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異世界賛歌~貧乏くじ聖女の異世界革命記~  作者: ArenLowvally
あまりにも、よくある話。
62/86

第六十一話:異世界の治安維持について考えます。

日本の警察は世界でもトップで優秀とかなんとか、聞いた事あります。

10年以上前ですけれど。

悪い話はたくさん出てきますけど、大半の人が何事もない毎日を当たり前に享受できるのは、治安維持に努めてくれてる人たちのお陰なんですよね。

それを当たり前として感謝しつつ、お世話にならないように努めていきたいものです。

 辻馬車に乗って10分ほど。やって来たのは、ひときわ大きな建物が並ぶ区画です。王都は外と結ぶ大きな壁で囲われているんですね。遠くに城壁のようなものが見えます。街の外側に近い位置ということです。ここも多くの人が行き交っていますが、荷馬車が道の真ん中を占領して走っていて、中央とは全然印象が違います。硬い印象。ビルが立ち並ぶ、オフィス街を思い出します。


「あの看板は宿屋。こっちは武器・防具屋。それが薬屋で、向こうの看板は魔法屋」

「魔法屋?」

「魔法陣の売買をやってるんだ。あそこで魔法手帳に新しい魔法陣を書き込んだり、持ってる魔法陣の書き換えをしてもらえる」

「へぇ、そういう商売もあるんだぁ」


 魔法が存在していて、魔法の行使が魔法陣という祈りの形骸であるが故ですね。ゲームで魔法を使うためのお札とか、魔導書とか、宝石とか買うのと同じことでしょう。よそ見しているとエルネストに一つ声をかけられます。あまり油断しないでほしいみたいです。見るからに危険物を持っている人、いますしね。私も気を引き締めていきましょう。

 少し緊張しながら歩いて行けば、ひときわ大きな建物の前に出ました。建物の前は広く取られていて、武装している人達が少人数で固まって行き交っています。


「自警団の詰所だ。まぁ、自警団って言っても組織として一つにまとまってるわけじゃないんだが」

「魔獣狩りを生業にしている人をここで管理してるの。故郷にはなかったから、びっくりするよね」

「うん」


 素直に頷きます。まぁ、本当に所謂ギルドってやつですね。ちょっとだけワクワクしちゃいます。


「王都には、自警団の詰所って他にもあるの?」

「この中央拠点と、東西に一つずつ。ここが本拠点だ」

「へぇ。そうなん————」

「おい、ここは観光地じゃねェぞ」


 少し離れた位置で建物を見上げていれば、ぞんざいに声をかけられます。振り返れば、いかにも魔獣狩りを生業にしているとわかる4人組の男性がそこにいます。声をかけてきたのは、先頭に立っている30歳くらいの厳ついおじさんですね。さり気無く、エルネストとブラッドが庇ってくれます。シルヴィアも何があってもいいように手を取ってくれます。たぶん、本当にやばくなったら引いて逃げてくれるってことでしょう。でもこんな往来で喧嘩になるようなことはないと、とりあえずは信じましょうか。


「観光じゃなくて、お肉買いに来ました」

「あ? そんなの、中央にいるセルウォーカー捕まえればいいだろ」

「販売ルートを知らないので、ここに来た方が早いと思ったんです」


 売り歩く人、路上販売員(セルウォーカー)って言うんですね。割とまんまなネーミングだ。いや、それっぽく勝手に翻訳されただけでしょうかね。なんにせよ、わかりやすくていいですね。そんなことを考えてたら、明らかにバカにしたように笑われました。


「お嬢ちゃん、田舎者か? そのお友だちにここがどういう場所か教えてもらわなかったのか」

「田舎者なのは否定しませんけど」

「だったら帰った帰った。ここはあんたらみたいなのが来るとこじゃねェ」


 一回りも年下の小娘に、大人げない人ですね。自分の領域に無知で土足で踏み上がられるのが嫌なのはわかりますけれどね。周囲を見てみれば、他のパーティもちょっと迷惑そうです。この人達、こうやって若いパーティとかに意味もなく絡んでるんですかね。すっごく言い返したい。めちゃめちゃ言い返したい。けど、面倒事が増えるだけですね。危ない事してスヴァンテ様に迷惑かけるのも悪いですし、ここは大人しく引きますか。


