第20話 本日、急遽大公開! 全部見せます! 〜“剣技”(ソードアーツ)のすべて〜
「——へぇ、オレの“剣技”を? いいけど、まあ、軽くでいいか?」
フランツさんはあーしの頼みを聞いて、剣のワザ——“剣技”を披露してくれることになった。
「じゃあ、一気にいくぞ。まずは一番基本的な技からだ。これは剣の攻撃に推進力を持たせる技で……ま、見たほうが早いな。んじゃ、やってみるぞ——」
『“推進剣撃”』
フランツさんが剣を前方に突き出す——すると、まるで押し出されるように前方に進んでいく。
さらに上に剣を振り上げると、持ち上げられるように空中に舞い上がる。
そして空中で剣を下に向けて構えると、突如——勢いよく落下してきて地面に剣を突き立てた。
——なんコレすごっ、めっちゃ躍動するやん!
「こんな感じで、剣を振るのに合わせて体ごと移動出来るんだ。中にはこれで空中戦もこなせるような上手いやつもいる。——それじゃ次、これは、剣を浮かせて思念で操る技だ」
『“念操剣撃”』
すると、フランツさんの剣が宙に浮いた。
そして、彼が手を動かすのに合わせて宙を舞う。
それからフランツさんは一旦また剣を手にすると、今度はそれを投擲した。
回転しながら飛んだ剣は、緩く弧を描いて戻ってくると、彼の手に収まった。
——おお、スゲェ。んでも、これならあーしもすでに近いこと出来るくね? まああーしの剣くん使わんとムリだけど。
「こんな風に、ある程度の距離までの投擲攻撃としても使える。まあ剣を手放すことになるからリスキーだし、あんま使わないけどね。——じゃあ次、この技は波動の刃により剣身を延長することで、間合いを伸ばすことが出来る」
『“波動刃撃”』
するとフランツさんの剣の先から光る刃が伸びていき、剣の長さが元の二倍以上に増した。
彼が剣を動かすと、その光の刃も同様にして動く。そうして光の刃の部分でその辺の木の幹を撫でると、ちゃんと切り傷が刻まれていた。
——出た、光の刃! これカッケーんだよな〜。
「単純だが、強力な技だな。どれくらいの長さを伸ばせるか、伸ばす速さや伸び縮みの操作の自在さ、その辺は使い手の力量による。中には、戦いの中でも自在にかつ素早く伸び縮みさせられる猛者もいる。ま、オレはまだそこまでは出来ないけどね……。では次、これはすでにユメノも見たことあったかな——斬撃を飛ばす技だ」
『“飛翔剣撃”』
フランツさんが、上に向けて剣を振る。
すると、ビュオッ——と斬撃が飛んでいき、途中にある木々の枝々をいくつも斬り落としていった。
——出マシタッ! 飛ぶ斬撃! コレだよコレ〜! やっぱ剣士は斬撃飛ばさねーとっしょ……!
「ま、これは説明は要らないな? ああ一応、刺突も飛ばすことが出来るから。ちょっと難しくなるんだけど。——さて、それじゃ次は、複数の斬撃を同時に繰り出す技だ。えーっと……ああ、ちょうどいい、これを使うか」
そう言ってフランツさんは、さっきの飛ぶ斬撃で落ちてきた枝をいくつか拾うと、空中に放り投げた。そして——
『“多段同撃”』
ビュン——と剣を一振り。
しかし、その一振りに複数の剣閃が重なるように追従し、複数の枝をそれぞれ同時に斬り飛ばした。
——同時にいくつもの斬撃を……ナルホドね。……いやそれ、フツーにめっちゃ強くね?
