第14話 一気に出てきてもゼンゼン名前覚えられん
さて、冒険者登録を終わらせて、冒険者証とかゆーのも受け取ったので、あーしはこれで冒険者になったとゆーことだ。
よーし、それじゃ早速、カネ稼ぎましょ。
もともと持ちガネがほぼなかった上に、冒険者の登録料とかでさらに持ち物を売り捌いたから、マジで今のあーしは現金はおろか金目のモノすらほぼ皆無なワケ。
マジで昼の食いモンを買うカネすらねーわけで、そーきゅーにカネを手に入れないとマジでやべぇってのよ。
では冒険者としてまず何をしてカネを稼ぐかなんスけど、あーしは冒険者になって最初にやる仕事はもう決めていた。
いわゆる「護衛依頼」とかゆうやつ。これを受ける。
これはネズミちゃんにオススメされたやつだ。この依頼は、今のあーしにはまさに渡りに船な依頼なのだ。
あーしとしては、変装しているとはいえ、やらかした街からはさっさと出たい。しかし行く当てはおろかカネもない。
そこで、この護衛依頼ってやつを受ければ、街から出る人に一緒について行けばよくて、さらにはカネまで手に入るという、まさに一石二鳥な依頼なのである。
なのであーしは、冒険者として受ける最初の依頼として護衛依頼を受けて、そんままこの街をサッサと離れちまうつもり。
つーわけで、あーしはさっそく依頼を受ける用の受付に行って、そこのオネーさんに話しかける。
「あのー、護衛依頼っての受けたいんスけどー、街から出るやつの」
「えっと……ライセンスを見せてもらえますか? あ、はい……あの、新参者の方ですよね? 護衛依頼のような依頼は、基本的にもっとランクが上の冒険者でないと受けられないんです。実力と信用の両方が高い人でないといけないので……なので、その、登録したての駆け出しの方では、どちらにしろ依頼人の方も納得しないでしょうから、諦めていただいた方がよろしいかと……」
ま、マジか……?
あーしはソッコーで雲行きが怪しくなったことに動転しながら、なんとかならんかと食い下がってみた。
しかし、そこで“ヤツ”が出てくる。
「“実力に関しては、かなりのモノだと自負しているのだがね……それに信用についても、ライセンスがあれば、ある程度の保証になるのではないか?”」
「実力に自信があるのなら、活動によって順当にランクを上げていただければ、自称ではない実力の証明がランクという形で現れますので、まずはランクを上げられるように進言いたします。そうすれば信用の方も自ずと得られるでしょう。ライセンスの色はあくまでも目安ですし……こう言っては何ですが、あなたのライセンスの色は、それのみで信用を保証出来るほどの、色調ではないかと……」
「……どーしてもムリっすか……?」
「そうですね……募集要項にランク不問とでもあれば、紹介することは不可能ではありませんが……護衛依頼でランク不問なんて条件はまずありませんし、ランクの指定がある場合は、最低ランクの新参者の方を紹介することは出来ませんので……」
「“まあ一応、確認してみてくれる?”」
「……分かりました。では、少々お待ちを」
そう言ってオネーさんは席を立った。たぶん確認しに行ってくれたんだろう。
ショージキあーしはすでに諦めてたケド、“ヤツ”が食い下がったので待ってみることになった。
うーん、ま、たしかにこのオネーさんの言うことももっともとゆーか、フツーに考えたら、どこの馬の骨とも知れんヤツに護衛とか依頼したりせんわナ。
でもマジか。護衛依頼ムリなら、マジでこれからどーしよ……
あーしとしても、これからどーするべきかとかは色々考えてはいる。
どうしたいかと言われても、まーフツーに日本の我が家に帰りたいってのが一番なワケだけど、どうやって帰ればいいのかがゼンゼン分からん。
トツゼン外国に放り出されてもマジ困るけど、ここって外国どころの話じゃない場所っぽいしさ。
じゃーどうやって帰ればいいのかとか考えるにしても、まずはその前に、目先のことをやっていくしかねーのかな、と。
なんせ今のあーしは、今日の昼メシにすら困るアリサマなので。
さらに言えば、今のあーしって軽くお尋ね者なんよね。ならまずは、ほとぼり冷めるまで行方くらまさないとやろ。そんなん常識やん?