「なんだその顔」


 あ、やっべ。

 思ったことが顔に出たみたいです。詰め寄られて一歩引きます。喧嘩になるって思ったのと同時。


「一般人に何してんだッ!」


 声がかかったのは、建物の方からです。明らかに焦った顔をした4人組は、慌てて離れていきます。……おー、面白いくらい小者。

 怒鳴った人は深追いすることなく、私の横で止まりました。ものすごい舌打ちをして、去って行った背中を睨みます。


「アイツら、次の査定でランク落ち決定だな。いや、いっそライセンス剥奪すっか。お目こぼしなくなりゃ警備隊突き出せるしな……。……いい考えだ。よし、そうしよう」


 なんだか、物凄い勢いで話がまとまったみたいです。何だか可笑しくて、笑っちゃいました。向こうを見ていた若葉色の瞳がこちらを見ます。


「助けていただきありがとうございました」

「ああ、気にすんな。これが仕事だからな。アイツらにはこっちも手焼いてたんだが、まさか一般人に絡むとはなぁ。ホント、悪かったな」

「いえ、ご覧の通り、無事ですから」


 管理職、ひょっとしたら責任者かもしれませんね。40歳くらいの男性で、厳ついと言える顔つきです。でもさっきのおじさんと比べて人の良さがにじみ出てる表情ですね。


「で、こんなきれいなおべべ着た若いのが、こんなトコになんの用だ?」

「お肉買いに来たんです」

「中央でセルウォーカーから買えばいい」

「さっきの人たちにも同じこと言われました。でも、見て見たかったんです。故郷にはこういう場所なかったので」

「好奇心がありすぎるってのも困りもんだな。兄ちゃんたちはちゃんと手綱取っときな」

「ご忠告、どうも」


 呆れられました。何も知らない田舎娘ですからねぇ。でもこれだって、聖女として街に降りたら絶対になかったことなんですよね。ちょっと怖かったし、緊張はしましたけれど、こういう当たり前を見たくて来たわけですから。個人的には満足です。


「ま、来ちまったもんは仕方ねえ。肉なら、建物入って左手の直売所だ」

「ありがとうございます」


 お礼を言えば、男性は軽く挨拶をして歩き出します。さっきの人たち、探しに行くんでしょうか。まぁ、お仕事を邪魔することもないですし、私たちは建物に入りましょう。


「ああいう人、いるんだね」

「わかりやすい力で評価される世界ですから。力のない者を下に見る輩はどうしても一定数います」

「今回は助かったが、二度はないだろうな」

「中央のセルウォーカーの販売ルート、教えてもらった方がいいよ、やっぱり」

「うん、そうだね。ちょっと考える」

「もう……、危ないことはしないって約束!」

「わかったわかった、そうする!」


 ブンブンと腕を振られて慌てて頷きます。絡まれたのは私の所為ではありませんが、今後もこういうことが全くないとは言えないので、ここは頷きましょう。二度も三度もこんなことあってたまるかっていうのは、確かにそうなので。

 建物の中に入ると、広いエントランスです。左手を見れば、確かに男性が言っていた通りの直売所があります。生肉で売ってるみたいですね。……そうなるとやっぱり、ここで買いたいよなぁ。まぁ、後で考えましょう。

 奥は受付、右手には階段が見えます。上階、2階までは吹き抜けで、こちらを見下ろしている人達の顔が見えています。直売所を見ると、ここも量り売りですね。これは流石に時価ですね。その日、仕入れられたものを仕入れられた分だけ売るスタイルのようです。