「同時に繰り出せる斬閃の数は、これまた使い手の力量に左右される。今のオレが出せる限界は同時に二つってところだ。実物の剣を合わせて、同時に三撃ってことだな。——それでは次、これは剣を振ることで衝撃波を発生させる技だ」
『“波動衝撃”』
フランツさんが剣を軽く振る。
するとその方向に強い衝撃が生まれ、土を巻き上げ吹き飛ばした。
——うぉぅ、コレまたカッケーワザだ。
「今回は軽くやったが、本来はもっと強い衝撃波を出せる。大人の男でも軽く吹き飛ぶくらいのね。ただ、これは範囲と衝撃力には優れた技なんだが、反面ダメージは少ないんだよな。でも範囲攻撃だからやっぱり便利ではあるね。——じゃあ次だけど、……これは、見ただけじゃよく分からないと思う。この技は強力な斬撃を放つ技で、基本的に技を放ったら途中で止まらないんだ。いや、止められない、と言っていい。だから、たとえどんな硬い物に打ち込んだとしても、止まることなく突き進んで打ち砕く……そんな技だ」
『“強靭剛撃”』
フランツさんは、剣を上段に構えると、普通に振り下ろした。
ハタから見れば、その技は、ただそれだけのことだった。
しかし、それが普通ではない振り下ろしだということは、あーしには分かった。
彼の言った通り、あれは並大抵のことでは防げない、止められない……剛の剣ってヤツだ。
——まあ、それを感じられたのは剣くんのお陰なんだケド。
「確かに強力なんだが、その判明、溜めや反動も大きいから、実戦で使うのは中々難しい。しかしその分、強敵や格上にも通用し得る技だ。……そう、技自体はスキルを覚えれば使えるようになるが、結局のところ、それを効果的に使いこなせるかどうかは、使い手の力量次第なのさ。これはその典型と言える技だね。——では次、これもさっきの技と同種の技で、見た目に変化はない。効果は、さっきとは真逆の技と言えるかな。この技は、剣の動きが周囲の力の流れを巻き込んで、その向きを捻じ曲げてしまう——そんな技だ」
『“流転柔撃”』
フランツさんは、まるで流れるような動きで剣を振った。
その剣の動きは、まるで水の流れのように流麗で、かつ力強かった。
確かに、この剣の動きに巻き込まれたら、何にせよ大河に落ちた木の葉のよーに、その流れに従うコトになるであろう……
——……という、剣くんの見解でゴザイマシタ……。
「相手の攻撃を受け流すのにも使える、防御寄りの技だ。特に投射物に対しては、絶大な効果を発揮する。……上手くやれば呪文攻撃なんかも弾けるんだが、よっぽど上手いやつじゃないと上手くいかない……いや当たり前なんだけどね。——じゃあ次、これも防御系の技と言えばそうかな。強力な防御の技であり、かつ強力な攻撃の技でもある……つまりは反撃技だ」
『“応報反撃”』
するとフランツさんは、剣を独特の様式で構えた。
次の瞬間——そのフランツさんがまるで鋼鉄の塊にでもなったかのような錯覚を覚える。
しかしそれは一瞬のことで、すぐにその感覚は終わった。
そしてフランツさんは構えを解いた。
——え、これで終わり? ……いや、確かに途中なんかアレなってた気がするケドも……?
「この技は、二つの段階で構成されている。まず一つ目、“不動の構え”になって相手の攻撃を受けて相殺する。そして相殺しつつもその衝撃は剣の内に溜まっていて、間髪入れずに攻撃に移るんだ。相手の攻撃の衝撃分を乗せた反撃をね。それが二つ目の段階。これをほぼ一瞬の内に流れるように行う。しかも相手は、攻撃を相殺された反動により動けないから、確実に命中する。ゆえにこの技は反撃技なんだ。——ちなみに、完璧に発動できたら、相手の攻撃の衝撃も完全に無効化できるから、こっちは無傷だ」
へぇー、ナルホド、そーいうワザなんだ。
「……まあ、この技も見た目はただ構えてるだけだから、効果については見ただけじゃ分からなかったと思うけど。——さて、それじゃ次が最後の技だ。この技は動きすらないから、一番分かりにくいかもね。ただ、効果は一番強力と言える。最後の技としても相応しい。この技は、ある種の防御を突破する効果を剣に付与する。その効果とは——いわゆる、致命攻撃のことだ」
『“致命剣撃”』
すると、フランツさんの持つ剣がゾクリとするような寒気を帯びた。
——この剣はっ……!!?
「この技による攻撃は、防御系のスキル効果を無効化する。この攻撃はスキルによって防ぐことは出来ない。装備で受けるか、躱すしかない。強力なスキルによる守りを持つような相手ほど効果的だ。——この技は、スキルとは所詮、上乗せされた能力に過ぎないということを思い出させてくれる。生物は本来、剣よりも脆い存在だということをね……まあ、かく言うこの技自体がスキルの一種であるワケなんだけど。——さて、オレの覚えている“剣技”はコレですべてだ。とりあえず見せてみたけど、どうだった? 期待には応えられたかい?」
「いやぁー、めっちゃスゲかった……! そんでめっちゃカッケーんよねー。——ん、あれ、でもあの技無くなかった?」
「ん? どれのことだ?」
「いや、あのハチと戦った時に最初に使ってた技」
「——ああ、アレか。確かにな。そうだね、あの技については、さっきの中にあると言えばあるし、ないと言えばない」
「……?」
「ふっ、いや、悪い悪い。つまりはな、あの技は“合技”っていって、さっきの技たちを組み合わせて使う技の一種なんだ」
