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【1-5】とりあえず身近なところで、自由市場-1

「 のぶ。君は、とても呑み込みが速い。大変、結構。さらにテンポよく授業を進めよう。」

ひぃぃぃぃ。オルスの言葉に、僕は頭を抱えて震える。

「 ゆっくり進めると、言ったじゃないか。世界史、この国の歴史、これだけで十分。なのに、これ以上速めて何をっ」

と、慌てて言い返す僕の言葉を遮り、オルスは真面目な顔をして僕に告げる。

「 マナ-と常識です。」

「 え?」

「 今後、どのような身分の人と出会うか、また一緒に食事をしたりする機会があるかもしれません。人との付き合いでは、マナ-と常識は外せません。」

続けてオルスは、話す。

「 今後は、午後に社会見学という名目で町など外の世界を見てもらいます。先ずは今住んでいるこの領地の領民の暮らしぶり。どういったところで買い物をしているか。どのような仕事をしているか。市場を見れば、物価もおおよそ分かってくるでしょう。

で、あれば、流通している貨幣の単位や金額なども分かってくるはず。

自分で買い物ができるようになるに、こしたことはないだろう?」

ごもっとも。ごもっともなことです。とはいえ、ゆっくりできると思っていたのに、急激に忙しくなるのは、ちょっとごめんだった。少々不満げな顔をしていたのだろうか。

オルスは、僕の顔をじっと見つめると、

「 忙しい方が、かえっていいかもしれないぞ。余計なことを考える暇がない。」

僕は、ふっと顔を上げて、オルスの顔をまじまじと見つめ返した。


オルスの言うことに、一理あった。僕は暇なときに、ふっと元の世界の事を思い出すことがある。少しづつ、断片的ではあるが、召喚された瞬間であろう、あの場面も思い出している。

そういう時は、もやもやとしたものが、僕の心の底で渦巻いていることが多い。

両親は、どうしているだろうか。友人たちは。元の世界に、戻れるのか。元の世界で、俺はどうなっているのだろうか。神隠しにあったと、騒いだり心配しているのだろうか。僕は、ここで元気にしている、と元の世界の両親に、告げることができないもどかしさ。

そういう時は、決まって何とも言えない気持ちとやり切れない気持ちが襲ってくる。

色んな思いが、僕の頭の中でぐるぐると回っている。処理しきれずに、泣きそうな気分でいると、

「 今日は、午後から町へ行ってみますか。昼食後にでも。」

と、オルスは柔らかい笑顔で僕を誘った。



昼食後、少し休憩をはさんでから、オルスに誘われて町へ繰り出した。

彼はいつもなら馬に乗って町へ行くが、僕が馬に乗れないことを知ると馬車を用意してくれた。

馬車はごく普通のもので、派手な装飾は施されていない。

領主の家は、町から少し離れた小高い丘の上にある。馬車で30分くらい乗って、町の中央へ行くとのことだった。馬車は少し揺れる程度で、乗り心地は悪くない。普通電車にある椅子のような座席。近場に幾分には、申し分ない。魔物がでるのは、郊外からでた山脈山麓で、ここらあたりには滅多に魔物はでないということだった。

「 例外は、あるがね。竜だよ。」

と肩をすぼめて、オルスが困ったように話していた。

領主宅から見下ろす町は、かなり大きいと思っていた。山脈のように続く屋根。

実際に行ってみると、もう東西南北が分からないくらいだ。

オルスの勧めで、自由市場へ行くことになった。

毎週、決まった曜日に開かれる自由市場は活気があり、威勢のいい呼び込みで客を引き留める。生鮮食品(但し、川魚などはあるが、海の魚介類はない)、生活必需品、衣類やアクセサリ-など。

串焼きのような簡易的な食べ物も売っていて、食べ歩きをしたら楽しそうだ。

とにかく何でも売っている。帆布屋根の簡易的な店。屋台のような店もある。

一店舗ごとに区分けがされており、誰がどの場所で売るのか決まっているようだった。

僕は神社などの夜店に来ているような気分になり、楽しくなっていた。

「 のぶ。君に200ペニヒを渡すから、好きなものを買ってみるといい。」

オルスはそういうと、僕にやや大きな銅貨一枚と100円硬貨くらいの大きさの銅貨10枚を渡した。

僕がオルスの手を見て躊躇っていると、

「 遠慮するな。私も一緒に買い物を楽しむよ。第一、君はここでは一文無しで財産がない。遠慮することはない。」

「 あ~・・・では、有難く頂戴します。」

僕はオルスから銅貨11枚を受け取った。


オルスと市場を歩いて、既に20分以上は経っていると思うが、市場の終わりにはたどり着く気配がない。どれだけ長いんだ、と思いつつもおのぼりさんのように、キョロキョロと周囲を見渡す。

200ペニヒって、日本円にしていくらくらいなんだろう。何が買えそうかな。

大したものは買えなくても、買い食いくらいはできるんじゃないか。

そう考えている時、とても良い香りが漂ってきた。揚げ物、肉の焦げる匂い。

食欲をそそられる。どれがいいかな。串焼き。揚げパンのようなものは、中に肉の餡が入っているっぽい。サンドイッチのように、パンに具をはさんでいるもの。何だかよくわからない塊も売っている。僕はオルスをちらっと横目で見た。オルスは、ある店を見ている。と、僕と目が合った。

「 のぶ。あの店に行かないか。あの店のパステ-トは、絶品なんだ。」

「 お、、、おう。」

と、オルスの勢いに飲まれ、二つ返事でオルス推薦の店へと向かう。

どう見ても向かっている店は、精肉店だが。日本みたいにコロッケとか総菜を売っているのだろうか。

「 あれがパステ-トだよ。」

とオルスが指さして教えてくれたパステ-トは、パイのように見えた。精肉店だから、パイの中身は肉というところか。

店の前には、人が並んで待っていた。店主の母親のミ-トパイが好評で、肉と一緒に売るようになったのだとか。わざわざパステ-トだけ買う人もいるらしい。

手際のいい店員の客さばきで、待ち時間は大したことがなかった。

僕の番になり、パステ-トの値段を改めて見る。

【パステ-ト一つ 2ペニヒ】

う~ん、高いのか安いのか、全くわからん。僕は、思わず声に出しそうになったが、オルスから貰った銅貨が殆どなくなるわけではないので、早速買ってみることにした。

つややかなパイ生地がこんがりと焼けて、とっても美味しそうだ。葉っぱの形もいい。

「 まいど。2ペニヒだよ。」

明るい声の店員が大らかな笑顔で2ペニヒを受け取り、紙で包んだほかほかのパステ-トを僕に渡した。オルスもパステ-トを一つ買っていた。

二人は市場の端の椅子に座り、早速熱々のパステ-トを頬張った。齧り付いた瞬間、じゅわっと肉汁が口に溢れる。パステ-トの中からゴロゴロとした肉の塊が、こぼれ落ちる。あっという間に、口の中はパステ-トの具で一杯になる。飲み込むときに、スッと鼻から抜ける香草の香りが爽やかだ。

「 うまいなぁ~。」

思わず声が出る。オルスは当然だと言わんばかりの顔で、

「 そうだろう。私は、毎日ここのパステ-トを食べたいくらいだよ。」

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