レストラン腐薙
注意!
小説ではありません。
台本になります。
卑高「アタシの名前は卑高○○。生涯不敗のチンケな博打打ちよ。博打に絶対は無いって? 素人サンはコレだから! 自分の常識で物事を判断しちゃいけないねぇ。何なら賭けてみるかい?(笑い声)」
悲室「我が名は悲室○○。あぁ……憂鬱だ。この世は悲しい事ばかり。誰も彼もが己の事ばかり。他者を思いやる知能が無い。こうなれば、この悲室が起こす革命で世を正すしかあるまい。(笑い声)」
殺間「Meのnameは○○殺間。しがない調達屋でございます。potato、 Tomato、Tamagoなどの食品からRocket launcherまでMeに用意できない物はありません! 普段の生活サポートから革命までご利用如何ですか?(笑い声)」
恨野「拙僧の名前は恨野○○。厄除け、悪魔祓いから運気上昇、安全祈願から株価、FXの予言まで何でもござれ。さらにさらに拙僧の神通力で聖別したこのお札。今ならお安くしておきますよ!(笑い声)」
江崎「私の名前は江崎○○。百戦錬磨の探偵ですぞ。醜聞、浮気調査も、この江崎の手で暴いて見せますぞ? 悪趣味? そうは仰ってもこの江崎の暴くスキャンダル、大人気ですぞ?(笑い声)」
腐薙「私の名前は腐薙○○。人呼んで悪魔の料理人。安物食材? 偽装食材? 笑止! 料理は魔術! 私の料理は全てを魅了し支配する!(笑い声)―――さて、このレストラン腐薙は人知れぬ山奥なのにお客様が絶えません。 本日も雨の中、私の料理を目当てのお客様が集まってまりました。あと一人、遅れていらっしゃる様ですが……おっといらっしゃった様ですな」
卑高「ふぅ! 酷い雨だ! 死ぬかと思ったよ」
腐薙「ようこそいらっしゃいませ。ではご記帳をお願いします」
卑高「はいよっ、と」
腐薙「確かに。卑高様ですね。お待ちしておりました」
卑高「おッ? 皆サンお集まりだね? アタシが最後かい?」
悲室「汝は時間厳守の言葉も知らんのか? 小学生でも知っている言葉。……いや、教育の低迷か? 嘆かわしい事だ」
殺間「That's right! Businessでは信用こそが何よりの誠意。Mr.卑高は誠意がNothing!」
恨野「ムムッ!? 卑高殿の背後に良くない霊が見えますなぁ? さては博打で破滅に追いやった人の霊ではありませぬかな?」
江崎「フム? キナ臭いですな? 閃きましたぞ? この江崎の推理によると日高氏は策を企てていますな?」
卑高「ちょっと遅れただけで非難かい? ……どうせ、アタシが居ないのを良い事に、コレ幸いと進め様としたんじゃないかい?」
全員「……」
卑高「(笑い声)! いいねぇ! それでこそ名うての悪党の集まりと言うモンだ!」
腐薙「まぁまぁ。間に合ったから良いではありませんか。それでは始めましょうか。私の新作を選ばれた5人に披露しましょう! これぞ会心の力作! スィート・ハニー・キラキラ・ホワホワハワワ・プチシュークリーム!」
卑高「おぉ! これが腐薙サンの新作か! 相変わらず吐き気のするコッ恥ずかしいネーミングだねぇ。これで不味ければブン殴ってる所だが、腐薙サンの料理は美味過ぎるからな! 高い美食会の資格を買う価値がある!」
殺間「That's right! Me達の様な悪人が公然とSweetsを食べていては、Image downも甚だしい。密室で世間の目に気兼ねなく食べられるのは実にElegant!」
悲室「食い物一つに悲しい事だ。だが、こんな恥ずかしい名前のスィーツを食べる所を同志に見られたら革命が終ってしまう。やはりスイーツを食べる自由の為に革命は起こさねばなるまい」
恨野「我ら聖職者、欲望とは無縁なれど今回も見逃してもらいましょう。悪霊も憤慨しております。『糖分を寄越せ~!』と。ならば食べる事こそが除霊であり聖なる任務!」
