第19話 ジョブは神殿で得るもの
「——きて、起きて、ユメノ、朝だよ……!」
「…………んんぅ……?」
あーしはモイラに起こされて、目を覚ました。
……えーっと、なんだったっけ……?
ああそうそう、昨日は良さげな洞穴を見つけて、そこで夜を明かすことにしたんだったね。
あーしは脱いでいた兜を被ると、テントの中から出る。
————昨日、あーしが住み着いてたモンスターを排除してから、さらにみんなで色々としたことによって、この洞穴はそれなりに休める場所になっていた。
そん時の一番の功労者は、『神官』で魔法が使えるモイラだ。
なんかモイラの魔法——確か“浄化の光”とか言ってたっけな——それを使ったことによって、つい最近に惨殺事件(犯人はあーし)が起こった汚ねぇ洞穴は、まるで新品(?)の洞穴に生まれ変わったのだ。
マジであの術、あーしも覚えてーわー。めっちゃ掃除がラクなるやん。
まあ、モイラ本人は——本来は毒とか治す呪文なんだけど……、とか言ってたけど、あーしからすれば、むしろそっちがオマケでいー気がする。そんくらい便利。
そんな感じでキレイになった洞穴の中に、ボンドルドさんが持ち物からテントや寝袋みたいなんを出してくれたので、わりとマトモなキャンプくらいの宿泊が可能になったのだ。
晩ご飯も、ホットプレートみたいなんで調理して、あったかい鍋みたいなん食べたしね。
食べたらもう、すぐ寝た。みんな疲れてたみたいだし、明日も早いからってんで。
あーしは女子二人ってことで、モイラと同じテントで一緒に寝たというワケ。
ちな寝る前に、あーしはモイラに“浄化の光”を自分の体にもかけてもらった。すると、光を浴びただけで風呂入った後みたいにさっぱりしたし、なんなら薄汚れてた服までマシになった。——いやマジこの術欲しーんすけど。あーしもプリーストとかゆーの目指そっかなー?
んで、そっから無事に今朝を迎えられたというワケよ。
だからまあ、昨日ボンドさんが入り口のところにやってた防衛策とかゆーのが、ちゃんと上手くいったってことみたいね。
そう、この洞穴を見つけられたことで、入り口のところだけに集中して道具を使うことで、かなりいー感じの防備を出来たらしい。
もしこの洞穴を見つけられていなかったら、どうしてももっと広い範囲を防備するハメになったハズ。そんな何もないところで、あーしらを一周ぐるりと囲えるくらいの防備をするのは、さすがに厳しいって言ってたし。
まあとにかく、こうして無事に朝を迎えられたので、ほんとヨカッタ————
それから、あーしら一行はとりま洞穴ん中で朝ごはん食べてから、すぐに出発の準備をすると、洞穴を後にしたのだった。
さて、今日抜ける部分が、この旅の中でも一番やべーとこだ。
森の奥、強ぇモンスターがいる危険地帯。今日はそこを通るコトになってる。
今日の配置についても、昨日と同じだ。モンスターはあーしがメインで戦い、フランツさん達のパーティーがサポートに入る。
さーて、どんだけヤベェのが出るんか〜?
……と、思いながら進んでいたケド、なんか今んトコ、出発してからまだ一度も戦闘が発生していない。
周囲を探っている斥候によると、そもそもモンスターがこの辺りにゼンゼンいないという。
フランツさん達と一緒に馬車の前を歩きながら、なぜか険しい顔をしているローグに、あーしは話を振る。
「ふーん、ま、モンスターいないなら良かったじゃん」
「それはそーだが、……いや、やっぱぜんぜん居ないってのもそれはそれで不気味だな。森の奥だぞ? 本来ならもっとたくさん居てもおかしくない、というか居ないとおかしい……おい、フランツ、お前はどう思う?」
「……そうだな、確かにユメノの言う通り、モンスターが居ないのは好都合ではあるんだが、理由が分からないのは不気味でもある。だが、今のオレ達にその原因を調べる余裕があるわけでもないし、今のところはその必要もないだろう。……まあ、油断することなく、とっとと抜けてしまおう」
「……だな。いないならそれに越したことはないしな。——そうだな、この分ならもう少しペースを上げてもいいかもしれねーな。どうする? フランツ」
「確かに、そうは言っても不気味だしな。なるだけ早くに抜けれるならそうしたい。——よし、無理のない範囲でペースを上げよう」
「了解」
そんなわけで、あーしらは少しペースアップして進んでいった。
しかし、それからもモンスターはまったく現れない。
最初はその理由が分からないことで、不気味に思ってどことなく萎縮していた面々も……ずっとそんな調子なので、次第に慣れてリラックスし始めた。
なのであーしらは軽くお喋りなんかしながら、早めのペースでザクザク進んでいく。
