失ってわかる本当の愛
今書いている話が詰まってしまい・・
息抜きで書きました。
読んでいただけたら嬉しいです!
「ミーサ、大丈夫か?」
夫が私を心配する言葉に周りはいつも微笑ましそうに見てくる。
献身的に介護する夫。
献身的に介護される妻。
でも、そこに本当の意味での 愛 はあるのかな?
私ミーサ・グードエルはグードエル侯爵家の一人娘で、ミハエル・バーセンと結婚した。
ミハエルは私と結婚する事でグードエル家に婿入りした伯爵家の三男で
次期侯爵となる。
もともと実力のあったミハエルは私と結婚しなくてもそれなりの地位には立てたし、もしかしたら父の紹介で結婚していたかも知れない。
知れない。と言うには今の結婚がそうで無かったからだ・・
三年前、私はある事故で左足が動かなくなってしまった。今は杖をつけば一人で歩ける様にはなったが、それでも障害を持っている事に変わりはない。
そして、その原因を作ったのが夫のミハエルだった。
ミハエルは王宮騎士として第二王子に仕えていた。顔も良く性格も真面目、言葉を交わせば優しい言葉や微笑みで返ってくる彼に、好意を抱かない令嬢はいなかった程だ。
そして、そんな彼を利用したのが第ニ王子だ。
第ニ王子には二人の兄弟がいて、当時王太子の座も空席のままだった。
第ニ王子はミハエルを使って高位貴族の令嬢から、家の情報を探らせていたのだ。
そして当然私もその中の一人だった・・
何も知らないデビューしたばかりの私は、そんな事とも知らずに優しくエスコートしてくれるミハエルに夢中になった。
街の散策、お茶、当時大流行した歌劇にも一緒に行った。
両親は心配していた。きっとミハエルの噂を聞いていたのだと思う。何度も何度も私に注意してきたから・・
でも当時の私はミハエルに夢中になり、ミハエルが他の令嬢と親しくしているのを見ると、その令嬢に嫉妬した。
今思えば恋を知らない幼い娘の心を掴む事なんて、ミハエルからしたら簡単だっただろう。
自分を特別にしてもらいたい令嬢は、簡単に口を滑らすのだ。もちろん私も・・
ただ救いだったのは、両親がグードエル家の事を私に話していなかった事だった。
本来なら侯爵家の一人娘、後継者教育も始まっていたはずなのだがそこは侯爵家。
王家の、三人の王子殿下の妃候補に上がっていた私はそちらを優先されていたのだ・・
「妃殿下となれば我が家を継げない。そうなれば養子を取らねばなるまい」
当時候補に上がったのは伯爵家の次男だった。
ある程度は領地の経営も学んでおり、人柄も良かったその令息は私の婚約者候補でもあったのだ。
彼の名はサリド・リフトン
サリドとは何回か会っており、この人と一緒なら幸せな生活を送れると思えた。
ミハエルと会うまでは・・
「ミーサ、ちょっと良いかい?」
ある日の夜会で珍しく声を掛けてきたのはサリドだった。当時の私はすでにミハエルに夢中になっていてサリドとは距離を置いていた。
「・・お久しぶりねサリド様。わたくし忙しいの」
嘘ではない。ミハエルにここのバルコニーで待つ様に言われていたのだ。
それにサリドと二人でいる所をミハエルに見られたくないと思った私は、サリドに対し冷たい態度を取っていた。
それほどにミハエルに夢中だった。
「ミーサは妃殿下候補の立場なのに最近はバーセン卿と一緒にいる事が多いね。聞けばバーセン卿、他にも女性と二人でいる所を良く見かけるけど?」
サリドもか・・と、そう思った。
私の両親からも同じ事を何度も言われていたからだ・・正直うんざりしていた。
もちろん両親や屋敷の者、親族も私を心配して言ってくれているのは分かっている。
今思えば初めての恋にしがみついていたのだ・・
でも当時の私には分からなかった。
私は深くため息を吐くとサリドに向かい
「リフトン卿、貴方はわたくしの何?婚約者でも無いのにお説教?伯爵家の、それも次男が侯爵家のわたくしに?」
サリドの顔色が変わったのが暗がりでも分かった。
サリドはそれ以上何も言わずその場から離れて行った・・
言いすぎたかな?と思ったがミハエルから待てと言われた以上、この場から離れる訳にはいかない。
そんな時扉が開く音がした。ミハエルだと思い振り返ると、そこに立っていたのは一人の令嬢だった。
「あの・・?」
声を掛けるが反応が無い。
暗くて表情も良く見えない。
「あの・・申し訳ありませんが連れが来ますので・・」
「ミーサ・グードエル様?」
急に名前を呼ばれて言葉が途切れ、その代わり小さく頷いた。
「貴女も私の邪魔をする一人ね・・」
声が小さくて聞き取れなかった私は えっ?と彼女に近づいた。
その手にナイフを・・ドレスに血が付いている事に気付かずに・・
「痛っ!!」
左腕に痛みが走る。痛みの場所に触れればヌルッとした何かが・・
「えっ?」
それは血だった。
「貴女が・・貴女も私とミハエル様の邪魔をするのね・・許せない。許さないわ!!」
そう言いながらナイフを振りかざしてきた。
私は左腕を押さえながら何とかその場から離れたが、令嬢も追いかけてくる。
ドレスの裾を踏まれ倒れ込むと、馬乗りになって来た・・
なぜ誰もいないの?