江崎「この江崎もハードボイルドで通っておりますからな! 今日は様々なアリバイをでっち上げてココにきましたぞ」
腐薙「皆様、本当に苦労なさっているのですね……。自分で言うのも何ですが、こんな高い美食会の席を買ってまで……。皆様、相当の悪ですなぁ! それでこそ私も腕の振るい甲斐があります! さぁ! この至高のプチシュー! 思う存分召し上がって下さ……い?」
江崎「落雷!?」
殺間「Oh!? かみな……Lightning strike!」
卑高「雨が酷かったからなぁ」
悲室「ぬぅ。暗視ゴーグルを持ってくるべきだったな」
恨野「拙僧の祈りで復旧させて見ましょう」
腐薙「雷? 発電所でしょうか? ブレーカーが落ちているとなるとこの暗闇では……。しかし非常電源も点かないとは妙だな? 手探りで復旧させ……ん?」
恨野「おや? 祈りが通じたようです……あッ!?」
江崎「この江崎がブレーカーを見つけて復旧させましたぞ! 探偵たる者、暗闇こそ領分! ……どうかしましたか?」
卑高「プチシューが1個しか無い!!」
殺間「Oh, my God!」
悲室「許せぬ!」
恨野「何たる事! これは天罰モノですぞ!?」
殺間「誰です!? 抜け駆けしたのは!? Not elegant!」
悲室「こ、この悲室、まだ食しておらぬのだぞ!? 誰だ!?」
恨野「かくなる上は拙僧が霊視して……駄目です。皆様魂が腐りきって判別できませぬ……。無念!」
腐薙「ちょっと!? 食べたら感想を言いなさい! 美味いでしょう!? この私の料理を食べて無言は許さんぞ!?」
卑高「腐薙サン!? ア、アタシじゃ無いよ!?」
殺間「Meじゃありません!」
悲室「我は食べていない!」
恨野「拙僧もです!」
江崎「勿論、この江崎も。ふーむ。これは事件ですな。名付けてプチシュー消失事件。この江崎が華麗に暴いて見せましょう。普段の探偵業務に比べたら屁みたいな物です!」
卑高「そうか、穢崎サンは探偵だったか、って大丈夫か? 普段は覗きや盗み聞きが仕事だろ?(笑い声)」
恨野「そうでしたな。穢崎殿は自ら汚物に手を突っ込むが如くの御仁でしたな。おっと、この中の誰かは食後でしたなぁ? 汚い話で失礼しました(笑い声)」
殺間「HAHAHA! Mr.穢崎はどこぞの孫やbutterfly necktieの子供じゃ無いんですよ?」
悲室「(笑い声)……。違いない」
江崎「い、言いたい放題ですな!? そもそも薩間氏! この江崎、職業柄言語には詳しいですが『バタフライネクタイ』って何ですか! 蝶ネクタイは『bowtie』と言うんですよ!」
殺間「ぐッ!? いやいやワザとですよ? 凡人の皆様に解りやすくですね?」
卑高「は……ははは。似非英語なんか無理して使うからだ。な、なぁ?」
恨野「拙僧は幼い頃から聖職者でして、外来語は無頓着でしたが、ぼ、ぼーたい? ぐらいは知ってますぞ」
悲室「ふ、フン! 敵性言語に興味は無ぁい。と、ともかく我は帰らせて貰おう……!? 開かない!? おい腐薙ィ!」
腐薙「ククク……! 感想を聞くまでは誰もレストラン腐薙からは逃げられん! まぁ元々この館は卑高様が入った時点でカギを掛けた。開けられれるのはこの私だけ! 開けるには私の指紋と声紋、網膜認証を正常な心拍数で行う必要がある。……無駄だ! スマホは繋がらない。ジャミングだ! 食事中にスマホを触るなど、料理人に失礼だと思うだろう!?」
江崎「これは……密室!? 密室事件とは心惹かれる言葉ですなぁ! さぁさぁ、事情聴取と行きましょう! このままでは草薙氏が憤死してしまいますぞ」
卑高「じ、事情聴取っつってもねぇ。アリバイの有無でも確かめるのかい? どうせ電気が落ちた瞬間動いたんだろう? プチシューなんか一口で処分しちまえる」
