種明かし
「どういうことだ?これまで、外国が攻めてくることはなかっただろう!」
「それが…」伝令は言葉を詰まらせながらこちらに視線をよこした。
「お前か。一体、何をしたのだ!」伝令の様子に気がついた陽帝は私にこの事態の原因を問い詰めたほうが早いと判断したらしい。
「簡単だ。月帝はいなくなると、世界中に公表した。」
「そんなこと、聞いていないぞ。」
「言っていないからな。だが、書面は確かに送ったぞ。なんだ、届いておらぬか?」
「知らない。それは、いつ、どうやってこちらに送った?」驚きを隠せていないが、それでも声を荒げず、事態の収拾を図ろうとするところはさすが帝といったところか。
「二月前。黒地に銀粉のまぶした封筒に入れて送った。私の紋も忘れずに押してだ。私の宮の警護を担当している者に渡した。私はお前に呼ばれぬ限り、あそこから出てはならぬ決まりだからな。お主の元に届くまでに、そうも時間がかかるものなのか?」
「いや、長くても一月だ。それに、これまで関わりがなかったとはいえ、月帝の紋を宮内庁に所属する者が分からないはずはない。」
「ふん。誰ぞがわざと上に送らなかったのだろうな。宮で大人しく茶でも啜っていろと気を利かせてくれたか。」そう、手紙が届かないことなど、かつての嫌がらせに比べれば赤子のいたずらのように可愛らしいものだ。
「まあ、そんなことは良い。話を戻そうか。なぜ、諸外国が群を編成し、進軍しているかだったな。答えは簡単だ。先程も言ったが、世界中に月帝は消えると公表した。私の名前でな。」
「なぜだ。この国がある限り、月帝はその力を持って諸外国から国を守り、民を守るという制約があるのではないのか。」
「確かにある。だが、私はもう必要なかろう?世界と交流を始めてどれだけの時間が経ったと思う?この力がなくとも、世界から国を守れるよう、お主らが話を付ければ良いだろう。」
「必要に決まっているだろう!!職務を放棄するつもりか!」陽帝は机を強く叩いた。茶を飲んでおいて良かった。口を付けずにいたら振動でこぼれてしまうところだった。
「だから言ったであろう?『月帝は消える』と。」陽帝はまだ納得できていないのか、鯉のように口をパクパクさせている。正直、おっさんのそんな仕草など不快にしか思えない。もう少し若ければかわいげが残っていたかも知れないが。
「はぁ、力でないと問題を解決できぬなど、幼子の喧嘩か?その口はなんのためにある。諸外国と交流を始めてどれだけ経つ?協定でも不可侵条約でも何でも話し合い、取り付ければ良かろうが。」ヒントを与え、更に続ける。
「諸外国はこのまま進軍し、日本にはミサイルだとか送りつけてくるであろうな。だからそれを利用する。」
「まさか打ち返すとでも言うのか?」落ち着いてきたのか、嘲笑の表情を浮かべ問うてくるので言ってやった。
「そうだ。日本全体を覆う結界のようなものを張った。ここ数年、日本全国を回ったのはその準備のためだ。敵側からの攻撃をそのまま敵側に返す術式を展開した。何が起きたか分からぬままでは連合国軍側も不憫だからな。説明はしてやる。後はお主らでうまくまとめれば良かろう。」
理解が追いついていないのか、途方に暮れているのか。返事はないが用は済ませた。
「ではな。私は帰る。」
「待て。なぜ、こうも急に月帝は消えるなどと言うのだ。これまでずっと、国を守っていただろう。」
「もう、必要ないと思ったからだ。」それに――
「それに、疲れた。先に約束を破ったお主らの面倒を見てやる義理は私にはない。」
それでも、民に罪はない。ただ私達の遺恨に巻き込まれただけだ。
だから、せめて…