いざ、クイーン・レコードへ
『―――ところで小森くん。東京へは目的があっての上京なのかな?』
父の魂胆を見透かしたように、小幡さんが切り出した。
『いやっ―――、たまたま会社の研修で来ただけさ。そしたら秋山の爺さんの法要がって聴いたもんだからさ―――その流れで』
『そうか、それでだな―――。いや、それにしても秋山の奴、どうにも情けない最期だったな―――』
『おれ、世話になった礼を言いたかったのにさ』
『仕方の無いことは、生きて行く上ではざらに転がっているもんだ。そう気に病むことはあるまいて、なあ、小森くん』
さらりと父を庇う小幡さんの言葉が、妙にしんみりとしているようだった。
『小幡さん、最近のトウチクのこと知っているの?』
『ああ、主要人物の欠落は耳に入っているぞ。しかし、相当な痛手だったようだなトウチク側にとっても』
『それ、神部さんのこと言ってんの?』
『何だ、すでに君の耳にも入ってたのか?』
『ああ、夕べ秋山さんに会ったんだ。そこで聴いた』
『主軸の欠けたトウチク再建は、まだ見えぬようだがな・・・。それも仕方無いと言うべきなんだろう』
『ねえ小幡さん―――。神部さんが移った先って大丈夫なのかな―――?』
遠慮がちではあったが、ようやくここで父の本来の目的が明らかにされていた。
『クイーンのことを言ってるのか?』
『―――そう、そのクイーンって会社だよ』
『弱小ではあるが、勢いは否めないだろう。有能な若手の取り込み方にはいささか乱暴な面は見えるとして―――』
『その若手の中でさ、緒方ってのがいるんだけどさあ―――』
『ああ、知っているとも。緒方健一を神部に会わせたのは、この私だからな』
『えっ―――、そうなの―――!?』
『古い友人からの紹介でな―――、荒削りではあるが、稀有の才能を持った男のようだ。上手く育てれば今後の歌謡界の核となるだろうな』
『やっぱりそう思う?、小幡さんも』
『そうって―――、緒方の歌を聴いたことがあるのか?、君は』
『うん、そうなんだよ。それがさ――――――――』
それから地元の歌謡祭での一部始終を、父は小幡さんに語り始めた。その饒舌な話しぶりには、父の緒方へと向けられた情熱で溢れていた。
『―――で、その緒方をどうしたいと思っているんだ、君は?』
『どうって・・・、おれの立場じゃどうにも始まらないってことは判ってるんだ。けどさ』
『どうしても奴のことが拭えないって、さもそんな顔をしているな、小森くん』
『そうなんだ、実際は・・・』
『じゃあ訊くが、君はもう歌うことを諦めたのかな?』
『―――諦めたってほど、潔くないさ・・・』
『ほう、それでは緒方と張り合うってことも意識している。そうなるんだろうか?』
じわじわと小幡さんの問診が始まった。
『張り合うって、そんな無茶は出来っこないさ。緒方くんとの実力差なんて既に判りきったことさ』
『じゃあ、もう一度訊くが、その緒方をどうしたいのかな?。君は』
『そこなんだよ。その具体性がまだ見えていないんだ。おれ自身どうすべきかが、よく掴めてないんだよ小幡さん―――っ!』
『何とも君らしい表現だな。理性よりも本能が出しゃばる。まだまだ若い証拠さ』
『ねえ、どうしたらいいんだろう。おれ―――?』
それなりの覚悟を東京に持ち込んだように見えた父だったが、それに至る決心には、いつも脆さが付きまとっていたのだ。
『どうするも何も、家族はどうするつもりかな。君一人の問題じゃないだろう?』
『そこなんだよなあ・・・』