殺間「That's right! ここには抜け目ない方ばかりがいらっしゃる。あの芳醇な味を盗み食いしてシラを切り通すなど朝め……breakfast前でしょう」
江崎「違い……」
恨野「ここは拙僧の念力で暴いてみせましょう! स्वादिष्टथा यह वास्तव में स्वादिष्टथा」
悲室「えぇい! 止めろぉ喧しい! 酔っぱらっているのか汝はぁ! 大体、警察の事情聴取など我等日常茶飯事だろう? この腐れ外道の集まりで誰か口を割ると思うのかぁ? おい穢崎、汝は随分楽天家だなぁ?」
江崎「うるさいですぞ!? アリバイが無意味なのは百も承知。と言うか、アリバイ云々言い出したのは日高氏でしょう!? (咳払い)! アリバイ確認ではなく消去法と行きましょう」
腐薙「消去法? ならば私は除外だ! 私はコレを作ったシェフなのだ! 提供する側! こんな材料費100円で作れるプチシュー如き、何時でも作れるのだから!」
卑高「確かに。腐薙サンは……え? アレが100円!? 1個100円!?」
腐薙「まさか。……6個100円だ」
殺間「Pardon!?」
恨野「うぬぅ! 何と言う罰当たり!」
悲室「腐薙ぃ!? 我を愚弄するか!?」
殺間「1個……17円以下!? Holy shit! Meでもそんな酷い事はしませんよ!?」
恨野「腐薙殿……!! 地獄に落ちても拙僧は知りませぬぞ!?」
悲室「この美食会の権利、我が組織の活動資金から捻出しておるのだぞぉ!? 1億もふんだくっておいて、それが17円以下とはどういう事だ!! そんな安物ぉ食わせていたのか!?」
腐薙「ククク……! 美味かっただろう!? 私に掛かれば駄菓子も高級スィーツだ! 君らは黙って感想を言えばいいんだ! しかし無言は許さん!」
江崎「黙って感想を言えとは中々矛盾……」
腐薙「何か言ったかね!?」
江崎「(咳払い)話を戻しましょう。消去法でいくなら仰る通り草薙氏に同機は無い」
腐薙「当然だ!」
江崎「そして、この江崎はブレーカーの修復に行っていたので食べていません。……以上です」
卑高「い、以上? 以上って何だ?」
江崎「以上は以上です。これ以上、誰も犯人から除外出来ないから以上なのです」
悲室「穢崎ィ! 汝はこの悲室が犯人だと言いたいのか!?」
江崎「いいえ。氷室氏が、ではありません。氷室氏も、ですな」
悲室「何だと!?」
殺間「探偵と言うのは遠まわしに言うのが規則なんですか? もっとベリベリEasyに言って下さい。Do you understand?」
恨野「さ、殺間殿。貴殿がそれを……いや何も言いますまい。それより拙僧らを犯人呼ばわりとは心外ですな? 何か証拠が? ……もし、ハッタリの類でしたら拙僧には通じませぬぞ?」
江崎「皆さん悪党ですからな。簡単には口を割らないでしょう。しかし、そもそも割る必要が無いのですよ。……既に自白しているんですから」
殺間「自白!?」
江崎「自白はconfessionと言うのですぞ?」
殺間「だ、黙れ!」
江崎「そこは『shut up』と言うべきでは?」
殺間「shut up!」
江崎「いいえ黙りませぬぞ。薩間氏は自分で仰りましたな? 『あの芳醇な味』とね」
殺間「え……。……あ。……あぁッ!?」
江崎「では、ココに残った最後の1個、私の分を食べて確認しましょう。……うーん! やはり実に芳醇! 豊かな味が口に広がります! 芳醇な味と洩らすのも頷ける話です! ちなみ草薙氏。このプチシューは全部同じ味でしたな?」
腐薙「そうだ。安い食材でこの芳醇な香りを出すのは苦労したぞ」
江崎「だそうです。全部違う味なら言い逃れも出来たかも知れませんがね?」
殺間「クソ!」
江崎「『Damn it!』と言うと、よりネイティブですぞ?」
殺間「Shut up!! ……認めよう。確かに食べたが、Meが手を伸ばした時には、後2つしか無かった! 誰だ!? 他にも居るんだろう!?」
