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記憶

この国には古来より2人の王がいた。(よう)(てい)(げっ)(てい)。陽帝は表にたち、政をし、国を治める。月帝は民衆の前に姿を現すことはほとんどなく、月帝のみが持つ力で国を支えた。月帝には陽帝と違い、死が存在しない。正確には肉体だけが変わり、魂だけはこの世に残り続ける。国を、民を、何より政を行う陽帝を支え続けるために。


そんなこと、この国の人間ならば誰もが知っていることだ。本をテーブルに放り投げ梨華は空を仰いだ。あの後、牛車から現れた人物にこの場所へ連れてこられた。皇居だが皇居ではない場所。作りは皇居と同じようではあるが、人の気配が全く感じられなかった。要はとてつもなく広大な敷地の中で、誰にも会うことなく一人暮らしをしているというわけだ。


ここに来てから3日がたった。敷地中を歩き回ってみたり、保管されていた書物、記録を読み漁ったりするうちに、ある程度のことは把握できた。そして、かつての記憶を思い出すこともできた。これまで夢だと思っていたものはかつての私が経験したことで、あの泣いていた女は私だったのだ。そして、あれらの記憶を思い出すことがかつての憎しみを思い出すことにつながるなど、思いもしなかった。


月帝の始まりは人類が文明を持ち始めた頃にまで遡る。初めはただムラを守る長に過ぎなかった。この頃から他の人にはない力で人々をまとめた。他の勢力が襲ってくれば力で守り、災害でムラが荒れれば再び立て直し、人々が傷つき、病に倒れたときは治療をした。特別なことはないが、ただ平和に穏やかに生きていた。しかし、1500年以上前、古墳時代の頃、今でいう「大和」の勢力によりムラは制圧された。大和の王を名乗るものは私にこの力を持ってクニを守れといった。そうすれば反抗したムラの者には罰を与えず、生活を保障すると言われ従うしか道はなかった。


だが、その王もしばらくの後に病に倒れこの世を去った。王はその後もめまぐるしく替わり続けた。5代後の王だっただろうか。たしか名を黒彦(くろひこ)といっただろうか、「お前を王と対等に扱おう。お前の功績を後世に伝え続け、お前を、お前の大事な者を害しないと誓おう」と言ったのは。力のせいか、私は20歳になったあたりから容姿が変化しなくなり、他の人間に比べかなり長生きだった。大和の王に従うようになってから、王は私を戦に向かわせ続けた。圧倒的な力で他のムラを制圧し続けることを強いられた。疲れていたのだろう。争いを好まず、やたらと私にかまいに来る様は飼い主にじゃれつくような犬のようで愛らしかった。だからこそ私も誓ったのだ。「ならば、私はこのクニを守り続けよう。この身が滅びても、永久に、この力で守り続けよう。お前が愛したこのクニを。」そう、心から誓ったのに――


時が流れ、源氏が幕府を建てしばらくの後、このクニを手に入れようと思ったのか、外国より敵が攻めてきた。幕府は私に敵を制圧するよう言い続けた。しかし、私は「今の世界で最も力を持つ国だ。友好を結べ。」と言って拒み続けた。もう、誰も殺したくなかった。直属の家臣と、初めてできた家族と呼べる人たちと静かに穏やかに暮らしたかった。それなのに幕府は王の命令だとして私を外国へ派遣し、敵軍を制圧させた。陽帝と対等に扱うよう宣言されていても、命令に従わなければ、陽帝に害をなす反乱分子と捉えられかねない。彼らを守るためにも、行くしかなかった。この後に悲劇が待っているとも知らずに。


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