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イミグラントソング  作者: 空一
イサキ1
16/23

イサキ1 エピソード3

挿絵(By みてみん)


東帝大の情報コミュニケーション科は日本でも三本指に入るほどAIに強い学部らしい。堀教授の専門はAIを活用した地震予知などで、中でも膨大なデータベースから統計的に分析し、二ヶ月前からAIが災害予測をし、介護施設などの施設同士が予め連携できるよう災害対策を段階的に提示し支援するという実用的な研究が有名らしい。もちろん読む気はないけど。

「意味ですか」

六〇歳を迎え、定年が囁かれる堀教授は天井を見上げるようにそう答えた。熱探知にAIを入れる意味が私にはまだ理解できなかった。笑われると思ったが、さすが教授。真面目に聞いてくれる。

「その熱が何であるか。かなり高度な検知が必要ですね。猿人ならばその熱が猿人のものであるとわかる。例えば銃の上に猫が寝そべったらどうなりますか。そして銃の近くに人がいたら。開発段階ではそういった状況を想像する力が必要になってくる。熱探知は実にいい発想だ。事件になったのは残念なことだが感心する」

なるほど。熱探知ということは熱に反応するのだから、例えば太陽光で熱くなった銃が落下したり、何らかの衝撃を受けたりしたとき、暴発するということも考えられる。

「人の温度を個人差で感知することは将来的には可能だろう。手のムラや心拍数までわかればそれは完成されるかもしれない。でも今はまだ難しいだろう」

「ところでプログラムを一般公開したのはいつ頃ですか?」

「そうだな。丁度一年くらい前になるだろうね」

「なぜ公開しようと思われたんですか」

「学生の研究のためさ。AIだともて囃されてはいるが、子供騙しのような代物だ。まだまだ商品化できるようなものじゃない。GPLにすることで開発に拍車が掛かれば世界の技術も上がるだろう。今はまだ競争なんて言っている段階じゃない。一歩抜きん出るのはその後で良い」

「学生で先生のプログラムを使用して実際に何か作ったりしているんですか」

「そりゃあ、もちろんだ。うちのゼミではみんな私のプログラムを使用して様々工夫しているよ」


 Kon Kon


教授はドアを向く。

「先生、そろそろお時間です」

「刑事さん、すまないが大事な来客があってね、このあたりで失礼させていただくよ」

「学生たちのお話を聞いてみてもよろしいですか」

さっきまで不機嫌だった教授の表情がなぜか明るい。

「もちろん。刑事さんにリストを渡してあげて」

「わかりました」

アシスタントが笑顔で答えると、教授はそのまま自室を出た。部屋の中を調べられても問題ないということか。アシスタントはしばらくお待ちくださいと言って部屋を出て行こうとする。

「ちょっといいですか」

「はい。なんでしょうか」

「来客というのは、どんな方ですか」

「あー。出資会社ですよ。今大学発ベンチャーが流行ってまして、AIが大注目されているんです」

「あ。地震予測の?」

「いえ、介護の方です」

 

ロビーに戻ると奈良が学生たちに囲まれて楽しそうに語り合っている。読めないやつだ。

「あ、イサキさん。どうでしたか」

「強かな印象ね。今のAIはまだ商品化できるようなものじゃないって言われちゃったわ」

「つまり計画的な殺人はできないってことか」

「教授の部屋には元木、白石に関係しそうなものはなかったし、動機も不明」

「教授が犯人ってのは少し無理があるかもしれませんね」

でも犯行が事故を装った無差別な殺人だったら、手がかりはここにしかない。

「新井さんが前足から洗い直してくれているし、私たちは学生を当たりましょう」

奈良はオーケーサインを私に突き出す。こいつキャラ変わってきたか。ちなみにオーケーサインはアラブでは侮辱を表す。幼い頃の記憶がないから実感はない。

結局この日、学生からは教授や容疑者として浮上しそうな類の話は聞けなかった。栄養を分析し、ついでに旨味成分を評価するジューサー、脱臭機能に特化した風を操る便器、サプリメントの使用者をビッグデータ化しAIで分析するアプリ、椅子を工学的に分析しAIで設計・構築するソフトウェア、売れる雑誌のレイアウトを再現するAI、幼児の嗜好性を親の性格から判断するAIなど学生の熱い研究を知ることができた。奈良は環境ホルモンを分解するのに役立つAIに興奮し無駄に時間がかかった。逆浸透膜というフィルターで水を純水に近い状態にでき、そこから環境ホルモンを抽出しデータ化する。モデルガンに結びつくかはわからないが、昨年中退した学生があらゆる生物のDNAデータを集めて キメラを構成するAIを研究しているというサイコな情報にたどり着いた。オープンソースという、世界に公開されているAI。どこでも手に入るモデルガン。花火で自作できる銃弾。こんな広範な情報で果たして核心に迫ることができるのか。

「なんだか気が遠くなってきたわ」

「サイコ野郎以外はどれもスケールの小さい自由研究みたいなもんじゃないですか。まあ、あたるだけあたりましょう」

お前は単なる興味本位だろう。学生の思考回路は大体過去の教えや記憶から派生する。だから普通ある程度似通った発想ばかりになりがちだ。でもたまにそういうルールを逸脱する奴が現れることがある。

「そう言えば元木の会社はIT企業だったわね。下請けは全て洗ったんだったら、何か出てこなかったわけ?」

「プログラムといっても沢山あるようで、元木が扱っていたプログラムは構造的にはレベルの低いウェブサービスだったみたいです」

「ウェブならAIに近いんじゃないの」

「同じことを聞きましたよ。でも言語から違うようで、空振りだったようですね。アプリ開発ならまだしも。と言うことらしいです。元木のラインは白に近いですね。通信上の接点もないですし。モデルガンの入手経路は不明なままですが。白石のラインも捜一によると購入の形跡はありませんでした。犯人から直接渡っている可能性が高いと思いますよ。防カメも空振りですし、教授のラインはまだ未知数ですから、可能性はあると思います」

こいつに励まされるとは。敵なのか味方なのか読めない奴だ。

「そう言えば、どうして二課じゃなくて公安なの」

「一応この事件は終わっていますからね。表立って動けないんですよ」

なるほど、私はくノ一ってとこね。

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