江崎「その通りですな。この江崎、言ったはずですぞ。『氷室氏も』と」
悲室「ッ!! 私は何も喋っていなぁい!」
江崎「いいえ、ハッキリ言いました。犯人しか知りえない情報をね。紺野氏に対して言いましたな? 『酔っ払っているのか』と」
悲室「なッ!? だ、誰だってそう思うだろう!? あの訳の分からぬ念力ぃ! 酔っ払っているとしか思えないだろうがぁ!」
恨野「し、失敬な!」
江崎「そう。失敬な話です。しかし氷室氏には紺野氏が酔っ払っているとしか思えなかった。何故ならこのプチシュー。強烈なブランデーの香りがします。芳醇な香りの正体でしょう。アルコールもかなり入ってますな。それを知っているからこそ『酔っ払っているのか』と指摘したのです」
悲室「ち、違ぁう! そんなのはぁ言葉のアヤだぁ!」
江崎「……氷室氏。実はアルコールを受け付けない体質なのでは?」
悲室「たぁまたまぁ酔っ払いぃと言っただけれぇ、別にぃ他のぉ言葉れも良かったが、ついぃ口からぁ出ちゃだけにゃあ!」
江崎「おやおや。呂律も回らなくなってきましたな?」
悲室「私はぁ酔っていらぁい!!」
江崎「酔っ払いは皆そう言うんですよ。さて? 次は紺野氏ですな?」
恨野「なッ!? せ、拙僧こそ何も怪しいことは口走っていない! 拙僧を侮辱すると地獄に落ちますぞ!?」
江崎「いいえ。何やら念じていたじゃないですか。『स्वादिष्टथा यह वास्तव में स्वादिष्टथा』とね」
恨野「ッ!? そ、それは我が教団の聖なる経文です! 決して怪しくは無い! 穢崎殿、我が教義を侮辱すると地獄に落ちますぞ!?」
江崎「別に教義は侮辱しませんぞ? それに怪しい言葉だから怪しんでるのではありません。内容が問題なのです。言ったはずですぞ。『この江崎、職業柄言語には詳しい』と。……ヒンディー語ですな?」
恨野「ッ!? ち、違う……!」
江崎「ヒンディー語で『स्वादिष्टथा』は『美味しかった』」
恨野「な、何を言っている!? それはそんな意味では……!?」
江崎「『यह वास्तव में』は『本当に』」
恨野「止めろ!」
江崎「紺野氏は念力に託けて、プチシューの感想を言っていたのですね。『美味しかった。本当に美味しかった』と」
恨野「(断末魔)」
江崎「恐るべきは草薙氏。料理は魔術と豪語するだけありますな。感想を言わずには居られない。皆何とか誤魔化しつつ、しかし感動を口にせずには居られず洩らしてしまう」
腐薙「(笑い声)そうだ! 料理は魔術! この私の料理を食べて無言を貫く事は誰にも出来ないのだ!」
卑高「……そうは言っても、アタシは何も喋って無いんですがねぇ?」
江崎「ほう? しかし、日高氏も『アレが100円!?』と仰りましたな? だいぶ言葉に気をつけた様ですが本来はこう言いたかったのでは? 『あんな素晴らしい味が100円!?』と」
卑高「おいおいおい。そんな昔の事覚えて無いねぇ。と言うか妄想で喋られても困るなぁ」
江崎「妄想ではありません。確信してます。例えば『コレ』と言うなら分かりますが、あの場で『アレ』と言うと、思い出す意味合いが強いですよね? 即ち食後だったのです」
卑高「悪いね。アタシは学が無くてね。言葉の使い分けが下手糞なんだよ(笑い声)」
江崎「ほう。これは手強い。学が無いなどトンでもない。流石百戦錬磨の博徒ですかな」
卑高「(笑い声)褒めたって何もでないよ」
江崎「ブレーカーに細工の後がありました。あの停電、実は日高氏の策では無いですか?」
卑高「ん? ぶれいかぁ? 何の事だい? そのぶれいかぁとやらに何か証拠があるのかい?」
江崎「ここで罪を認めるなら、プライドある博徒の面目を保って差し上げられましたが仕方ありません。……証拠はあるんです。決定的なヤツがね」