その辺の諸々をいっぺんに解決出来るのが護衛依頼だったから、これ受けて別の街行ってからが始まりだろって思ってたんすけど、始まる前に躓いちゃってんだよネ〜。
はぁ……とりまこの街でコソコソ地味にカネ稼ぐしかねーんかな……
そんな風に色々と考えていたら、オネーさんが戻ってきた。
「あの……一件、ありました」
「えっ、マジ!? ——やった!」
「あ、でも、この依頼、すごく訳ありというか……」
「……?」
「……内容としては、『ギンザの街までの護衛依頼 急ぎ』ということで、それで、“魔の森”を突っ切るようなルートを指定されているんです」
「んーっと……?」
「普通ではあり得ないですよね。いくら急ぎだからって、魔の森を通り抜けようなんて……その分、報酬は距離に対しては破格ですけど……」
「“なるほどね……まあ、問題ない。そいつを受けよう。案内してくれ”」
「……確かに、依頼を受けるかどうかは自己責任ですが……」
「“問題ない、腕には自信がある”」
「……分かりました。それでは、依頼主の元へ案内します」
勝手に返事をした“ヤツ”のセリフに対して、——うわー、なんかいかにも自分の実力を過信して死ぬ系のヤツじゃんコレ——なんて思いつつ、あーしはオネーさんの案内について行った。
よく分からんけど、真っ当な依頼ではないのは分かった。でもあーしはこの依頼を受ける。
なんせあーしもワケアリな人間だからね。ならワケアリ同士ピッタリってモンだわ。
マノ森とか言うのがどんなとこか知らんけど、あーしもすでに森を抜けるのは経験してる。迷っても剣くんあればなんとかなっから、ダイジョーブっしょ!
オネーさんに連れられて向かった先では、今まさに、依頼主っぽいおじさんと冒険者っぽい人が、何やら言い争いをしていた。
「——いいや、俺たちはおりる。もうこれは決定だ。“魔の森”を突っ切るコースなんて付き合いきれないね。どうしてもと言うなら、俺たち抜きでそいつらと行けばいい。ただ、俺たちはここまでだ」
「そんな、君たちが抜けたら、無謀だ……!」
「そりゃ買い被りってモンだ。俺たちが居たって無謀さ。そこんとこ、しっかり自覚した方がいいぜ」
そこで、その冒険者の人は、その場にいる他の冒険者の人たちに対して声をかけた。
「これは親切心からの忠告だが、命が惜しけりゃ受けるべきじゃないぜ」
「……はん、冒険者稼業が命懸けなのは今に始まったことじゃねー。一泊二日の護衛依頼でこの額なら破格だろ、これはチャンスなんだよ。俺はやるぜ」
「……彼には昔受けた恩義があるのでね、借りを返すだけさ。危険は承知の上だ。忠告、感謝する。アンタらにもついてきてくれとはオレは言わない」
「——フン、ま、好きにしな。運が良けりゃ、無事に切り抜けられるかもな。……なけりゃ死ぬんだろうけどな」
そう言って、口論をしていた冒険者は立ち去って行った。
あーしは今見た光景に色々と思うところはありつつも、とりま依頼主っぽいおじさんに声をかける。
「“ほら、参加者一名追加だ。時間が惜しいんだろ? すぐに出発しようぜ。なに、もう心配はいらないさ。なんせ最強の護衛が参加することになったんだからな”」
「……な、君は、依頼を受けるつもりなのかい?」
「……あ、まあ……はい」
「さっきのを見てなお、参加すると……? いや、いい、確かに時間は惜しいんだ。とりあえず、冒険者証を見せてくれるか?」
あーしはライセンスを取り出してみせる。
「へっ、俺たち以外にも無謀に挑戦するやつがいたとはね……っておい、そいつ——」
「“駆け出し”じゃないか……」
あーしの取り出したライセンスを見た冒険者の二人が、それぞれ反応を示す。
しかし依頼主のおじさんは、ライセンスを見て一瞬顔をしかめたケド、そこからあーしの顔を見ると、その表情を変えた。
ふむ、もしかしたらあーしの顔に何か感じるものがあったんだろーか? ……あ、いや、あーし兜で顔見えねージャン。
「君は、腕に自信があるようだが……何かジョブはお持ちで? それとも、魔術か何か使えるとか……?」
「……や、そーゆうのは、別に……」
「では、一体どんな実力が……?」
「“ただ剣一つ、他には何も”」
「……お見せいただいても?」
また勝手なこといーやがって……!
