第六十五話:異世界の日常も少しずつ変化して過ぎていきます。
前回、すっかり忘れてました。
みなさま、明けましておめでとうございます。
今年もまた、月2投稿で頑張っていきたい所存ですので、よろしくお願いします。
朝のルーチンにノアを叩き起こすのが増えそうです。まぁ、まだ6歳くらいの子どもですからねぇ。朝中々起きないのはそういうものって思っておくのがいいんでしょう。時間そのものに関しては悠々自適だったのはそうですし。これからちょっとずつ、体内時計を調整してもらいましょう。
朝ご飯を食べて、身支度をして、本城に向かいます。フラーディアのオフィスに寄って今日の予定を確かめて、カイとノアを託して私は講義に向かいます。教室に入って明香里と成美に挨拶して、講義が始まるまでの雑談です。
「城下町降りたんでしょ? どうだった?」
「すっごく楽しかったよ。ヨーロッパの街並みに、街の人たちもみんないい人」
「よかったね。わたしも町で買い物とかしたいなぁ」
「アレンみたいに魔法使えたら、行けるかもね」
「わたしも早く魔法使えるようになりたいなぁ。いつ教えてくれるんだろう」
「座学が一段落してから、とは言ってたけれど」
いつか、スヴァンテ様と話をした通りだったみたいで、2人は歌で魔法使えなかったんですよね。魔法っていうものの理解と、ある程度の技術がやっぱり必要みたいです。私の独自の解釈を話してはみましたけれど、魔力が起こることさえなかったです。想像力とか、祈禱力とか、なんかそんな感じのものも必要なのかもしれません。
「まぁ、無理して私についてくることもないんだし、2人は2人のペースでゆっくりおいで」
「そうね、のんびりやるわ」
「わたしは今、街に降りるよりは勉強かな。制度を作るって、想像以上に大変で……」
「まぁ、日本でも新しい条例とか年単位かけて作ってたしね。こっちも似たようなものだよね」
「正直、やめたい」
「そりゃそうだ」
久しぶりに伸びてる明香里に、成美が「がんばんなさいよ」って無慈悲に言います。それに明香里はちょっとむっとした顔をしました。
「成美だってその内、やりたいことできたら大変なんだからね」
「覚悟しておくわ」
「嫌になったら息抜きくらい付き合うよ。あ、そうそう、お土産あるんだ。後で渡すね」
「ホント? やったぁ、楽しみにしとく!」
「なら今日はそれを楽しみに講義がんばるわ」
わかりやすく目を輝かせた明香里と、ちょっと呆れながらも嬉しそうな成美が対照的で笑っちゃいます。講師の人が来て、今日のお勉強が始まります。この前からの続きで、世界情勢についてですね。前回は近隣諸国の概要が中心でしたが、今回は各国との繋がりを中心に話をしてくれます。どの国とどんな外交をしてるかって話ですね。いろんなものが行き来してて、その中には英雄や聖女もいる。人材派遣って言えば聞こえはいいですけれど。まぁ……、そこは深く考えることではないですね。
今は光代さん達と一緒に来た、他4名の英雄と聖女が友好国へ赴いているそうです。隣国のパラティス皇国と、一つ挟んだ向こうの国に一人ずつ定住していて、あとの2人は世界中を飛び回っているのだとか。もう定年超えてるお歳でしょうに、すごいバイタリティだ……。国民へのお披露目の時に一度戻ってきてもらって、顔合わせするそうです。派遣なので、所属はシャングリラ王国のままですからね。そりゃ同じ所属になった同郷の人間とは顔合わせもするでしょう。どんな人たちなのか、すごく楽しみです。
ちょっとだけワクワクしながら、今日の講義を終わらせます。お昼を食べて、午後のマナー講座は眠気との勝負。お腹いっぱいになった後だと余計眠いよねぇ……。がんばって目を開けて、どうにか乗り切りました。
そういうわけで、オフィスに向かいます。既に全員が揃っていて、揃った挨拶をくれました。
「うん、お疲れさま。今日一日、どうだった?」
聞いてみれば、それぞれに今日の報告をしてくれます。既存メンバーはいつも通りって感じですね。好きなことして、新しい発見があったりなかったり。
「カイとノアは? 楽しかった?」
「……わけわかんねー」
「たのしかった!」
対称的。詰め込まれて疲れてるカイと、よくわかってないノア。元気に言ったノアのに、「よかったね」って笑いかけます。
「カイは剣の筋がいいですね。それこそ、護衛として育てるのも有りかと」
「身体動かすの得意なんだ」
「……じゃないと生き残れない」
「なるほどね。じゃあ、それそのまま伸ばしてあげて。護衛にするかどうかは別として、身体の使い方覚えておけば何かと役に立つだろうし」
「かしこまりました。明日は鍛錬の時間を少し増やそうと思います」
「うげっ、マジかよ……」
「詰め込むっていったじゃん?」
明らかに嫌そうな顔をしたのに笑えば、カイは口を尖らせました。反抗心はあれど、意味もなく反発する気はないみたいです。それだけ今日一日でしごかれたってことかもしれませんが。
「ノアは? 何か得意そうなことわかった?」
「魔法を教えたらいいと思う。魔力は普通の平民より高い。貴族ほどじゃないけど、扱いは教えた方がいい」
「そっか。ノアは魔法、使ってみたい?」
「ぴかーってするの?」
「うん。ぴかーっだけじゃないけど」
「やってみたい!」
「じゃあ決まり」