「へぇ〜、ワザの組み合わせとかできんだ?」
「そうなんだよ。まあ、普通に単体の技を使うよりは難易度は高くなるんだが、その分効果は高くなるのさ。
あの時に使った技は、“波動刃撃”と“波動衝撃”を合体させた技で、“波動刃衝撃”って技だ。お互いの効果が相乗した技になって、より遠くの、より広い範囲に衝撃を飛ばせるようになる。
あの時は、上空のハチを一気に全部落とす必要があったから、この技を使ったってわけさ。……まあ、この“合技”はより攻撃範囲を伸ばすことに傾倒させた技だから、威力自体は特に強化されてない。だから、飛行するハチを落とすことは出来ても、ヤツら全然ピンピンしてたってことなんだがな」
「な〜〜る」
「“合技”の種類は、この組み合わせ以外にも、いくつもあるぞ。ただまあ、“合技”については玄人向けの技だな。オレも今んとこ“二結”までしか実戦で使えるレベルには至ってないんだ」
「“組み合わせ次第で様々な技が生まれる、ということだな……なるほど、興奮してくるな”」
「そうだな。実際、その辺の研究に熱心な『剣士』もいるぞ。確かに、ジョブで覚えるスキルには限りがあるわけだが、そうやって組み合わせることで技を増やすことが出来るからな。——そうそう、それで言うなら、“合技”とは別に、“巧技”ってパターンもある。こいつはスキルの組み合わせではなく、スキルの使い方を工夫することで、より効果的だったり実戦的な使い方をする技のことで——」
と、フランツさんの話にもだんだん熱が入ってきた辺りで、元祖おしゃべり男がさっきの仕返しのように口を挟んできた。
「おいおーい、人には喋るなと言っておいて、自分は随分話し込んでるじゃねーか、えぇ、研究熱心な『剣士』さんよぉ? ご丁寧に“剣技”まで披露なさってよ」
「……オレはユメノに頼まれたからやってるだけだぞ。……まあ、それに、オレはお前と違って、非戦闘時には特にすることもないからな」
「ちぇっ、まったく、いい気なもんだぜ。こっちは今もモンスターを警戒して、しっかり仕事してるっつーのによ」
「おしゃべりしたいほど暇だって、さっき自分でも言ってたじゃないか」
「それでもちゃんも警戒しろって言ったのは、さて、どこの誰だったかなぁ?」
「やれやれ……悪かったって、ローグ。お前にも後でちゃんとオレの『剣士』談義を聞かせてやるから」
「いや、それは別に要らねぇ」
「そうか……それじゃやっぱりローグは、ユメノと話すのが良かったってことか……?」
「はっ、ち、ちげぇよ! 何を言ってんだよフランツこのやろーがっ」
「まあ、ユメノも女の子だしな」
「へっ、こんな兜野郎に女もクソもあるかよ」
「“この高貴なる兜を悪し様に貶すような輩は、『多段同撃』にて細切れに斬り刻まれると知れい”」
「……おいおい、お前、“剣技”は使えないんじゃねーのか?」
「……さーね、ちょっと試してみっかなー」
「いやいや、スキルもねーくせに一目見ただけで使えてたまるかよ」
「……いやあ、ローグ、ユメノなら、あるいは、ひょっとすると……?」
「……いやいや、まさか」
ジッサイんとこ、どーすかね、剣くん。アレが“剣技”とかいうやつらしーっすケド?
あーしは剣くんに意識を向けると、心の内で彼に語りかける。
すると剣くんから返答が伝わってくる……って、え、マジ? マジすか……?
あーしはおもむろに剣くんを鞘から抜き放ち、まるで横断歩道で手を上げるくらいの、気軽な動作で振り上げたら——
『“飛翔剣撃”』
ビュオッ——!!
鋭い剣閃が目にも止まらぬ速さで上に向けて飛翔していき、途中の枝々を切り落とした。
ハラハラと落下してくる枝たち。あーしはそれらに向けて、
『“波動刃撃”』
『“流転柔撃”』
すると、バラバラに落ちてきた枝たちは——光の刃によってその長さを大幅に増した——あーしの剣の動きに巻き取られて集まっていく。
ひとしきり集めたところで、あーしは剣を上段に掲げるように上に突き上げて、その動きを止める。
すると光の刃は消失し——同時に消えた巻き取る流れからも解放された枝たちが、思い思いにあーしの全周囲に降り注ぐ。
それらの枝が地面に落ちるより早くに——
『“多段同撃”』
あーしは剣を振り下ろしつつも、その場で一回転する。
すると、回転するあーしに合わせて全方位に数多の剣閃が発生し、周囲に舞う枝たちを幾重にも切り刻んで粉砕した。
周囲に細かく砕かれた木片が舞う中で——あーしは剣を鞘に収めた。
……どや?
「………………おい嘘だろ」
「……流れるような“技”の連続使用……まだ見てもいない“合技”まで使ってみせ、更に最後のは……“巧技”と言っていいレベルの業前……これはっ、『剣豪』、いやっ、もはや『剣聖』の器ではっ……!?」
「すっ、すっごーーい!! ユメノ! ユメノって、ホントにスッゴーいね!」
「……さすがに驚かされたな」
フランツさんのパーティーの全員が驚いた反応を見せてくれる。
それまでは話を聞くだけだったモイラとランドさんも反応してるし。
フランツさんに至っては、一人ブツブツと何やら言ってる。コレはまあ、それだけ驚いたということなんだろーね。……じゃっかん、あーしを見る目がちょっとアレしちゃってる気もするケド。
ま、アレだ、試してみた結果、フツーに使えたワ、“剣技”。もはや使いこなしてるわ、剣くん。
いやマジで、剣くんさすが過ぎィ。
この剣くん居んならマジ、もはや何がこよーがヨユーっしょ!