ちょっと迷ったケド……仕方ないので、あーしはマントの下にある剣を取り出しておじさんに見せる。
「これは……!? す、少し、よく見せてもらってもいいかね?」
「あ、ハイ」
なんかおじさんの目の色変わってっけど、ダイジョーブかな……?
まさか剣を見ただけであーしの素性(教会襲撃犯)がバレることはないと思うけど……ダイジョーブよね?
「ふむ……うぅむ…………」
「アノ、もーいいっすか?」
「——あ、うん、もういいよ。あぁ、君、ありがとう」
「“それで、参加させてもらえるのかな?”」
「あ、ああ、そうだな……。うん……分かった。君にも参加して欲しい。頼めるかい?」
「“もちろん、この剣にかけて、貴殿を守護ると誓おう”」
あーし(というより兜が)そう宣言したところで、その場にいた冒険者二人の内の片方の人が、話に加わってきた。
「なっ、ボンドルドさん、この子はルーキーですよ! いくら本人が希望するからって、参加させるのは……!」
「フランツくん……これは依頼主としての決定だよ。時間が惜しいから、これから準備でき次第出発しようと思う。それで、悪いんだが、フランツくんのパーティーにこの人のことを頼んでもいいかい?」
「ボンドさん……?」
「頼めるかい……?」
「……分かりました」
そこで依頼主のおじさんは、もう片方の冒険者の方にも確認する。
「えっと、君の方はどうかな。これからすぐに出発するけど、大丈夫かい?」
「俺たちはいつでもいけるぜ。ソイツについても別に、俺たちに任せるつもりじゃねーならどーでもいーぜ」
「よし、分かった。——それじゃ、これからすぐに出発の準備に取り掛かるから、そちらも準備をしておいてくれ」
言うが早いか、おじさんは早速どこかに向かっていった。
それに続いて、あーしを任されなかった方の冒険者の人もどっか行ったので、その場にはあーしを任されたっぽい冒険者の人(と、あーし)だけが残った。
とりま依頼主のおじさんがオッケーしてくれたんで、依頼を受けられることになったみたいね。
んで、あーしのことは、この——フランツ? って人が色々と面倒見てくれるっぽい感じ?
「——ボンドさん……一体何を考えているんだ? わざわざルーキーまで連れて行くなんて……」
当のフランツさんは一人ブツブツとなんか言っていたケド、あーしが彼を見ていることに気がつくと、気を切り替えるように頭を振った。
それからあーしに話しかけてくる。
「えーっと、君……あー、オレはフランツ、冒険者等級は中級者クラスで、『波刃の剣心』というパーティーのリーダーをしている。ジョブは『剣士』だ。よろしく。それで、君は?」
「“さすらいの剣士だ。そう呼んでくれ”」
「……そうか、分かった」
「待って待って、夢野、夢野だから。夢野って呼んで」
「……じゃあ、ユメノって呼ばせてもらうよ? えーっと、ユメノ、君はどうやら、腕には自信があるみたいだけど、冒険者にはなりたてだよね?」
「あ、分かる?」
「そりゃね、君のライセンスはさっき見たし。——君の強さはともかく、冒険者としてはオレの方が先輩だ。依頼主にも頼まれていることだし、依頼中はオレ達のパーティーの指示に従うようにしてほしい、いいか?」
「あ、はい、りょーかいっす」
「……そうか、まあ、物分かりがいいのは助かる。オレ達の準備はもう終わってるけど、君の準備は大丈夫か?」
「“いつでもいけるぜ、先輩”」
「了解。それじゃ、今のうちにオレのパーティーメンバーを紹介しておくよ。来てくれ」
そう言って先導するフランツさんの後ろを、あーしはついて行く。
ギルドの中で少し離れたところまで行くと、そこには三人の冒険者がいた。
フランツさんが近づくと、その内の一人、唯一の女性が彼に話しかける。
「あ、リーダー、依頼の方、どうなりました?」
「ああ、もう募集は締め切ったから、すぐに出発することになるだろう」
そこで今度は男の人が会話に加わる。
「それで、結局あの上級者クラスの連中はついてくるのかよ」
「いや、彼らはおりた」
「んだよ……じゃあ結局、同行者はあの生意気な修練者のパーティーだけか……」
