなあ―――彰さん。へへっ、夕べはどうだったよお?、ちっとは楽しめたのかあ―――?』
宮田組の現場では、早速、正夫による彰への取調べが始まっていた。
『うん、そうだね。ありがとう正夫さん』
『そうかあ―――。で、どんな具合だったんだよお?、彰さん』
『うん、お京って娘に世話になったんだ』
『お京―――?、そんな娘いたっけなあ』
『おれくらいの歳頃でさ、色白の可愛い娘だった』
『へえ、そりゃよかったじゃねえか彰さん。さぞかし満喫したんだろうなあ』
『うん、ありがとう正夫さん』
『なるほどそうかい―――。そんなに遊んだんじゃ相当疲れただろうよ。どうだい、今日くらい休まなくてもいいのかい彰さん?』
知ったかぶりに話をふくらませる正夫には、相応の企みが含まれているようだった。
『ああ、心配ないよ正夫さん。あそこでさ、栄養―――何とかって薬をもらったんだ。元気に働けるようにってさ』
『ええっ、そんな薬のんだのかい―――?。なんだなんだあ―――、彰さんのその若さでさ、薬なんてもんは要らないんじゃねえのかなあ?』
『だって、折角、女将からもらったもんなんだ。無にしちゃいけないだろ?』
『ううむ―――。そうか、そりゃ失礼ってもんだよなあ。へへっ、まさにその通りってことだ』
『そうだろ、正夫さん』
まったく人を疑うことを知らない彰にとっては、正夫の取って付けたような白々しい文句でさえも違和感無く受け入れてしまうのだ。
『でっ、今晩はどうすんだい。よかったら一緒にどうだい彰さんよお?』
『うん、行くって約束してんだ。そのお京って娘にさ』
『あちゃあ―――っ、こりゃあ隅に置けねえよなあ彰さん。んで、お京ってさ、そんなにべっぴんさんなのかいっ?』
『うん、泣き顔が可愛いんだ。お人形みたいでさ』
『ほお―――っ、中々いうもんだねえ、彰さんも』
『だって、本当なんだぜ正夫さん』
『はっはあ―――っ!。こりゃまいったぜえ。いやいやどうして相当な遊び人じゃねえか彰さんも、なあ、そう思うだろ』
『ふ―――ん、そうなのかな、おれ?』
狡猾な正夫の口車に乗せられたまま彰の進路は、益々悪化の道を辿ることになるのだった。
『あらあら、今晩もお揃いのようで―――。毎度お世話になりますねえ、正夫さん』
『へへっ、どうしても会いたいって娘がいるらしいぜえ女将よ、この彰さんがさ』
正夫の先導で、やはり彰の姿は今夜も女郎宿にあった。
『分ってますって。お京のことだよね、お兄さん?』
『うん、そうなんだ。彼女居るのかな?』
お京目当ての彰にいたっては、ごく自然の成り行きに甘んじていた。
『お京―――っ、ご指名だよおっ。ねえ、空いてんでしょっ!』
“――――――”
『おや、返事がないようだねえ。―――気が利かなくてごめんなさいよお。今すぐ降りて来ますからねえ、ちょいとお待ちを』
『いいんだよ女将。こちとら時間なんて余ってんだ、明日の朝まで待ってても構わねえぜ、気にすることはねえって。なあ彰さん』
『明日までは待てないよ正夫さん。健ちゃんの世話があるからさ、おれ』
『あ―――っ・・・、そ、そうだったよなあ―――。大事な健一さんの世話役だもんな彰さんは。無駄な時間なんてさ、へへっ―――、そんなのあるわきゃねえやなあっ―――!』
そんな正夫の取り繕いを誘うほどの、彰の何とも実直な回答だった。それほどまでに健一に従事したい思いで、彰の中は一杯だった。
『今晩、健ちゃんは何処で歌ってんのかな、正夫さん?』
