第59話 光と闇が合わさると、やはり最強
あーしはとりま、ドラゴンより離れて暗がりに隠れると、急いでポーチから一つのアイテムを探し出して使用した。
効果が出たことを確認すると、ラダオに“念話”で合図する。
すると——周囲を照らしていた光が消え、辺りは完全な暗闇に包まれた。
だけどあーしは、使った“暗視軟膏”のおかげでちゃんと見える。
——さて、これで、このマントを着たあーしはさらに見つかりづらくなったハズ。
しっかし、便利なブツを持ってるモンだな、アイツは。
そう思って、ラダオの方に“繋がり”を通して意識を向けると、ヤツはなにやら、追加でバンバンとアンデッドたちを呼び出しているみたいだった。
よし、アイツも援護してくれてるし、コイツらに紛れてあーしも進撃じゃ……!
あーしは地上の物陰を伝いながら、ドラゴンの後ろへ向けて、こっそりと近寄っていく。
ドラゴンはあーしに気がついた様子はナイ。——どうも探しているっぽいケド、見つけられないよーだ。
なんせ周囲は真っ暗で、ウジャウジャと余計なアンデッドもいるわけだしナ。そん中から、マントで隠れてるあーしを見つけ出すのはムリじゃろ。
あーしはドラゴンに襲いかかるアンデッドたちに紛れて、自分もドラゴンに近寄っていく。
そして、いよいよドラゴンの後ろ足に急接近すると、すれ違い様に剣を振り、思いっきり斬りつけた。
ザバシュ——ッ!
あーしの剣くんは、やはりほとんど抵抗も無くドラゴンの硬いウロコをぶっ裂いた。
ゴオオオオッッアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!
ドラゴンはマジで痛そうな悲鳴を上げると、めちゃくちゃに暴れ——って危ねぇッコッ——
『“空間跳躍”』
あーしは暴れるドラゴンのカラダに押し潰される寸前にシフトを発動——難を逃れる。
視界が瞬時に切り替わり、一瞬、自分がどこなのか分からなくなる。
切り替わった視界に映るのは、迫り来るドラゴンの尻尾——って、
『“空間跳躍”』
あーしはさらにシフトを使って距離を取った。——あっぶねえ!
——つかヤベェ、いやこれ、じっさいに使うとなかなかムズイっぞっ!
一瞬でパッと場所が変わるから、自分の位置が分からなくなる。
——いや、そーだ、“視点操作”のスキルを使って俯瞰とかで見れば、なんとかならんか……?
うし、次はソレでやってみよう。
二回分跳んだコトで、なんとかドラゴンの(暴れる)攻撃の範囲からは抜け出せた。
ドラゴンは未だに暴れている。さっきのはそーとー効いたよーだ。
これだけ暴れられると近寄れないな——なんてゆーとでも思ったか! これでも食らえッ!!
『“回転飛剣”』
あーしは安全な物陰から剣くんを投擲した。
回転しながら飛んだ剣くんは、ドラゴンのカラダに深々と食い込むと——回転によってその肉を削りながら突き進み——そのまま突き抜けた。
再び響き渡るドラゴンの絶叫。
剣くんはさらに、戻ってくる時にもドラゴンを削り落としていく。
さらにドラゴンの絶叫。
戻ってきた剣くんをキャッチすると、ドラゴンはもの凄い勢いでこちらを振り向いた。
……あっ——ヤベッ、剣くんの軌道で場所がバレたッ!
ドラゴンが口を開く。その口内からは真っ赤な炎が——
『“眷属召喚——轟業と臥す虚骸髑髏”』
『“豪炎灼熱息吹”』
あーしに向けて吹き付けられるファイヤーの前に、巨大なドクロの化け物が立ち塞がった。
——コイツはっ、あの時の……!
『“マスター! 無事ですかッ!?”』
『“おおうっ、助かったぞっラダオ!”』
あーしは急いでその場を離れつつ、ラダオに感謝の念話を送る。
ドラゴンは防がれたとみるとすぐに火炎放射を止め、あーしを追おうと地面を蹴って——その突進を、デカドクロが押さえつけて止める。
——おおっ、コイツ、意外と強ぇんか……?!