ぴかーって、あれか。この前私がみせたイルミネーションですね。なんていうか、語彙が面白いなぁって思います。まぁ、小学生くらいの子どもで、真面な教育を受けてないってなったら、こんなものなのかもしれませんが。
「読み書き計算は大丈夫そう?」
「面白がっている内はいいんですけれど、飽きっぽくて中々、難しいです」
「落ち着きがないので、アタシたちもどう扱ったらいいものかわからなくて。それを先に話し合った方がよさそうですわ」
「ああ……、私からしたらそんなものって思うけど。貴族はそうはいかないのか」
貴族の子なら、カイやノアの歳くらいの子どもでも、ちゃんと大人しく勉強できるってことですね。英才教育の賜物だ。それをこの2人に期待するのは無理でしょうけど、そういった子どもの扱いにメリッサたちが心得ないのも仕方ない話。日本でも小学校に上がるくらいの子どもでも、一応大人しく座って話を聞くくらいはできますけれど。幼稚園や保育園で社会のルールをある程度教えるからできるって話ですよね。それと同じことをここでもできたらいいんですけれど、残念ながらフラーディアは託児所ではない。
「わかった、考える材料も欲しいから、とりあえず明日、明後日は今日と同じようにやってみてくれる? その様子を撮影しよう」
「蓄音機ならすぐに作れますけれど、録画機はすぐに用意できるものではないですよ?」
「大丈夫、私持ってるから」
スマホを見せれば、余計にきょとんとされました。まぁ、基本はMP3プレイヤーにしてるからねぇ……。
「これ、蓄音機じゃないの。本来は通信機で、録画機能もついてる」
「……ちょっと意味がわからない」
「詳しく話す機会なかったもんね」
また今度のままだったの、すっかり忘れてました。日本人の「今度」ほど、信用ならないものはないっていつかどっかで聞きました。本当に信用ならないなぁって実感します。
「教会に通信機があるでしょ? あれがもっと小型化して、平民にまで普及したものが異邦にあるの。それを持ち運べるようにした携帯電話ってものがあって、これはそれの更に進化系」
「あの通信機が、こんなになっちゃうんですか?!」
一番に声を上げるのはやっぱりコンチータです。教会の通信機を見たことがないカタリナやテリーはいまいちピンと来てないみたいです。でも、スマホがただの蓄音機じゃないことについては不思議に思ってるみたいです。
「ただの蓄音機だと思ってました……」
「流石に、異邦のものですから、こちらの蓄音機より、すごいものって、思ってましたけれど……」
「異邦の技術の進歩はアタシたちの想像を超えますわね」
「遥かに超えすぎてる。……むしろ怖い」
そこまで言うかぁ……。まぁ、未来の道具が出てくる某猫型ロボットの漫画でも、電話は電話でしたし。そもそも、電話が更に発展するだなんて、流石に想像もつかなかったんでしょう。持ち運ぶっていう発想そのものがなかったみたいですし。
スマホはある意味、人類の到達点の一つなのかもしれません。そこから先の更なる技術革新をするには、越えなければならない高い高いハードル。それこそ持ち運びの合理性を更に進化させた、ホログラム画面とかって言うものが出てくる時代にならないと、スマホが衰退することはないでしょう。何年先のことになるのかはわかりませんが。まぁ、もうわかりようもないんですけれどね。
「この世界でもきっと、同じ物作れるようになるよ。魔法の有無以外に人間っていう種に違いはない。むしろ魔法があるからこそ、追い付くこと自体はそこまで難しくないと思うんだ。だったら、ゆっくりでも近付けるようにしたくない? その為の異邦人なわけだし、その為のこのオフィスなんだし」
ね? と笑ってみます。それに一瞬、静まりましたけれど、みんなすぐに眩しい笑顔を見せてくれました。
「使い方はシルヴィアに教えておくから、みんなはいつも通りでよろしくね」
最後に締めれば、いい返事。他に報告はないようなので、今日は解散です。挨拶をしながら帰路に着きます。帰り道で考えるのは晩御飯のメニューです。正直言って、今から作るのは面倒なんですけれど……。自分ひとりなら屋敷のシェフに丸投げしますけど、カイとノアが増えたのでそうも言ってられないんですよね。でもそれがただ面倒なわけじゃないっていうのが、何となく自分で面白いです。料理はそんなに好きじゃなかったのに。当たり前に喜んでくれて、大袈裟なくらいにみんな褒めてくれるからですかね。本当、自分が如何に単純な人間かわかるというものです。
「……なにニヤけてんだよ」
「楽しいなって思って」
「……そーかよ」
怪訝そうな顔。今までの生活で、人生楽しんでる人間に会ったこと、ないんでしょうね。今日を生きるので精一杯が過ぎた。まだ小学生くらいなのにな、って悲しく思います。でも、それをただ可哀相って言うだけじゃ何も変わらないのが現実です。何ができることなのかなんて、まだ何もわかりませんけれど。
やっている内に、何かは変わっていくもんなんだと思います。
だったら、今はとにかく彼女にも見せてあげるべきなんでしょう。世界には楽しい事が溢れているんだって。それをどう受け入れるかは彼女次第で、好意的に受け入れてもらえるようにしてあげるのが、拾った私の責任。先を考えると不安がいっぱいですけれど、大丈夫だって思うことにします。味方はたくさんいますから。




