一話 俺、追放される
「………カイル、お前はもうこのパーティーには要らねぇんだよ!!」
………俺は竹岸真也………いや、カイルと名乗った方がいいだろう。
俺は交通事故に合い、異世界に転生してしまった。
俺が転生してしまった国はカイザーグという国で、冒険者の出入りが多い王都グルーレで冒険者パーティー「不死鳥の旅団」に入って、今日も仲間と共にクエストを行っていたのだった………のだが。
その日の夜、パーティーリーダーのギランにこう告げられてしまったのだ。
「そんな、俺はパーティーのために今日も頑張っ……」
「ゴタゴタうるせぇんだよ無能カイル!お前、今日もサポート下手だったじゃねぇか!!これだから土魔法しか適正がない奴は嫌なんだ!!」
適正………それは、属性の適正のことだ。全部で六属性ある。炎、水、風、土、光、闇の六種だ。
残念ながら俺には土属性の適正しかない。
何故残念かというと……
「土属性は土壁を作ったり形を多少変えるだけだろ!!なんでこんな奴を入れたんだよ!!」
「仕方ないじゃない、人が少なかったんだし………」
そう言っているのは魔法使いのドーチェ。適正属性は水だ。彼女は王都でも有名な魔法使いで、【水の魔女】として知られている。
「よせ。今さら言っても仕方あるまい。」
こいつは重騎士のガイアス。適正属性は光と炎。
冒険者でも珍しい2属性持ちだ。
「こいつ、土属性しかないくせにスキルも大したものがねぇ!本当に使えねえな!!」
この世界にはスキルもある。
例えば、ギランは炎が適正属性なので、【ファイアソード】や、【剣術Ⅲ】のスキルを持っている。スキルにも位があり、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴまである。そう考えると、ギランは王都でも屈指の猛者なのだ。
「分かったらとっととでてけよ!!あ!!あと装備も返せよ!!それは『俺達の』金で買ったんだからな!!」
『俺達の』………か。俺はもう、パーティーから追い出されるのは確定してしまったみたいだ。
「………わかった……」
俺は仕方なく、ギランに杖とローブを渡した。これで俺には、手持ちが銀貨五枚になってしまった。
この世界の通貨は金貨、銀貨、大銅貨、小銅貨がある。日本円でいうとおよそ小銅貨が10円、大銅貨が100円、銀貨が1000円、金貨が10000円、程になる。
「……フン、俺も鬼じゃねぇ、今日の宿代はそのままにしといてやる。明日には出ていけよ!」
「……………」
俺は仕方なく、自分の部屋へ戻った。一階では、皆の笑い声が聞こえてくる。あぁ、俺は皆の【仲間】にはなれていなかったんだな……………悔しくて、悲しくて、情けなくて………俺は眠ってしまった。
~翌日~
ギランたちは居なかった。一階に降りたらパンとスープが用意されていた。きっと宿屋の主人が用意してくれたのだろう。
「………いただきます」
まだ日本人の癖があった。この世界では普通はいただきますなんていう人はいない。
ふとそんなことを考えていると、主人がこう言った。
「それ食ったらとっとと出てけよ。うちはお前みたいな一文無しを止めておく程お人好しじゃねえぞ」
「………はい。お世話になりました。」
とうとう宿屋からも追い出されてしまった。俺はどこへ行けばいいのだろう………そうとぼとぼ歩いていると、見慣れない市場に来た。
「いけない、道を間違えたか………?」
そう思った時、一人の老婆が目の前に現れ、俺に本を差し出してきた。
「お兄さん、この本は要らんかね?今なら銀貨五枚だよ。」
なんだ、本なんて。ただでさえ俺は一文無しなのに本なんて………そう思いながらも表紙に目をやると、【世界創造神話】と書かれている。これが前の世界なら宗教かなにかだと思うが、不思議と俺はその本が気になった。
「………何の本なんです?それ。」
「アッハッハ、これは何の変哲もない『紙切れ』じゃよ。まぁ、買う奴がこれをどう使うかはわからんが。」
「………買います。」
自然とそう言葉が出た。俺はなけなしの銀貨五枚を使い、本を買った。この本を買うことで、俺の人生が変わる……そんな気がした。
「なになに………『かつて世界は二人の神に作られ、神は六体の神獣を生み………』………これは知ってる。なんだ。子供でも知ってるおとぎ話じゃないか。」
パラパラとページをめくると、気になるページがあった。
「………幻の国『ゴーレン』だって……!?」
ゴーレン。聞いたことのない国名だ。歴史書はいろいろ読んだことがあるけど、こんな国は聞いたことがない。続きを読もう。
「『ゴーレン』では賢者がゴーレムを操り、多種多様な種族が暮らしており、まさに楽園であった………だって!?」
待ってくれ。いろいろ信じられないことが書いてあって頭が混乱する。
まず、ゴーレムは『操ることは不可能』なはずだ。
ゴーレムは六体の神獣の土を司る神獣、『ギガントゴーレム』が生み出した魔物だ。人が操るなんて不可能なはずだ。それに多種多様な種族と暮らしたなんて………今の種族はなかが悪く、戦争が起きる寸前だ。
歴史書でも、種族間の交流があったという記述は少ないというのに………
「………本当にこんな国が実在したのか……?いや、流石に嘘だよな……歴史書にもない国なんて………」
そう思うと、本の右上に地図があった。『ゴーレン』への。………俺は唾をごくり、と飲んだ。
見てみたい。多種多様な種族とゴーレムが力を合わせて発展してきた国を、この目で見てみたい。さっきまでの絶望感はなくなり、俺の冒険心に再び火が着いた。
「………行ってみよう………!!幻の国、『ゴーレン』へ!!」