最期の舞台2
『愚かだな。』祖国からの突然の連絡に慌てふためく軍人達を月華はまるで温度の感じられない冷めた瞳で眺めていた。
「お前の仕業か!」軍人達が怒鳴り始める。
「そうだ。先程言っただろう。我が国を攻撃すれば、その攻撃はそっくりそのままそなたらの祖国に返すと。」
そう、淡々と返すとこちらへ一斉に銃口を向けた。
「これまで表舞台に立ってこなかったとはいえ、まさか、知らぬ訳ではあるまい。月帝は不思議な力を持ち、国を守っていると。」
「ああ、知っていたさ。事実だとは思っていなかったがな。だが、貴様を殺せば問題ないだろう。」
答えは否。だがそれを声にはしない。
「だんまりか。まあ良い。殺せ!こいつは存在してはいけない悪魔だ!!」
月華をぐるりと囲んだ軍人達の銃がそのかけ声と同時にけたたましい咆哮と共に弾丸を吐き出す。しかし、その弾は一つとして月華に届くことはない。放たれた敵意は直進の歩を途中で阻まれ、看板にカラカラと音を響かせながら転がっていた。
「そなた達には証人になってもらうとしよう。」
そう言うと月華はふわりと宙へ飛び立った。そうして何も言わず、今いた船の後ろを指さした。軍人達は釣られるように、その指さされた方向へ振り返る。
その瞬間、視界いっぱいに紅蓮の陰が立ちこめた。
肺が焼けそうなほどの熱気。
耳をつんざく轟音。
油の燃える匂い。
かすかに聞こえる叫び声。
大型の戦艦があったはずの場所から海へ落とされていく、黒い何か。
「覚えておけ。」一切の感情が消されたような機械が話しているような声音が空から降ってきた。軍人達が見上げた先には、濡れ羽色の髪を熱気に遊ばせながら、手のひらを後方の船に向けて宙に浮く女の姿があった。
「領地、領海欲しさに我が国へ手を出すことはやめよ。我が術式は、私が死んだ後も国を守り続ける。そなたらの攻撃が通ることは、絶対にない。」