悔恨と決断
なぜ、彼らが殺されなければならなかったのだろう。
なぜ、私が命を狙われなくてはならなかったのだろう。
ただ、国を、民を守りたかった。何より、唯一私を気遣ってくれた彼との約束を守りたかった。だからこそ、殺したくなくとも自国を害するものがあれば排除し、各国に私の存在を、力を見せつけ、国に攻め込ませないための抑止力とし続けた。彼らはそんな私を、人の所業とは思えぬようなことをした私を慕い、支え続けてくれただけなのに。
これは私への罰なのだろうか。「もう一度だけ、誰かを信じてみたい。もう一度だけ、大切なものを持ちたい。」そう願ってしまった私への。
「もう、終わりにしよう。この力を消し去ろう。力が必要な時代は終わったのだから。」
梨華がそう決心するまでそう長くはかからなかった。彼らが殺されなければならなかった最大の原因はこの力だ。他国が一目置くこの力は、陽帝にとっても自分の地位を揺るがしかねない脅威だったはずだ。だから脅威となる前に私とそこに関わる者を排除しようとした。ならば、この場で力を振るい復讐するよりも、この力を消し去る方法を探そう。
もし、力を消し去ることが叶わずとも、月帝という存在がなくなれば力を失ったことと同じだけの効力があるはずだ。海外に攻め込まれないための抑止力がなくなる。それは、陽帝側の人間たちが今まで私にさせていたセーフティーバーの役割を自分たちで担うことになる。陽帝やそこで甘い蜜を吸うものたちへの復讐となるはずだ。
いっそのこと、真実も国民の前に晒してしまおうか。いや、やめておこう。国が崩壊しかねない。彼との約束を違えるのは本意ではない。
現状を変えるにあたっての問題は2つあった。第一に海外の国々への抑止力となっていたこの力がなくなる、あるいは表舞台に立たなくなることで、日本を我が物としようと考える国は多いはずだ。侵略されてしまえば黒彦との約束が果たせなくなる。
第二に、陽帝側にどう納得させるかだ。唐突にいなくなれば死に物狂いで私を探し、この宮につなぎ止め、半殺しにしてでも国を守らせ続けようとするだろう。
結論から言うと、この2つの問題は簡単に解決する。
私がいなくなり、月帝という存在がなくなった後も、海外の国々は手が出せず、この国が守られる仕組みさえ作り上げてしまえば良い。ただ、その手段と方法が本当の問題だった。