『あ、ああっ―――、市川での営業って話は聞いてるけどさ』
『へえ、市川でも人気があるんだ。やっぱ健ちゃんの歌はすごいよなあ』
『もちろんそうだぜ、彰さんあっての健一さんじゃねえか。彰さんが元気で世話してるからこそ今の健一さんがあるってもんさ、そうじゃねえのか?』
『うん、実際そうなんだよな―――。でもさ、正夫さんてよく知ってるんだね』
『当ったり前だって―――。彰さんのことは俺が一番見てるんだぜ。なにしろじっと辛抱の人だもんなあ―――』
正夫の差し出す親密な言葉には、必ず危うい罠が仕掛けられている。そんなこともお構い無しに、彰の純粋な心根はやがて終焉へと傾いていくのだった。
『正夫さん―――、生憎さ、お京は他の客の相手をしてるみたいなのよ。悪いけどちょいと待ってやってくださいな』
『何言ってんだよ女将―――。もち彰さんが優先だろ?、何処居んだよお!。俺が話つけてやんぜ』
『ち、ちょっとお、それはまずいよお。いくら正夫さんだからって勝手は困るんだよ。ねっ、少しだけ時間おくれでないかい?』
『そんな時間なんてねえやい。悪いが邪魔するぜ女将っ!』
そう言って正夫はそれらしき部屋の物色を始めた。まるで借金の取立てをするかのごとく、険しい形相でのし歩いていた。
正夫にしても、今夜が絶好の予定日にしたかったはずだった。それというのも、お京に熱を上げ始めている彰をし止めるには、これ以上時間を置くことが無駄に思えて仕方なかったはずだ。
『お京―――っ!、何処に居んだよおっ!。返事しねえか』
『ああ―――、いいんだよ正夫さん。そんなんじゃお京に迷惑が掛かるよ』
正夫の喧騒とは相まって、取り立てて慌てる様子もなく、彰はいたって冷静に正夫を制止していた。
『そうわ言ってもさあ、彰さんそんなに呑気でいいのかい?。お気に入りの娘が他の男に遊ばれてんだぜ。腹も立つってもんだよおっ!』
『話し相手になってくれればいいんだよ。おれがお京に望むことは―――、それだけさ』
『話し相手って―――っ、まさか、そんだけで満足してんのかよ彰さん?』
『そうだよ、どうして―――?。ああっ、もしかして妙な気を起こしてんじゃないだろうね、正夫さん?』
『はあ・・・妙な―――気ってかあ?』
『おれ、お京の笑顔が見れればいいんだ。それで充分満足だよ、正夫さん』
そんな彰の純真が、何気に正夫に向けて真っ直ぐ投げられていた。
『ははっ・・・まったく―――、彰さんらしいよなあ』
世間知らずも甚だしい彰の稚拙な要求は、実は、正夫にとってもこの上ない材料となっていたのだった。
慣れない遊びに酔った挙句、女に目のくらんだ男の末路を創り上げるには、もはやこれ以上の好材料はなかった。
もっともらしく言葉を受け取る正夫の魂胆は、いよいよ彰の排除に向けて牙を剥き始めたのだった。それは一方で、健一に与える影響を加味しての狡猾な演出にしかなかった。
所謂、“自滅”をもって彰の存在を滅する。―――つまり、そういう算段に他なかった。
『いいんだよ正夫さん。おれ、待ってるからさ』
『いいや、彰さんを待たせてなるもんかい。俺の大切な仲間なんだぜえっ!。ここはどうしてでも通すからよお』
そう言ってから、更に強引に各所に足を向ける正夫だった。
『お京―――っ、何処に隠れてんだよお。聴こえてんだろ、とっとと出てきやがれってんだよおっ!』
『ち、ちょっとあんた―――』
屋敷中に響き渡る正夫の怒号には、さすがの女将さえも萎縮するしかなかった。
“ガラガラ―――ッ!!”