卑高「何!?」
江崎「だって口にクリームが付いてますよ?」
卑高「……あッ!?」
江崎「すみませんねぇ。あまりにも自信満々得意げに立ち開かるので遊んでしまいました」
卑高「そんな雑に片付けないでくれよぅ!」
江崎「これにて一件落着ですな。皆様、たった17円で随分な報いを受けた様ですな」
腐薙「その様だ。……江崎様、感謝致します」
江崎「ありがとうございます。所で草薙氏、一つ疑問があります」
腐薙「何でしょうか?」
江崎「何で6個なんです?」
腐薙「……何と?」
江崎「来客は私含めて5人。しかし出されたプチシューは6個。計算が合いません」
腐薙「あぁ、その事ですか。実は訃川様と言う金貸しが来る予定だったのですが、この天気で来れなくなりましてね。本来は6人のお客様の予定だったんです。だから6個出してしまったんです」
江崎「腐薙氏程の超一流のシェフが、数を間違えて出してしまったと? (笑い声)ご冗談を! ……一つ推理があるんですが聞いて頂けますか?」
腐薙「……何を聞かせてくれるのかね?」
江崎「この争いを演出したのは草薙氏なのでは? 偶然1個余る事を利用してね。これ程の美味です。もう1個食べたくなるのが人情と言うモノ。料理は魔術と言い切る草薙氏です。自分の料理で醜く争う様を期待したのでは?」
腐薙「馬鹿な。何を言う。つまみ食いには怒りが沸くが、そんな悪趣味な事はしない。それこそ妄想の類の話じゃないのかね?」
江崎「そうですか? 醜い争いが起きる程に美食。ある意味『言葉よりも雄弁な感想』になるハズだった。しかし、停電でそれが見られなかった。事実、憤慨していたのはつまみ食いではなく、感想を言わなかった事でしたね?」
腐薙「……妄想の話ですな」
江崎「ふむ……そうですな。妄想の話です。終わってしまった事に拘ってしまうのは探偵の悲しい性でしょうなぁ。さて事件解決と言う事で……」
腐薙「お待ちを。……江崎様の話は妄想でしたが、推理は実に見事でした。しかし、それだと江崎様の言う様に計算が合わないのです」
江崎「計算?」
腐薙「6個作ったのに、今この場には一つも残っていないのです」
江崎「ほう? 確かに。しかし流石に2個食べた者を推理するのは無理ですな」
腐薙「一応、確認してみよう。誰か2個食べた者は居るかね?」
殺間「Meは1個です! 商いは信頼第一! 他人の分はとりません!」
悲室「この悲室ぉ、抜け駆けはしてもぉ取り分は公平が革命の信条だぁ」
恨野「せ、拙僧も神に誓って1個しか! この面々の寝首を掻く様なマネは恐ろしくて出来ませぬ!」
卑高「アタシだって1個だ。博徒は負けたら従うしかないんだ。嘘はつかねぇ」
腐薙「これで4個。江崎様が先程1個食べたのは見た。これで5個。だから1個残っているハズなんだ。だが、現実には残っていない。……江崎様、間違っていたら申し訳ないが、先程食べたのは実は2個目だったんじゃないかね?」
江崎「な、何を……!」
腐薙「私はどうしても気になる事がある。さっき江崎様は皆の失言を証拠に次々と犯人を暴いていった。そんな江崎様が数が合わない事に気がつかない? ……それに気が付いたとき江崎様の失言にも気が付いたのだ」
江崎「この江崎が失言!? そんな馬鹿な!?」
腐薙「殺間様を追求する時『やはり実に芳醇!』『プチシューは全部同じ味でしたな』と仰った。『やはり』? 『でしたな』? 一度食べた事があるなら理解できる言葉回しだ。やはり私の料理を食べて無言を貫くは無理があったな」
殺間「Mr.穢崎! Meをあんなに辱めておいて、Youはそのザマですかぁ?」
卑高「穢崎さんはアタシと違って学があるのに、妙ですなぁ?」
恨野「穢崎殿! 拙僧を断罪しておいて御自分もですか!? しかも2個!? 呪ってやる! 拙僧の呪詛に苦しむがいい!! मैंतुम्हें शाप दूंगाァ!!」
