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異世界賛歌~貧乏くじ聖女の異世界革命記~  作者: ArenLowvally
あまりにも、よくある話。
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第七十八話:異世界の子供達はいつでも元気いっぱいです。

小学生くらいの頃に、郊外にあるテーマパークで一度入った記憶があります。

今の方向音痴の原因の一端を担ってる気がします、あの巨大迷路。

さっさと道を覚えてざかざか進んでいく父を追いかけるだけで、全く道がわからないまま歩いてた記憶があるので。

まぁ、今ならもう少しマシな気がするので、挑戦したいなとも思います。

体力があれば。

 約束の時間、少し前に本城までやって来ました。向かう先はいつものプレイルームではなく、庭園の方です。王族の子供の遊び場として作られた、第二庭園。先月の頭に「今の迷路は攻略した」ってレティシア様が言ってたので、新しい庭園迷路でもできているんでしょう。ちょっと楽しみにしながら、外に出れば既に待ち構えてました。


「ごきげんよう、アレンさま!」

「アレンさま、ごきげんよう」

「ひさしぶりだな、まってたぞ!」

「アレンさま、おひさしぶり、です!」

「ああ、もう……。お久しぶりです、アレンさま」


 飛びつくように挨拶してきたのも、ラーシュ様が呆れるのも前のときと変わりませんね。向こうでレティシア様とスヴァンテ様が可笑しそうにしてます。月末だから、レティシア様もこっちに戻ってこれたみたいです。


「皆さま、お久しぶりです。本日はお招きいただきありがとうございます」


 私もまずは形式的な挨拶を返します。カーテシーももう慣れたものです。染み付いているティーナ様たちに比べれば、全然ですけれど……。まぁ、結局は反復練習なんですよね。面倒ですけれど、地道が一番効率的って話ですね。


「紹介するね。こっちがカイ、この子はノア。彼女達はスヴァンテ様のごきょうだいだよ」

「はじめまして、レティシアよ」

「おれはランドルフだ!」

「アレキはアレクサンドラっていうの」

「コンスタント、です。はじめまして」


 順に挨拶したのに、カイとノアはちょっと警戒してるみたいです。同い年前後の子と対面したのは確かに初めてですね。どう受け止められるか、心配してるんでしょう。


「ほら、ご挨拶。はじめましてって」

「はじめまして……」

「……は、はじめ、まして……」


 背を叩けば、カイはぶっきらぼうに、ノアは恐る恐る挨拶しました。こういうところ素直なの、2人のいいところだと思います。警戒が勝ってこの程度の挨拶もできない人って、異邦にもいますし。ティーナ様が真っ先に笑いかけてくれます。


「この前、お会いしたときにはお話できなかったから、今日会えるのをとっても楽しみにしておりましたわ!」

「……そうかよ。あんた、変なのにばっか好かれるな」

「流石に失礼だよ」


 気恥ずかしいのを誤魔化したかったんでしょうけれど。流石に咎めれば口を尖らせてそっぽを向かれました。まぁ、可愛げのある仕草と思っておきましょう。


「それじゃあ、早速遊ぼうか」


 音頭を取れば、いい返事がされます。やることは当然、庭園迷宮攻略です。迷路を潜って反対側に出るという単純な話。競争というわけではなく、みんなで一緒に入って散策しながら進んでいくみたいです。


「花がついてるわけじゃないんだね」

「迷路を作ってるこの植物は、花を咲かせるものではないわね」


 思ったことを口にすれば、レティシア様が答えました。ラーシュ様とティーナ様が振り返って補足してくれます。


「迷路の向こうに、きれいなお花が咲いているのですよ」

「とちゅうにも、季せつの花が咲いている花だんがあったりもするんです」

「なるほど、それを目印にしながら進んでいくってことだね」


 そこそこ広さがあるとはスヴァンテ様に聞いてますし、何もなくただ迷路を進むだけじゃ飽きちゃいますからね。遊びの中で季節を楽しめるような工夫がされているということでしょう。どんな花が咲ているのか、すごく楽しみです。


「と、話をしている間に最初の花壇が見えましたよ」

「アレンは知らないだろうから、おしえてやる。チューリップっていうんだぞ!」


 ランド様がドヤ顔をします。それに先に反応したのはノアの方です。


「チューリップ! しってる! おねえちゃん、チューリップのうた、おしえてくれた!」

「え」

「チューリップ、はじめてみた!」

「うん、そうだね。これが歌のチューリップだよ。だからちょっと落ち着こうか……」


 肩透かしを食らったランド様を差し置いて、ノアは歌の中に出て来るものを実際に前にしてはしゃいでるみたいです。ノアに悪気はないんだ……。ただちょっと、同世代との交流がほとんどなかっただけの話であって……。ランド様は見事に拗ねた顔をしました。