「怖いもの知らずの田舎娘がこんなところまで肉買いに来たなんて、誰が言い出したのかと思ったけれど。本当だったんだね」


 カウンター越しに、女の人が声をかけてきます。話広まるの早いなぁ。まぁ、それだけ珍しいことなんでしょう。常識を疑われるレベルで。


「王都どころか、自分の領地の主要都市にも行ったことなくて」

「だからって危ない橋渡るもんじゃないよ。で、何が欲しいんだい?」


 お姉さんは呆れながら言います。それでもとやかく言わないのは、そういう怖いもの知らずをよく相手にするからでしょう。カウンター上に置いてある木札がメニュー表みたいです。物によって値段は変わりますけれど、グラム80円から150円くらいが相場みたいですね。日本と然して変わらないですね。


「仕入れてあるのが赤い札ですか?」

「そうだよ。春になって、色々出てくるようになったからね、今は豊富だよ。ヒガンはもうちょいしたら出てくるかな。この時期は肥えてないから、食用にならんのさ」

「なるほど。じゃあ、一通り、20モン分ずつ」

「随分と買うね。待ってな」


 そう言って、お姉さんは奥に引っ込んでいきました。奥に鎮座している業務用冷蔵庫から、お肉を取り出して木箱に詰めていきます。彼岸花、熊肉が出回るのは冬眠明けから体力付け直した6月くらいですかね。夏の風物詩とか、そういうものかもしれません。……常春の国で冬眠ってあるんでしょうかね。四季がはっきりしなくても、年中食べ物が獲れるとは限らないって話なんでしょうかね。或いは、季節で魔獣の出やすい出にくいがあったり? 帰ったらテリーに聞いてみましょうか。


「はいよ、80モンね」

「5種類だから100モンじゃ……」

「80モンね」


 にっこり。なにやら圧をかけられているようです。じゃあ、甘えましょう。お礼を言いながら指定された金額を渡します。


「ウチで直接卸してるセルウォーカーは、3つ目の鐘でここを出発した後、7つ目の鐘で貴族街手前を折り返す。どの道を通ってるかはその日次第だがね」

「わかりました、ありがとうございます」


 親切なお姉さんでしたね。軽く手を上げたのに一つ礼をして、その場を離れます。と、タイミングよく魔獣を狩って来たパーティが戻って来たみたいです。木の棒に兎を4,5匹吊り下げて持ってきました。……実際に目の前にすると、なんとも言えませんね。買った中にも兎肉はありました。あの兎たちみたいに、人間に狩られた命なんですよね。


「感謝して食べなきゃね」


 心配そうな顔をした3人に、私は笑います。


「私たちは、命を頂いて生きている。それはどの世界も変わらないから」


 牛とか豚とか、鶏が屠殺される様子は見たことありませんが。でもスーパーとかに並んでいるお肉や魚が、そうやって私たちの食卓に運ばれていること自体は知っています。生き物が殺されて人間に食べられるなんてかわいそうって言う人もいますけれど。でも、それは自然の範疇で、人間だけがやっている業ではありません。菜食主義になろうとも、植物の命を頂いているわけです。正当化するわけではありませんが、命を頂かないと私たちは生きていけませんから。だからこそ、「いただきます」と「ごちそうさまでした」は忘れちゃいけない。


「そうだね」

「ええ、ですね」

「言う通りだ」


 笑みを浮かべて、3人も頷きました。行こうか、と合図をして建物を出ます。この辺りの用事はこれで終わりです。本当は他のお店とかも実際を見てみたいんですけれど。危ない橋は渡れませんね。大人しく、来た道を引き返します。来る時には辻馬車(タクシー)を使いましたが、折よく表れてはくれませんね。この辺りは走っていないということでしょう。