会場に続く廊下。
普段ならメイドや従者、何なら騎士たちだっているはずなのに・・
そんな私の心を読んだのか令嬢は
「今から王が王太子を発表するの。だから誰もいないのよ。諦めて・・ミーサ・グードエル」
そう言い終わるとナイフを思い切り振り下ろしてきた。
私は思い切り身体を捻りナイフをかわすが、今度は右腕に傷を負ってしまう。
何?私が何をしたって言うの?
血で汚れた手で令嬢の顔を叩くと運良く目に当たった。
令嬢が後ろに倒れた隙に逃げ出したが、運悪く振り回されたナイフが左太ももに深く刺さってしまった。
その後も令嬢は何度も何度も太ももにナイフを突き立てた・・
私は痛みと出血でどんどん意識が遠のき・・そのまま意識を手放した。
その後の記憶はない・・
気付けば自身のベッドで寝ており、目を開けたら憔悴しきった顔の両親と目が合った。
両親は泣いて喜んだ。
扉の方を見ればサリドも泣いていた。
ああ、みんなに心配をかけてしまったのね・・
その瞬間、私の中でミハエルへの気持ちは消えていた。
私を襲ったのは同じ侯爵家の令嬢で、私と同じ様にミハエルに夢中の一人だったと・・
そう、夢中だったのだ・・ミハエルに・・
令嬢は捕えられ身分を剥奪後、修道院へと送られたと聞いた。私の他にも襲う計画をしていたが、それを止めに入ったメイドを一人殺めていたのだ。
「ごめんなさい・・」
身体中の痛みで、その一言を言うのが精一杯だった。
あんなに酷い事を言った私に、サリドは何度も見舞いに来てくれた。
そして起き上がれるようになった時、あの日の事を頭を下げて謝った。
サリドは笑って許してくれた。
嬉しかった・・そして
歩けるようになったら歌劇に行こう!と約束をした。
のに・・
私の左足は動かなかった・・
「第一王子が王太子となり、今回の事故を引き起こした第二王子は王位継承権を剥奪。辺境伯家に婿入りが決まったよ」
私が寝込んでいる間の事を教えてくれたのはサリドだった。
実はサリド、第一王子に仕えていて今回の件を王太子殿下と共に動いたと教えてくれた。
私はサリドに聞いた
「傷物になった私と一緒になってくれますか?」と・・
サリドは元の私に戻ってくれて嬉しいと、抱きしめてくれた。
危うく私はこの温かい腕を、サリドを失う所だったと思うと・・怖くなった。
私の左足は動かないままニケ月。今日も杖で歩く練習をしていた時
「お嬢様、旦那様と奥様がお呼びでございます。そのままでお越しくださいと・・」
私はサリドとの事だと思い、急ぎ両親のいる場所へと向かった。
「・・えっ?ミハエル様と・・?」
それは意外な申し込みだった。
「王より申し入れがあって・・直接的な関与は無いがミーサに償いたいとミハエル殿が・・」
「旦那様!ハッキリ言っても良いのです!私は納得しておりませんもの!ミーサ良く聞いて。王家は第二王子、今は辺境伯の婿ね!彼のした事を揉み消したいの!罪を償う?だったら労働者になれば良いのよ!」
「・・・」
「・・ミーサはどうしたい?ミハエル殿が好きだっただろう?」
私の中でミハエルの事は消えていた。
何ならサリドとの未来を夢を見て見ていた。
侯爵家の一人娘、身体の傷と左足が悪くても婿入りしたい子息は後を絶たない。
側室制度は無くなったが、内緒で愛人を囲っている貴族はたくさんいる。
なんならお父様にも・・いる。
でも私は・・
「お断りする事は・・出来るのですか?私は、出来たらサリドと・・」
お母様は喜んだがお父様は困ったような顔をした。
それがどんな意味なのかは・・わかった。
「王はミーサの言葉を尊重する。とは言ったが・・もしミハエル殿と一緒にならなくてもきっと、別の人をあてがってくる」