悲室「いいぞぉ! やれやれ~」
江崎「グッ……! き、聞き間違いでは?」
腐薙「聞き間違い? 江崎様は自分でこうも言ってましたな? 『探偵たる者、暗闇こそ領分』と。だから、暗闇でも真っ先に動く事ができた」
江崎「そ、それは確かに言いましたし、職業柄夜目も利く方です! ですがあの時は、ブレーカーを探してこの場には居なかったのですぞ!?」
腐薙「プチシュー如き、一瞬で手の中に収める事が出来るだろう? だが、それよりも、そう、ソレだよ。ブレーカー。何故この暗闇の中、短時間で他人の建物のブレーカーを探し当てた?」
江崎「ッ!? それは……!? ブレーカーの位置など定番の場所があります! 一般家庭なら台所か玄関か洗面所か! レストランなら事務室か厨房と相場は決まっています!」
腐薙「その確認は今日行ったのかね? 実は事前に忍び込んだのではないか? 探偵の技術を使って」
殺間「That's right! そ、そうです! Mr.穢崎は覗き、盗み聞きが得意技!」
悲室「穢崎ィ! 汝はぁ公平と言うぅ言葉を知りゃんのかァ!」
恨野「穢崎殿。ここは早く喋って楽になりなさい」
江崎「ゆ、許すも何も断じて違いますぞ!?」
腐薙「さっき卑高様にブレーカーの細工を尋問した時、卑高様は本当に知らない様に私は感じた」
卑高「あ!! そ、そうなんだよ! って言うか、ぶれいかぁって何? 言ってるだろ! 『学が無い』って!」
腐薙「最後の1個も自分が食べていないフリをして食べたのだろう? 違うかな?」
江崎「しょ、証拠はあるのですかな!?」
腐薙「その態度で十分クロだが……そうだな。さっき言ったね? この建物内は強力なジャミングを施してある。食事中に携帯電話を触る様な無礼を私は許さないからだ。それにも関わらず停電は起きた。予備電源すら落ちた。……ジャミングキャンセラーでブレーカーを遠隔操作したのではないかね?」
江崎「ジャミングキャンセラー!? そんなSFアニメみたいな非現実的な事を信じているのですか!? と言うより停電は落雷原因でしょう!?」
腐薙「それもおかしな話だ。確かに雨は降っている。しかし落雷の音を聞いた者はいるかね? 私は聞えなかった。殺間様。あの時、ライトニングストライクと叫んだのは何故です?」
殺間「何故って……。誰かが落雷と言ったから……」
腐薙「誰かとは、江崎様ですよね?」
殺間「そ、そうだ! Mr.江崎が叫んだからMeも釣られて……!」
江崎「い、いえ、殺間氏が先でしょう!?」
腐薙「いいえ。私はハッキリ覚えていますよ。一番最初に反応したのは江崎様でした。今日、豪雨ではあるが雷雨ではない。大雨で勘違いしただけだったのだ。どうです皆さん? 何か音が聞えますか? よーく耳を澄ませて聞いて下さい。我々が発する声以外、精々エアコンの音と時計の時を刻む音ぐらいしか聞こえないでしょう?」
殺間「た、確……That's right」
卑高「そうだな。実に静かなモンだ」
悲室「聞こえな~い」
紺野「むしろ、極めて静寂ですな」
江崎「み、皆さん何を仰っているのですか……?」
腐薙「(咳払い)話を戻しましょう。大雨を利用し落雷が起きたと誤認させたのは、ブレーカーの細工を誤魔化す為の演出だろう? ブレーカーを誤作動させ、闇に紛れて盗み食いしつつ装置を回収したのだ」
江崎「だ、だから証拠はあるんですか!?」
腐薙「もうブレーカーに証拠は無いだろう。だが証拠自体が消えているとは思えない。そこで身体検査をさせてもらおう。停電が本当に落雷原因なら申し訳ない」
江崎「な、何の権利があってそんな事を!? 弁護士を呼んでください!」
殺間「Mr.卑高! 往生際が悪いですなぁ? 悪党に法は通じませんぞ?」
悲室「ふざけた事をしてくれるぅ! この悲室を辱めておいて汝はその体たらくかぁ!?」