『―――なあ小森くん。一旦、家に帰って整理してみる必要があるだろう。まずは奥さんの理解なしでは始まらんだろうな。それほどの賭けだぞ』
『だって、うちの奴に話したってさ、無理だと思うんだ。絶対!』
『では、家族を捨てるしかないようだが―――。君の夢の実現には重荷なんだろ?、その家族ってものが』
『捨てるって―――!、そんなこと』
『いいか、何も定まっていないのに君は飛び出そうとしているんだぞ。危うく先の見えない世界にな。これほど無鉄砲な人生などありはしない。いやっ、無責任極まりないと言ってもいいぞっ!』
父の浮ついた生命に、小幡さんは一本の太い杭を打ちつけた。身勝手な夢の探求に家族放棄などもっての他だったのだ。
『なあ小森くん―――。話が纏まってからでいい、また私を訪ねてくれんか。悪いようにはせんつもりだ。いや、むしろ君の夢の後押しがしたいくらいさ』
『小幡さん・・・』
小幡さんの説得に、ようやく正気を取り戻したかのような父だった。
けれどな、小森くん。緒方という若造―――、いささか諸刃の刃かも知れんぞ』
『諸刃―――って?』
『大人しくて利口そうだが、どうして本音が見えない。どこかずる賢いようにも感じる。君のように開けっ広げで、屈託のない人間性とは真逆だ。したたかと言ってもいいくらいだろう』
『そうなの、そんな風には見えなかったけどなあ?』
『あの神部にしても、いつか足元を掬われかねん。そんな危険性を併せ持っていると、私は見たがな』
『小幡さん、それはちょっと極端すぎやしないかなあ?。結構いい奴だったよ。おれには随分と好感が持てたけどなあ』
『まあ、人それぞれ感じ方が違って然りだろう―――。あくまで私の見立てだ。老婆心ながら聴いておいてくれ。―――すまんな』
小幡さんの緒方健一への疑念は、その時の父の耳には無駄も同然だったようだ。
追いかける夢の心地よい香りに、現実逃避さえしかねない。今の父には、それほど重度の麻痺状態だったという訳だ。
多分にやり取りを終えて小幡家を離れた父は、小幡さんの言葉通り懸命に家族思いの父親に戻ろうとしていた。
『そうだよな、皆で東京暮らしってのも悪かねえな―――』
独り言をもらしながら歩く父には、小幡さんの言葉の後押しも手伝ってか、突発性の夢追い症候群は失せたかに見えた。
しかし、その後に控えていた予期せぬ騒動を期に、混乱の渦中に身を置くことになろうとは、もはや父の範疇を超えた前哨戦の始まりでもあった。
『どこの建物なんだよ?、ややこしいなあ』
昼下がりの品川駅前の雑踏。そして袋小路のように区切られた迷路に翻弄されながらも、ようやく目的とする場所に辿り着いた父だった。
さて、こうして父の辿り着いた先はというと、あの緒方健一の所属するクイーン・レコードだった。それは併せて、神部さんをも訪ねることにもなるのだ。
小幡さんの口から提供された情報を頼りに、言うなれば衝動にしかない突然の訪問先だった。
『ふ――ん。やっぱりトウチクとは、雲泥の差だよなあ』
案の定そう言い切った父は、裏通りに面した二階建てのこじんまりと佇む社屋を見渡しながら、クイーン・レコードと書かれた看板の文字を目でなぞっていた。
『居るのかな、神部さん?』
勿論、父のことだ。事前の連絡なんて要領は当然あるはずもなく、突然の訪問に何の疑問も持たなかったようだ。
しばらくは近隣の気配を窺うかように、物珍しく辺りを見回していた父だった。
『やっぱり都会だよなあ。裏通りでさえこの人手かよ―――』
そうこぼしながら父は、臆する様子もなく事務所扉の取っ手に手を掛けた。
“ガガッッ、ガチャッ―――!”