「そうだな。ああいや、それと……こっちの新参者も同行することになった。道中はオレ達で面倒をみることになってるから、よろしく頼む」
「はぁ? ルーキー? なんでそんなん連れて行くんだよ? おいフランツ、お前またいらん親切心出したのか? ——あ、いや、そもそも今回の依頼にルーキー連れて行くのは親切でもなんでもねぇ……フランツ、どういうことだよ?」
「……ボンドルドさんの決定だ。滑り込みでこのルーキーが来たら、ボンドさんがその場で決定したから、オレにもよく分からん。……まあ、本人はかなり腕に自信があるみたいだし、受けると言ったのは自分だからな」
「へぇ、それはそれは。一体どんなジョブ持ちだぁ……? ——おいルーキー、お前、なんのジョブ持ってんだ?」
「おい、まずは自己紹介からだろ」
「あー、分かった分かった。……俺はローグ、ジョブは『斥候』だ。武器は弓。……それで、お前は?」
「ルーキーの紹介はあと。まずはオレ達の紹介からだ。——じゃあ次、モイラ」
「——あ、はい。モイラといいます。ジョブは『神官』です。一応、戦棍も使えますが、基本的には後衛です」
「じゃあ最後、ランド」
「……ランドだ。ジョブは『重戦士』、役割は盾役で、武器は大盾と戦鎚だ。……戦斧も使うが」
「オレ達のパーティーは全員、ランクは中級者クラスだ」
「もうすぐ熟練者に上がるけどな」
「まだだろ……まあ、そのつもりだけど、この依頼が無事終われば……」
「終わるさ……上級者の連中なんていなくてもやってやる」
なんか意気込んでるとこワリーけど……や、ごめん、ゼンゼン覚えらんねぇわ。まず知らん単語連発すんのやめてほしーんすけど。
まーいちおー、名前だけは覚えた。
リーダーのフランツさん、女の人はモイラさん、口が悪いのがローグ、寡黙っぽいケドいっちゃん専門用語連発したのがランドさん。
「さてと、そんじゃルーキー、お前の紹介の番だぜ?」
するとローグが、あーしにニヤついた顔で言ってくる。
ふん……んじゃ、あーしがオメーらに正しい初対面でのアイサツをおせーてやんよ。
「あーしは夢野……以上」
「……は? おい、ジョブは?」
「……いや、まずさ……ジョブってなんなん?」
「は、コイツ……マジか。……フランツ、コイツマジで連れて行くのか? 置いていくべきじゃねーの?」
「……まあ、人手は多いに越したことはないだろ」
「オイ……足手まといを連れてくなんて勘弁だぜ。ただでさえ余裕なんかねー道のりだってのによ」
「“言うじゃねーか、おい。心配しなくても足を引っ張ったりしねーから、安心しな”」
「へっ、まったく、これだからルーキーってやつはよ、口だけは達者なんだよな。……いいぜ、そこまで言うなら。ただ、もしもの時は自分でどうにかしろよ。お守りはゴメンだからな」
「……それじゃ、ローグも賛成ってことでいいな? モイラとランドはどうだ?」
「わ、私は、別に構いませんよ。リーダーの決めたことなら」
「……俺も構わん」
「了解……ありがとな、みんな。——それじゃユメノ、君も依頼の間はオレのパーティーの一員みたいなもんだ。なるだけ先達として君のサポートをするつもりだから、君の方も協力してくれよ?」
「あ、ハイ、コチラこそ、よろしくっス」
「……なーんかフランツと俺で反応違くないか? やっぱ顔なのか、イケメンリーダー」
「お前がつっかかるからだろ、ローグ。顔の問題じゃない」
「でも、女だよな? ユメノ。顔見えねーけど声は女だし。関係あるんじゃねーの? ……つーかなんで兜なんて被ってんの?」
「“訳あって人前に顔を晒せんのだ、許せよ。兜の下は、靡かぬ女はおらぬとばかりの美貌なのだが、お見せ出来んのが残念だ”」
「え、マジ? つーか男、なのか……?」
「……いや女だから」
「……? ボーイッシュってやつ?」
「……もうそれでいーよ」
とりまあーしは、フランツさんがリーダーのなんとかっていう名前のパーティーとかいうのに、参加することになったっぽい。
“ヤツ”が散々フカシやがったから、やたらナマイキな新人って風になってしまったケド、なんとかメーワクかけんよーに無事依頼を終わらしたいモンだ。
いやフラグじゃねーから。