第五十八話:異世界では人間関係も変化します。
小休憩的なお話なので、気軽に読んでいただければと。
人間関係って本当に難しいなって思います。
ずっと続きそうって思った相手とはあっさり切れて、もうダメだろうなって思った相手とは今もずるずると関係が続いたり。
何がどう関係してそうなるのかはわかりませんけれど、結局は相性と運と、星の巡りなんでしょうね。
それなら、今の人間関係を大切にしながら、変化を恐れずにいたいと思います。
何の話や。
食堂に赴けば、明香里と成美しかいませんでした。なんかもう、色々察して大人しく定位置になってる席に座ります。
「美雨はなんて?」
「要約すれば『言ってることとやってることが違う』ってトコかな」
「何かしらやるなら、自分の目の届くところでやってよってことね。それこそ、知ったことじゃないわ」
「なるほど……?」
そんなに違うかなぁ……? 要約すればってことは、なんかめちゃくちゃに言ったんでしょうね。2人とも疲れた顔なのは、それに頑張って付き合ってたってことでしょう。美雨の相手、大変だったろうなぁ。
「なんかごめんね」
「アレンが謝ることじゃないよ。美雨が悪いんだよ、全部自分の思い通りになるって思ってる」
「元の世界にいた時にはあんまり気にしなかったっていうか、相手しなかったから気付かなかっただけね。あんなにワガママだったなんて、アレンよく付き合ってたわね」
「まぁ、友だちだと思ってることに違いはないから」
この様子だと、明香里と成美は美雨を見捨てたみたいですね。何を言ったのかは想像するしかないですけれど。全部が自分の思い通りになるとは、確かに思ってる節はありましたね。理想論ばっかり並べるのに、無理が出るって指摘する時が一番、面倒ではありましたから。そして実際に動いた時にやっぱり無理が出るじゃんって私がフォローしてたんですよね。それを口うるさいと思ってたのも相まって、今のこれかな。言ってることとやってることが違うって、みんなのこと見捨ててないって言うのに一緒に行動してくれないってことか。
いや、だって、ねぇ……? 勝手なことやってたのはまぁ、私に非があるにしても。
「一番伝わって欲しいことが伝わってないって、なんか寂しいね」
「そういう子ってことでしょ。何を言うかより、何をするかの方が、あの子には重要って話じゃないの」
「その気持ちもわかるけれど、わたしたち、美雨の為だけに動いてるわけじゃないのに」
「確かに。それは使用人の仕事よね」
「言葉より行動、か。確かに、わかりやすく目立つ動きした方が評価される世界ではあったからね」
その行動が正しいかどうかはまた別の話として。積極的にコミュニケーション図ったり、表舞台に立ったり、とにかく人から注目される仕事の方が評価は高くなる。美雨はそういう目立つ活動を重要視してるってことか。自分の目の届くところでやってる、目立つ行動しか評価基準にならないっていうのも、どうかとは思いますが。縁の下の力持ちが無視される傾向にあるのは、確かにそうです。だからって、そこを下に見るのもどうかって話ですが。
この世界は言葉と行動、両方をバランスよく評価してくれるのがいいところです。その違いってどこから生まれるんでしょうかね。社会の制度なんでしょうか、やっぱり。
「まぁ、美雨のことはもう気にしないことにしよ。この状態ってことは、不可侵条約でも結んだんでしょ?」
「そこまでのことじゃないけれど、まぁ、お互いやることに口出さないようにしようとはなったかな」
「これ以上、足引っ張られるのはたまったものじゃないからね。だからアレンも、好きに城から出ていいわよ。あたしたちのことは気にしないで、好きにしなさい」
「ありがと、そうさせてもらう。じゃあ、この話はもう終わり。折角、美味しいごはんだからね」
本当、2人とも頼もしくなったなぁって思います。本来はこれくらいアクティブってことだったんですね。成美はまぁ、性格がこれなのでそうだろうとは思いますけれど。明香里は少し意外な感じがします。
でも、そうですね。小学校の先生になりたいって言って、地方から1人で都会に出てくるくらいには行動力はあるんですよね。ただ、周りの環境に流されて、楽な方に身を任せてただけで。そこからちゃんとやり直そうって思えたら、これくらいのことはなんてことないのかもしれません。私の方が、みんなのこと全然見てなかったんですね。ちょっとそこは反省しないと。
「そうだ、ミヅキはどうしたの?」
「お仕事のテスト。ボイスレコーダーみたいな魔道具の運搬してくれたの。送り返したから、あとでテリーに結果教えてもらうつもり」
「飛脚猫って言ってたわね、そういえば。ボイスレコーダーなんてあるのね、この世界」
「カメラみたいなのもあるよ。動画専用で、音は入らないみたいだけれど」
「思ってるよりもこの世界っていろんな道具があるんだね」
「地球から技術入れてるから。思ってもないものあるから面白いよね」
「そうね、こんな中世ヨーロッパ風の世界観で白米があるだなんて思わなかったわ」
「大豆製品もあるよ。就職祝いで第二王子からお味噌もらった」
「えっ、うそ。いいなぁ」
「英雄・聖女候補の祝いだから全員に送られてるはずだよ。部屋入ったら大荷物が並んでると思うから、荷解きがんばって」
「がんばらなきゃいけない程の荷物なの?」
なんてことない話をしながら夕食を食べ進めていきます。本当はここに美雨と隼と宗士もいてほしかったんですけれど。結局は、その程度の縁だったってことでしょうかね。寂しい気もしますけれど、それならそれで仕方ないことだと割り切ることにします。余程の縁でもない限り、人間関係ってどっかでリセットされてしまうものでしょうから。それが大学の卒業という形でなくなっただけの話。代わりにではないですけれど、明香里と成美とは長く続きそうなので、そっちを大切にしましょう。他にたくさんの味方もいますしね。