老朽化甚だしい扉が、音を立ててこじ開けられた。
『こんにちわ―――、お邪魔しますっ!』
威勢のいい挨拶とともに入室した父を待ち受けていたもの―――それは―――。
空き部屋のように余りにも閑散とした、まるで会社事務所とは言い難い室内だった。
『なんだよ・・・?、どうなってんだ―――!』
おそらく5坪にも満たないと思われる室内には、雑然と並べられた二つの机と、まばらに配置された椅子数脚が点在しているだけだった。更に注意深く目をやると、そこには古ぼけた茶色のソファーが背を向けたまま部屋の隅に追いやられていた。
『―――勝手に入るけどさ、ねえ、誰も居ないのっ!?』
再び父の声が、この部屋の住人を探していた。
“ふご――――っ、ふ――っ、う、ううんっ―――”
何処かしら、イビキらしき人の気配が父の期待に応えているようだった。
『なんだ、居るんじゃない。寝てるんならそう言ってくれよ』
背を向けた茶色のソファーからは、少しだけ伸び出た足先と、美しくも無いイビキが聴こえていた。
『ちょいと邪魔するよ』
ソファーに向かって歩き出した父には、むろん遠慮なんてなかった。
その遠慮ない足音に気付いたのか、ソファーからはみ出した足先が微妙に踊ったように見えた。
『あ、あん―――?』
その父の気配を察したのか、やや半身を起こしながら、やっとここの住人が目を覚ましたようだ。
『ふああ―――っ、誰なんだよ・・・?』
気だるさでいっぱいの様子のその声の主とは、新聞紙を片手にメリヤスの上肌着をだらしなく見せ付けている、丸い黒縁メガネの白髪頭の中年男だった。
『―――誰なんだよ、あんたこそ?』
その風貌にいささかイラついた父が、短く返した。
『んん・・・?』
黒縁丸メガネで白髪頭のその中年男が、父の顔を怪訝そうに見ていた。
『ふ――っ。あのな、折角の昼寝を邪魔すんじゃねえぞ。誰だって訊いてんだよ、解んねえのか、なあ―――?』
更に追い討ちをかけるように、その中年男から発せられた攻撃的な音質が父の両耳に届けられた。
『・・・あのね、客人に決まってるだろ。それともこの建物に入るのには、身分を証さなきゃなんねえのか?』
ここに来て、ようやく持ち前の粗悪さを披露した父だった。
『へ――っ、客人だってかあ・・・?。へへっ、そんな煩わしいものなんてよ、俺は呼んだ覚えもないんだけどな』
面倒臭そうに喋るその口調は、どこか投げやりな加減だった。それにしても、その中年男の頬は、薄く赤みを帯びているように艶やかだった。
それもそのはず。傍に置かれたテーブルの上には、蓋を失ったウイスキーの瓶と、くすんだままのクリスタルグラスが横になっていた。
『―――ねえ、もしかして呑んでんのか?。あんたさ』
『あ――っ、ご覧の通りだとも。それとも何か、昼間から呑んじゃ悪いのか?』
『悪いわけないだろ、そんなのはあんたの勝手さ。ちょっと訊いてみただけだよ』
『はは――んっ、そういうことね・・・。で、どうだろう客人?。ことのついでと言っちゃあ何だけど、一緒に呑むか?』
軽々しく飲酒を勧める男の目線は、少し泳いでいるようだった。
『いやっ、そうしたいところだけど。大切な用件があるからな、今は遠慮しとくよ』
『うん―――?、用件?』
『あのさ、神部さん居ないのかな?』
ここでやっと、本題を切り出せた父だった。
『あ――っ、神部なら今日は帰っては来んぞ。熱海へ行ってるからな』
『熱海へ?』
『そう――っ、興行だ。金儲けに走ってるってこった。はっはは―――!』
どうやら神部さんは出張のようだった。しかし、昼間から酒を浴びて事務所で居眠りなんて、この中年男は何者?。
『あ――っ、戻ってくるのは明後日だが、それまで待てるのか?』
『明後日かあ・・・』
『ふ――ん、その口ぶりだと、どうやら急ぎの用件のようだな。どうだろう、この俺では役に立てないのか?』
まるで解決の糸口を導き出せるかのように、その男が言い切った。しかし、さっきからやたら間延びしたような言葉遣いが、その男の特異性を表わしているようだ。
『役に立てないかって・・・、そもそもあんた、この会社の何なんだよ』
