狭間
今日はいつもと違い、何もない真っ暗な空間の中にいた。そこにいるのは私と、不思議な衣装を着た女だけだった。チャイナドレスのような上着に袴の裾の部分を絞ったようなズボンをはいて、長い髪を揺らし、こちらに背を向けて泣いている。朱に染まった浅く、広大な湖に膝をついて。朱色の水は膝をついたところから白いズボンを染め上げていく。何かをつぶやいているようだったが聞こえない。私には気がついていないようだし、少し近づいてみようか。
「ああ、憎い。あいつが。いや、奴らが憎い。」
その不気味な声で目が覚めた。だが、何か違和感がある。なぜこんなにも部屋が明るい?そもそも自室はこんなにも無機質な天井だっただろうか?辺りを少し見回し、理解した。どうも病院にいるらしい。
私は修学旅行の2日目に倒れたらしい。班行動で嵐山に登り、山頂で景色を見た途端に膝から崩れるように倒れたという。ちなみに修学旅行は終わっていた。楽しみにしていたのに。「リンちゃーん!よかった、体調はどう?びっくりしたんだよ!?」
涙を大きな目にいっぱいにためて咲楽や班のメンバーがお見舞いに来てくれた。
「もう平気なの?あ、修学旅行は無事に終わったよ。日程とか電車とか細かく書いておいてくれたおかげでね。お土産、梨華の分もあるよ!」sそう言って玲も美玖もたくさんのお土産を置いていってくれた。
ポチャン、ピチャン。真っ黒の空間に朱色の湖、朱色の水に染まりかけた白のズボン、背を向けうずくまる女の周りを囲むようにある死体の山。女は大切な人の青白い体を抱きしめて泣いている。倒れた後から眠るといつもこの光景を見るようになった。
いや、なぜ泣いている人物が女だと分かる?なぜ抱きしめているのが大事な人だと分かる?
そんなことは一言だって言っていなかったし、教えてもらったわけでもない。それに私が聞いた声は男とも女とも取れない声だった。
でも、私はこの光景を知っている。あの人物を知っている。だってあれは――
翌朝、家の前には真っ黒な牛車が止まっていた。