『ここに居んのかあ―――!?』
『き、きゃあっ―――!』
『なんだよ、お京って面じゃねえな、おまえ』
『―――お、お京ちゃんは・・・この突き当りに・・・』
『そうかい、あんがとよ』
強引にお京の居場所を訊き出した正夫は、得意顔でその部屋を目指した。
“カラカラカラ―――”
すると薄暗い奥の部屋の引き戸が、緩やかに開かれた。
『―――んん?』
『あのお・・・、騒がないでもらえますか。他のお客様にも迷惑が掛かりますから・・・』
俯き加減で、そしてか細い声が廊下の端に注がれていた。
『おまえ、お京か?』
『・・・はい』
乱れた着物の襟元を整えながら立ち上がった娘こそ、目的のそのお京であった。やおら髪の毛を束ねるぎこちない仕草が、実に幼さを醸し出していた。
『へえ―――、中々の上玉じゃねえかあ』
一瞬、正夫の見せる反応にしても、お京への興味の範疇を超える溜息をついていた。
『おいおい、どないなってんねん―――?。えらい強引なやり口やのお兄ちゃん。ふざてんちゃうぞおっ!。待ったらええがな、今はこの娘、わしのもんやさけなあ』
と、にわかに関西弁と思しき野太い声が、やはりその部屋から聴こえてきた。
『けっ、なんだ大阪もんかよお―――』
呆れたように正夫が応えていた。その言葉の意図は、今更という感の否めない捨て台詞のようだった。
『ち―――っ!。田舎訛りのクソ野郎の戯言ってかあ?、この池袋界隈で出しゃばった真似してんじゃねえぞ―――っ!』
険悪感いっぱいに、もはや正夫も黙ってはいなかった。
『なんやてえ―――?。はあ――ぁ、せやから東京もんはあかんねやなあ。礼儀なんておかまいなしや、友好の架け橋っちゅう言葉、わしが教えたろかないあ―――?』
その関西男の雄弁さは、しかし、正夫のネジを無意味に逆巻きにするだけだった。
『どこのどいつだなんよお、てめえっ――――――!!』
正夫の剣幕はすでに常軌を逸する行動にあった。部屋の中に乱入するや、その関西弁の男を即効、血祭りにあげる始末だった。
素早い左右の拳の連打に加えて、まるで無駄の無い頭突きの応酬。驚くべく素早い仕留め方には、正夫の経歴を明かさずにはいられないほどだった。
『キャ、キャァァァ――――――ァッ!!』
傍に身を置いていたお京には、信じ難い光景に違いなかった。
さほど大柄ではない正夫の喧嘩っぷりには、幾度もの修羅場を潜り抜けた堂々たる風格を備えていた。正夫の履歴にしても、戦場での無差別な殺戮という歪んだ名誉に依存するしかない恐怖の延長線上に成り立っていたのだった。
戦後の混乱期のこの頃、東京の闇市の拡大と並行して、関西からのテキヤ勢力もすでに台頭を始めていた。
目覚しく各所で起こるいざこざ騒動などは、なにも関東勢だけに止まってはいなかった。
『ち―――っ!、手間掛けさせやがって。この正夫様を舐めてんじゃねえぞお―――』
その男の腹の上に馬乗りになった正夫の目は、狂気に染まった獣そのものだった。
『どうして・・・』
放心状態のお京は、その場に立ち尽くすので精一杯だった。
『彰さんが待ってんだ。早く下に降りろって』
『彰―――さん?』
『ゆうべ世話になったようだな。礼を言うぜ』
『あっ、ええ・・・』
正夫に促されるように、お京は階下に足を運んだ。
『お京―――』
たどたどしい足取りの先には、彰の屈託の無い笑顔が待ち受けていた。
『女将―――っ!。あの部屋の掃除たのんだぜえっ』
『え、ええ―――っ!』
『それと、これな』
当たり前のように正夫が、数枚の札を女将の胸元に捻り込んだ。
『あ、ああ・・・。すまないねいつも』
