第17話 あーしもそんなカッケーワザ使いたいんだケド?
なんかオトコ二人から熱視線を受けることになったあーしは、なんとなく居心地が悪くなったので、その場から移動した。
なんとなしにモイラの方に行ったら、そこにはスゴイ光景があった。
——え、ナニ、めっちゃキレーになってる!
モイラはなんか手から光を放っていた。そして、その光を受けたランドさんは、サルの返り血で真っ赤に汚れていた体から、赤色がみるみる落ちていった。
そうして光をあらかた浴びた後は、返り血がすっかりキレーに落ちて、赤ダルマから元の姿に戻ったランドさんの姿があった。
「はい、これで毒は抜けたはずです。汚れも全部落ちましたね。どうですか、体の調子は?」
「……ああ、毒は完全に抜けたな」
「それじゃ、次は傷を癒しますね」
「……魔力は大丈夫か?」
「そうですね……確かに減ってますけど、まだ大丈夫だと思います」
「……ローグとフランツの分は、足りるのか?」
「そうですね……」
と、そこにフランツさんがやってきて、会話に加わる。
「モイラ、今後のことを考えているなら、それは気にせずに回復してくれ。どうやら余裕が出来そうだからな。それならどうだ、足りそうか?」
「フランツさん。——えっと、後のことを考えないなら足りるとは思いますが、だいぶギリギリになると思います。しばらく経たないと、次の回復が出来なくなりますけど……」
「それでいい。ここは一度、万全にしておきたい」
「分かりました」
と、そこに今度はローグまでやって来て口を挟んできた。——結構離れたところにいたのに、声聞こえてたのカナ?
「——おいおい、そんな回復使っちまっていいのかよ? てか余裕が出来そうって、どういうことだ?」
「なんだ、聞いてたのか?」
「聞こえてたさ。俺は『斥候』だぞ」
「ああ、そのことについては……ま、いいか、今話すよ。——いや、というのも、ユメノにも戦闘に参加してもらうことにしたんだ。ユメノが加わってくれたら、かなり余裕が出来るんじゃないかと思う」
「コイツを? なんで今更? というか大丈夫なのか?」
ローグはそう言って、あーしの方を見てくる。
「大丈夫も何も……聞いて驚けローグ、ユメノは一人で、オレ達が戦ったのよりたくさんの毒血猿を倒してたんだ。なんの問題もない。いや、むしろオレ達が気を使われる側みたいだぜ」
「……なにっ?」
「馬車の裏、確認してみろ。そうすれば分かる」
フランツさんの言葉を受けて、ローグは首だけ馬車の方に向けた。すると、彼は目を見開いて驚いた顔になる。
「……マジか、嘘だろ……!? コイツらいつの間に……」
「オレ達がさっき戦ってる間……だろうな」
「……クソッ! 俺としたことが、見落としたのか……!」
「お前のせいじゃないさ。さっきはお前も大立ち回りをしてたから、周りを見る余裕はなかっただろ。お前が戦闘の方に尽力してなかったら、じっさい戦況はやばかっただろうし。自分を責めるなよ」
「くっ……、それで、アイツらは全部このルーキー、——いや、ユメノが一人で倒したってのか」
「そうだ。それも剣で直接ぶった斬って、最短で殲滅したんだと。……しかも、返り血すら浴びることなく、な」
「……マジかよ」
「そのユメノが戦列に加わってくれれば、お前は斥候に専念出来るだろ。そうすりゃ、もう敵を見逃すことはない——だろ?」
「……もちろん。役割に専念出来るなら、次はこんなヘマしないぜ」
「ああ、だよな。……というわけで、ユメノ、次からは君も、オレ達と一緒に迎撃に加わってくれないか? ……どうかな?」
「いーけど?」
「……ほっ、良かった。ありがとう」
「馬車の護衛の方はどーすんの?」
「それはレイブン達に任せよう。まあ正直、すでにこの辺の魔物はアイツらの手に余る強さだからな……後ろに回ってもらおう」
「“それでは馬車が手薄になるのではないか?”」
「まあ、確かにそうだが、この状況で強力な戦力を遊ばせる余裕はないからな。……ユメノが加わったことによって殲滅速度が上がって、かつローグの斥候が余裕をもって機能したなら、よっぽどの大群が同時にでも現れない限り大丈夫だと思う、んだが……どうかな?」
「“連携については? 初対面では上手くいかないからとか言っていなかったか?”」
