表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【12/25書籍発売・コミカライズ同時連載開始】異能の姫は後宮の妖を祓う 平安陰陽奇譚  作者: 藤夜
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/67

11 興味

「で、昨夜はどうだった?」

「あふ……どうって」

 

 あくびの最中に名虎に聞かれて、楓は口を押さえた。

 

「陰陽頭と調べに行ったんだろう? なんか出たのか?」

 

 名虎は好奇心いっぱいの表情で楓を覗き込んでくる。楓は首を横に振って何も、と答えた。

 丑の刻まで内裏にいたが、結局昨夜は何も起こらなかった。いったん三条の屋敷に戻ったものの、あと数刻で起床時間となれば寝ることもできず、そのまま出仕してきたもので非常に眠い。あくびを噛みころしながら博士の話を聞いていたのだが、休憩時間に少し寝ようと思ったらそうはいかなかった。興味深々の名虎が離してくれない。

 

「今夜も行くんだろう? 午後は帰ると聞いたぞ」

「そうなんだ。しばらくはそうしろって言われて」

 

 夕方まで仮眠をとって、夜に内裏の宿直に加わるのだ。今夜は妖が現れた場所を調べる予定になっている。

 弘徽殿には利憲が式神を置いていると言っていたので、桜子に何かあればすぐに駆けつけられる。熱ももう出ないとは限らない。念の為に毎日楓の準備した新しい葉が、陰陽寮から弘徽殿に届けられることになってる。

 自由に会える立場でないのがつらいが、近くにいられるだけでも安心だ。

 

「いいな、お前。陰陽頭の呪術を間近でみられて。怨霊を調伏するところなんか、滅多にみられないんだぞ」

「え、そうなの?」

「ああ、みんな占いや儀式は色々するけれど、強い呪力を持った陰陽師は少ないからな。おっと、内緒だぞ」

「へえ」

 

 陰陽師が皆、強い呪術が使えるわけではないらしい。楓は名虎の言葉に軽く驚いた。

 

「じゃあ、式神を使えるのは?」

「式神? そんなの陰陽頭(あのひと)ぐらいだろう。色々と別格だからな。代々陰陽頭を務める優秀な陰陽師を輩出してきた賀茂家の中で、過去一と言われているんだ。見た目も若く見えるけど、何歳なのかわからないんだぜ。十年前から歳食ってないって、陰陽師の先輩が言っていたからな」


 楓は少しびっくりした。そういえば利憲の外見は三十に届かないように見えるが、その年齢で陰陽頭になっているのも早すぎる。

 

「妖を飲み込んだからだとか、不老長寿の術を身につけているんじゃないかって噂だぞ」

「へえ〜」

 

 名虎の話に楓は目を丸くした。

 

 


 

 今夜も宿直だという斉彬を門の前で待っていると、楓はふと昼間に名虎に聞かされた噂話が頭に浮かぶ。隣に立つ噂の主を見上げると、作り物のように端正な横顔があった。

 全体に色素の薄い彼の瞳は、夕暮れも過ぎた薄闇の中でほんのり銀を帯びて見える。垂纓の冠から出る後れ毛をほのかな風になびかせて、少し空を見上げるさまは、絵巻物の一幕のような(みやび)さだ。

 

(確かにそう言われてみれば、女顔だから若く見えるだけなのかも)

 

 髭のあとすら見えないなめらかな肌はまるで少女のそれのようだし、髪を下ろして着物を着替えれば、やや年嵩の女官と言っても誰も気付かないだろう。

 よくよく見てもとてもそうは思えないのだが、きっとそれなりの年齢のはずなのだ。

 

「なんだ?」

 

 まじまじと顔を見てくるのにたじろいでそう尋ねたところ、楓は利憲が思いもよらないことを言い出した。

 

「利憲様、実は四十路(よそじ)だって本当なんですか?」

「はあ?」

 

 常に冷静で表情を変えず、氷のようだと評される陰陽頭の顔が奇妙にゆがむ。

 

「誰だ、そんなふざけた事をお前に教えたのは」

「違うんですか? 役職についている方は皆年配の方なのでそうかと思って」

「先代が早くに死んだだけだ。陰陽頭には賀茂家の者がつくのが半ば慣例になっているからな」

「十年前から姿が変わっていないと言っていました」

「十代から変わらんわけがなかろう。……名虎達だな」

  

 楓の反応から大体の事を悟った利憲は、はあと大きなため息をついた。

 あまり変わらないのは、昔から老け顔だったせいもある。

 

「若いやつらは何を噂しているかわからんな」

 

 そういう台詞が年寄りじみているので誤解を生んだのではないかと楓は思ったが、文句を言われるのがわかっているので黙っていることにした。

 

「くだらんことを言っていないで、行くぞ」


 門の向こうに斉彬の姿が見える。すたすたと彼の方へ歩いていく利憲の後ろを、楓は慌てて追いかけた。

 

「で、実際は幾つなんですか?」

 

 追いついてそう聞くと、うるさいと言って頭をはたかれる。教えてくれないので余計に知りたくなった。隠すようなことでもないだろうに。

 ほおを膨らませていると、ため息とともにたしなめられた。

 

「今夜は式を飛ばして妖をあぶり出す。気を緩めていると怪我をするぞ」

「おや、気を緩める何かがあったのかい?」

 

 気配に聡い斉彬が、利憲のわずかな苛立ちに気がついたようだ。

 

「利憲様に年齢を尋ねただけです。でも教えていただけなくて」


 素直に答える楓に、斉彬は利憲を横目で見やる。ふいとそっぽを向く陰陽師を見て、彼はクククと含み笑いをした。

 

「距離が近いと戸惑うのは昔からだが」

 

 懐いてくる子猫を邪険にあしらうものじゃないよ、とその横顔に軽く囁く。

 そして、ふふと笑って楓に向けて言った。

 

「君に比べたらおじさんには違いないが、意外と若いんだよ」

「不老の術があるのではなく?」

「そんな事を考えていたのか」

 

 楓の疑問に斉彬はカラカラと笑った。

 

「いろんな噂が流れるものだね。楓、そんなにこいつの年が気になるかい? 残念だなあ。私には聞いてくれないんだ」

「どうしてですか?」

 

 小首をかしげる楓の鼻先に顔を近づけ、斉彬はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「知りたいと思えるほど気になっているということだろう?」

「なっ!」

 

 これには利憲もがばっと振り向いた。

 

「またそうやって僕をからかう」

「だからくだらんことに興味を持つなと言ったんだ!」

 

 斉彬に行くぞと告げてすたすたと歩いていく利憲の背中を慌てて追う。

 

(結局、幾つ? 妖を飲み込んだというのは嘘?)


 眉をひそめる楓の頬をツンとつついた斉彬が、歩きながら顔を覗きこみにこりと笑みを向ける。


「私は二十歳だよ。意外と若いだろう?」

「聞いてません!」

「おや、つれない。男は嫌いなのか」

「当たり前でしょう」

「利憲のことは?」

「尊敬の念を邪念に解釈しないでください」

「邪念ねえ……。気のせいなのかな」


 ぶつぶつ独り言を呟いている斉彬を放って、楓は遥か前方に行ってしまった師に向かって全力で走っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