【2-3】 僕の杖
飛行魔術にも随分慣れてきた。思いのままに飛ぶことができた。これで、歩かずに移動ができて、大変便利だ。と、満足する日々。飛行魔術は、とても楽しい。
領主宅を中心に、エアフルト領を日帰りできる範囲でうろついた。ここ城郭都市ラインもいいが、その近くにある中核都市オルデンが気に入っている。元々オルデンがエアフルトの中心地だったのだが、手狭になったことと鉱脈の発見で山側にある盆地ラインへ引っ越したと言うことだった。
そういうことからオルデンは、古都という呼び名に相応しく、古い町並みには歴史、時の積み重ねを感じさせるものがあった。
オルデンは落ち着いていて、静かに時を紡いでいる感じがする都市だった。だからと言って活気がないわけではなく、情熱のような激しい感情は心の内に秘めているようだった。
今は魔術と技術の都市として、城郭都市ラインから運ばれている鉱石や宝石などを使って魔法道具やアクセサリ-を作って販売している。
僕にはお気に入りの魔法具店があり、そこにちょくちょく顔を出している。
- 魔術道具の店 山高帽子-
大通りの角を曲がって細い路地に入ると、その店がある。店の看板を見て確認をすると、いつものようにドアを開けて店内に入る。
カランカラン。
ドアにつけられているベルが鳴る。店主に客が来たことを告げる。
店主が奥から出てきて、
「 いらっしゃい。買うものは、決まったかね。」
といつもの挨拶のように言う。
「 こんにちは。また新しい魔道具が並んでいるね。これじゃ、いつまで経っても決められないよ。」
と応えるのが、二人の会話の始まりだ。
実はアルバン先生から杖を買うように言われてオルスに相談すると、代金は持つから杖を一緒に買いに行こうと言われているのだ。
欲しい杖は、あらかた決まっているのだが、この山高帽子には面白い魔法付与のついたアクセサリ-や魔道具があるので、今まで貯めた小遣いで一緒に買えるものがないか探している。
探しているのだが、欲しいものがありすぎて決められないでいた。
中には冒険者がダンジョンから得た類のものもある。ピンキリだが、ユニ-クなものが多いのはダンジョン産だ。面白いが便利だと思ったのは、“体を綺麗にする魔法”、通称風呂いらずの巻物。
旅に出た時に、便利だ。絶対に、役立つ。だが、今は必要ない。
今は必要ないが、いつまでもオルスに世話になるわけにもいかないんじゃないか、とぼんやり考える。まだまだ僕には分かっていないことが多い。
オルスに言われるがままに、あれこれと勉強をしていて考える余裕がないというのが現状。
カランカラン。
ドアのベルが鳴ると、オルスが店に入ってきた。
そう。オルスとここで落ち合う約束をしていたのだった。
今日、僕は山高帽子で杖を買うのだ。
「 のぶ。買う杖は、決まったかい?」
とオルスは僕に尋ねる。
「 これなんか、どうかな。」
と僕は店内にある一本の杖を指さして、オルスの助言を求めた。
杖は木でできて棒状。棒には青い布が、部分的に巻きついている。先端は円のようになってはいるが鎮静の月を思わせ、その月の中心に丸くて青い石がはめ込まれている。円の反対側、杖が地面に触れる部分である石突には、金属で覆われて保護されている。 色は白銀。
「 あぁ、いい杖だね。」
オルスは僕が指さした杖を見て、先ずは一言。そして、ん?という顔をして、暫く杖を見て納得したかのように何度か頷くと、
「 君がこの杖を選ぶとは、つくづく縁があるんだな。」
と、嬉しそうに言った。
「 これはね。アルバンが作った杖なんだよ。」
オルスがそう言い加える。僕は、びっくりした。アルバン先生は優秀な魔法師だと単純に思っていたが、魔法道具も作れる職人だったとは。
「 アルバンは別名で魔法道具を作ってるから、あまり知られてないんだが、実は物凄く評判がよくてな。直ぐに売れることが多いよ。これはお前さんが随分気にしておったから、売らずにとっておいたんだ。けして安くはないんだがなぁ。」
店主の言葉に、僕は感激した。
「 まぁ、作り手に似て、あまり素直じゃないが、いい相棒になると思うよ。店主、これを買おう。」
ん?あまり素直じゃない、とは?オルスの言葉に、今度は僕が首を傾ける。
「 まいど。一つおまけをつけとくよ。これは一回の使い切りだが、持ち主が攻撃を受けたら代わりに攻撃を受けてくれる指輪だ。」
「 わ~い。有難う。」
「 この杖と仲良くな。」
そう店主は僕に言うと、杖を僕に渡した。指輪は、とりあえず右手の指に嵌めておいた。
オルスが店主に杖の代金を払うと、僕たちは店を出た。
「 オルス、杖を買ってくれて有難う。」
「 どういたしまして。杖を可愛がってやってくれよ。アルバンがこの杖を見たら、驚くだろうな。」
とオルスは愉快そうに言った。
後日、アルバン先生の授業で杖を持っていくと、
「 あっ。君は、この子を選んだのかい。」
と驚いていた。”この子”。間違いなくアルバン先生が、作った杖なんだ、と僕は実感した。
そしてアルバン先生は、懐かしそうな目で杖を眺めると、
「 そうか。君はのぶに貰われていったんだね。」
と呟いたのだった。