『そうだな、代表とでも言っておこうか。一応な』
『なっ、社長ってかあ―――?』
その出で立ちからは、会社代表なんて肩書きすら想像困難な中年男。一体、クイーン・レコードとはどんな企業なのだろうか。
戦後間もなく、音楽業界の異端児として誕生を許された、新興企業のクイーン。保有する専属歌手や興行の規模となると、トウチク、コランビアとは比較すら無意味な存在でもあった。
契約歌手への束縛はなく、個々の活動にも制限はしない。従って、会社の収益は不定期極まりない経営状態。つまり綱渡り的な会社事情って訳だ。
『俺が社長じゃ、迷惑なのか?』
『そうわ言ってねえよ、けどな・・・』
『はは――んっ、このだらしない格好で挙句、昼間っから飲んだくれだ。どうにも似つかわしくないに決まってる。そう言いたいんだろう。な――あ?、客人よ』
『なんだ判ってんじゃん、あんたにも』
まるで粗悪な者同士の、奇妙な掛け合いだった。
『で、神部に用件とは何なんだ?。借金の催促か?』
『借金?』
『そうさ、借金の取立て以外に急用なんてないだろ――っ?』
『どんな環境なんだよ、ここって?』
『いや――っ、見ての通りの貧乏会社だ。明日には表の看板も危ういかもな、はははっ―――!』
会社存続の危機をほのめかしながらも、その代表者は呑気に高らかに声をあげていた。
『はあっ・・・。あのさ、神部さんに連絡は取れないのかな?』
さすがに父も、呆れるしかなかったようだ。
『だから――っ、明後日まで熱海だってさっき言っただろう?、客人さんよ。それとも俺じゃあ解決出来ないほどの難題なのか?』
『そうだな、極めて難題だっ!』
迷わず父が、そう言い切った。
『ほほう―――っ!』
『明後日まで待たせてもらうぜ。いいよな?』
近くの椅子を引き寄せて座り込んだ父の態度には、堂々とした威厳さえ感じられた。
『ふ――ん、相当な覚悟のようだな。しかも、あの頃と変わらず良い目をしている。―――なあ、小森靖志くんよ』
『え、ええっ―――!?』
黒縁丸メガネのその男の口から、突然、父の名前が呼ばれた。
『歌の世界を諦めてしまったのかと思い込んでいたが。しかし、そうじゃなかった。俺の勘も鈍ってはいなかったようだな』
『―――ど、どうしてっ?、おれのこと知ってんのっ―――!』
『とんだ事件に巻き込まれてしまったもんだ。仕方ないって言うには、余りに忍びない。そうじゃなかったのか?』
信じられないことに、あの立花勇気との忌々しい過去を、今、その男が暴露したのだ。
『―――なんだ、すべてお見通しってか・・・』
『どうした、隠密行動だったのか?、今回の上京は』
更に、父の行動に探りを入れていたかのような確信めいたその言葉は、その先をほのめかせているようだった。
『誰から聞いたんだよ。もしや秋山さんか?』
『そうそう、奴とは随分と会ってないが。まだ生きているのか?、』
『茶化さないでくれよ!。こっちは真面目に訊いてるんだよっ!!』
『おいお――い、そう怒るなって。意外と気難しい男なんだな、お前さん』
『ちっっ―――、遊びで寄った訳じゃねえんだ、おれでなくたって腹を立ててるぜ。さっきからのあんたのそのみすぼらしい態度にはな』
父の持ち味が、そろそろと顔を出し始めた。
『ははっ、言うねえ。う――ん、さすが神部をも唸らせた逸材なわけだ。納得、納得ってことだ』
『なあ、神部さんから聴いているのかおれのこと、あんた?』
『あ――っ、聴いてる、聴いてるよ。いつだったかな、しつこいほど喋るんだよな神部の奴。ははっ、余程お気に入りらしいな。ああそうだ、どうやら他人に媚びない性格だってな、―――お前さんよお?』
神部さんから伝えられた情報には、父の荒くれた気性と素行の悪さが正確に伝えられていたようだった。
『まあね、自分に正直なだけさ。そんなに大袈裟なもんじゃねえよ』
『へ――っ、まさに本領発揮って雰囲気だな。けど、若いっていいよなあ。何でも出来るし、何も怖くない。その無責任さが羨ましいよ、俺は』
この中年男の素性にしても、今の見栄え同様、やはり粗悪な人物像だけが印象的だった。
『あんた―――、今、無責任って言ったよな』