『それと、彰さん相当疲れてっからよお―――。あれ、頼んだぜ』
女将に耳打ちするとすぐに、正夫は女将から背を向けた。
『彰さん、ゆっくりと楽しむんだぜ。―――じゃあな』
『うん、ありがとう正夫さん』
正夫の企みなど一向に気付くはずのない彰は、確実にその深みにはまり込んでしまうのだった。
それからというもの、彰の姿は毎夜、お京の元に通う日々が繰り返されるのだ。
やがて薬漬けにされる毎日が、彰の身体と精神を非日常的なものへと仕上げて行くのだった。
―――『あのさ―――親方。そういえば最近、彰の姿が見えないんだけどさ、いったい何処に居んのかな?』
『ああっ、彰のことかあ―――。そうさな、ここんとこ新橋の店の手伝いをやらしてっからなあ。中々、会えねえだろうよ』
久しく会っていない彰のことを、やはり健一は気にかけていたようだ。興行の忙しさを理由に彰のことを構ってやれないことに、健一は負い目を感じていたのだろう。
『へえ、新橋か―――。上手いことやってんのかな、あいつ?』
『心配すんなって。彰だって子供じゃねえんだ、お前の心配には及ばねえって』
『だって、彰って不器用じゃんか。親方だって知ってんだろ?』
『そりゃまあ、そうだけどよお・・・』
それは宮田らしからぬ、どこか歯切れの悪い発声だった。
『そうだ親方、今晩、彰んとこ行ってみようかな』
『や、やめとけって―――っ!。今晩は無理だろうよ、大切な客人と会う約束だからよ健一よお』
『―――大切って、おれ、そんなこと聴いてないよ』
『前から言ってたろ?、コランビアのお偉いさんのことだよお』
『親方―――っ!、コランビアって、あの?』
『そうだよ、ぼちぼちお前を違う世界に出さねえとなあ。いつまでもせこい興行じゃもったいねえって。緒方健一はスターの座を目指せる器さ』
『お、親方―――っ、それ本当なの?』
『馬っ鹿野郎―――っ!、この宮田を見くびんじゃねえぞ。その気になりゃよお、天皇陛下様だってお目にかかれるってもんよおっ!』
そう豪語する宮田の言葉の前に、健一の意識は残念にも彰から遠ざかってしまっていた。
宮田の言うコランビアのお偉いさんとの面通しは、その晩、早々に快諾へと向かっていた。
『―――小幡さん、見ての通り若さだけが自慢なんです。どうか使ってやってもらえませんかねえ?』
『宮田の親方からの頼みとあらば、断るわけにはいかんだろうな―――。それにしても真っ直ぐな歌声を持ってるね、緒方くんとやら』
『ええっ―――!?、ぼ、僕のことを知っているんですか?』
『はっはっ、客として聴かせてもらったよ、つい先日もな』
『あっ、ありがとうございます!』
『私にしても背筋が伸びる思いだった。あれだけの歌をその若さでなんてねえ』
緒方健一の歌唱力には、小幡も及第点を与えるほどだった
『小幡さんっ!、是非ともこいつを、こいつのことを―――よろしくお願いいたしますっ!!。どうか、どうかお願いいたします―――っ!!』
宮田の親方が、折れんばかりに腰を曲げて、小幡に嘆願するばかりだった。
『まあまあ、親方―――。そこまで頭を下げることでもなかろう。私にしても有難い話で恐縮するばかりだ』
『そ、その言葉に甘えていいんですかっ、小幡さん―――っ?』
『はっは―――、相変わらず親方の情熱には逆らえないものがあるな。頃合を見て私の処に来るがいい。すでに隠居の身だ、いつだって歓迎するよ緒方くん』
『あ―――っ、はいっ。早々に仕度します―――。ありがとうございますっ!』
コランビア・レコードの小幡勇太郎。すでに勇退してはいる身だが、しかし、その絶大なる権力は各方面に影響を与えるほどだった。
