【2-1】その名は、 アルバン・ヒュ-トナ-
異世界召喚から2か月後。
「 初めまして、のぶ。あなたの魔術指導を担当する、アルバン・ヒュ-トナ-です。
お見知りおきを。」
言い終わるとニコっと笑顔を振り撒いて、彼は言った。
ふくらはぎまである長いロ-ブを着ているが、ロ-ブの下はス-ツ姿。意外だ。
この世界にもス-ツがあるんだぁ。しかもまたしても美形。ここは、美形しかおらんのか。
「初めまして。藤堂信之です。宜しくお願いします。」
「 のぶ。彼はエアフルト出身なんだ。今までは魔術の国で研鑽していたんだが、そろそろ国に帰りたいと上に申請していたところで、君の指導者を探していた僕としては丁度よかったんだ。」
「 オルス様、それは私も同じです。今回の依頼の件は。」
とアルバン・ヒュ-トナ-は、静かに言った。そしてオルスと目が合うと、意味深な笑みを浮かべ、話を続ける。
「 そう言えば、魔力量が計測不可だったとか?」
「 そうなんだ。計測不可なんて、そうそうあるもんじゃないだろう。才能は延ばすべきだと思ってね。君から見て、どうだい?」
「 今の段階では、何とも言えませんが。魔力量は成長とともに多少は増えますが、知れています。オルス様が仰るように魔力量は生まれついてのもので、増やそうと思って増やせるものではありませんから。ところで属性は、何だったんですか。」
僕は二人の会話を、ぼんやりと他人事のように聞いていた。属性については、そういや僕は何も聞いてなかった、ということに気が付いた。
「 のぶの属性は、風と雷に加えて水だ。三つ持ちだよ。」
とオルスは笑いながら言った。
「 それはまた。三つ持ちですか。なかなかですね。」
アルバン先生は、目を見開いて驚いている。
ほうほう。僕は風、雷、水の三つの属性がある、と。属性が三つあるのは、珍しいのか。
「 あのぅ。この世界では、属性が三つあるのは珍しいのですか。」
と、僕はアルバン先生とオルスの会話に、割って入った。
「 そうだね。一般に一つが主流で、あっても二つくらいかな。僕は炎一つだよ。」
「 オルス様は、一つといえど強力ですから。私は炎、風、ですね。」
アルバン先生は、肩をすくめて言った。
そんなこんなで、魔術の授業が開始された。
「 魔術はイメ-ジです。イメ-ジできないものは、魔力を使って行うことはできません。
例えば、風を使って魔術を行ってみせましょう。」
アルバン先生はそういうと、右手の中指を立てると、指先から小さな風の渦を出して見せた。
「 のぶもやってみますか?」
僕は、アルバン先生に促されて、同じようにやってみることにした。
「 先ず指先から小さな風を吹き出すようなイメ-ジです。できるだけ小さく、細く。」
む~ん。僕は早速アルバン先生に言われたように、指先に集中することにした。
目を閉じ、指先から風を吹き出すイメ-ジをする。小さく、細く、小さく、細く・・・・・・。
ゴウォォォォ~
と、その時、急に突風が部屋の中に吹き荒れ、僕は風の勢いで激しく壁に吹き飛ばされた。
ドンッ!と僕の体に強い衝撃が走った。
「 げふっ!」
と、僕の背後で蛙が押しつぶされたような声がした。
僕の後ろに授業の様子を見ていたオルスが、僕と壁の間に挟まっていた。どうやら僕と一緒に、吹き飛ばされたらしい。
「 オ、オ、オ、オ、オッルス?」
あまりのことに僕は動揺し、素っ頓狂な声でオルスを呼んだ。
オルスは壁に頭を強く打ったのか、後頭部を手で撫でている。
「 オルス様、後頭部を見せて下さい。あぁ、あまり動かさないで。意識ははっきりしてらっしゃるようですね。ポ-ションをお渡ししますから、飲めますか?」
アルバン先生はオルスに話しかけながら、腰の箱からポ-ションを取り出して渡そうとした。オルスは顔を上げてポ-ションを受け取ると、
「 有難う、アルバン。助かるよ。」
そういうと、一気にポ-ションを飲み干した。一瞬だけオルスの体が青白く光ると、直ぐに消えた。
と同時にオルスの後頭部の痛みは、消えたようだ。
「 オルス、大丈夫?頭は痛くない?他にも痛いところは、ある?」
僕ははらはらしながら、オルスに尋ねると、
「 のぶ、大丈夫だ。アルバンのポ-ションで痛みは綺麗に消えたよ。ところでのぶは大丈夫なのかい?体を強く打ってないかい?」
オルスの大丈夫だ、という返事を聞いて僕は心底ほっとした。良かった。大事に至らなくて。
「 僕は大丈夫です。大丈夫ですから。」
僕たち三人は、部屋に散らばった魔術書や筆記用具、倒れたテ-ブルを片づけた。
そして一息つこうか、という話になり、魔術の授業は始まって5分くらいで休憩となったのだった。
「 いや~。のぶの魔力量がとんでもないというのは、本当ですね。疑っていたわけではないですが、のぶは魔力量のコントロ-ルから始めた方がよさそうですね。」
と、アルバン先生はそう言うと紅茶を一口飲んだ。
「とはいえ、コントロ-ルが上手くできない間、こういう事が起こると危険だ。
どこか、いい場所はないか。」
とオルスが静かに応じた。
「 そういえば、近くに大きな湖がありますよね。あそこは、どうだろう。開けているし、屋敷からも程よく離れているのでは。えぇ~っと適切ではないかも、ですが、多少荒らしても問題ないのではないかな、と思うのですが。どうでしょう。」
と僕は思い切ってオルスに言ってみた。
「 そうだな。確かにあそこは手頃かもしれない。アルバン。明日は、その湖に案内するので、三人で行って試してみよう。」
「 分かりました。今日は、もう、止めておきましょうか。部屋を台無しにしても、いけないですし。続きは明日、ということで、今日はこれにて解散です。」
アルバン先生の一声で、今日の魔法の授業は、たった5分で終了したのだった。