恨野「まったくその通りです! 覚悟してもらいましょう!」
卑高「右のポケットだ! 視線が動いた!」
腐薙「まぁまぁ。皆さん落ち着いて。我々は決して善人ではない。しかし、粗雑な悪党でも無い。だからスマートに暴いて見せましょう。それに、江崎様以外が2個食べた可能性も、まぁ無いだろうが有る」
江崎「だ、だから……!」
腐薙「さっき江崎様は『2個食べた者を推理するのは無理』と仰った。しかし悪魔の料理人である私だからこそ出来るのです。……皆さん知ってますか? 秋の味覚である銀杏。子供が食べると中毒を起こす可能性があるが、大人も食べ過ぎると中毒を起こす場合がある」
殺間「ほう? それは知らなかったです。ねぇMr.穢崎?」
江崎「……なぜ私に聞くのです」
腐薙「他にも、香辛料のナツメグ。ハンバーグ等の肉料理と相性が良いが、これも摂取量を間違うと中毒を起こす」
悲室「ナツメグ! 知っているぞぉ!? 我も家族サービスで料理を振舞う時、ハンバーグにナツメグを入れるんだぁ! 恨野! 知っているかぁ!?」
恨野「な、何をですかな?」
悲室「ナツメグは食べ過ぎると毒なんだぞぉ!」
恨野「……そうなんですか、知らなかったです。悲室殿に家族サービスなんて概念が有る事も知らなかったです」
腐薙「それでだ。このプチシュー、この味を出す為にとあるモノを使っていてな? 一つなら無害で美味しく食べられるのだ。一つならな」
卑高「……2つ食べると?」
腐薙「顔の紅潮、灼熱感、発汗、動悸、呼吸困難、胸痛、平衡感覚の喪失、舌のマヒ……。まぁ色々あるが、人によってはもっと深刻な症状が出るかもな? ……さて、ここに解毒薬がある。飲まないと……どうなるかは言うまでも無いな?」
卑高「そいつぁ大変だ!」
腐薙「本当は江崎様の言う通り、余興として醜く争ってもらって、2個目を奪った食い意地の張った方に説明するつもりだったのだがな。……さて、誰も食べていないかな? ならば本当に皆1個ずつ食べたのであって、私が6個出したと勘違いしたのだろう。この解毒薬も必要無い、と言う事で捨てるか」
江崎「……~~~ッ!! ま、参りました! 助けて!! 解毒薬を下さい!! 死にたく無い~~!!」
腐薙「はッ! ハハハハハ! 正直で宜しい! 最初からもっと正直なら、カッコいい探偵の姿のままだったのにな。ほら。全部飲み干すが良い」
江崎「(水分を飲む)」
腐薙「どうだ? 水は上手いか?」
江崎「み、みず……水!?」
腐薙「それは只の水だ。ほら、酔っ払いには水を飲ますだろう? さっきの症状は全部アルコールを体内に入れた時の症状だ。悲室様が酔っ払っている姿を見ているのに、自分でソレを指摘したのに、随分、慌てん坊ですな、江崎様?」
江崎「グゥッ!」
殺間「(笑い声)Me達を辱めた事に対するpunishmentですな!」
卑高「(笑い声)違ぇねぇや!」
悲室「(笑い声)そうだ恨野ぉ! 銀杏も食べ過ぎると毒なんだぞぅ!?」
恨野「ほらほら悲室殿、この水を飲んで下さい」
悲室「(水を飲む)」
腐薙「さて、御遊戯はその辺にして、最後に江崎様、実はもう一つ追及しなければならない事がある。……あなた、偽者ですよね?」
江崎「なッ!!!? な、何を言っているのですかな!?」
殺間「え、Fake!?」
悲室「(水を飲み終わる)……何者だ!? 公安のスパイか!?」
恨野「この密会を知られたからには無事では済まされませんぞ!?」
江崎「ちちち、違います! 皆さん何を言っているのですか!?」
腐薙「たまにこんな事が起きるんですよ。私の料理を食べたいが為に潜入してくる輩が。ところで卑高様。貴方の名前は何と言いますかな?」
卑高「……あ!! そういう事ね。アタシの名前は卑高○○。穢崎さん、アンタ私の名前は分かるかい?」
江崎「えっ!? 名前も何も今、自分で日高○○と仰ったではありませんか?」