『へへっ、コランビアかあ―――。よしっ!』
小幡との面談を終えて気を良くした健一は、ついに彰の元に足を運ぶのだった。
『彰のやつさぞかし驚くだろうな。だってコランビアなんてよお―――、すごすぎるしなあ』
そんな有頂天の健一には、彰に起こった不具合など気付く由もなかった。
“ガ、ガチャッ―――”
『彰あ―――、居んのか?』
久し振りに彰の住処を訪ねた健一は、いつものように部屋になだれ込んだ。
『彰あ―――っ!』
電灯の消えたその部屋は、窓から射し込む街頭の明かりだけが僅かに頼りだった。
『居るんだろ、彰?』
薄暗い部屋を見渡す健一は、彰の気配を探せずにいた。
『―――んんぐっ、な、なんだこの臭いわ―――?』
突然の異臭に気付いた健一は、すぐさま電灯に手を掛けた。
『な―――、なにやってんだよ彰あっ!。どうしたってんだよお―――っ!!』
そこには、だらしなく横たわっている彰の無様な姿があった。しかもその周りには、汚物が甚だしく散乱していた。その異臭たるや、健一の我慢の限界を超えるほどだった。
“ガラガラッ―――ッ”
『どうかしてんぜ―――っ!?』
すぐさま窓を全開にした健一は、身動きしない彰に目をやった。
『おまえ、なにやってんだあ―――っ?、彰あっ、おい―――っ!』
『・・・ハァ・・・ハァ・・・』
『彰っ、お、おまえ―――っ!』
健一の足元には、余りにも痩せ細ったお粗末な彰の身体が、かろうじて息をしているだけだった。
『馬っ鹿野郎―――っ、て、てめえっ―――!』
『・・・け・・・健・・・ちゃ・・・ん・・・?』
『―――ど、どうしちまったんだよお―――っ、彰―――っ!?』
膝をついて彰の身体を揺する健一には、余りに信じ難い光景だった。
『・・・ハァ・・・ッ・・・。け・・・健・・・ちゃ・・・ん・・・っ・・・』
変わり果てて、その面影さえ危うい彰の顔は、まるで末期の病人のように映っていた。しかも、部屋に散乱した空瓶の数々は、あの“ヒロポン”に―――違いなかった。
『―――彰っ、おまえっ!?』
その空瓶を目にした健一は、すぐさま彰の異変に気付くのだった。
『・・・へへ・・・っ・・・、やっと・・・健・・・ちゃん・・・と・・・』
『喋るなって・・・っ、喋んなくていいからよおっ!。なんだってんだあ―――っ!!彰あ―――っ!!』
彰の半身を抱き起こしながら、健一は言いようの無い悔しさを噛み締めていた。
『彰―――っ』
薬に手を出すに至った彰の孤独に、健一自身、負い目を感じざるを得なかった。
信じがたい目の前の光景が、健一の唇を大きく震わせていた。忙しさに感けて彰のことを構ってやれない不甲斐なさに、今更、自分自身を責めるしかない健一だった。
『・・・健・・・ちゃ・・・ん・・・?』
『くく―――っっ!』
『・・・へへ・・・、健・・・ちゃ・・・ん』
それでも彰は健一に向けて精一杯の笑みを浮かべていた。ただ健一が傍にいるだけで、彰にとっては幸せそのものだったのだ。
『・・・け・・・、健・・・ちゃ・・・ん・・・』
もはや死相さえ浮き出ている蒼く錆びれた頬を、彰の未練とも等しい涙がこぼれ落ちていた。一筋に線を引いたその雫は、健一と彰を結ぶ絆の強さを物語っていた。。
『あ―――彰あぁぁぁ――――――っっ!』
それから一晩中、彰に寄り添っていた健一は、ようやく明け方を待って部屋を出て行くのだった。
―――ついに彰の絶命に、健一の涙はとうに枯れ果てていた。疲れ果ててうな垂れ歩く健一の背中越しに、昇り来る旭日も気遣いを忘れないでいたのだろうか、今朝だけはどんよりと辺りを照らし始めるのであった。