『ん――っ、どうした?。俺の歓迎の言葉が気に入らないのか?』
『歓迎だ?』
『そうじゃないのか?。無責任なんて褒め言葉は、滅多にお目にかかれないだろう?。折角の気遣いだ、礼を言ってもらったとしても悪くはないんじゃないのか?』
その男の吐き出した言葉は、まったく節度を欠いたような、筋の通らない言い分だった。
『―――このグラス借りるぜ』
横倒しになっていたグラスを手に取った父は、ウイスキー・ボトルの腰を鷲掴みにすると、空のグラスに一気にそれを注ぎ込んだ。
『いい色だな。香りも申し分ないや』
そう前置きしてから、確かめるように口元にグラスを運んだ。そして勢いよく口一杯にそれを流し込んだ。
『プハーッッ―――!!。空の胃袋には最高だよなあっっ!』
天井に向けて至福の溜息を吐いた父は、おもむろにテーブルの上にグラスを置いた。
『やっぱり、ジョニ黒はいいねえ』
『ふっ―――、中々いい飲みっぷりじゃないか。どうした、まさかやけになったんじゃないだろうな?』
『いいや、これであんたと対等って訳だ。お互いの垣根が無くなったからな』
『へ――え・・・。粋なことをするもんだな、お前さん』
『さあ、本題に戻ろうぜ。なあ、無責任がどうしたって?、ああん?』
売られた喧嘩は買う。それが父の本来の在り方だった。
『やっと素に戻れたようだな。かしこまった小森靖志なんて、気の抜けた何とかだよなあ?、そうじゃないのか?』
『ああ、あんたの言う通りさ。構えてたおれが野暮ってもんだよな』
『よろしい。それでこそ神部の認めた男ってことだ』
『神部さんのことはいいから。なあ、どうしておれが無責任なのか、それをはっきりさせようぜ!』
そう言って、グラスに残っていたウイスキーを飲み干した父は、喧嘩腰にその男に言葉を投げた。
『なあ小森よ、責任とは何なんだろうな―――。判るか?』
『信頼を裏切らないことだね』
『信頼?、それは誰からのものなんだ?』
『誰からって、おれに係わるもの全てさ』
『ん――っ、全てか・・・。ははっ、お前らしい立派な言い分だ。でも、もしかすると身勝手にも聴こえるぞ。それでいいのか?』
『何が身勝手なんだよ!。あんたの取って付けた価値観を訊いてるんじゃねえよっ!』
『ふ――ん・・・じゃあ、何故逃げたんだ?。お前』
『逃げた・・・って!』
『あ――あっ、どうせ尻尾巻いて故郷に帰ったんだろ?。そ――だろうな、まさしく大した責任感だよな―――』
今まで誰も踏み込まなかった領域に、その男は平然と立ち入ってきた。いや、平然どころか、堂々と足音を立てての乱入と言ってもいいだろう。
『――――――っ!』
『ど――だよ、まったくどいつもこいつも遠慮しやがって。なあ小森よ、今まで誰も責任なんて、まっとうさせてくれなかっただろう?』
『――――――』
矢継ぎ早に放たれる男の言葉に、父は劣勢に追い込まれてしまったようだ。
『ははっ―――、図星ってことだ。他人なんてせいぜいそんなもんだろうさ。責任の所在なんてな、古今東西、曖昧に出来てるってことだよ。お前にしても例外じゃない。どうだ、これが俺の価値観だ。まだ気に入らないか?』
『―――、価値観かあ』
勝ち誇ったかのように口上を垂れる男の前で、父は何かを悟ったのだろうか、意外に平静を保っているようにも見えた。
『ど――した。流石の小森靖志も撃ち返す弾はないのか?。それとも平凡な田舎暮らしで、どうやら呆けてしまったのかな?』
『平凡―――?』
『そうじゃないのか?。競争化社会から置き去られた呑気な暮らしに、どうせ飽き飽きしてたんだろ、お前?。だから上京したんじゃないのか?』
更にその男が形勢を保ったように、攻撃の手を緩めることなく出しゃばった。
『競争社会ねえ・・・。そんなに立派なものだったのかね』
『よく言うぜ、お前もその一員を担っていたんだろ。今更知らないなんて白けたこと言うんじゃないぞ、ああんっ?』
詰め寄るように中年男が父の顔を斜に見据えた。
『う――ん・・・。なあ社長さんとやら、そういえばあんたの名前、まだ聴いてなかったよな』
形勢を整えるべく、一拍の間をねじ入れた父の一言だった。