「そこは正直、ユメノが合わせてくれることに期待している。というか、ユメノには自由に動いてもらって、そこにオレ達が合わせる、サポートするという感じかな。それで、どうだ……?」
「……あー、まあ、いーんじゃナイ?」
「……よし、それじゃそういうことで、次の戦闘からは、ユメノ、頼むな」
つーわけで、次の敵からはあーしも迎撃に参加するコトになった。
それから、モイラによる治療が終わったところで、あーし達は進行を再開した。
あーしが戦闘にメイン参加することによる配置換えについては、すでに終わっている。
フランツさんにそのことを言われたレイブンは、最初こそ悔しそうな反応を見せてたケド、特に反論することなく受け入れていた。
まあ、ついさっき仲間の二人がボロボロにやられてたし、納得せざるを得ないトコロっしょ。
それから進むことしばし、あーしが先頭集団に合流してから初めての戦闘が発生した。
例によって、ローグが敵の接近を告げる。
「——敵だ! なっ、こいつら——飛行系だ! 数も多い! これは……『毒縞蜂』! クソッ、なんだってコイツらが移動してんだよっ! しかもこっちに来やがる!」
「方向はっ!?」すかさず、フランツさんの問いが飛ぶ。
「——ほぼ正面! 敵の進路と速度的に回避は不可能だ! やるしかねぇ!」
「飛行系か……厄介だな。——どうだ、ユメノ、いけるか?」
「えっ、いやー、どうかな、見てみないことにはなんとも……」
「……そうか、ううん……なら——」
フランツさんは少しの間なにやら考えていたケド、それもすぐに切り替えると、全員に指示を出していった。
「みんな聞いてくれ! 作戦言ってくぞ!
まずはランド、出来るだけたくさん引き付けてくれ!
そしてローグ、さっきの今だが、お前も弓で参加してくれ! 遠距離攻撃が必要だ!
モイラはローグの援護! ペアで動け。
そして——ユメノ! 君はランドに寄ってくるヤツらを仕留めてくれ!
——オレは遊撃だ。なんとか遠距離技で撃ち落とせるか試す。
馬車に行かれるとマズい。倒すことより妨害を優先しろ! 尾の毒針にも注意だ!」フランツさんが一息にそう言い切ったタイミングで、
「もう来るぞ!」ローグが叫ぶ。
「——だそうだ! さあ、やるぞ——!」
フランツさんの言葉にみんなが応えた直後、モンスターが視界内に現れた。
——ってコイツら……
「うっっっわキッッッッモ!!?」
「——ユメノっ!?」
現れたのは、蜂みたいな姿のモンスターだった。
だけど大きさがヤバい。フツーに人間の頭より大きいくらいのデカさ。
想像してみ? なんかスズメバチみたいなやつが、ガッツリ小動物くらいのサイズ感で、目の前に、しかも大量に出てきた時のコト。
——いやムリだわ。キモ過ぎ。
脳が理解を拒否る。生理的嫌悪感で鳥肌全開ブルって思考停止する。
つーかまず、あーしって虫がダイキライなんよ。ニガテってかムリ。アイツらは生物として容認不可能。だってゼッタイ宇宙から来てんじゃんアイツら。地球の仲間じゃねー。あーしは認めん。
まーここが地球なんかは知らんけど、そんなんどーでもいい。とりまムシはムリ。虫は無視に限る。——ほらなんか、普段なら言わないくだらんシャレまで出てくる始末じゃ。
あーしは完全に停止してしまっていた。
しかし、フランツさんたちはそれぞれ行動していった。
『“気我誘引”』
まず最初に、一番前に飛び出したランドさんから、何やら気迫のようなものが放たれたのを感じる。
すると、あーしらよりだいぶ上を飛んでいたハチたちの大半が、急に進路を変えて彼に襲いかかっていった。
しかし、いくらかのハチはランドさんを抜けてこちらにやって来る。
そんなハチたちに対して、ローグは素早く弓を向け狙いをつけると矢を放つ。それは素早く動くハチに見事に命中したケド、それで落とせたのは内一体に過ぎなかった。
残りの数体がそのまま行ってしまう——と、その前方では、フランツさんが剣を振りかぶっていた。
——その剣は、剣先より謎の光の刃を伸ばして、剣の長さが二倍以上に伸びていた。
『“波動刃衝撃”』
振り下ろしたフランツさんの剣より広範囲に衝撃波が放たれ、上を通ろうとしたハチはすべて撃ち落とされた。
——はっ!? 何アレっ!? めっちゃカッケーんすけどっ!!?
