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葬送

「姫様!また朝餉を抜かれたでしょう。食べてください!」(とう)()、お前はいつも朗らかに笑っていた。空腹を抑えられれば良いと思っていた食事の楽しさも、おいしさも教えてくれたのはお前だった。菓子を食べているときが一番幸せそうだったな。だからか、菓子を買うことが習慣となり、お前に渡したときどんな表情を見せてくれるのか考えながら選ぶのは楽しかった。


「姫様!退屈なのでしたら、オレの冒険譚でもいかがです?」(かい)(けい)、なかなか外に出られない私にとってお前の話はどれも面白く、刺激的だった。お前が来るまでは笑うことがなかったから、最初の頃は頬が痛くなった。私に「笑っていた方が良いですよ、かわいいですから!」と言われたのは初めてで驚いたし、気恥ずかしかった。でも、嬉しかった。お前は(おんな)誑し(たらし)の才がありそうだな。ああ、そういえば気になっていたのに、故郷の猟の話を聞くことは叶わなくなってしまったな。


「姫様!皆さんの名前が書けるようになりました。お手紙をたくさん書くので、読んでください!」(よう)(えい)、いつも私の後をついて回っていたな。見たもの、聞いたこと、できたこと、何でも報告しに来てくれる様はとても愛らしかった。遠征中に届いた手紙は、きっと手を墨で真っ黒に染めながら必死に書いてくれたのだろう、つたない文字で花壇の様子を報告してくれていた。手紙の返事は必ず返そうと言っていたのに、初めてくれた手紙に返事をすることができなくなってしまった。


「姫様、お茶をお持ちしました。お疲れでしょう、少し休憩なさってください。」(おん)(そう)、最も長くそばに控え、助けてくれた。かつての苦しみをもう一度味わいたくなくてそばに誰も置かなくなった。それでもお前が仕えてくれるようになってから宮に人が増え、誰かと共にあることはこんなにも幸せなものなのだと、心地の良いものなのだと思い出すことができた。それに、本が好きでよく読んだものについて話してくれた。低く、静かに響く声音はいつも私を落ち着かせてくれた。新しいものを与えれば幼子のように目を輝かせていたのを覚えている。それに、お前の入れてくれる茶はどれもおいしかった。もう、あの味は飲めないのだな。


私は4人を海の見える高台に弔った。海蛍が見せたいところがあると言って、満開の桜を見せてくれた、一番気に入っている場所だ。皆でよく出かけた思い出の場所でもあった。

ここならば戦火も届かないだろう。魂はこの地を去り、残された肉体だけだとしてもこれ以上、傷つけさせたくなかった。これ以上、あの幸せな日常に誰かを踏み込ませたくなかった。

愛しい私の家族たちよ、どうか安らかに。もし、次の生があるのならば、その時はどうか、命を脅かされることなく、家族や友人たちと笑い合える当たり前の幸せが彼らを満たしてくれますように。


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