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最期の茶会

かつて見ていた夢が己の過去の記憶であることを自覚し、この宮に連れてこられてから6年が経った。その間、宮中の資料を全て漁り、外の見張りたちに言いつけて国内外の情勢が分かる資料を集めさせ、計画を練った。幾度か「なぜ、国内外の情勢を気にするのか」と問われることはあったが、「国を守る方法が武力によるものだとしても、自国に被害を出さず、敵に最大の被害を与える最適な手段を執るためにも情報が必要だ」と言って追い返した。


国を守る手段を陽帝や政治家たちに理解させ、海外には「日本に手を出せば報いを受ける」という認識を確実に植え付ける。

そのために3年をかけて、日本国内に数多の防衛陣を展開させた。敵が日本にはなった攻撃をそのまま返す術式を書き上げ、半永久的に発動させ続ける。目には目を、歯には歯を。弾丸には弾丸を、経済には経済を。

「日本に手を出すな。」それを理解させるには実例がいる。だから、ある一国を利用する。この国を我が物にしようと、兵力と武力をそろえその機会を虎視眈々と狙っている国に、

“反撃”の機会を与えてやれば良い。


終わりにしよう、今度こそ。この国を、世界をこの力に対する畏怖と恐怖、絶対的な存在から解き放とう。世界はもう、武力ではなく、対話での問題解決を目指せるだけの知識と能力、意義を知っている。

私は罪を受け入れ、償おう。これまでに数え切れないほどの人を傷つけ、血のにおいは全身に染みついてしまうほどに命を奪ってしまった。だから、せめて――




重たい雲が空を覆い、雪の舞う日に、一通の手紙が陽帝の元に届いた。


幾年(いくとせ)ぶりの茶会を開かぬか?白の中に見える艶やかな赤を眺めたくなった。』


上等の紙には、紙の大きさに対してあまりにも少ない、たった一行に納められた文と、月帝の証が押されているだけであった。

「月帝の紋などいつぶりだろうか。そもそも、連絡を取るなど直近4代ではなかったのではないか?」そう思いながら陽帝は返事を書き、茶会の準備をするよう命令した。


『一月二十二日、二の丸庭園にて』


帰ってきた返事はこれだけだった。指定された場所はあちらの領域。だが、好都合だ。約束の日まであと2週間。終焉に向けて動くとしよう。



「願いを聞き入れてくれたこと、感謝する。」

そう言いながら現れたのは、まだ自分の半分くらいしか年を重ねていない女だった。漆黒の(スカート)に袖口と襟元に銀糸の刺繍の施された大袖を羽織っていた。簪で飾られた濡れ羽色の髪は高いところで結い上げられ、背に向かって流れていた。飛鳥時代頃の資料にでてくるようなあまりにも時代遅れな衣装だというのに、美しさと迫力に圧倒されてしまうほどだった。

「急に連絡をよこしたと思えば、茶会をしようなど、どういうつもりだ。」

「別に。ただ、ここの花を眺めたくなっただけだ。私のところには花どころかまともな草木など植わっておらぬ。」

陽帝の声には緊張が混ざっていた。平静を装っているつもりなのだろうが、声にも雰囲気にも、眼にも緊張と困惑、警戒心がにじみ出ていて隠し切れていない。自分の倍ほどの歳の者をからかうのは存外気分の良いものだ。

どちらも声を発することなく、ただ時間が過ぎていった。なんの探り合いもなく茶を飲むだけだったから気が緩んでいたのだろう。ぽつりとこぼしていた。

「人や時代は変われど、この場所の心地よさはあの時のままなのだな。」

「それは、どういう…」その時、陽帝の伝令が息も絶え絶えに駆け込んできた。そして血の気の失せた顔でこう言った。


「連合軍が接近中です。」

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