せっかくなんで、あーしは聞きたかったことをこの機会に聞いてみた。
まあイロイロ聞きたいことはあったけど、とりま一番聞きたかったのは——
「ねぇ、フランツさん。昨日あのハチに使ってたなんかカッケーワザあったじゃん。アレってなんなのー?」
「技? どれのことだ?」
「んー、どれってか、そもそもあのワザってなんなの? あんなのってどーやって使えるようになるん?」
「あれはー、えっとな、『剣士』のジョブで覚えるスキルに“剣闘武技”ってやつがあるんだが、このスキルから色々と派生する攻撃技だな。だから、“剣技”って呼ばれてる」
「へえぇー、そんじゃ、ソードマンってジョブになれば覚えられるってコト?」
「ま、そうだな」
「んじゃ、ソードマンのジョブになるにはどーすればいーの?」
「……やっぱり、ユメノはそのことを知らないのか。——えっと、ジョブを授かるにはね、神殿に行って『職能授与の儀』をしてもらわないとなんだ。ジョブってのは、そうやって手に入るんだ。ただ、選択できるジョブの候補は本人の素質によって様々だから、『剣士』になれるかどうかは、素質を調べないと分からないけどね。まあ、ユメノなら確実に『剣士』は出るだろうな。……いや、それどころか、さらに上位の『剣豪』すら出てくるんじゃないか……?」
「ふーん? じゃ、そのジョブってのをゲットしないと、あんなワザは使えないってことなん」
「あ、いや、必ずしもそうとは限らない。『剣士』のスキルによって習得しなくても、自力で鍛錬して“剣技”を覚えることも可能ではある」
「え、マジ?」
「だが、その場合は、長い時間をかけてものすごく大変な修練をする必要があるんだけどね。ジョブのスキルで覚えた方が遥かに楽ではある」
「えー、そんなら自力で覚えるやつとか居ないっしょ」
「まあ、確かにかなり少数だな。ただ、自力で習得した方が、やっぱり技の精度も高いし扱いも上手いのはある。それと、スキルによって覚える“剣技”は決まった種類しかないが、自力で習得する分にはそんな制限はないからな。だから自分でオリジナルの技とかも作れる」
「はー、なるほど」
「それに、ジョブにつくには中々に高額な料金……もとい、お布施が必要だからな。まずは自力で鍛錬するってやつもいる」
「“ふ……、世の中やはり、金か……”」
「ま、逆に言えば、素質があって金さえ払えば、誰でもジョブは得られるってことだ。……あ、いや、誰でもは言い過ぎか」
「え、ダメな人もいんの?」
「うーん、ま、基本的に職能ってのは、神々が源人に特別に授けた加護ってことになってるから、他の種族だと金があっても簡単にはいかない場合もあるんだ。ユメノがオリジンなら、ま、問題ないだろうが。——あ、あと犯罪者も無理だな、そこは当然な」
……どーなんだろ、あーしでもジョブってやつゲットできるんかなー?
種族とか言われても、あーしがジッサイなんの種族なんかとか分からんし……ホモサピエンスはオリジンでええんか?
とりま冒険者にはなれたけど、犯罪者はダメってのもチョット気になるよネ……。
あーしが少し考え込んでいたら、いつの間にかそばに来ていたローグが、話に加わってきた。
「そうそう、犯罪者にはジョブは与えられないことになってる……だけどな、世の中には犯罪者御用達の『盗人』や『暗殺者』やら『詐欺師』なんてジョブを実際に持っている奴らがいるんだよな。これが一体どういうことか分かるか? 駆け出し」
「えー、マジ? 何ソレ? ……いや、どーゆうことなん?」
「なに、簡単なことさ。表のジョブを授けるのが普通の『祭司』なら、犯罪者にジョブを授ける——いわゆる“闇司祭”って連中がいるってことさ」
「はー……、ほぉ、ふぅん……?」
「……それはつまり、世間一般に“犯罪のためのジョブ”とされるそれらのジョブも、ちゃんとジョブとして存在しているってことなんだよな」
「そうそう。神殿の聖職者連中は、そもそもそういうジョブの存在を表向きは認めてないけどな。でも実際に持ち主はいるんだから、存在するってことなのさ。結局は、ジョブなんてのはあくまで『祭司』のスキルによって付与される加護に過ぎないってことだ。神殿の聖職者が言うような神だの何だのってのは、連中が勝手にそう言い出しただけさ。少なくとも、俺はそう思ってるね」
「え、つまりそれって、ジョブってのがそもそも、クレリックってジョブの能力によるものだってコトなん?」
「ああ、実際そうだぜ。『職能授与の儀』なんて大仰に銘打ってるが、実際のところ、ただの『祭司』のスキルの一つに過ぎねーんだよな。それを神殿の連中は、『祭司』を独占して金儲けしてるワケだよ。だからその分、“闇司祭”も儲かるワケさ。——ま、そんなことやってんのが見つかったら、“神殿騎士”どもが殺しにくるけどな。……んでよっぽど酷けりゃ、“断罪判官”が来て、闇に葬られる……と」
