【1-7】 僕の日常
結局、オルスから貰った200ペニヒのうち100ペニヒを使い、残り100ペニヒを返そうとしたが、また何かに使うかもしれないからと言って、オルスは受け取ろうとしなかった。
そして、僕に言うのだった。
「 これからは、月に小遣いとしていくらか渡すようにするよ。」
具体的な金額はでなかったが、とても有難い申し出に感謝するやら恐縮するやらだ。
夜。ふかふかの布団の中に潜り、一日を振り返る。
今日で何日経っただろう。
まだ数か月も経っていないのに、何年も暮らしているかのような慌ただしさだ。
毎日午前中に、この国と僕のいるエアフルトの歴史と地理を。午後はマナ-とこの世界の常識などを。そして、剣の稽古もつけてくれるという話が出たのは、今日の夕食時だ。
さりげなく一つが追加になっている。これから、もっと増えそうな気がしてきた。
いや、魔術の基礎が既に加わる予定なのだけれども。休日って、あるんだろうか。
コンコン。とノックをする音で、目が覚めた。メイドのアグネスが、朝が来たことを告げる。
やることが増えてくるにつれ、目覚まし時計がないココでは、寝坊することが増えている。以前ならノックされる前に起きていて、着替えなんかしてたんだが。疲れているな、僕。
身支度を整えて食堂へ。朝食の時間だ。
朝食は、ス-プといった汁物が一品。メインディッシュは卵にチ-ズの盛り合わせ。サラダもたっぷりと。卵は目玉焼き、ゆで卵、スクランブルエッグやオムレツだったりする。バリエーションは、割と豊富だ。オムレツはプレ-ン、野菜が入っているものやチ-ズが入っていることもある。
僕は毎朝オムレツでいい、とさえ思う。オムレツの表面はふわふわ。フォ-クの先で、そっと触れるとふるふると揺れる。ナイフでオムレツに一本切れ目をいれると、とろっとした卵が中から融けだす。
といっても液体が出てくるわけではなくて、フォ-クですくえる程度に半熟な加減が絶妙なのだ。
これをバゲットの上に載せて、がぶっとかぶりつくのも、これまたイイ。
加えてベ-コンやハムがついてくる。僕は、そのうち肥満で悩むことになるんじゃないか。とても健康的だなぁ、とバランスと栄養価の良い食事を食べつつ、思うこの頃である。
およそ一時間ほど、ゆっくりと朝食を堪能し、その後は帰室して勉強の準備をする。
勉強を教わる場所は自室なので、先生を迎える準備をしておくのだ。
各授業の先生は、オルスが世話になったという先生方で、その筋では一流。
教え方が上手いし、話も面白い先生ばかりで授業はとても楽しいものだ。
これで宿題が少ないと尚更よいのだが、まぁ、そんなに都合よくいかないようだ。
僕は、結構な量を詰め込まれている。
剣は、今週から始まった。
剣の先生を担うのは、エアフルト領軍の副団長アルバン・バシュ。
彼の体型は、月並みだが筋肉隆々。上半身は 逆三角形である。細身の剣士ではなかった。
大量も相当ありそうな感じがする。身長は、2mを超えているんじゃないか。
「 初めまして、藤堂信之です。宜しくお願いします。」
とバシュ副団長に最初の挨拶をした時は、やはりオルスと同じように名前を上手く聞き取れずにいた。オルスがのぶと呼んだらいいよね、と僕に同意を求めてきたので、僕も右に倣えで頷いて応じた。
「 エアフルト領軍副団長、アルバン・バシュです。のぶ、しっかり指導するので、ちゃんとついてきてくれ。」
とバシュ副団長は、太陽のような笑顔で僕に挨拶をした。
「 はい。頑張ります。」
「 剣は習ったことがないと聞いたが、剣と似たような武器も習ったことはないのだろうか。武術も習ったことは、あるかい?」
「 全く経験したことが、ありません。」
「 うむ。そうか。何か運動は?」
「 いえ・・・・運動はしたことは・・・・・登山を少々するくらいで・・・」
「 登山か。では、とりあえず基礎体力を上げつつ、剣の振り方から教えましょうか。」
とバシュ副隊長はオルスを見て確認するかのように話した。
「 この件に関しては、バルシュ副団長に任せる。好きなように、やってくれ。
ただ、のぶの限界を超えるような無理だけは、させないように配慮して欲しい。
なにせ勉強の宿題が少なくないようだからね。」
と右目をウインクしながら、茶目っ気たっぷりにオルスはバシュ副団長へ要望をだした。
僕は、オルスの言葉を聞いて、ほっとした。剣の指導が入り疲れて寝てしまったら、宿題どころではなくなる。あまりにも酷いと、先生を紹介してくれたオルスの顔を潰すことになる。そんなことは、避けたかった。
「 分かりました。異存はありません。一時間でやれることは、限られていますし。では、早速始めようか。」
とバシュ副団長は、僕に剣の持ち方を指導した。
いきなり真剣を持つわけではなく、当たり前だが木剣を最初は使う。諸刃の剣が主流らしい。
僕としては刀の方が細身で持ちやすそうに感じるが、とりあえず腕の筋肉を鍛えなくては剣は振れない。剣道で面を打つ時のような素振りを20回3セット、1セット終わると5分休むを繰り返した。まぁまぁ、疲れた。
その後、5分程度休み、2kmほど走った。これは、なかなかしんどかった。
バシュ副団長は比較的ゆっくり走ってくれているようなのだが、なんせ暫く運動をしていなかったし、普段からマラソンなどしたりしない。
歩くのなら20kmぐらい歩いて見せるが、走るのは頂けない。
おかしいなぁ、無理はさせないように、とオルスが言ってなかったっけ?
と、僕はゴ-ルしたとたん地面に倒れこみ、空を見ながら思った。
「 今日は、ちょっときつかったかな。のぶ。君の体力を、見させてもらったよ。
走るのは、苦手か?」
バシュ副団長は、けろっとした顔で僕に話しかけた。
「 そうですね。普段から走ってないので。歩くのなら、20kmくらい歩きますが。」
「 ふむ。そうか。登山をしていたと、言っていたな。覚えておこう。
では、今日の練習は、これで終わりだ。お疲れ様。解散。」
快活な口調で、明るく締めくくると、バシュ副団長は、
「 次は二日後だからな。」
と片手を上げて言うと、颯爽の去っていった。
その後ろ姿に、僕は慌てて
「 有難うございました。次も、宜しくお願いします。」
とお辞儀をしつつ大声を張り上げて言った。
彼の後姿が消えるのを確認すると、僕は地面に座り込んだ。
あぁ~、しんどかった。ひっさしぶりに走った。これが週に三回・・・・・・
週に三回・・・・・頭の中で、エコ-が響くのだった。




