崩壊
雪が積もっていた。美しい白銀の衣をまとった朱塗りの宮はそこには見当たらなかった。いつもの冬の光景はここにはなかった。
冬でも丁寧に掃き清められ、雪の白とのコントラストの美しい石畳には不釣り合いな赤茶色が広がっていた。その赤茶色の水たまりの中に陽帝の兵たちが倒れていた。何が起きているのか分からなかった。いや、頭が理解することを拒んだ。きっと何かの冗談だ。そう信じたかった。きっと、宮に戻ればいつもの日常があるはずだ。きっと、あの声が聞けるはずだ。きっと…
宮の扉を開けた先にあったのは、むせかえるほどの鉄の匂いと無造作に転がされた家族、荒らされた家財。かすかに声が聞こえた。
「…姫様」
「陽栄、何があった。しっかりしろ、とにかく治療を。」
「逃げてください、帝の兵が姫様を殺すと行っていました。」
「わかった、とにかく治療をしてからだ。」だが、もう遅いだろう。明らかに出血が多く、目の焦点も合っていない。治癒の術式を使っても間に合わない。抱き起こした体もどんどん冷たくなっていった。
「姫様、寒いです。」小さな体は小刻みに震え、甘えるように頬をすり寄せてきた。
「ああ、この上着を羽織っておいで。少しずつ怪我を治している。疲れただろう、少しお休み。」
「はい…。ふふっ、あたたかい…」
外套を握ったまだ幼い手がぱさりと力なく落ちた。
吠えるような叫び声が聞こえた。
喉の奥のひりつく痛みと、小さな体を抱きしめた手に無数の水滴が落ちるのを感じ取り、自分が泣いていることに気がついた。守ると誓ったのに、もう二度と苦しい思いをさせないと言ったのに、守れなかった、想像できないほどの苦しみを味わわせてしまった。きっと、私を憎んだだろう。最期にそんな思いをさせてしまって。すまなかった…。許して欲しいとは言わない。ただ、謝らせて欲しい。
すまない…すまない…