「サリドとは・・」
「・・残念ながら彼は伯爵家の次男だ・・しかも王太子殿下の側近」
遠回しに断る事が出来ないと言われたようなものだった。私はその場に崩れるように泣いた。
泣いて泣いて、それでも涙が止まる事は無かった。
私がバカだったのだ。
近くに私だけを見てくれる人がいたのに・・色良い人に優しく声をかけられのぼせ上がった私に、痛い罰が当たったのだ・・
その夜、私はサリドに手紙を書いた。
直接会ったらまた迷惑を掛けそうだったから・・
貴方にも素敵なご縁がありますように・・と結んで。
王はミハエルを厄介払いしたいかのように、話があってから一月後に式場を用意した。
その場は王族の、直系以外が挙げる格式の高い教会だった。
王は周囲に王家も祝福する婚姻なんだと示したかったのだ。
その為ミハエルの衣装も、私のドレスもそれはそれは素敵な物だった。が、足を引き摺りながらバージンロードを歩く新婦はあっという間に話題の人となった・・
「ミーサ殿、いや今夜からミーサと呼ばせてもらう」
「・・はい、ミハエル様」
初夜
その気になどなれる訳も無いが、一応夫婦の寝室へと通された私はソファーへと腰を下ろした。
「今回の事は本当に申し訳ないと思っている。ミーサの夫としてちゃんと振舞う。だが・・」
そう言うと私の両腕と左足に視線が移る。
透け感のあるナイトウェアからは私の傷跡がしっかりと見えたのだろう・・
「君と本当の夫婦には・・なれない」
「貴方のせいでこうなったのに?」
腹が立った。
貴方さえ私に近付かなければ、貴方が紳士的な対応をしていれば、もしかしたら私もこんな傷を負わなかったかも知れないのに・・
「だから君を支えるために俺は・・俺も諦めたんだ。君も諦めてくれ」
そう言い終わると私の言葉など聞きたく無いと言わんばかりに寝室から出て行った。
私は内心ホッとした。
なぜならこの寝室は、サリドと夫婦になった時に使用する為に用意した物ばかりだったから。
貴方は何を諦めたと言うのかしら・・
一つため息を吐くと、一人では広すぎるベッドに横になった。
夫となったミハエルは甲斐甲斐しく私の世話を焼いた。(人の目のある場で)
一旦屋敷に入れば簡単に私に背を向けて自室へと向かう。そんな態度に使用人たちからは不満の声が上がっていたが、王命での結婚にそれ以上は何も言わなかった。
結婚から二年が過ぎた頃、公爵家の茶会に招待された私は断る事が出来ず参加した。
私の足を考慮してくれたのか、門から近い庭園に会場がセッティングされていた。
「「「本日はお招き頂きありがとうございます」」」
「こちらこそ良く来ていただき感謝しますわ。特にグードエル夫人」
招待された夫人たちが一斉に私を見る。
ああ、ここでも私は見せ物になるのね。そう心の中で思いながら笑顔で応える。
話の内容はいつも決まってミハエルの事だ。
あれだけの美貌だ、その後の様子が聞きたくて仕方が無いのだろう。しかも外でのミハエルは献身的に私を支える夫。
私は適当に質問に答えていく。
私から話す事など何も無いのだから仕方が無い。
こうしてお茶会も終わりに近づいた頃、一人の夫人が私に話しかけてきた。
「ご夫君は最近、街で良く見かけますのよ?あるお店の奥の部屋に女性と一緒に入っていくのを見ますの」
「・・・」
今回のお茶会はこれがメインだったのか・・
おそらく貴族の間ではもう噂が広まっているのだろう・・
「申し訳ありませんがほら、わたくしこの足ですから夫が何処で何をしているのかは分かりませんの」
そう笑顔で答えるとそれ以上は何も聞かれなかった。
結婚後三年、子供がいなければ離婚が出来る。これは王命であっても・・だ。
まずは情報を集めなければ!