 そういうわけで、ゆっくりと街並みを眺めながら歩きます。


「都市の中は騎士団の管轄、外は自警団って感じなんだね」

「そうですね。主要街道付近は騎士団によって治安維持がされていますが、それ以外は自警団が魔獣を狩っています」

「国に張られている結界があるので、王都付近は一定以上の強さの魔獣が出ません。その代わり、繁殖力が強いので、騎士団だけでの対処が不可能で、自警団ができました」

「なるほどね。王都周辺で騎士団の出兵がないのは、危険度が低いからか」

「結界の外側に近いと、強い魔獣が現れますから。ちゃんと訓練を受けた騎士団が赴きます。王都付近の危険度の低い魔獣は、剣や魔法の腕に自信があるなら誰でも狩れます」

「その場で換金してくれますから、日金が欲しい時に狩りをする人もいます。でも基本は2人から5人のパーティというものを作って、魔獣狩りをします」


 派遣みたいなものかと思ったんですけれど、日雇いさんの方がイメージとしては近いんですかね。学のいる職でもないから、自警団に登録する人も多いということでしょう。むしろ平民の主要な職なのかもしれないですね。私くらいから下の人も多かった印象ですし、上手く行けばそれだけで生計を立てることもできる。門戸は広いっぽいですね。代わりにちゃんと続く人も少なくて、実力も人柄もピンキリ。ゲームや漫画でよく見るやつですね、本当に。


「あだだだだだッ!!!! 悪かった、悪かったって!!!!」

「そう思ってるなら仕事放り出して遊び歩かない」

「遊んでない!!!! 今回は!! マジで!!!! 遊んでない!!!!」


 道を歩いていると、そんな愉快な声が向こうから聞こえてきます。悲鳴を上げてる方はさっき助けてくれた男性ですね。一緒にいるのは仕事仲間というか、お目付け役なんでしょう。気の強そうな女の人です。


「今回『は』」

「それは言葉の綾……! あ、さっきの嬢ちゃん!!!!」


 どう見ても、助けを求められてますね。うぅん、どうしようかなぁ……。正直、見なかったことにしたいんですけれど。


「どうする?」

「さっき助けてもらったし、口添えくらいはしてあげようか」


 女の人は胡乱気な若草色の瞳で男性を見ます。


「兄さん……、まさか……」

「確かにさっき助けていただきましたけれど、難癖付けてきた自警団の人を追い払ってくれただけですよ」

「あら、そうだったの。てっきり一回り以上年下の女の子、ナンパしたのかと思っちゃったわ」

「だから言っただろ、遊んでないって……」

「普段の行い」

「うぐっ」


 兄妹なんですね。で、妹さんの方が強いと。可笑しくて笑えば、お兄さんは不貞腐れた顔をして、妹さんは一緒になって笑ってくれます。空気を変えるように一つ、咳ばらいをしてお兄さんはあからさまに話題を変えてきます。


「嬢ちゃんは目的のもの、買えたのか?」

「ええ、お陰様で。お兄さんはさっきの人たち探してるんですか?」

「ああ、詰所に連行して、ライセンス剥奪処分にして、証書を取り上げようと思ってな」

「そんなの詰所で通達出せば誰かしらが連行してくるだろうに……。事務仕事が嫌で投げ出す口実が欲しいだけよ」

「いやいや、登録者の管理は立派な俺の仕事……」

「それは書類の話であって、実際の人間の管理はあたしらの仕事。おわかり?」

「……いえす」


 おお、見事な魔力威圧。清一郎さんのを横目に見た時よりも怖いです。折角話を変えたのに、残念でしたね。


「そういうわけで、このバカ兄貴は事務室放り込まなきゃなんないから。あなたたちはちゃんと中央の方に戻りなさいね」

「ええ、そうします。お仕事、がんばってくださいね」

「恩人に薄情がすぎんだろ~……」


 半ば本気で嘆いているお兄さん。妹さんは「ほら、行くよ」とお兄さんの足を蹴りました。強い。軽く挨拶をして、別れます。面白い人達でした。


「あの人達が管理者としているなら、あの拠点は大丈夫そうだね」

「だからと言って、あの規模の組織は目が届かない場所もある」

「でも誠実に対応する気があるなら、大丈夫じゃない? 私はそう信じたいよ」


 笑って言えば、ブラッドはため息を吐きました。それにシルヴィアが笑って、エルネストが「そんなものです」と言います。結局、悪いことする人は全体の数%ですから。そこばかり論って糾弾したって仕方ないんです。正直者が馬鹿を見ることのないようにするには、信じるしかないんでしょう。切り捨てるのは簡単ですから。



—————————————



(Side:L.Barth)