『“いえマスター! コイツは本来、かなり強いヤツなんです! ただ、「聖属性」が弱点で——そう、唯一の弱点がそれなんです。むしろそれ以外はほとんど効かぬのです! ですので、あの時マスターに一撃でやられてしまったのは、ただただひたすらに、そう、相性が致命的に悪かったからで——”』
『“あーあー、分かった分かった。そうだね。マジで強いわ、コイツ。うんうん。いやマジで、ドラゴン相手でもかなり奮闘してっし、やるじゃん、コイツ”』
『“でしょう?! そうなんです、本当は強いんですよ、コイツは……!”』
いやなんか、すまんかったナ。一撃で倒しちゃってヨ……。
でもマジでデカドクロは強くて、ドラゴンもしっかり抑えてくれたので、あーしはスタコラ逃げてバッチリ隠れることに成功した。
さて、さっきの攻撃によってある程度の魔力は回復した。
だけど、今あるパワーでドラゴンを完全に倒せるかは……分からん。
——そもそも、どんな技を使えば倒せるのか。弱点はドコ? 頭か? 心臓か? んで心臓ってドコよ?
ハンパな攻撃じゃアイツは死なん。だって傷が治んだもん。あとデカいし。
じっさい、どーもこれまでの攻撃でのダメージも、治っちまってるっぽいし。
そもそも相手の攻撃もクソ強ーから、なかなかこっちからも攻撃ムズいしよー……
これマジ、倒せんのか……?
『“——なあラダオ、コイツって弱点とかあんの? てか、攻撃しても傷治るのに、ホントに倒せるんか……?”』
『“ふむ……弱点と言うなら、やはり頭か心臓ですが……。この再生力ですからな、どちらかが残っていたら、おそらく復活するでしょう”』
『“マジ……? んなら、両方一気に潰さねーとってコト?”』
『“できれば、それが最善でしょうな”』
『“心臓ってどこなん?”』
『“ドラゴンの心臓は、両腕の間の辺りの、中心です。——なので、地面に伏している今なら、頭部から一直線に貫く攻撃をすれば、いけるかもしれませぬ……”』
『“ナルホド……正面から頭狙って、そっから胸まで貫けばいいんか……”』
『“……もしくは、そうですな。攻撃に〈不治の呪い〉でも加えれば、あるいは、傷の再生を防げるやも”』
『“呪い……?”』
『“ええ、傷の再生を阻む呪いです。それを使えば、ヤツの再生を封じられる可能性はあります。とはいえ、相手はドラゴンですので、相当強力な呪いでないと効かぬでしょうな。ですからそう、よっぽど強力な呪術の使い手でないと……”』
『“……ソレはつまり、自分なら出来るって言いてぇんか……?”』
『“然り、ですな、マスター。自慢ではありませんが、呪術に関しては一家言ありますので”』
『“んー、でも、呪いかぁ……”』
『“マスターの言いたいことは分かります。呪術や呪いにあまりよい印象がないと言うのでしょう。大抵の者はそうですからな。——しかし、今はそんな事を気にしている場合ではないでしょう。可能性があるなら、試してみるべきと思いますぞ”』
『“うーん、まー、そーなんだケド……”』
『“ご安心ください、マスター。これでも我は、呪術に関しての腕は確かだと自負しております。必ずや、一つの誤りもなく、完璧に術を制御してみせます。決してマスターに悪影響はもたらさないと誓います!”』
『“……分かった。そこまでゆーなら、やってみっか”』
『“かしこまりました! マスター!”』
そんなワケで、ラダオになんたらの呪いとかゆーのを使ってもらうコトになった。
ドラゴンは未だにデカドクロが気を引いてくれてるので、その間に急いでラダオは術を準備していく。
——さて、呪いとか言ってたケド、具体的にはどんな風になるんかね。もしかして、あの水ニョロを倒した時みたいに、武器に魔法をかけるカンジ……?
そう思ってあーしが聞いてみたら、ラダオは『“武器に付与……ですか? な、なるほど、そんなやり方が……とても面白い発想ですね。——いえ、マスターがそのようにと望まれるのでしたら、はい、我はそのように致しましょう”』と、いうことになった。
よく分からんケド、あの時と同じようになるんだったら、あーしは剣くんで直接攻撃すればいいだけだし、分かりやすくていいわ。
そう時間をかけることなくラダオは術を完成させ、例の“誓約印”の“繋がり”を通して、あーし(の剣くん)に“与えた傷が治らなくなる”という呪いをかけた。
『“悍ましき不治なる呪怨武器”』
すると、ゾッ——とするようなヤベェ気配があーしの剣くんに備わった。
——よし、これで……ッ!