「“……だとすると、最初のジョブは一体どこから出てきたのだろうな?”」
「あー、それはなー、……ま、ホントのところは分かんねーけどな、やっぱり、“星霊の聖地”の“霊台石”なんじゃねーか?」
「……なんてぇぇ??」
「あるんだよ。そんな所に、そんなブツがな。んで霊台石が、祈りを捧げた者にジョブを授ける力を持ってるワケ。だから、これからジョブを得たやつが最初なんじゃねーの? やたら古いモンらしーしな。ま、今も使えるらしいが、どうだろうな。コレも神殿が管理してるし、普通のヤツは拝めなくなってるからなー」
「へぇぇ〜……」
「神殿の連中は、この霊台石自体が神から与えられた遺物だから云々——って言ってるワケだが、それだって実際どうだろうなぁ? そんな昔のこと、一体どーやって————」
それからもローグは、神殿の謳い文句の胡散臭さについて、あーしに延々と語り続ける。
そんな様子を見るに、——これまでは探索の仕事をやってたから知らなかったけど、ローグってけっこーお喋りなんだなぁ——ということを、あーしは知った。……あと、神殿がどうにも気に入らないらしいってコトもね。
ローグの話はそれからも続き——徐々に脱線していった話が、酒場で隣になったおっさんから聞いた国家の陰謀論とかいう、これ以上ないくらい胡散くせーのに差し掛かった辺りで——見かねたフランツさんが割り込んだ。
「……ローグ、確かにユメノはノリがよくてちゃんと話を聞いてくれるから、そうやって先輩風吹かしたくなる気持ちはオレにも分かるが……ユメノと喋るのが楽しいからって、話に夢中になって索敵を疎かにはしてないよな?」
「なっ——、……おいおいフランツ、俺がそんなドジを踏むワケねーだろ。話し込んでたのは、それだけモンスターが居ないってことさ。あと、コイツが話して欲しそーにしてたからな」
や、別にそんなコトねーんだが?
「しゃーないな……分かったよ、それじゃもう少し真面目に索敵するって。——そういうことだから、悪いなユメノ。陰謀論については、また今度話してやるよ」
や、別にそんな気になってねーから、あーし。
ローグは謎にあーしに謝ると、周囲を警戒する素振りに戻った。
すると今度は、モイラがあーしに話しかけてきた。
「ふふっ、ユメノ、ローグって実はけっこう話好きなんだよ。冒険の時は索敵しなきゃだからあんまり喋らないんだけど、普段はよく喋ってるし。それに聞きたがりでもあるから、『斥候』の能力を使っていつも盗み聞き——じゃなくて、噂集めとかしてるんだ。それが趣味っていうか」
「——おいモイラ、誰の趣味が噂集めだって? 聞こえてるぞっ」案の定、ローグが遠くから口を挟んできた。
「——ほらね? 癖になってるの、話を盗み聞きするのが。——だからローグの近くでは、ナイショ話はしちゃダメだよ?」
後半は小声で、モイラがそうあーしに耳打ちしてくる。……ま、つまりはコレも聞いてるってコトなんだろーケドね。
「……まあ、たまに有益な話を仕入れてくることもあるからな、趣味の悪い趣味、ってワケでもない……かもな」
そしてフランツさんは、そんなフォローなのかよく分からないことを言う。
ローグのジョブである『斥候』については、あーしはまだ詳しく知らないけど、やっぱり色々と探る能力ってことなんだろね。
そんでローグは、その能力を自分の趣味にも使うくらい活用していると。
ふーむ、ジョブか。
あーしの素質ってどんなんだろー? フランツさんは剣士は出るって言ってたけど、あーしの剣の腕は剣くんありきなんだけど、それでも出るんかー?
んでも、あーしもできることなら、フランツさんが使ってたみたいなカッケー技使いたいんだけどなー。
……でも、ジョブが無くてもワザは使えなくもないって言ってたよね?
どーだろ、あーしの剣くんなら、もはやジョブとか無くてもいけそーじゃね? ……ちょっと試してみっか?
とはいえ、いきなり試すにもなんの手がかりも無しではなー。やっぱここは、フランツさんにお手本見してもらうべきカナー。
つーかそもそも、フランツさんの使える剣のワザって種類はどんなもんなんー? ゼンブ見てーんだけど。
つーわけであーしは、フランツさんに剣のワザを見せてくれないかオネガイしてみる。
「あのー、フランツさん、あーしチョット、お願いがあるんスけどー、いっすか?」
「ん、なんだ? ユメノ。君は今や、このパーティーの生命線だからな。オレに出来ることなら、遠慮なくなんでも言ってくれていいぞ」
「あ、そーお? んじゃあ——」
剣のワザ、ゼンブ見せて欲しーんすけど、いーすか?