「なんだよ、せっかくおしえてやろうと思ったのに……」

「アレンさまはとってもものしりよ。アレキたちがしらないこと、たくさんしってるもの」

「アレンさま、しらないこと、たぶん、ないよ」

「追い打ちをかけないであげて。あと私、そこまで博識じゃない……」


 アレキ様とコンス様が見事な追い打ちをしました。レティシア様とスヴァンテ様も苦笑してます。カイがわかりやすく嘲笑しました。


「王子さまだってのに、大したことねぇな」

「なんだと?! じゃあおまえは知ってたのかよ!」

「花の名前なんて知るわけねぇだろ」

「こら、カイ。あんまり人を馬鹿にしないの」

「先に人をバカにしたのはコイツのほうじゃねぇか」


 ……こういうところ賢いんですよねぇ、この子。それをそのまま人の煽りに使うことないと思いますけれど。これもまた、生き抜くために必要だった技術でしょうかね。カイはフンッ、と鼻を鳴らしました。


「知ってるかどうかも知らないのに、知らないだろって勝手に決め付けて教えてやるって言うダッセェやつ、スラムにもいたぜ」

「そ、そんなヤツらといっしょにするな!」

「うっわ、そんなところまで言うこと同じなのかよ」

「カイ、言葉を選びなさい」

「選んだら言っていいってことか?」

「物事の善悪を教えること自体は止める理由ないからね」


 意外だったのか、カイは黙っちゃいました。しゃがみこんで子供達に視線を合わせます。


「さて、ランド様。今のは何がよくなかったのか、わかるかな?」

「…………知らないだろって言った。アレンは知ってたのに……」

「はい、よくできました」


 決して頭は悪くないんですよね、ランド様も。今はまだ、感情のコントロールが上手くないだけの話。


「教えてあげようっていう気持ちは偉いよ。でも、知らないって決め付けるのはよくない。わかるね?」

「……うん。ごめんなさい」

「いいよ。次に見る花が私の知らない花だったら教えてね。じゃ、カイも謝ろうか」

「なん……………………バカにして、悪かった。ごめん」


 物凄く嫌そうな顔をしましたけれど、謝らないのも違うって思い直してくれたみたいです。ランド様はちゃんと謝ってもらえるとは思ってなかったみたいです。驚いたようにカイを見上げて、でもすぐに「いいぞ」って頷きました。2人とも頭を撫でてあげれば揃って物凄く嫌そうな顔をされました。知るか、くそガキどもめ。


「アレン様の下にいるだけあって、とても素直で、賢くて、いい子ね。ヴァンが褒めるだけはあるわ」

「元々のこの子の性格ですよ。生き抜くために必要な術を身に着けてる」

「それでもアレン様の言うことにちゃんと耳を傾けてるのは、信頼があるからだと思うわ。ねぇ?」

「……………………そんなんじゃねぇし」


 レティシア様に話を振られて、カイはそっぽを向きます。わかりやすい照れ隠し。隣でスヴァンテ様が笑えば、カイは睨みました。


「ずっとここにいていいのかよ! めいろとやらは突っ立ってちゃ攻略できねぇんだろ?」

「そうだね、そろそろ進もうか」

「では、次はこちらの道をすすみましょう!」


 ヤケクソ気味に言ったカイに頷きます。空気が明るくなったのを感じてか、ティーナ様が明るく言いました。歩き出せば、コンス様が袖を引っ張って来ました。


「チューリップのうたって、なに?」

「異邦にあった歌のことだよ。簡単だから、みんなにも歌えるよ」

「ほんと? アレキでもうたえる?」

「もちろん。ね、ノア。チューリップの歌、みんなに聞かせてあげて」

「うん!」


 嬉しそうに頷いて、ノアは『チューリップ』を歌い始めました。なんてことない、童謡です。聞いたことのないそれに、みんな興味津々に耳を傾けてます。たった12小節で、わかりやすい音階なので、自分にも歌えるっていうのは聞いてわかったみたいです。アレキ様がさっそく真似し始めます。それに乗るようにしてティーナ様も真似すれば、ランド様とコンス様も真似し始めました。ラーシュ様は恥ずかしいみたいですが、ティーナ様に強要されて結局一緒に歌い出しました。みんなで一緒に歌うのが楽しいのか、ノアはこれでもかって目を輝かせて何度も口遊みます。


「シアねえさまも!」

「ヴァンにいさまも、うたお!」

「ええ、そうね」

「ボクも?!」


 ティーナ様とコンス様に催促されて、レティシア様とスヴァンテ様は対照的な反応をします。それに笑いながら、私はカイの背を軽く叩きました。


「一緒に歌おうか」

「えぇ……」

「みんなで楽しんだほうがもっと楽しいよ」


 嫌そうですけれど、拒否はしないみたいです。仕方無さそうに小さく口遊み始めました。それを聞いてノアが嬉しそうにカイの手を取ります。だったら良しと思ったのか、カイはちょっとだけ口元を緩めました。これぞ真の意味での歌の力だって思います。この世界でも歌が娯楽になる日が来るんでしょうか。それはすごく素敵なことだなって思いながら、私も一緒に『チューリップ』を口遊みました。

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