卑高「そう。ヒダカ○○。じゃあ苗字の漢字は?」
江崎「漢字!? 日高と言ったら日高しか無いでしょう。日が高いと書いて日高です!」
一同「(大爆笑)」
腐薙「惜しかったですなぁ江崎様。今日来る予定のエザキ様は、『さんずいにエ』では無く、穢れた崎と書いて穢崎と名乗る予定だったんですよ」
江崎?「そんな!? ……あ」
腐薙「おやおや。口を滑らしてしまいましたな? 我々は悪党。いつ誰がどんな目的で来るか常に警戒しています。暗号合言葉など日常茶飯事。我々の場合は、苗字の漢字をこう言う時の為に変更しているんですよ。苗字として有り得ない漢字にね」
卑高「アタシの今の名前は卑劣の卑で『卑高』。江崎さん、よろしくねぇ」
殺間「Meの今のNameは殺しの間と書いて『殺間』。以後お見知りおきを」
悲室「我が名は悲しい室で『悲室』だ。覚えたかネズミめが!」
恨野「拙僧の今の名前は怨恨の恨を使い『恨野』。まぁ、こんな不吉な苗字は存在しないですからな。江崎殿が知らなかったとしても仕方ない。調査不足でしたな」
腐薙「そして今の私の名前は料理人にあるまじき、腐る薙と書いて『腐薙』、と言った具合にね。音の響きだけでは分からないでしょう? 江崎様が普通に『江崎』と記帳した時は驚きましたよ。目的を探る為に泳がしておきましたが……さて何が目的か白状してもらいましょうか?」
江崎「クソッ! こんな悪人が集まるなんてスクープだと思ったのに! 覚えてろ! ……あ、開かない!?」
殺間「Oh~! Mr.江崎! どこに行こうというのです?」
恨野「逃げられませぬぞ? 腐薙殿が言っていたでしょう? 開けるには腐薙殿の指紋と声紋、網膜認証が正常心拍数で必要だと」
卑高「アタシ達がこんなスイーツを食べている現場を見られたからには、只では帰せないねぇ」
悲室「我を愚弄した罪を償ってもらおうか!」
腐薙「観念するのだな江崎様。しかし、逃げてどうすると言うのです? 私の料理は美味しかったでしょう? 私も悪魔の料理人などと言っているが鬼では無い。もう2度と食べられなくても構わないと言うのなら逃がして差し上げましょう。どうしますか?」
江崎「ぐッ!! この鬼! 悪魔め! そんな脅しには屈しませんぞ!?」
腐薙「人の親切を酷いですな? しかし江崎様は厨房に行ったのでしょう? これから出て来る料理の下ごしらえも見て、匂いも嗅ぎ取ったはず。アレを知ってこのまま帰ると? 次のスイーツであるプリンセススィートキッスは1品10万の材料費がかかっている。あんな1個17円以下の小手調べプチシューで江崎様は自制が効かず2個目に手を伸ばした。……この世の極楽がここにあると思わないかね?」
江崎「うぬぬ!!」
紺野「確かに確かに。拙僧の教団教義にも極楽はココにあると教えています」
殺間「いやぁ。Mr.腐薙の料理が二度と食べられないってHellにも程がありますねぇ!」
卑高「江崎サン、アタシ達が高い金払ってまで、頭の痛くなる名前のスイーツを食べる理由は知っただろう?」
悲室「我は慈悲深い。何事も公平が心情だ。チャンスは与えてやるぞ? スイーツを食べる我等の秘密を守るならな!(笑い声)」
江崎「(うめき声)わ、分かりました! 食べさせて下さい!」
腐薙「(笑い声)正直で宜しい! 今日はココに潜入した根性に免じて食べさせてあげましょう。次回は美食会員権を購入してからお越し下さいね?」
江崎「はい……。1億……絶対に用意します!」
腐薙「ありがとうございます江崎様。では、次の料理を準備して参りましょう。―――皆様。このレストラン腐薙では、少々お値段は張りますが、必ず満足できる世界最高の料理を提供いたします。悪い人が集まりやすいので……まぁ多少トラブルが起きたりしますが、どうぞ、高い会員権を手に入れてからお越し下さい」