第七十七話:異世界に科学が必要になりました。
色々凝りすぎても後が辛くなるんですがね。
まぁ、どうにかなるさ、って精神で未来の自分に期待しようと思います。
前にもしたなぁ、こんな話。
パソコンというものの偉大さをこんな時に実感することになると思いませんでした。思い出せる限りの理科について、紙に手書きしていくわけですが。誤字脱字とか、抜けとかあったら丸っと書き直しなの、面倒くさい……。パソコンなら簡単に書き直せるのに……。科学の利便性が欲しいぜ……。
「食べてる時くらい、筆置いたらどう?」
「行儀が悪いのは自覚してる」
「そういう問題じゃないと思う」
お昼を食べながら、思い出したことをメモっていれば、呆れられました。逆の立場だったら私も注意していると思います。
「今じゃなくてもできるでしょ」
「そうだけど、できるだけ早くみんなに渡してあげたいからさ……」
「アレンがそういう人だから、フラーディアがあるんだなぁって思う」
「それはちょっと皮肉入ってるよね?」
ちょっと睨んでみれば、明香里は可笑しそうに笑います。他人事だと思いやがって……。いや、他人事なんですけれど。こればかりは他の誰かに手伝ってとか言えない話ですからね。拗ねていれば誤魔化すみたいに成美が話を変えます。
「この世界で科学を発展させようなんて、考えたことなかったわ」
「そうだね。魔法があるし、科学より便利そうだもんね」
「突き詰めてったら、科学は必要だってなったの。魔力は生成不可能な有限エネルギーだから」
「体力が回復するみたいに増えるんだっけ」
「魔石の充填もコンセントがあるわけでもないものね」
「太陽光発電とかでもないみたいだからねぇ。だからまず、限りなく少ない魔力で高圧の電気エネルギーを生成する技術が必要なの。大きな魔石の入ってない、手に持つだけで自力発電して使えるドライヤーとかあったら便利じゃない?」
「確かに」
「今のドライヤーものすごく重たいのよね。それが軽くなったら確かに便利ね」
「科学が発展したら、小型化と軽量化ができるかもってこと?」
「そういうこと」
へぇ~、と明香里と成美は感心した声を出します。
「魔力は誰でも持ってるもんね。自分自身が電池で、魔石がスイッチになって小型家電が使えるのは確かにいいね」
「そのための理科ってこと?」
「そう。っていうか、私は理科しか教えられないよ」
「高校で何取ったの」
「物理」
「頭いい~」
「万年赤点だったに決まってるじゃん」
3人で笑って、お昼を食べ終えちゃいます。こういう軽口を叩ける相手っていいですね。くだらないことを言いながらまた思い出したことを紙にメモります。同じように食べ終わった明香里が「そうだ」って思い出したように言いました。
「この前、犬の魔獣、引き取ってみないって言ってたじゃん」
「そんな話したね。引き取ることにしたの?」
「うん。それで一つ相談なんだけど……、アレンも一緒に来てくれない……?」
「何か面倒事でもあった?」
お伺いを立てられて、聞き返してみれば明香里は困った顔で頷きました。一応、聞きますか。それだけ困ってる事態だってことですし。
「紹介してくれた人と交渉したいって言ったんだけれど、向こうがもっといい人いるからって、圧し切られちゃって……。アレンからの紹介だからって言ったら、逆効果だったんだよね」
「ああ、なるほど……。そう来たか」
それはちょっと予想外でした。私たちの話がどう広まってるのかはわかりませんが。家名なしなんだからコミュニティの外だろうと決めつけられたようですね。
「本人がいた方が話が早いかなって思ったんだけれど、ダメかな?」
「聖女候補相手に正面切ってくるほど、バカじゃないと思いたいね。いいよ、29日は予定あるから、それ以外の日で」
「ありがとう! わかった、じゃあ1日の午後にしよう。14時くらいだから…………9つの鐘?」
「だね。こっちもそれで予定組むね」
ホッとしたように明香里は頷きます。正直、犬型の魔獣改良種は興味があったので渡りに船です。どこかのタイミングで引き取りに行こうとか思ってたので。エルネストを振り返れば、心得たと頷いてくれます。午後の講義中に他のみんなにも伝えてくれるでしょう。本当、優秀な部下に恵まれてるなって思います。一先ずは、今日の午後の講義を頑張りましょう。