あーしが聖なる光と闇の呪いが合わさって、さらに最強になった気がする剣くんを引っ提げて、——さあ、これでいよいよドラゴンの命運も尽きる……! と、意気込みながら、いそいそとアンデッド達に紛れて闇討ちしようと移動を開始した、その時——ドラゴンが、動いた。
ヤツは、何度倒しても復活するデカドクロや、うっとおしくまとわりつくアンデッド達にいよいよブチギレたかのよーに、その攻撃を放った。
『“聖炎浄滅息吹”』
ドラゴンは口から、白く輝く炎を吐き出した。
その炎を真っ先に浴びたデカドクロが、あーしにやられた時に発したような絶叫を上げながら、その体を崩壊させていき——そのまま消滅した。
『“馬鹿なッ——!? あれは、聖属性のブレス……??! そ、そんなことまで出来るというのか……?! ……まさか、このドラゴンは——”』
ドラゴンはそのまま、白い炎を辺り一帯に撒き散らしていく。
炎を浴びたアンデッド達は、たちまちその体を崩壊させ、そのままチリとなって消えていく。
そして——そのアンデッドに紛れてドラゴンに近寄ろうとしていたあーしにも、白い炎は襲いかかってきた。
『“空間跳躍”』
あーしはなんとか、空中にシフトして回避する。——もはや逃げ場は空中しかなかった。
地上はすぐに、白い炎でいっぱいになった。
なぜだかこの白い炎は、地面にずっと残り続けるので、今や地面は、一面が白い炎が燃え盛る海のようになっていた。
アレだけ大量にいたアンデッドは、瞬く間に全滅してしまった。
今やこの空間に残っているのは、地中に隠れていたラダオと、空中に回避したあーしと、そして、ドラゴンだけだった。
着地できる場所がないので、あーしは“光の翼”を使って宙に浮くしかない。
そうすると——白い炎によって明るく照らされて、さらには背中から光って目立つ翼を出しているあーしは——さすがのマントでも隠れきれなかったよーで、ドラゴンにバッチリ見つかってしまった。
——ッ! 見つかっちまったなら、やるっきゃねぇ!
『“飛翔剣撃”』
あーしは空中を横方向に飛行しながら、すぐさま攻撃を放った。
ほぼ同時にドラゴンも、地面を滑るように横に動いて回避する。——でもそれは、あーしのエアスラッシュを躱せる速度ではなかった。
しかし、エアスラッシュはドラゴンに当たる直前に見えない壁のようなものに当たり、ほんの少し減速した。——その一瞬のお陰で、ドラゴンはギリギリ回避に成功していた。
——ッ!? バリアッ?!
今度はドラゴンが、回避と同時にあーしに何かを飛ばしてきた。
『“真空裂波”』
『“空間跳躍”』
——そう思った次の瞬間には、あーしはシフトでその攻撃を回避する。
そっからはお互いに、撃っては躱しの攻防が展開された。
あーしはドラゴンの攻撃を飛行で躱し、あるいは剣で打ち払い、あるいはシフトを使って回避した。そうしながら、隙あらばエアスラッシュを放っていく。
ドラゴンも、地上を高速で動き回りながら、あーしに魔法やらなんやらの攻撃をバンバン飛ばしてくる。そしてあーしの攻撃は、バリアを使ってギリギリで回避していく。
初めこそ互角だったその攻防は、すぐにあーしの防戦一方に変わった。
なぜなら、ドラゴンの方が圧倒的に手数が多かったから。あーしが一つのエアスラッシュを飛ばす間に、ドラゴンは十も二十も一気に魔法を撃ち出してくる。これじゃ勝てるハズがない。
今やあーしは、攻撃する余裕はまるでなくなり、ただギリギリでドラゴンの攻撃を凌ぐしかなかった。
このままでは、いずれ負けるのは明らかだった。だけどあーしに焦りはなく、ただその時を待っていた。
そう、あーしは手詰まりだった。——ケド、この場にはもう一人、あーしの味方がいる。
ちゃっかり自分は安全な地中に隠れていて、今や地上が白い炎に包まれてしまい出てこれなくなってしまっているケド、魔法なら地中からでも撃てる……!
そのタイミングは、“念話”によってあーしには伝わってくる。——そう、今だッ!
『“過剰重力場”』
——ドラゴンの動きが、止まった。
食らえッオラッッッ!!!
『“空間跳躍”』
『“空間跳躍”』
『“飛翔剣撃”』
『“飛翔剣撃”』
『“飛翔剣撃”』
あーしは一気にシフトを二回使ってドラゴンの魔法を切り抜けると、間髪入れずに連続してエアスラッシュを放った。
動きの止まったドラゴンにその攻撃を避けることは出来ず、バリアもあっさりと吹き飛ばした飛ぶ斬撃は、ギリギリで反応したドラゴンが盾のように広げた翼を、ズタズタに切り裂いた。