0-1 救済
――『主人公』さん!? 大丈夫です、ちゃんと脱出方法を考えましたから!
「……!」
目の前が真っ暗になったような絶望を味わった『君』を、【末姫神】の一言が救い上げた。
脱出方法。この迷宮の奥深くから、『君』が無事に地上へ戻れる方法が存在するのだ!
――その部屋の中に陣がありますよね、【霊視】で視てみてください
『君』は【末姫神】に促され、部屋の中央に存在する陣とその上に置かれた人骨に向かって【霊視】をしてみることにした!
『君』:スキル【霊視】を発動した!
「……!?」
なんということだろう!
この人骨たちには全て【魂】が残っている!
そして、本来ならば清浄な青い光を纏っているはずの魂たちに毒々しい黄の光が交じっていた。
紫の陣の魔光が魂に染み込み、徐々に染め換えているのだ。
黄とは【不死者】の色。この陣は人間の骨と魂を素材にして【不死者】に作り変える【外法陣】だったのだ!
――視えましたか? その人たちはみんな迷宮の犠牲になった人たちなんです
――本来死後の世界に向かうはずの魂を繋ぎ止め、【黄泉女神】の【魔力】で肉体と魂を腐敗させ、この【骨と蟲の迷宮】を彷徨う怪物として作り変える【外法】の陣
――『主人公』さんのいる隠し部屋はこの迷宮に無数にある怪物の生産装置の一つなんです
【末姫神】の声にも力がない。優しい女神のことだ、こうして迷宮の半ばで散っていってしまった冒険者達のことを思い胸を痛めているに違いない。
『君』はこのような非情な行いを続ける【六大魔】への怒りを胸に秘め、改めて迷宮攻略への思いを強くした!
――まず、そこにいる人たちを【外法陣】から降ろしてあげてください
――そして、不死者になりかけている【魂】に、どうか【浄化】をお願いします
【末姫神】に乞われるまでもない、『君』もこの哀れな犠牲者達と同じ冒険者である。
死した後に邪神たちに肉体や魂を利用されることがどれほど無念か、『君』には痛いほど理解できる。
陣に流れる魔力に触れるだけで気分が悪くなったが、『君』は改めて善なる神々に祈りを奉げ、彼らを陣の外へと降ろした。
悔しいが陣そのものを破壊するには『君』の力量が不足している。この迷宮を完全に攻略した後、改めてこの場所を訪ることとなるだろう。
「……」
陣から降ろした犠牲者の数は五人。魂のほとんどが黄色の光に侵されている者もおり、あと少し陣の上に留まっていたら【不死者】になっていただろうことは容易く予想できる。
一刻も早く【浄化】を行い、魂に及ぶ腐敗を清めなければならない。
『君』は自らの信じる神へ祈りを奉げた!
『君』:スキル【浄化】を発動した!
「……!」
五人に【浄化】をかけた負担で、君の足から力が抜けそうになる。『君』は慌てて鞄から青く輝く回復薬を取り出し一気にあおった。
【気力】を回復する薬は高価で用意できた数も少ないのだが、惜しんでいる余裕などない。同じものをもう一つ取り出し服用する。
ほぼ気力が回復したのを確認し『君』は改めて【浄化】の結果を確認した。
先ほどまで完全に形を保っていた人骨は儚く崩れ、長い時間をかけて高熱によって丁寧に燃やし尽くしたような【灰】となっていた。
邪神の魔力に染まっていた【魂】はどうなったのかというと、こちらの結果はあまり芳しくない。
辛うじて半ばまで腐敗を浄化できた魂が一つ、それよりは深度が軽いものが三つ、幸運なことにほとんどの腐敗が浄化された魂は一つしかなかった。
これ以上は『君』の【浄化】では無理だ。【聖光神】の信徒に頼み【救済】を使ってもらうしかないだろう。
一応の解決を見て、『君』は【末姫神】にこの後どうするのか尋ねた。
――【聖水】はありますか? 【灰】を聖水に浸してください
【末姫神】によると、このままだと時間経過によって魂の不死者化が再び進行し、今度は骨ではなく悪霊になってしまうのだという。
それを抑えるためには【灰】を聖水に浸しておく必要がある。
迷宮の【不死者】対策に聖水を多めに持っていた『君』は全部の【灰】を聖水に浸した。
『君』:【聖水】を五個消費し、【魂満ちる聖なる水】を五つ確保した!
さて、女神の指示に従い犠牲者達を回収した『君』だが、この後はどうすればいいのだろうか。
【末姫神】に尋ねるとすぐに疑問の答えが返ってきた。
――それでは、その人たちを【蘇生】して一緒に迷宮を脱出しましょう!
「……」
残念だが、『君』は【蘇生】を使用できなかった!
【外法】:邪神と邪神に従う怪物が使用する【魔術】の上位版、邪神によって特化傾向に違いがある
【外法陣】:【外法】が刻まれた陣
【黄泉女神】:【六大魔】の一柱。死と腐敗を司る。配下は【不死者族】と【昆虫族】。腐った性格と不死者の女王と言う理由から邪神の中でも特に忌み嫌われている。見た目は美人らしい。特化は【腐敗と死】
【聖光神】:【六大神】の一柱で筆頭、長兄でもある。光と浄化を司る。気さくな性格だが敵には容赦しないらしい。人当たりの良い爽やかな好青年と言う感じ。兄妹の中でも末妹を特に可愛がっているシスコン。特化は【勇気と浄化】
【霊視】:スキルの一種。神力、魔力、霊力や魂などの不可視のものを見ることができるようになる。ちょっと訓練したらだいたい誰も使えるようになる
【浄化】:スキルの一種。本来は毒などの状態異常を回復する。邪神による魂の腐敗は【腐敗毒】の一種という側面を持っているので浄化も有効だが、完全に腐り落ちた部分まではどうにもできない
【救済】:スキルの一種。不死者と不死者に成りかけている魂を救う。【聖光神】の信徒の高位スキル
不死者に使用した場合は魂は【どこでもない場所】で安らかな眠りにつき、不死者に成りかけている魂は完全に元の状態に回復する。腐敗し腐り落ちた魂も完全に不死者になる前なら回復可能
ターン・アンデッドとセーブ・ソウルの複合効果である
【蘇生】:スキルの一種。【大地女神】の信徒の最上級のスキル。当然、【末姫神】の信徒である『君』には使用できない
使用には死者の肉体の一部が必要。肉体がほぼ完全に残っていたり、【魂】が地上に存在していると判定ボーナス、死後の世界に向かっていても一応使用は可能だが、【転生】していたり【どこでもない場所】に存在していると絶対失敗
【魂】:人間の魂。清浄な魂は青い光を、不死者になると黄色い光を放つ
一定時間地上世界を彷徨い、その後死後の世界に向かう。死後の世界は各信仰対象によってまちまち。迷宮で死んだ場合、死後の世界への道を見つけられずに彷徨う事が時折あったりする
不死者に【救済】を使用した場合、魂は【どこでもない場所】で安らかな眠りにつく
【灰】:特定条件下で【浄化】を行うと入手できる特殊アイテム。肉体の一部として【蘇生】に使用することが可能だが、判定ボーナスはつかない
【魂満ちる聖なる水】:聖水と【灰】から作製された特殊アイテム。迷宮内の邪気から魂の腐敗を防ぐのが主な目的。【魂】及び【灰】として扱うことができる
※
ささ○き えいしょ○ い○り ねん○ろ : 灰といったらこれでしょう。蘇生判定に失敗すると……?