あーしがフランツさんの謎の鬼カッケーワザによって、一瞬、虫への忌避感を忘れたところに——ワザを放った本人から指示が飛んできた。
「ユメノっ、ランドのサポートをっ、頼むっ!!」
言われてハッとランドさんの方を見れば——大量のハチに囲まれており、本人の姿も見えないほどだった。
——これはヒドい、ヒドすぎる……ッ!
あまりにヒドい絵面にしかし、あーしは剣を抜いて立ち向かっていく。
確かにムシはキモいし近寄りたくないけど、いくらなんでもこのランドさんはカワイソー過ぎる! あーしが同じ状態になったら自爆して死ぬ! 自爆とか出来ないケド! 気合いでするレベル!
そんなランドさんを助けられるのはあーしだけだ。ムシがキモいとか言ってらんねー!
「うおおおっっ!!」
あーしは気持ちを鼓舞るよーに声を上げながら、ランドさんに群がるハチどもをめちゃくちゃに斬り払っていく。
ハチどもは一撃で粉砕されてバラバラになり、あーしの手により、ランドさんの周りのヤツらはものの数秒で全滅した。
すると、ハチに隠れて見えなかったランドさんの姿が現れる。
彼はあーしの方を向くと——
「——気をつけろ! 虫はしぶとい! まだ終わっていな——」
そのセリフも途中の段階で、ハチの死骸と思っていた内のいくつかが未だにモゾモゾと蠢いていることに気がついて、ソイツらが唐突にナニかを放——
——ッ!!
あーし(というより剣くん)は即座に反応して、こちらに飛んできたナニかを斬り払う。
「ぐっ——!」
特に狙いもないように四方にばら撒かれたナニか。
あーしは自分に向かって来たモノを撃ち落としたケド、ランドさんは当たってしまったみたいだった。——彼はうめき声をわずかに漏らした。
「だ、ダイジョブっすか——」
「……俺のことはいい。あっちの援護を、すぐに——」
そう言ってランドさんが示した先、フランツさんたちの戦闘は、わりと劣勢だった。
フランツさんは、地面に落ちたハチたちの動きを阻害するように攻撃を加えている。
さらにはモイラも、武器を振るってハチを牽制していた。
ローグは、飛び立ってしまいそうなヤツを優先して撃ち落としている。
そうやってなんとか、三人がかりでハチを地面に抑えている。しかしハチの数が多いので、いずれ手が回らなくなりそう——
あーしはもう、躊躇うことなくハチたちの中に突っ込む。
そして手あたり次第にハチに斬りかかり、その身を粉砕していく。
あっという間に、その場のハチは全滅した。
しかしまだ終わってはいない——
「気をつけろっ! 完全に倒せたかは——」
フランツさんの忠告が終わるのも待たず、再びの例の反撃——。
あーしはちょうど近くにいたモイラの前に立つと、こちらに飛んできたモノを迎撃した。
「きゃっ——、あ、アレ……?」
「うおおっっ!?」
「くっ——!」
三人がそれぞれの反応を見せる。
「ゆ、ユメノ……助けてくれたの? あ、ありがとう……!」
「危ねっ、ギリギリ……」
「……なんとか、大丈夫か。——ああ、ユメノ、助かったよ。ラン——」
「——まてっ、まだ居るぞ! 上っ!」
フランツさんが何かを言うのを遮って、ローグが声を上げた。
言われて即座に皆が上を見上げる。
するとそこには、一回り大きいハチが飛んでいた。
「アレはもしや、『妃毒縞蜂』かっ!?」
「クソッ、なんだって上位種まで出てくるんだよっ」
「待てよ、確かクイーンには遠距離攻撃がなかったか……、——!?」
上空のデカいハチが何かの動きを見せた——その瞬間に、あーしは反応する。
クイーンより放たれた不可視の何かを、あーしは剣を振って打ち払った。
——なんだ今のっ!? 見えないナンカが飛んできたぞっ??