私は屋敷に戻ると従者に声を掛けた。
両親にバレず調べて欲しい!と・・
ミハエルの行動は意外とあっさり分かった。
女性とは幼馴染のようで、もしかしたら諦めた事かも知れない。
女性とは私と結婚した後も頻繁に会っており、今まで良くバレずにいたなと感心した。
どう話を切り出そう・・そう思っていたある日、珍しくミハエルから声を掛けられた。
「ミーサ、食後に少し話せないか?」
私は女性の事だと気付き ええ と答えた。
夫と言えど自室に、まして寝室なんて絶対に入れたく無かった私は
「応接室にお茶を用意してくれる?」
と、メイドに声を掛けた。
ミハエルは少し不満気な顔をしたが今更である。
私は足を引き摺りながら食堂を後にする。早めに行動しなければ相手を待たせてしまう為、いつの間にか身に付いた習慣だ。
でもそんな私の行動を良く思わないミハエルは、夜会で友人たちにそう溢していた。
「それでお話とは?」
応接室に着いてかれこれ三十分は過ぎている。
もうお茶でお腹がいっぱいになり、仕方なく私から声をかけた。
「実は・・」
話しにくい事なのだろう。ミハエルは口籠もりながらもポツポツ話始める。
「俺に子供が出来たんだ」
「それはおめでとう御座います」
「えっ?」
「何か?」
「いや・・それだけかい?」
「そうですね・・。幼馴染の方との子でしょう?」
「・・・なぜそれを?調べたのか!」
「私が知らないと思っていたのですか?いいえ、私だけではありませんわ。この国の貴族なら知ってる事ですわ」
「そんな・・」
そのお顔は知らなかった!ってお顔ですわね。
「貴方が結婚初夜にそう言ったのではありませんか?自分は諦めたのだから私も諦めろ。と。それは、そうゆう意味ですわよね?」
「・・・」
バレていないと思ったのか・・ミハエルは驚きを隠せずにいる。
「それで?どうなさりたいの?間違っても私の血が入っていない子を我が家に入れる事は出来ませんよ?」
「・・!それは・・」
「貴方は婿入りです。私との子を作るのならまだしも、それすらも拒否しておいて外で作った子を侯爵家に迎え入れるなんて、考えても分かりますわよね?」
「・・では、どうしたら・・」
わたしは呆れながらも
「貴方がその女性と子供をどうしたいか!ではなくて?」
「僕は・・」
答えを出さないミハエルを応接室に置き去りにし、私は自室へと戻ろうと立ち上がる。
その際
「明日までに答えを。お腹の子は一日一日大きくなりますよ」
と言い残した。
執事長には 明日話があると両親に言付けを頼んで・・
ミハエルからは返事は無かったが私の気持ちは決まった事を両親に話した。
もちろん結婚以来寝室は別で、夫婦の営みも一度もない事。
結婚前からミハエルには女性かいて、今回その女性が懐妊した事。
そして、事もあろうかその子を我が家に入れようとしていた事・・
両親はとても怒り、その足でミハエルの部屋へ突入してしまった。
私は頑張って二人を追いかけたが・・この足でどう頑張っても追いつく事は出来ず、ミハエルの部屋に着いた時にはミハエルはお父様に殴られていた。
「お父様止めてください」
そう言っても両親の怒りは収まらなかった。
「君は我が娘を、我が家を愚弄した!わたしが言いたい事は分かるな?」
ミハエルは黙って頷いた。
「この事は王に報告をし、ミーサと君の結婚を無効にしてもらう。そう、我が家と君の間には何も無かったんだ」
そう言い終わるとお父様とお母様は王宮へ向かう為に準備を始めた。
私は屈む事が出来ない為、ミハエルを見下ろす形になってしまったが、ミハエルはそんな私を見上げると一言、
「君を愛せなくてごめん・・」
と言った。
「私も貴方を愛せなかったからお互い様よ。でも私は貴方を夫として尊重してきたつもりよ。貴方からは何も感じられなかったけれど・・」
そう言い残すと私はミハエルの部屋から出て行った。
私とミハエルの結婚無効証明書が届いたのは、ミハエルが我が屋敷を出て二ヶ月後。
私が怪我をして丸三年過ぎた後だった。
さらに半年。
ミハエルから女の子が産まれた。今は彼女の家の爵位をもらい男爵として騎士隊で働いている。
と連絡が来た。
私はミハエルが屋敷から出て行ってからリハビリ目的で入院をした。
少しでも歩けるようになるために。
完全に歩ける事は無いが杖を使わずに歩けるまでになった。
この事を伝えたい人は・・
「ねぇ、サリドは・・リフトン卿は今、如何されているのかしら?」
私が知っている事は、私がミハエルと結婚して直ぐに隣国へ向かったと。
王太子殿下の命で・・
その後の彼の行方は、この国で昇ることは無かった。
今はサリドに会いたい。
もう人妻ではない。何なら結婚が無効となった為に未婚だ!
堂々とサリドに会える・・でも・・
「もしかしたらもう結婚しているかしら・・」
あれから三年。
結婚していても不思議ではない。
もしかしたら子供だって・・
私はお気に入りの、良くサリドとお茶をした東屋でお茶を飲む。
「お嬢様失礼いたします。お嬢様にお客様がお見えです」
「私に?」
少し考えてから お通ししてと返事をする。
暫くして執事長と共に一人の男性がやって来た。
とても懐かしく、会いたくて仕方が無かった人。
「ミーサ久しぶり。君を迎えに来たんだ」
もう君の両親には話を通しているよ。
私は不自由な足で彼に向かって走りだした。
必ず私を支えてくれる人に向かって・・
読んでいただきありがとうございました!!!




