【1-3】 それから
「 才能がない才能・・・・ですか・・・・」
僕、藤堂信之は愕然としていた。ばかみたいにある魔力量を、一体何に費やせばいいのか。
「 えぇ~っと、僕、これから、どうすりゃいいんでしょう?」
なんとなくだが、面と向かって二人の顔が見れずにいる。
二人はどんな顔をしているんだろう。呆れているか。憐れんでいるか。
僕の向かいにいる彼らの顔が、怖くてとても見れない。
「 とりあえず、魔法量があるのだから、魔法の勉強をしてみたらどうだろう?」
と、オルスが僕に話しかけてきた。僕は、そっと伺うようにオルスの顔を見上げた。
オルスは憐れみも侮蔑もない、最初に会った時と同じ柔らかい笑顔で僕を見ていた。
ちょっと背中を丸めて、顔を僕に近づけていた。
「 そうですねぇ。魔力量が尋常ではないのだから、そこに注力するのは手ですね。」
エドガ-も同意する。顎に手を置き、うむうむと納得するようなしぐさをしている。
「 あのう、僕の元居た世界では、人間は魔力を持ってない世界で。
魔力や魔法は、おとぎ話やファンタジ-の世界・・・というか、空想の世界でしか存在しないもので。
魔力量が凄いと言われても、そのなんというか・・・・」
と僕がおずおずと上目遣いで言い返すと、
「 だからだよ、のぶ。魔法学校で、魔法の使い方を勉強して、先ずは魔法師になるんだ。」
とオルスは両手を広げ、背筋を伸ばして応じる。
「 この世界には魔法の国があるが、ここ鉱石の国エルツにだって魔法学校は、ある。
先ずはここで魔法の基礎をしっかり学び、その先はまた考えるといいよ。」
とエドガ-がにこやかに僕を見て応える。手は顎にあてたままだ。
そうかぁ。魔法学校かぁ。
魔法が使えたらなぁ、と元の世界にいた時は、随分憧れたもんだ。
実際、自分が魔法師に成れるかもしれないと思うと、正直なところワクワクしないでもない。
ただ、あまりにも現実味がないだけで。腕を組むと、う~ん・・・と僕は、考え込んでしまった。
ここから離れるのかな。
ちょっと、ほんのちょっとだけど、慣れてきたこの場所。
優しく活発ではきはき物を話すメイドのアグネス。寡黙だが何でも柔軟に対応してくれる執事頭のオット-。異世界人の口に自分の料理が合うか、気を使ってくれる料理長のヘンリ-。
皆、ちょっとづつ距離が縮まってきたところだ。
だのに、また違う場所へと、行かなくてはならないのだろうか。不安だ。
「 魔法学校は、ここから通えるのでしょうか?」
と、基本的なところから尋ねてみた。
「 この町にも、魔法学校はあるが・・・・どうしてだい」
とオルス。
「 元の世界からこの世界に召喚されて二週間。ちょっと、ほんのちょっとだけど生活に慣れてきたのに、また場所を変えなくちゃならないのかと思うと、正直、不安です。」
「 それもそうだな。ここから通えるが、学校までは、ちょっと時間がかかるな。
そうだな。家庭教師をつけてみるとするか。まずは、この世界に慣れないとな。
生活の基盤がないのに、あれもこれもと詰め込むのも、無茶な話だ。
生活については、私が面倒を見るので安心してもらいたい。」
オルスは自分の胸を、とんと軽く叩くと力強い瞳で僕の顔を見返した。
そんなオルスが神様のように見えた。有難う、オルス。これで生活の心配をしなくてもいい。
あ、ひょっとして、この家って、オルスの家なのだろうか?
オルスは一体、何者なのだろうか?
ノルトライン伯爵、オルス・バルフェット。
オルスはなんと、伯爵家の血筋で、将来伯爵家を継ぐものだった。
オルスの一族は代々、鉱石の国エルツの北部領エアフルトを治めている領主である。
鉱石が発掘できる山には魔物がつきもの。
特に竜害と言われるほど竜による襲撃が多く、辺境の領主は一番頭を悩ませているところであった。
辺境ながら、いや首都から遠く離れ、おいそれと軍が駆けつけられない辺境だからこそ、魔物に対抗できる武力を維持していた。
もちろん、武力の中には、魔法も含まれている。
空を悠々と飛ぶ竜に、地を這う人間では、魔法で対抗するしかない、という現実がある。
だからエルツには魔法師も沢山住んでいて、魔法の勉強も盛んなのである。
また鉱石が眠っている鉱床を探し出す技術、掘り出す技術も必要である。
そういったことから竜の攻撃から身を国を守る武力や戦力だけでなく、技術や知識にも力を入れている国なのだそうだ。
首都に行けば、この世界のトップクラスの水準にあたる大学などの学校や専門機関があり、才能のあるものは貧富の差なく国の援助で学ぶことができる。
また学を修めたものは大学や研究機関身を置く者もいれば、その学んだ成果を出身地へ持ち帰り、地元の発展に尽力するものもいるとのことだった。
エアフルトは後者が多くいるとのことで、北部地方だからといって見劣りすることはないそうだ。
と言うような話を、オルスから聞いた限り、僕は運がいいと思った。
全くの安全とは言わないが、ある程度の安全は保障されている。
しかもエアフルトにおいて、オルトは優秀な権力者であり、庇護者である。
部下からも領民からも、とても慕われている。
彼が、どれだけエアフルトのことを考えて、普段から行動しているかが伺われる。
少なくとも衣食住の心配は、必要なくなった。
だが、僕は、どれだけ彼らの期待に応えられるだろう。
魔法師という夢に挑戦できる嬉しさと、彼の期待に応えられなかったらどうしようかという不安が、胸の中を去来するのだった。
僕に教える魔法師に、心当たりがあるような感じのオルスであったが、相手の事情もある。直ぐに授業に入るわけではないのが、救いだった。
僕にも、少し時間が欲しかった。覚悟を決める時間が。
話の展開が急に速くなり、僕の心が追いつかないでいる。
とはいえ、追い出されなくてよかった。異世界召喚あるあるなので、内心ドキドキしたのだ。
今日も、明日も、美味しい食事ができることに、感謝する僕であった。




