地の獄
「アルガ、お前はクビだ」
宿屋の一室に呼び出された俺は、扉を開けた瞬間にそう告げられた。
……突然のことで、理解が追い付かない。
「え、えっと……ごめん。何の話? 付いていけないんだけど……?」
「お前…借金があるだろ」
追放を告げた男、カナトは周りに女を3人はべらせながら、俺を睨みつけていた。
当然のように、その女たちも俺のことを睨みつけている。汚い物を見るかのような、そんな眼差しを俺に送っていた。
「…! ごめん、そんな…隠すつもりはなかったんだ」
「どの口が言っているかしら。嘘をつくような人は信用できないわ」
「そうよねー。それに借金持ちがパーティーにいるだけで私たちの信用も下がるのよ」
「クビの理由はもう一つある。お前より低賃金で働きたいってやつが現れたんだ。そいつはお前より優秀でなぁ…これ以上リスクを背負ってお前を雇う必要はないと判断した。」
「…分かった。今日中に荷物をまとめて出ていくよ」
僕は別の宿屋を取り、ベッドに座り込んだ。一人になった途端、将来への不安とか罵声が蘇ってきて涙が出た。
「これからどうしたら…」
僕は鞄の中から羊皮紙を取り出す。そこに書かれていたのは借金の総額5億ゼニとアルガという名前だった。
借金取立人に連れて行かれたのは、町外れにある石造りの建物だった。外観は古びた倉庫のようだが、中へ入るとそこは眩い光に包まれた別世界だった。
香の煙、酒に酔った笑い声、そして悲鳴。広間には円卓が並び、サイコロやカードが乱れ飛んでいる。勝者は女を抱きしめ、敗者は床に突っ伏し、ある者は兵に引きずられて奥へ消えていった。
「ようこそ、“地下賭場”へ」
取立人が不気味に笑い、俺の首に首輪をつけた。
「その首輪は爆弾だ。お前が一歩でもこの賭場から出れば…首と胴は永遠にお別れだ」
見渡せば、全員が目を血走らせている。借金を抱え、追い詰められ、最後の望みをこの場に賭けた者ばかりだ。
俺の心臓は早鐘のように打っていた。だが、逃げ道はない。
「……やるしかない」
⸻
最初に案内された卓には、二つの巨大なサイコロが置かれていた。
胴元がルールを告げる。
「出目の合計が偶数なら勝ち、奇数なら負け。賭け金は最低一千万ゼニから。負けた場合は腕を一本差し出してもらう」
周囲がどよめく。笑っている者、震えている者。
片腕のない男が隅に蹲っていた。
(これは……金だけじゃなく、命を賭けさせるゲームか)
俺は冷や汗を拭った。だが、ただ運に任せるだけではないはずだ。観察しろ、アルガ。
胴元がサイコロを手に取った瞬間、俺は気づいた。
――握り方が不自然に強い。特定の目を出す“癖”がある。
さらにテーブルの傾きも微妙に仕組まれている。
「……イカサマか」
周囲の挑戦者たちは気づかずに大金を失っていく。悲鳴と血の匂いが漂う中、俺の番が来た。
借金帳簿に刻まれた「五億ゼニ」という数字が脳裏にちらつく。
ここで勝てなければ、俺の人生は終わる。
「……一千万全部だ」
俺は持ち金をテーブルに叩きつけた。
周囲が一斉にざわめく。
胴元の口元が歪んだ。
「ほう、面白い。命を張った大勝負か」
胴元がニヤリと笑い、サイコロを振ろうとすると俺はそれを止める。
「…待て、その前にこのテーブルを調べさせろ。このテーブルは数センチ傾いている」