「ああ、こいつらねぇ……。確かに元々素行悪かったけど、ライセンス剥奪はやりすぎじゃないの」


 登録資料を渡せば、カミラは怪訝そうな顔をした。ま、気持ちはわからんでもない。俺だって最初は降格だけにしようと思ったさ。……いや、あんまりにもムカついたからライセンス剥奪にする気だったけど。


「流石に見逃すにはちょいと、相手が悪すぎる」

「あのお嬢さん? 団員の話じゃ昨日王都に来たばっかの田舎娘でしょう? そんなビビる程の相手じゃないでしょ」

「おいおい、本気で言ってんのか。お前もまだまだだな」

「はぁ?」


 身内びいき除いても美人なんだがなぁ。表情が残念過ぎるのと、このきっつい性格さえなけりゃ旦那にも逃げられなかっただろうに。独身貴族の俺には言われたくねぇか。


「あんなクソ丁寧な田舎娘が居るかよ。それに、前広場で絡まれてた時、他3人はあの嬢ちゃんの盾になる気満々だった」

「そこはあたし、見てないし。なに、あの子、お貴族サマだって言いたいわけ」

「じゃなかったら何だってんだ。侍女と護衛が2人だな。いくら物入りとはいえ、あの買い方は平民じゃできねぇ。田舎娘気取ってはいたが、あれは間違いなく貴族の娘だ」

「……サイアク」

「だろ?」


 チリルをまんま噛み砕いたみたいな顔しやがる。顔に出過ぎだっての。


「ってか、それわかっててあの態度だったわけ?」

「あれ、自分が田舎娘だって思われてると思ってるからな。変に畏まった方が面倒だろ」

「あーもう……! ホンット、そういうトコ!! マジで苦情入ったらどうするつもり?!」

「だからそんときに言い逃れできるように、こいつらからライセンス剥奪しとこうぜって話で、迅速な対応をだな」

「兄さんが直接動くのもそうだけど、詰所全体も動かしとかないとヤバい案件でしょ! とにかく、こいつらの連行とさっきのお嬢さんの調査通達出してくっから、兄さんはちゃんとそれ片付けてよね!!」

「わかったって。お前の魔法は二度も三度も喰らいたくねぇって……」


 両手を上げて降参すれば、カミラは部屋を出ていく。目の前に積まれた紙の山を見て、ため息が出た。あー、やりたくねぇ~……。こういうの嫌いだから、ずっと現場出てたってのに……。


「問題ってのは、次から次へと起こるもんだなぁ……」


 やっと内部のゴタゴタが解決したってのに。今度は外部からのゴタゴタだ。

 予想より早く、熊型が肥え始めてる。

 繁殖力の特に強い兎型は狩っても狩っても沸いて出て来やがる。

 それを狙って蛇型も活動が活発になってるし、鳥型もそろそろ孵化して数が増えるはずだ。

 鹿型は逆に数が激減した。喧嘩っ早過ぎて成獣化する前に喧嘩で死ぬ。お陰で角の納品がなくて加工師から苦情が入るほどだ。

 今のところ例年通りの数は猪型だけ。あいつらは成獣化したら岩やら大木やらに突っ込んで勝手に死んでくれるからな。だとしても、処理を怠ると疫病が流行る。

 こちとら可笑しなパーティ大量解雇して人手不足だ。やっと立て直してきたところでこれ。他の対応でギリギリなのに、こっから数が増えられると厄介以外のなんでもねぇ。それもこれも来年だったはずの異邦人召喚がいきなり行われた所為だ。膨大な魔力の流動によって、それを活動エネルギーにしている魔獣の動きが変わったってこった。危険度の低い魔獣の対応に、国が騎士団を使うわけでもない。しかも噂じゃ家名なしの異邦人が混じってたとかなんとか。こんだけはた迷惑かけるクセに、ンなもん喚んでんじゃねぇよ……!

 考えすぎてしっかりと頭が痛い。マジでふざけんなって叫びてぇ。


「これだから貴族も、王族ってのも信用ならねぇ。あの嬢ちゃんには悪いが、火種になるようなら考えさせてもらわねぇとな」


 ともあれ、手は動かさなきゃ仕事は減らない。仕方なくペンを手に取った。



—————————————


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