「気をつけろユメノ! そいつは風属性の遠距離攻撃が使える!」
「“問題ない、対処可能だ”」
「……みたいだな! って、またっ——」
ブォン——!
と、飛んできたナニカを、またもや斬り払う。
「……どうもユメノを狙っているようだ! すまんがユメノ、そのまましばらく耐えてくれ! こっちでなんとか攻撃してみる!」
「わ、分かった!」
「モイラ、ランドの様子を見てくれ! オレは攻撃してみるから、ローグも弓を試せ!」
「は、はい!」
「チッ……! 俺の弓じゃ正直、期待薄だぜ……!」
「だが遠距離持ちはオレたちしかいない。やるしかないぞ……!」
「クソッタレ……!」
クイーンの攻撃は、今んとこあーししか狙ってこない。
あーしはその攻撃には問題なく対処できるんだケド、高いところから降りることなく攻撃してくるクイーンには、反撃する手段があーしには無い。
なので、あーしがヤツの攻撃を捌いている間に、フランツさん達が攻撃してくれるみたいだケド……
「クソッ! 当たらねぇ、速ぇ! ——大して効かねぇと思ってたけど、まず当たりすらしねぇのかよ!」
ローグの放つ矢は、クイーンに回避されていた。
『“飛翔剣撃”』
フランツさんは、なんか斬撃を飛ばしていた。——はっ?! 何ソレッ、またカッケーワザを……!
「ダメだ……! こっちも当たらん……」
しかし、クイーンはそれも躱している。
不規則かつ高速に動き続けるクイーンは、そもそも狙うのが難しそーだけど、当たりそうなやつも的確に回避する反応速度も持ってるっぽかった。
「くそっ、これじゃ手詰まりだ……。——ユメノ、君はアイツに有効な攻撃手段は持ってないかっ……?」
フランツさんがそう尋ねてくるケド、あーしとしても、剣が届かないコトには……
——いや、なんとかならんかな? 剣くんならあの程度の距離、どーとでもなるくね? つーか自力で飛べるくらいだし、なんかテキトーに投げつけても当たるんじゃねーの?
んでも、そーなると防御が出来んよね……
「試してみないと分からないケド、あるかも……?」
「ほんとか!? それなら——」
「でもこの攻撃をどーにかしない、とっ——!」言いながらあーしは、定期的にくる攻撃を打ち払う。
「……だよな。しかしオレ達じゃアレは受けきれないだろうし、まずこっちに見向きもしない。——ユメノが一番倒したからなのか……?」
なるほど? やたらあーしだけ狙われてんのは、ハチを一番たくさん倒したからなん? マジかよ、逆恨み……でもナイか。ナイな。正当恨みダワ。
しかし正当な仇討ちだとしても、このままなら一生終わらんケド、いつまでやるつもりよ……?
お互いに打つ手なしかと思いきや、そこに助っ人が登場した。
「……フランツ」
「ランド! 平気か……!?」
「……ああ、いける」
「それなら……頼みがある」
「……分かっている。アイツは俺が受け持つ」
「ああ、頼む……! ——ユメノ、これからランドがクイーンを受け持つ、だからなんとか、決めてくれ……!」
「“……任せろ。必ず、決めてやる”」
するとランドさんは一つ息を吸い、またあの気迫を、今度はクイーンに向けて放った。
『“気我誘引”』
空気を伝わるように放たれたソレが、クイーンに触れる。
すると、それまであーししか見ていなかったクイーンが、ランドさんの方を向く。
そして——風の衝撃波を放った。
「ぬうぉっ——!!」
しかしランドさんは、その攻撃を盾で受けきっていた。
んなら今っ——!!
あーしは剣くんを振りかぶると、クイーンに向けて思いっきり投げつけた。
『“回転飛剣”』
テキトーな技名を心の内で叫びつつ。
ビュン——と、とんでもない速さで飛び出した剣くんは——
狙い過たずクイーンに命中し——
やはりその体を、一撃で粉砕したのだった。